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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第248話 保安局長アイザック・ファウブル
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鉄道公社はもともとが、西域の八強と呼ばれた国々が合同で立ち上げた組織である。
作られた当初もそして、今日もよくぞこれだけのものを作り上げたものだと賞賛され、その立役者となった者たちは、開始から半世紀もたたぬうちに「偉人」としていくつもの学校のテキストに取り上げられている。
確かに、鉄道公社はよくやっていた。
おそらく、後世の歴史家たちもこの評価に依存はないだろう。
対比するものとしては、中原が上げられる。鉄道という技術そのものは、持ってはいたが、国家をこえた組織をもたなかった中原では、レールの規格ひとつとってもバラバラで国を縦断しての路線はつくられることはなかった。
険しい山の少ない中原は、おそらく敷設工事の点でははるかに楽だったにもかかわらず、本格的に鉄道が普及するのは、西域の鉄道公社が中原にまでその活動範囲を広げてからになる。
さて。
鉄道公社についてのただひとつの誤算は、鉄道公社があまりにも強大なものになってしまった、というその一点につきる。
大量輸送の設備とノウハウを独占し、国家にとらわれない人材をひろく集めた鉄道公社は、必ずしも路線の保守に積極的ではない各国の封建領主にかわって、鉄道を、ひいては西域と中原の人やモノの流れを守るべく、保安部を早くから設立させていた。
当初は、補修や点検のための技術者の集団であったが、地域によっては野盗や危険な魔獣なども皆無ではない。
冒険者ギルドを丸ごと借り切って、護衛に当ててから、それが独自に人材を採用し、育成する様になるまでは、十年もかからなかった。
冒険者のなかには、元が各国の騎士や兵士、護衛士といったものも少なくなかった。
現在の保安部は、攻城兵器などの一部の兵装を保持しないことを除いては、その数において実質的に各国の軍隊と変わらない規模になっていた。
さらに。ランゴバルドの「聖櫃の守護者」や、銀灰皇国の「悪夢」、ギウリークの「聖竜師団」に相当する一騎当千の精鋭部隊として「絶士」を抱えていた。
西域9番目の強国である。
その最高責任者が、アイザック・ファウブルだった。
この立場の人間には「将軍」としか呼びようがないのだが、と思いながらクローディアは、目の前のアイザック・ファウブルに声をかける。
「保安局長殿!
オールベでのことは、あくまでゼナス元局長の個人的な野心から起こったこと。
鉄道公社の意図するところではないことは充分に承知しています。」
アイザックは、深々と頭を下げている。
素直に頭を下げられる人間は、怖いのだ。こと交渉においては、素直に謝られてしまうのが一番困るのである。
しかも。
形ばかりの謝罪ではない。
彼の持参した封書に、今回の件の詫びとして、新たに敷設されるクローディア大公国への鉄道建設費の半分を公社が負担するとの約定がしたためられていた。
「彼を任命したことの責任があります。」
アイザックは、頭をあげた。
この地位について、もう20年にはなるはずだ。
だがその風貌は、若々しい。
「お嬢様を狙った絶士はここに連れてきております。
どうぞ、焼くなり煮るなり」
「ち、ちょっと!」
傍らに控えたメイドが叫んだ。
「それも別にぜナス・ブォレストの命令だったんだからねっ!」
「フィオリナと引き分けたそうだな。」
アウデリアが割って入った。
「わたしをぶん殴った絶士のシホウとやらは一緒では無いのか?」
「あいつは、あとから来ることになっている。」
絶魔法士グルジエンは、言った。
「あんたらが去ったあと、入れ違いで銀灰皇国の“悪夢”が来やがったんだ。
なかなか腕のいいやつらでね。シホウとアイクロフトは、入院。」
「あいつがか!?」
「・・・という建前にして“悪夢”の連中ともども体のいい軟禁よ。」
「軟禁・・・悪夢が軟禁などに応じているのか?」
「そこはそれ!
あのウィルニアを名乗る魔導師にたっぷりビビらされたからね!」
メイドは、ずいっと顔をアウデリアに近づけた。一応は、同席せずに立ってしゃべってはいるのだが、メイドとしての礼儀を尽くす気はないらしい。
「やつらの目標は、闇姫オルガ。
そうはっきりは言わなかったけど、今回のオールべの騒動に黒目黒髪の若い女がいたことはわかってて、やつらはその女を追っている。
正直にそのことを教えてしまっていいのか、先にあなたたちに確認しに来たわけ。」
ほうほう。
と、アウデリアは納得したように、笑った。
クローディアの方を向いて、ジウルが連れていた女だな、と言った。
「やはり、そうか。アキルとか名乗っていた元気のいい小娘だ。」
ぴきっ!
と、アウデリアの笑顔が硬直した。
「ジウル・ボルテック。あれほどの拳士に護衛させるとは只者ではないとは思っていたが、よもや銀灰皇国から逃亡中の皇女だったとはな!
しかし、異世界人と名乗らせるのはいささか酔狂すぎはしないか。いくら、西域に黒目黒髪が珍しいとはいえ。」
「銀灰皇国は、闇姫をどうするつもりなのかお伺いできるだろうか?」
クローディアは、ゆっくりと言った。
「単に捕らえるのか、それともその命を奪うつもりなのか。」
「こっちの情報網から入った情報と、やつらから聞き出したことでの推測になるが・・・
いいかい?」
いいかい、はクローディアたちにではなく、アイザックに向けたものだった。
おそらくは, 保安部の情報をクローディアたちに教えてもいいか、の問いかけだったのだろう。
作られた当初もそして、今日もよくぞこれだけのものを作り上げたものだと賞賛され、その立役者となった者たちは、開始から半世紀もたたぬうちに「偉人」としていくつもの学校のテキストに取り上げられている。
確かに、鉄道公社はよくやっていた。
おそらく、後世の歴史家たちもこの評価に依存はないだろう。
対比するものとしては、中原が上げられる。鉄道という技術そのものは、持ってはいたが、国家をこえた組織をもたなかった中原では、レールの規格ひとつとってもバラバラで国を縦断しての路線はつくられることはなかった。
険しい山の少ない中原は、おそらく敷設工事の点でははるかに楽だったにもかかわらず、本格的に鉄道が普及するのは、西域の鉄道公社が中原にまでその活動範囲を広げてからになる。
さて。
鉄道公社についてのただひとつの誤算は、鉄道公社があまりにも強大なものになってしまった、というその一点につきる。
大量輸送の設備とノウハウを独占し、国家にとらわれない人材をひろく集めた鉄道公社は、必ずしも路線の保守に積極的ではない各国の封建領主にかわって、鉄道を、ひいては西域と中原の人やモノの流れを守るべく、保安部を早くから設立させていた。
当初は、補修や点検のための技術者の集団であったが、地域によっては野盗や危険な魔獣なども皆無ではない。
冒険者ギルドを丸ごと借り切って、護衛に当ててから、それが独自に人材を採用し、育成する様になるまでは、十年もかからなかった。
冒険者のなかには、元が各国の騎士や兵士、護衛士といったものも少なくなかった。
現在の保安部は、攻城兵器などの一部の兵装を保持しないことを除いては、その数において実質的に各国の軍隊と変わらない規模になっていた。
さらに。ランゴバルドの「聖櫃の守護者」や、銀灰皇国の「悪夢」、ギウリークの「聖竜師団」に相当する一騎当千の精鋭部隊として「絶士」を抱えていた。
西域9番目の強国である。
その最高責任者が、アイザック・ファウブルだった。
この立場の人間には「将軍」としか呼びようがないのだが、と思いながらクローディアは、目の前のアイザック・ファウブルに声をかける。
「保安局長殿!
オールベでのことは、あくまでゼナス元局長の個人的な野心から起こったこと。
鉄道公社の意図するところではないことは充分に承知しています。」
アイザックは、深々と頭を下げている。
素直に頭を下げられる人間は、怖いのだ。こと交渉においては、素直に謝られてしまうのが一番困るのである。
しかも。
形ばかりの謝罪ではない。
彼の持参した封書に、今回の件の詫びとして、新たに敷設されるクローディア大公国への鉄道建設費の半分を公社が負担するとの約定がしたためられていた。
「彼を任命したことの責任があります。」
アイザックは、頭をあげた。
この地位について、もう20年にはなるはずだ。
だがその風貌は、若々しい。
「お嬢様を狙った絶士はここに連れてきております。
どうぞ、焼くなり煮るなり」
「ち、ちょっと!」
傍らに控えたメイドが叫んだ。
「それも別にぜナス・ブォレストの命令だったんだからねっ!」
「フィオリナと引き分けたそうだな。」
アウデリアが割って入った。
「わたしをぶん殴った絶士のシホウとやらは一緒では無いのか?」
「あいつは、あとから来ることになっている。」
絶魔法士グルジエンは、言った。
「あんたらが去ったあと、入れ違いで銀灰皇国の“悪夢”が来やがったんだ。
なかなか腕のいいやつらでね。シホウとアイクロフトは、入院。」
「あいつがか!?」
「・・・という建前にして“悪夢”の連中ともども体のいい軟禁よ。」
「軟禁・・・悪夢が軟禁などに応じているのか?」
「そこはそれ!
あのウィルニアを名乗る魔導師にたっぷりビビらされたからね!」
メイドは、ずいっと顔をアウデリアに近づけた。一応は、同席せずに立ってしゃべってはいるのだが、メイドとしての礼儀を尽くす気はないらしい。
「やつらの目標は、闇姫オルガ。
そうはっきりは言わなかったけど、今回のオールべの騒動に黒目黒髪の若い女がいたことはわかってて、やつらはその女を追っている。
正直にそのことを教えてしまっていいのか、先にあなたたちに確認しに来たわけ。」
ほうほう。
と、アウデリアは納得したように、笑った。
クローディアの方を向いて、ジウルが連れていた女だな、と言った。
「やはり、そうか。アキルとか名乗っていた元気のいい小娘だ。」
ぴきっ!
と、アウデリアの笑顔が硬直した。
「ジウル・ボルテック。あれほどの拳士に護衛させるとは只者ではないとは思っていたが、よもや銀灰皇国から逃亡中の皇女だったとはな!
しかし、異世界人と名乗らせるのはいささか酔狂すぎはしないか。いくら、西域に黒目黒髪が珍しいとはいえ。」
「銀灰皇国は、闇姫をどうするつもりなのかお伺いできるだろうか?」
クローディアは、ゆっくりと言った。
「単に捕らえるのか、それともその命を奪うつもりなのか。」
「こっちの情報網から入った情報と、やつらから聞き出したことでの推測になるが・・・
いいかい?」
いいかい、はクローディアたちにではなく、アイザックに向けたものだった。
おそらくは, 保安部の情報をクローディアたちに教えてもいいか、の問いかけだったのだろう。
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