273 / 574
第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第254話 かくして宴ははじまる
しおりを挟む
ガルフォート伯爵は、なんというか。
忘れていた。
近ごろ、ミトラで名の高いランゴバルトの料理人が、元竜人部隊の最高顧問として君臨した古竜であったことを。
その連絡は、娘のカテリアから受けていた。実際にラウレスにも顔を合わせている。
だが、本当の意味で実感はしていなかった。
以前のラウレスは、もう少し年長の男性の姿をとっていて。女好きで気に入った女性にはあとさき考えずに散財してしまうのが唯一の「長所」なくらいで、あとは恐ろしく気難しく、プライドが高い、しかも怒りっぽい。
普通の気難しくて重りっぽい人間は、充分害毒だが、それが、人の姿をとってさえ、常人の数十倍の魔力、体力をもつ古竜だったのだ。
それでも、その程度の性格的欠点は、古竜としては普通であって、その運搬能力の高さから、もう十年以上も竜人たちの指揮官としてギウリークでは、厚遇を与えていた。
いまのラウレスは、いつも笑みを絶やさず、人間たちに敬語で話し、よく働き、しかもいくら称賛されても驕ることがない。
いつも下働きのウォルトという少年と軽口をたたきあっては楽しそうに、働いていた。
「なにをやっているのだ、ラウレス!」
「ああ、すまない。きみたちは『竜王の牙』だったな。あまり軽々しく口をきく立場ではなかった。」
そう言って、ラウレスは今度は、六名の『竜王の牙』全員にむけて、帽子をとって頭を下げた。
「もう会場にひとをいれたいとアライアス閣下から、お話があったのでね。取り急ぎ、食べ物の準備をはじめないとと思ったのさ。急いでいたので、つい前を横切ることになってしまって申し訳ない。」
人間が古竜にする詫びとしては、あまりに軽すぎるが、古竜が古竜にするものとしてはどうなのだろう。
博識なガルフィート伯爵も、古竜同士の上下関係やその礼儀作法には詳しくはなかった。
だが、すでに『竜王の牙』たちは、前を横切ったとかそういったことはどうでもよくなっていた。
「がうがうがう」
これは、妖滅竜のクサナギである。ついた当初は少女の姿をとっていたが、目の前を通りかかったラウレスに怒って、異形の姿に变化したまま、戻れなくなっている。
口も爬虫類のように大きく飛び出して、耳まで裂けているので、当然人間の言葉は発音できない。
「こんなところで、なにをしているっ!」
いっこうに要領をえないラウレスの軽口に業を煮やしたリーダーの道化服の男、火閃竜リイウーが叫んだ。
「今回のパーティーで料理をつくるように頼まれたんだ。」
「それはわかるぞ。わたしも人間の生活風俗にはくわしいほうだ。それは料理人の格好だな。」
リイウーは、ラウレスを睨んだ。
「だが、わたしの質問はなぜ、おまえがここで料理人をしているか、ということなのだ。
誤魔化さずに答えろ。」
「誤魔化してなど、いないぞ、リイウー、わたしはもともとランゴバルドで料理人として働いている。わたしの噂をききつけた枢機卿がミトラにわたしを、招いたんだ。
わかっている。」
リイウーまでもが怒りに我を忘れるようなことに、なっては大惨事だ。
「主に外交的な意味合いでの責任をとる形で、わたしはギウリークの聖竜師団を、辞めたんだ。
生活のためにランゴバルドの“神竜の息吹”というギルドに入ったんだが、そこが、冒険者ギルドではなくてレストランだったんだ。」
リイウーは、半歩退いた。
ラウレスが、既に、正気を失っているのではないか、という懸念を捨てきれなかったからだ。
「まあ、なんでミトラにきたのか分からんが、せっかくなんだから、わたしの料理を食べていってくれ。」
「ラウレスっ!」
十代半ばくらいだろうか、可愛い少年がラウレスを呼びにきた。
「10分後に、お客を入れ始めるそうだ。料理にかかってくれだとさ。」
「火は?」
「いい感じだよ。」
痺れるような脳内で、ガルフィートはひとつ歯車が噛み合うのを感じた。
このウォルトと名乗る少年が、グランダの元王子で現在クローディア大公国の庇護下にあり、さらにランゴバルド冒険者学校で、ギウリークと対立する立場にあるルールス前学を後ろ盾にもつ“踊る道化師”の関係者だとすると・・・。
すべては、クローディア公の筋書きのうえなのか!
「これは古竜のみなさんだねっ! 」
ウォルトは快活に挨拶をした。
「転移で来たのかな?
今日は北の雄クローディア大公とその奥方アウデリアの歓迎会なんだ。暴れないと約束するなら歓迎するよ。」
そういいながら、爬虫類とも人ともつかない姿に変化したクサナギの背中をそっと叩いた。
げぐぅっ
と、クサナギは黒い塊を吐き出した。
その姿が急速に人間のものに戻っていく。
「きさまは何者だっ!
いま何をした!」
「ぼくは、“踊る道化師”のリーダー、ルト。」
変化したせいでズタズタになった服はもとに戻らなかったので、ルトは自分の上着をかけてやった。
「これは魔法というよりは、治療かなあ、変身を司る回路が寝違えてたのを治しただけ。」
「どうやってそんなことがっ!」
「こっちが聞きたいよ。感情にあわせて身体も変化させてしまうなんて妙な術式をなんで、この子が組んだのか。」
「リイウー」
と、一触即発の空気をまったく読まないラウレスが、割って入った。
「そろそろ忙しくなりそうなんだ。何はともあれ会場に入ってくれ。話はあとでいくらでも出来る。」
「名前を呼んだら殺す。」
だが、会場についた竜の牙の面々は、もはや話どころではなかった。
「魔力を使ったら殺す。なにか質問をしても殺す。
わたしは、『踊る道化師』の冒険者のアモン。
それ以外のなにものでもない。
わかったか?
わからなければ殺す。」
なにがなんだかわからなかったが。
ガルフィートは、古竜たちにほんとうにすまないと思った。
忘れていた。
近ごろ、ミトラで名の高いランゴバルトの料理人が、元竜人部隊の最高顧問として君臨した古竜であったことを。
その連絡は、娘のカテリアから受けていた。実際にラウレスにも顔を合わせている。
だが、本当の意味で実感はしていなかった。
以前のラウレスは、もう少し年長の男性の姿をとっていて。女好きで気に入った女性にはあとさき考えずに散財してしまうのが唯一の「長所」なくらいで、あとは恐ろしく気難しく、プライドが高い、しかも怒りっぽい。
普通の気難しくて重りっぽい人間は、充分害毒だが、それが、人の姿をとってさえ、常人の数十倍の魔力、体力をもつ古竜だったのだ。
それでも、その程度の性格的欠点は、古竜としては普通であって、その運搬能力の高さから、もう十年以上も竜人たちの指揮官としてギウリークでは、厚遇を与えていた。
いまのラウレスは、いつも笑みを絶やさず、人間たちに敬語で話し、よく働き、しかもいくら称賛されても驕ることがない。
いつも下働きのウォルトという少年と軽口をたたきあっては楽しそうに、働いていた。
「なにをやっているのだ、ラウレス!」
「ああ、すまない。きみたちは『竜王の牙』だったな。あまり軽々しく口をきく立場ではなかった。」
そう言って、ラウレスは今度は、六名の『竜王の牙』全員にむけて、帽子をとって頭を下げた。
「もう会場にひとをいれたいとアライアス閣下から、お話があったのでね。取り急ぎ、食べ物の準備をはじめないとと思ったのさ。急いでいたので、つい前を横切ることになってしまって申し訳ない。」
人間が古竜にする詫びとしては、あまりに軽すぎるが、古竜が古竜にするものとしてはどうなのだろう。
博識なガルフィート伯爵も、古竜同士の上下関係やその礼儀作法には詳しくはなかった。
だが、すでに『竜王の牙』たちは、前を横切ったとかそういったことはどうでもよくなっていた。
「がうがうがう」
これは、妖滅竜のクサナギである。ついた当初は少女の姿をとっていたが、目の前を通りかかったラウレスに怒って、異形の姿に变化したまま、戻れなくなっている。
口も爬虫類のように大きく飛び出して、耳まで裂けているので、当然人間の言葉は発音できない。
「こんなところで、なにをしているっ!」
いっこうに要領をえないラウレスの軽口に業を煮やしたリーダーの道化服の男、火閃竜リイウーが叫んだ。
「今回のパーティーで料理をつくるように頼まれたんだ。」
「それはわかるぞ。わたしも人間の生活風俗にはくわしいほうだ。それは料理人の格好だな。」
リイウーは、ラウレスを睨んだ。
「だが、わたしの質問はなぜ、おまえがここで料理人をしているか、ということなのだ。
誤魔化さずに答えろ。」
「誤魔化してなど、いないぞ、リイウー、わたしはもともとランゴバルドで料理人として働いている。わたしの噂をききつけた枢機卿がミトラにわたしを、招いたんだ。
わかっている。」
リイウーまでもが怒りに我を忘れるようなことに、なっては大惨事だ。
「主に外交的な意味合いでの責任をとる形で、わたしはギウリークの聖竜師団を、辞めたんだ。
生活のためにランゴバルドの“神竜の息吹”というギルドに入ったんだが、そこが、冒険者ギルドではなくてレストランだったんだ。」
リイウーは、半歩退いた。
ラウレスが、既に、正気を失っているのではないか、という懸念を捨てきれなかったからだ。
「まあ、なんでミトラにきたのか分からんが、せっかくなんだから、わたしの料理を食べていってくれ。」
「ラウレスっ!」
十代半ばくらいだろうか、可愛い少年がラウレスを呼びにきた。
「10分後に、お客を入れ始めるそうだ。料理にかかってくれだとさ。」
「火は?」
「いい感じだよ。」
痺れるような脳内で、ガルフィートはひとつ歯車が噛み合うのを感じた。
このウォルトと名乗る少年が、グランダの元王子で現在クローディア大公国の庇護下にあり、さらにランゴバルド冒険者学校で、ギウリークと対立する立場にあるルールス前学を後ろ盾にもつ“踊る道化師”の関係者だとすると・・・。
すべては、クローディア公の筋書きのうえなのか!
「これは古竜のみなさんだねっ! 」
ウォルトは快活に挨拶をした。
「転移で来たのかな?
今日は北の雄クローディア大公とその奥方アウデリアの歓迎会なんだ。暴れないと約束するなら歓迎するよ。」
そういいながら、爬虫類とも人ともつかない姿に変化したクサナギの背中をそっと叩いた。
げぐぅっ
と、クサナギは黒い塊を吐き出した。
その姿が急速に人間のものに戻っていく。
「きさまは何者だっ!
いま何をした!」
「ぼくは、“踊る道化師”のリーダー、ルト。」
変化したせいでズタズタになった服はもとに戻らなかったので、ルトは自分の上着をかけてやった。
「これは魔法というよりは、治療かなあ、変身を司る回路が寝違えてたのを治しただけ。」
「どうやってそんなことがっ!」
「こっちが聞きたいよ。感情にあわせて身体も変化させてしまうなんて妙な術式をなんで、この子が組んだのか。」
「リイウー」
と、一触即発の空気をまったく読まないラウレスが、割って入った。
「そろそろ忙しくなりそうなんだ。何はともあれ会場に入ってくれ。話はあとでいくらでも出来る。」
「名前を呼んだら殺す。」
だが、会場についた竜の牙の面々は、もはや話どころではなかった。
「魔力を使ったら殺す。なにか質問をしても殺す。
わたしは、『踊る道化師』の冒険者のアモン。
それ以外のなにものでもない。
わかったか?
わからなければ殺す。」
なにがなんだかわからなかったが。
ガルフィートは、古竜たちにほんとうにすまないと思った。
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる