あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
282 / 574
第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり

第263話 剣聖の挑戦

しおりを挟む
音楽は唐突に止んだ。
息を弾ませながら、ぼくは目の前のフィオリナを見つめた。
フィオリナの息も荒い。
ほおは上気して、目がわずかに潤んでいた。
こんな彼女を見るのは、初めてだったので、なんだか新鮮だ。

最後の膝は、ぼくの胃の腑をぶち抜く勢いで、たぶんそれが成功したらぼくは吐瀉物を撒き散らして、悶絶していただろう。
彼女のヒールが折れるなどというアクシデントがなければ。

バランスを崩した彼女を抱き止めるような形になったぼくは、周りを包み込む万雷の拍手に、やっと気がついた。

「笑って!」
フィオリナが低く言った。
たぶん、よほどぼくは間抜けな顔をしていたのだろう。怒ったように笑って、彼女は囁いた。
「にっこり笑って、場内に手を振るのよ!」

言われた通りにすると、いつの間にか詰めかけた百人は超えるお客たちから、歓声がなり響いた。

「素晴らしい! 素晴らしいわ! あなた方・・・」
少々、香水の強すぎるご婦人が、駆け寄ってきてぼくとフィオリナの手を握りしめた。
「先生はだどなた? どうしてこんな踊り手が世に隠れていたのかしら。わたしはバークレーダンス学校の校長をしているの!
あなた方を特待生として迎えるわ。」

「しばし、お待ちを、バークレー男爵夫人。」
ガルフィート伯爵が、歩み出た。
「その少年はグランダのハルト王子、少女はクローディア大公国のフィオリナ姫です。」

なんで、王子サマが小姓姿でラウレスの手伝いをしているのか。
なぜ、お姫さまが給仕をしているのか。
それを、言うならそもそもなんで古竜が楽しそうに調理をしているのだろうか。

「た、たしかに素晴らしい演出ですわ、ガルフィート閣下。」
あれもこれも含めて、パーティーの演出だ、と、バークレー男爵夫人はそういうふうに理解することにしたようだった。
この解釈は、まわりのお偉い方たちにも一定の理解は得られたようで、みなは口々にこの、意外性のある演出を褒めそやした。

輪が崩れて、グラスをもった貴族たちが殺到する。なんとかお近づきになりたいのだろう。

これは、かなりのビンチだった。

フィオリナはこういうケースはけっこう諦めが早い。
でっかいネコを取り出して被ると愛想良く、ギウリークの貴族たちに微笑みかけた。

ええ、こっそり、わたくしとハルトだけで先にミトラに来ていたんです。せっかくなので街を見物しようかと思いまして。
え?
退屈?
とんでもございません。楽しく毎日を過ごさせていただいております。

はい。グランダは弟のエルマートが跡を継いでおります。
ぼくは、自分を鍛え直すつもりで、ランゴバルドの冒険者学校に、ええ、そうです、ルールス校長の特別クラスに在籍しています。正式に冒険者資格もとりましたので、しばらくは西域諸国を回るつもりです。
フィオリナとの結婚ですか?
いまのところは・・・

はい、そうです。ハルト殿下とのことは、もともと親同士が決めた婚約ですがいったんは白紙に戻った状態ですね。

結婚の予定について、ぼくが曖昧な返事をしたのが気に入らなかったのか、フィオリナはとんでもないことを言い出した。

わたくしもいずれは、クローディア大公国を継承する身です。父が健在な間に、もう少し広い世間を体験したいものですわ。

「ウォルト! じゃなくてハルト殿下!」
フィオリナを少し小柄にしたような美女が、ぼくに向かって、挑むようにグラスを掲げた。
「ダ、ダ、ダ、ダンスを。わたくしとダンスを踊ってくれてもいいんだけど。」
忘れていた。
そもそもフィオリナのメイド服の原因になったのは、カテリア。
ガルフィート伯爵家令嬢“剣聖”カテリアのためだった。

浅葱色のドレスは、身体にぴったりとしたスタイルで、足の部分に大きくスリットが入っていた。
動作によっては、脚のかなりの部分まで露出してしまうかなり、扇情的な代物だったが、ミトラでは流行りのデザインらしい。
ドレスといえば、大きく膨らんだスカートばかり見ていたぼくには、けっこう新鮮に感じた。

「しかし、カテリアさまには、クロノが。」
はっ!つい、クロノを呼び捨てにしてしまった。

「わたしは、勇者クロノのお目付け役。別に婚約してるわけではないの。」
カテリアは挑むようにぼくを睨んだ。
「フィオリナ姫のお話しでは、そっちも似たような状況ではなくって?」

うむ。
たしかに。
特に相手が浮気しまくりなところとか。

「すぐに何かを決める必要もないし、そのときでもない。」
カテリアはグラスを置くと、ぼくに手を差し伸べた。
「踊りましょ?
あなたとわたしの最初のダンス。最後のダンスにするかどうかは、ステップを見てから決めるわ。」

ぼくとフィオリナは、ふたりだけの指文字を作っている。襟や髪を触る仕草、指の本数、手の形で相当複雑な会話を、まわりのだれにもわからないようにかわせるのだ。

フィオリナは言った。
“クソっ!
ヒールのカカトさえ折れていなければっ! ”

なんでおまえと、カテリアをとりあわなきゃならないんだよ!

カテリアの手を取って、広間の中央に滑り出すと同時に、曲が鳴り響いた。
さっきのフィオリナとの「ダンス」もそうだったが、この楽団はこちらの動きに合わせて勝手に曲をつけてくる。後半、ぼくとフィオリナはけっこう曲のほうに乗せられていた。たいした技量だ。

「すてきな夜になるといいね。」
ぼくの胸に顔を埋めて、カテリアが囁いた。
いやまだ昼前なんだけど?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...