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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第275話 銀灰を継ぐもの
しおりを挟む銀灰皇国の当代君主、壊乱帝は、あまりに皮肉な運命にしばし、呆然としていたのだ。
彼自身にも収集がつかない彼の後継者争い。
それに一応の決着をつけるつもりで彼はここまでやってきた。
落胆を周りからはわからぬように、ポーカーフェイスを貫き通したのは彼の長年の訓練の賜物ではあったが。
彼が追い求めた。これを今告げるしかないと追い求めた少女は別人だった。
オルガは強大な魔力を持っていて、それによる老化の阻害はすでに顕著に現れていた。
だが、このような。10代の半ばの少女ではない。
この人ってだれ?
と、少女が同じ年頃の少年に尋ね、少年はいやこのひとは銀灰皇国ってところの皇帝でね、と説明をしている。
ああ、と少女はなにかに得心したように、頷いた。
翻って、壊乱帝を見つめる目は、深い光を湛えていた。
似ている。
壊乱帝は心のうちに叫んでいた。
オルガではないが、オルガに似ている。
まるで、この少女がオルガに似せて作られたものであるかのように。
「ええっと‥陛下。
わたしは、あなたの探してるオルガ姫ではないけれど、オルガに伝えたいことがあるのなら、わたしに話せばいい。オルガにもきっと伝わります。」
「ち、違うのか?」
ご老公は、素直に狼狽していた。
「ジウルから、お主たちがヘルムド山を抜ける街道筋で、銀灰からの刺客に襲われたと」
「ああ、人違いで襲われましたのですね。」
「なら、お主は何者じゃ?」
「異世界から召喚された勇者だと言いました。」
そっちのほうがよっぽど荒唐無稽な話なんじゃが、とご老公はぶつぶつと文句を言った。
老公は、アキルと壊乱帝を交互に見やってから、壊乱帝に深々と頭を下げた。
「すまぬ。これでも人を見る目はあったつもりであった。
この少女のひととなり、佇まい、どれをとっても尋常のものではなかった。てっきり、銀灰から逃亡中のオルガ姫だと思い込んでしまった‥老いたな、わしも。」
「いや、我が国のとある派閥が送った刺客が、間違えてこのアキルを襲っていたのなら、銀灰皇国を代表する者として詫びなければならぬのは、わたしの方だ。」
「それは、それとして」
と、アキルは言った。
「なぜ、皇帝自らが、逃亡犯であるオルガ姫を追いかけてきたのか、伺ってもいいですか?」
これもかなり無礼な言種で(というより、ここまでの身分の差があると、直接に口をきくことすらあり得ない、そりゃそうだ、一介の有限寿命者の人間と邪神だからね、とアキルはナレーションに割って入った)激昂しかけたミルドエッジをまたもイーゴールは止めるはめになった。
「お主は、あれに似ているな。まるで、誰かがあれに似せておまえを作ったような。いや」
皇帝は、もうひとつの可能性を、あり得ない可能性を述べた。
「誰かがおまえに似せてあれを作ったかのようだ。」
「それはそれとして」
極小の情報から有り得ない真相に辿り着く「カン」という名の特殊能力に慄きながら、アキルは言った。
「その結構な力を持つおじいちゃんたちを連れているところを見ると、やっぱりあなた方の目的は、そのオルガ姫とやらの抹殺?・・・いやあまり戦闘向きではなさそうなので、『捕獲』ですかね?」
戦闘向きでないと言われたミルドエッジは(以下略)。
二人の弟子たちは、少年の姿はとってはいても実際には老人であるミルドエッジの健康状態を気にし始めた。
「これらは、わたしの護衛だよ。いくら非公式の旅とはいえ、ある程度の安全は担保しないといかんのでね。」
壊乱帝は言った。このアキルという、オルガの妹分のような面立ちの少女を彼はなんとなく気に入り初めていた。
「わたしは彼女直接に伝えることがあっただけだ・・・・」
「どうぞ。わたしに伝えてくれれば必ず、彼女にも伝わります。」
アキルは自信たっぷりにそう言った。
別段、心の一部を共有しているとか、そういうオカルトなことではない。
とっぷりと自分の影に隠れてしまっているが、この会場内に闇姫はいるし、こちらの話に聞き耳を立てている。それだけの話だった。
「ならば、わたし、銀灰皇国ヘルムド=ラセル三世は、わたしの後継者として、我が姪オルガを指名する。
彼女にかけられた皇帝暗殺未遂の嫌疑は全てなかったものとする。」
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