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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第284話 それが踊る道化師
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「急げ、グリムワールの精鋭たちよ。」
鬼面の女、リシャールが叱咤した。
それぞれの魔道具を捧げもつ不吉な一団が歩みを進める。
夜の帷とともに湧いた霧の中に、街灯がぼんやりと映る。
「蟲に、青薔薇はもう仕掛けたはずだ。遅れを取るな!」
すでに何人かは詠唱に入っていた。
「的を狙う必要はない。会場の全てを殺せ。さすれば自動的に的もまた倒れる。」
クローディアが聞いたら呆れたであろう。一国の特殊部隊が、他国の領内で戦争、いや単なる大量殺戮活動を行う。ここにはギウリークはもちろん、他国の使節たちも大勢出席していた。
そこまでのことをしておいて、「いやそれは前皇帝とその姪いが行ったとで、責任は彼らにあります。」が通用するのかどうか。
考えればわかるであろう。
銀灰皇国は確かに、守りやすい地形にはあったし、強力な魔導師を多数抱える強国ではある。
だが、全人類を敵に回して、果たして、持ち堪えらるものなのか。
彼らは考えない。たとえ考えても闇姫オルガの抹殺を優先しただろう。
その先の見えない劣悪な思考力こそが、皇帝がオルガに対して執着した理由に他ならなことを、皇太子も第一皇女も中央軍も全く理解していない。
ガルフィート伯爵の屋敷へと、歩みを続ける一段の前に、立ち塞がったものがいる。
年齢は二十歳をいくつかこえたところか。
ゆったりとした着物から伺える体躯は、見事に鍛え上げられていた。
「何だ、おまえは。」
リシャールは鬼面の下から罵った。
「道化師は失せろ。いや、我々の顔を見た以上、それも許さん。ここで死ね。」
「いや、俺は道化師ではないのだが。」と男は意味不明なことを言った。「おまえらの仲間はもう、道化師が大半退治してしまったよ。おまえらも怪我したくなければここで、回れ右して帰るんだな・・・いや」
男の体内の気が膨れ上がった。
「闇姫殿のご意向は、ここで自分を付け狙う奴らの戦力を削っておけということらしい。
なので、命まではとらんが、しばらく病院のベッドで過ごしてもらう。」
「な」
たぶん仮面の女の言おうとしたのは「なめるな!」だったのだろう。
言い終わらぬうちに、紫電が彼らの間を駆け巡った。
まったく自分に見せ場を設けずに、全員を打ち倒してしまった愛弟子を、ジウル・ボルテックは、物憂げにながめた。
今日は拳士の服装ですらない。おそらく下着には、例のギムリウスのボディスーツスーツを着用してはいるのだろうが、衣装は、アライアス侯爵家の侍女のそれだ。
すらりとしたドロシーには、良く似合っていた。そう。拳士の衣装よりも。
「おまえは、破門だ、ドロシー。」
ムスッとしたまま、ジウル・ボルテックは言った。案外、敵を目の前にしたよりも不機嫌かもしれない。
「そんな!師父から破門されたらわたしいったいどうしたら。」
完全に棒読みでドロシーは答えた。
「俺はしばらくは、『絶士』どもと腕を磨いてくる。お前は、冒険者学校に戻れ。」
「そんな!ジウルぅ!
わたしを捨てないで!」
これも完全に棒読みだった。
「俺と一緒にいた時間がオマケだったんだ。本来、おまえの歩む道は別にある。」
「ああ、マシューと結婚して、子どもは二人ほしいかな。たぶんどこかのギルドの職員に雇ってもらえるだろけど、きっとお給料も安いから、」
「ときどき、おまえが怖く思える。」
ジウルは、気絶した振りをして呪文を紡ごうとしていた鬼面の女を丁寧に踏んづけながら言った。
「まあ、そこらはルトと相談するんだな。非常識はやつも同じ程度だか。」
ばかな。
青薔薇を指揮するボブハートは、驚愕のなかで、逃走を図っている。
隣国から技術供与を受けたと言われる特殊部隊「蟲」。
その謎に包まれた実力のいったんを見れたこと。
今回の収穫はその程度、しかない。
もはや戦闘の継続は不可能だ。せめて、この情報を持ち帰って。
よろよろと夜道をよろめく、彼の影を剣の一刺しがぬい止めた。
「なるほど、これが影縫いかあ。」
メイド服の美少女は、感慨深げに言った。
「二次元に溶け込んだ状態で、刺せば二次元のなかに固定されてしまう。」
「な、なにものだっ!」
ショーウィンドウに映るマネキン人形の影に溶け込んだボブハートは、驚愕していた。
さきほど。絵の中に閉じ込められた部下たちも同様だったのか、いや、「絵」とは異なりガラス面に、写った像は光の角度によっては、あっさりと消滅してしまう。
「『踊る道化師』のフィオリナ。」
絶世の美女は、面倒くさそうにそう答えた。
「なんなんだ、なんなんだ、こいつらは!」
似たような悲鳴は味方からも漏れていた。
「アモンさまはともかく!
あいつらはいったい!」
「まあ。銀灰の皇帝直属部隊『悪夢』も、竜王直参の古竜『竜王の牙』も」
自嘲的にクロノは笑った。
「勇者も出番がなかった、とそういうことです。諦めてください。
それが『踊る道化師』という連中です。」
鬼面の女、リシャールが叱咤した。
それぞれの魔道具を捧げもつ不吉な一団が歩みを進める。
夜の帷とともに湧いた霧の中に、街灯がぼんやりと映る。
「蟲に、青薔薇はもう仕掛けたはずだ。遅れを取るな!」
すでに何人かは詠唱に入っていた。
「的を狙う必要はない。会場の全てを殺せ。さすれば自動的に的もまた倒れる。」
クローディアが聞いたら呆れたであろう。一国の特殊部隊が、他国の領内で戦争、いや単なる大量殺戮活動を行う。ここにはギウリークはもちろん、他国の使節たちも大勢出席していた。
そこまでのことをしておいて、「いやそれは前皇帝とその姪いが行ったとで、責任は彼らにあります。」が通用するのかどうか。
考えればわかるであろう。
銀灰皇国は確かに、守りやすい地形にはあったし、強力な魔導師を多数抱える強国ではある。
だが、全人類を敵に回して、果たして、持ち堪えらるものなのか。
彼らは考えない。たとえ考えても闇姫オルガの抹殺を優先しただろう。
その先の見えない劣悪な思考力こそが、皇帝がオルガに対して執着した理由に他ならなことを、皇太子も第一皇女も中央軍も全く理解していない。
ガルフィート伯爵の屋敷へと、歩みを続ける一段の前に、立ち塞がったものがいる。
年齢は二十歳をいくつかこえたところか。
ゆったりとした着物から伺える体躯は、見事に鍛え上げられていた。
「何だ、おまえは。」
リシャールは鬼面の下から罵った。
「道化師は失せろ。いや、我々の顔を見た以上、それも許さん。ここで死ね。」
「いや、俺は道化師ではないのだが。」と男は意味不明なことを言った。「おまえらの仲間はもう、道化師が大半退治してしまったよ。おまえらも怪我したくなければここで、回れ右して帰るんだな・・・いや」
男の体内の気が膨れ上がった。
「闇姫殿のご意向は、ここで自分を付け狙う奴らの戦力を削っておけということらしい。
なので、命まではとらんが、しばらく病院のベッドで過ごしてもらう。」
「な」
たぶん仮面の女の言おうとしたのは「なめるな!」だったのだろう。
言い終わらぬうちに、紫電が彼らの間を駆け巡った。
まったく自分に見せ場を設けずに、全員を打ち倒してしまった愛弟子を、ジウル・ボルテックは、物憂げにながめた。
今日は拳士の服装ですらない。おそらく下着には、例のギムリウスのボディスーツスーツを着用してはいるのだろうが、衣装は、アライアス侯爵家の侍女のそれだ。
すらりとしたドロシーには、良く似合っていた。そう。拳士の衣装よりも。
「おまえは、破門だ、ドロシー。」
ムスッとしたまま、ジウル・ボルテックは言った。案外、敵を目の前にしたよりも不機嫌かもしれない。
「そんな!師父から破門されたらわたしいったいどうしたら。」
完全に棒読みでドロシーは答えた。
「俺はしばらくは、『絶士』どもと腕を磨いてくる。お前は、冒険者学校に戻れ。」
「そんな!ジウルぅ!
わたしを捨てないで!」
これも完全に棒読みだった。
「俺と一緒にいた時間がオマケだったんだ。本来、おまえの歩む道は別にある。」
「ああ、マシューと結婚して、子どもは二人ほしいかな。たぶんどこかのギルドの職員に雇ってもらえるだろけど、きっとお給料も安いから、」
「ときどき、おまえが怖く思える。」
ジウルは、気絶した振りをして呪文を紡ごうとしていた鬼面の女を丁寧に踏んづけながら言った。
「まあ、そこらはルトと相談するんだな。非常識はやつも同じ程度だか。」
ばかな。
青薔薇を指揮するボブハートは、驚愕のなかで、逃走を図っている。
隣国から技術供与を受けたと言われる特殊部隊「蟲」。
その謎に包まれた実力のいったんを見れたこと。
今回の収穫はその程度、しかない。
もはや戦闘の継続は不可能だ。せめて、この情報を持ち帰って。
よろよろと夜道をよろめく、彼の影を剣の一刺しがぬい止めた。
「なるほど、これが影縫いかあ。」
メイド服の美少女は、感慨深げに言った。
「二次元に溶け込んだ状態で、刺せば二次元のなかに固定されてしまう。」
「な、なにものだっ!」
ショーウィンドウに映るマネキン人形の影に溶け込んだボブハートは、驚愕していた。
さきほど。絵の中に閉じ込められた部下たちも同様だったのか、いや、「絵」とは異なりガラス面に、写った像は光の角度によっては、あっさりと消滅してしまう。
「『踊る道化師』のフィオリナ。」
絶世の美女は、面倒くさそうにそう答えた。
「なんなんだ、なんなんだ、こいつらは!」
似たような悲鳴は味方からも漏れていた。
「アモンさまはともかく!
あいつらはいったい!」
「まあ。銀灰の皇帝直属部隊『悪夢』も、竜王直参の古竜『竜王の牙』も」
自嘲的にクロノは笑った。
「勇者も出番がなかった、とそういうことです。諦めてください。
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