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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第288話 魔女の誘惑
しおりを挟むドロシーは、うんざりしたように天井を見上げた。
「まったく男の子って・・・」
「いや、マシューが例外だと思うんだけど。」
「それじゃ、ギムリウスは!」
慌てたようにドロシーが言った。
「いま、ちょっと、女の子たちと一緒じゃない?」
「フィオリナに真祖、闇姫、絶士、勇者だね。」
「考えるだけで、すごいメンバーね。心配なのは、剣聖くらい、か。」
「ギムリウスは、古竜たちとアモンさんの飲み会がはけたあと、リウとアモンさんをランゴバルトまで、転移で送っていくってさ。」
ふぅ。
と、ドロシーは大きく息をついた。
「なんだか、なあ、もう。」
瞳が真っ直ぐにぼくを見た。
「あなたはこれからどうするの?
教えてよ、ルトくん。」
「ええっと‥まず、取り急ぎは親父殿とアウデリアさんの結婚披露宴をつつがなく、終了させる。
たぶん、そのときに結婚祝いの名目で、ギウリークの爵位と領地が与えられるんだけど、いまの流れだと十中八九で、オールべだ。
今のオールべを運営するにあたっては、クローディア大公国にも人材がいない。
鉄道公社からスタッフを派遣させる必要があるんだけど、あそこはあそこで、組織としては、斬新なでも中の人間はそうとは限らない。
それこそ、あのゼナス局長のように、封建領主と鉄道公社の間で、うまく立ち回って自らが爵位でももぎ取ろうと、するものが大半だろう。
それでも上手くやってくれれば、駅のある街の運営に理解のある領主が、ひとり増えるだけだけど、実際には、ゼナスほどの人でも上手くはやれていない。
彼は最初から、不正な行為に走り、その責任を押し付けるための、犯人をでっち上げるためにまた不正を起こし、ぼくらが介入しなければ、おそらくオールべを灰に焼き尽くすまで止められなかったと思う。
つまり」
「わかったわかった。」
ドロシーは、とても大人の女性に見えた。
ぼくの長広舌を容赦なくぶったぎって彼女は、言った。
「クローディア大公はギウリークから、オーベル伯を賜ると。街の経営は、鉄道公社でそこからの人材育成や利益配分はこれから検討と。
で、ルトくん、きみはどうするの?」
「ミトラでやるべきことはできたと思う。クローディアの親父殿とアウデリアさんの披露宴を見たら、ランゴバルド冒険者学校に戻るよ。
そしたら、またマシューに剣を教えてやることもできるし、ちょっと釘をさしとこうね。
あと、これからもミトラには頻繁に来ることになるから、いちいち、転移に頼らなくてもいいように、迷宮を作って、ランゴバルド大迷宮とつなげておくのもいいかもしれない。」
「それは、そうすればいいんだけどね。」
ドロシーは、お酒を注いでぼくに差し出した。
「ルト君はどうするの?
フィオリナさんは。」
「一応、名目はきみとの三ヶ月の交換留学だったからね。
いったんはグランダに戻って、『不死鳥の冠』とミュラのグランドマスター就任の始末をつける必要があるだろう。」
「ルトくん。」
ちょっと怖い顔でドロシーは言った。
「あなたは、周りがこうするから、自分はこう動くって話ばっかりしている。
あなたは、これからどうするの?
どうしたいの?」
ぼくはほんの数旬だけど、呆けていたと思う。
どうしたい?
これから?
自分がなにかするなんて、考えてなかった。ぼくの今までっていうのは、強風の中の小舟みたいなもので、ぼくは舟が転覆しないように、懸命に帆を操り、目的地なんてわからなかった。
「フィオリナとはいつ結婚するの?」
「落ち着いたら。あと、ぼくの体がそういうことができる準備ができたら。」
「結婚する気はない、のかな。」
ドロシーは、顔を近づけた。
「あなたの周りが落ち着くことは永久にないし、きみの体の成長なんて、きみの意思でどうにでもなるよね?
無理に成長させると、害がでるって言ってたけど、ジウルの話じゃあ、ウソっぽい。というかウソ。
少しの健康に差し障りがあったって、それも魔法で解消できるでしょ。」
「ボルテックのくそじじいとはあんまり会話がなかったんじゃあ?」
「そうそう。これはね、一戦終わったあとのベッドのなかでのお話しだったの。
こういうことをするのに相応しい年代はいつかってことだよね。
現在のわたしたちの道徳では、経済的な自立が望める20代ってことになるんだろうけど。
実際には、体がそれを欲求するのは、もっと早いよね?
ルトくんはそうなる前の段階で、体の成長を止めた?」
ぼくは。
頷いた。
「フィオリナのことを愛してない?」
ぼくは真剣に考えたが答えはNoだ。フィオリナが傍にいないだけで、ぼくは本当に不安定になる。これはフィオリナも同じだ。
これが、愛情でなければ一体なんだ?
「フィオリナと子供を作るのが、怖い?」
怖い、というのとは違う。
でも不安はあった。
生まれてくる子どもがどんな存在になるか想像がつかないからだ。
ぼくの魔力量は明らかに異常だった。フィオリナはそれに輪をかけて、あの身体能力がある。
ぼくとフィリオリナの人生は幸せなものだったろうか。
「だから、アレも怖いの?」
「アレ、とは。」
「わたしが、ジウルとしてるような行為の先にあるもの。」
「ぼくは」
ふいに、ドロシーが怖く感じた。
優れた才能をもった17の女の子は、歳を経た魔女の笑いを浮かべている。
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