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第7部 駆け出し冒険者と姫君
第296話 彷徨える邪神
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「自信たっぷりに歩いているので、道はご存じだと思いました。」
道を間違える、という「人間的なこと」をしでかしたわたしを非難するかと思ったら、ミランはそうでもなかった。
「神様」は「神様」なんで、例外なのだろうか。
心配していた追い剥ぎの類には、合わなかった。
さすがに、時間的に通りは人っ子一人、いなかったし、これでは、強盗も活躍のしようがないだろう。
たどり着いたアライアス侯爵の屋敷も静まりかえっていた。
門番の類がいるかと思ったら、誰もいない。前に使った裏門は、しっかりカギもかかっていた。
「塀を乗り越えるか。」
と、オルガっちはこともなげに言って、わたしを小脇に抱えると、身長の倍はある塀を軽々と飛び越えた。
「ドロシーの部屋はどっちだ?」
とそこでまた迷子になった。
なにしろ、広大なお屋敷である。確か客室は別棟になっていたはずなんだけど・・・
ミランの土地勘もここまでは働かないし、これは困った。
ホテルじゃないので、看板の類もないのだ。
それらしい建物は見つかって、鍵はかかっていなかったので、中に入る。
さて、ドロシーさんはどの部屋だったろうか。
確か、二階にジウルと一緒に部屋を用意してもらっていたが、そもそもその部屋でほんとにいいんだろうか。
廊下には、魔導によるランプがところどころに設置されているだけで、薄暗い。
部屋だって「201号室」とか札が掛かってるわけじゃないので、分かりにくいのだ。
廊下の両側のドアはどれも無味乾燥で、こういうところだけが、ホテルに似ていた。
「夜が明けた使用人たちが、起き出すのを待つか。」
物語の展開的にはあり得ないもたつきに、オルガっちはそれでもへこたれない。
たしかに、ひとり国元を追われて、刺客を放たれ、生き延びてきたんだからなあ。
この程度は、びくともしないか。
そんなときに、ドアのひとつが開いて、中からドロシーさんが顔を覗かせた。
ゆったりとした拳法着をまとっている。
旅の途中でもよくみた格好だった。
基本、彼女もジウルさんも、日常をそれで済ませている。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます。」
そのまま通り過ぎようとするドロシーさんを、わたしは慌てて呼び止めた。
「ち、ちょっとどちらへ?」
「型の稽古です。」
ドロシーさんは歩きながらそう言った。
わたしはあとを追いかける。
「型?」
「そうですよ。ストレッチから柔軟、筋トレにもなります。ジウルなしでもこれは続けていこうかと思って。」
「ジ、ジウルさんと別れたんですかっ!」
そうなんです、とドロシーさんはちょっと寂しそうに言った。
「彼は『絶士』から誘いを受けてて、それにのる、そうです。わたしは、交換留学の期限もあるので、冒険者学校に戻らないといけません。」
「だ、だって!」
わたしは叫んだ。
「あんなにラブラブだったじゃないですか!」
ちょっと声がおっきすぎた。
廊下にひびく、自分の声にひきながらも、わたしは声を落として話し続けた。
「だってあんなに毎晩」
「まあ、それはそれとして」
ドロシーさんはあっさり流した。
「進む道が違ったってことです。
もし、ふたりがそうなるべきなのなら、運命が巡り合わせてくれるでしょう。」
酔っばらってんのかっ!
と、わたしは叫んだ。
また。声が大きすぎた。
ドロシーさんは、構わず扉を開いて、裏庭に出た。
ようやく、空がしらみ始めている。
「酔ってる?とは。たしかに昨日はすこしお酒をいただきましたけど、別に酔ってはいません。」
「いや、なんというか、その」私はバタバタとあとを追いかけた。
歩き方ひとつとっても、彼女はすごくきれいだ。あれが拳法の修行なら、自分も習いたいな、とそう思った。
そういえば12使徒にもたしか、拳士のばあちゃんがいたけど、ああいう爪先に毒を仕込みそうなのではなくて、正統なのを、習いたい。
「あ、あのドロシーさんっ!」
ゆるゆると歩みながら、腰を沈めたり浮かしたりする彼女にわたしは呼びかけた。
「あ、あの、わたしを弟子に」
「アキル。」
オルガっちが声をかけてきた。
「話変わってきてる。」
そうだった。
道を間違える、という「人間的なこと」をしでかしたわたしを非難するかと思ったら、ミランはそうでもなかった。
「神様」は「神様」なんで、例外なのだろうか。
心配していた追い剥ぎの類には、合わなかった。
さすがに、時間的に通りは人っ子一人、いなかったし、これでは、強盗も活躍のしようがないだろう。
たどり着いたアライアス侯爵の屋敷も静まりかえっていた。
門番の類がいるかと思ったら、誰もいない。前に使った裏門は、しっかりカギもかかっていた。
「塀を乗り越えるか。」
と、オルガっちはこともなげに言って、わたしを小脇に抱えると、身長の倍はある塀を軽々と飛び越えた。
「ドロシーの部屋はどっちだ?」
とそこでまた迷子になった。
なにしろ、広大なお屋敷である。確か客室は別棟になっていたはずなんだけど・・・
ミランの土地勘もここまでは働かないし、これは困った。
ホテルじゃないので、看板の類もないのだ。
それらしい建物は見つかって、鍵はかかっていなかったので、中に入る。
さて、ドロシーさんはどの部屋だったろうか。
確か、二階にジウルと一緒に部屋を用意してもらっていたが、そもそもその部屋でほんとにいいんだろうか。
廊下には、魔導によるランプがところどころに設置されているだけで、薄暗い。
部屋だって「201号室」とか札が掛かってるわけじゃないので、分かりにくいのだ。
廊下の両側のドアはどれも無味乾燥で、こういうところだけが、ホテルに似ていた。
「夜が明けた使用人たちが、起き出すのを待つか。」
物語の展開的にはあり得ないもたつきに、オルガっちはそれでもへこたれない。
たしかに、ひとり国元を追われて、刺客を放たれ、生き延びてきたんだからなあ。
この程度は、びくともしないか。
そんなときに、ドアのひとつが開いて、中からドロシーさんが顔を覗かせた。
ゆったりとした拳法着をまとっている。
旅の途中でもよくみた格好だった。
基本、彼女もジウルさんも、日常をそれで済ませている。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます。」
そのまま通り過ぎようとするドロシーさんを、わたしは慌てて呼び止めた。
「ち、ちょっとどちらへ?」
「型の稽古です。」
ドロシーさんは歩きながらそう言った。
わたしはあとを追いかける。
「型?」
「そうですよ。ストレッチから柔軟、筋トレにもなります。ジウルなしでもこれは続けていこうかと思って。」
「ジ、ジウルさんと別れたんですかっ!」
そうなんです、とドロシーさんはちょっと寂しそうに言った。
「彼は『絶士』から誘いを受けてて、それにのる、そうです。わたしは、交換留学の期限もあるので、冒険者学校に戻らないといけません。」
「だ、だって!」
わたしは叫んだ。
「あんなにラブラブだったじゃないですか!」
ちょっと声がおっきすぎた。
廊下にひびく、自分の声にひきながらも、わたしは声を落として話し続けた。
「だってあんなに毎晩」
「まあ、それはそれとして」
ドロシーさんはあっさり流した。
「進む道が違ったってことです。
もし、ふたりがそうなるべきなのなら、運命が巡り合わせてくれるでしょう。」
酔っばらってんのかっ!
と、わたしは叫んだ。
また。声が大きすぎた。
ドロシーさんは、構わず扉を開いて、裏庭に出た。
ようやく、空がしらみ始めている。
「酔ってる?とは。たしかに昨日はすこしお酒をいただきましたけど、別に酔ってはいません。」
「いや、なんというか、その」私はバタバタとあとを追いかけた。
歩き方ひとつとっても、彼女はすごくきれいだ。あれが拳法の修行なら、自分も習いたいな、とそう思った。
そういえば12使徒にもたしか、拳士のばあちゃんがいたけど、ああいう爪先に毒を仕込みそうなのではなくて、正統なのを、習いたい。
「あ、あのドロシーさんっ!」
ゆるゆると歩みながら、腰を沈めたり浮かしたりする彼女にわたしは呼びかけた。
「あ、あの、わたしを弟子に」
「アキル。」
オルガっちが声をかけてきた。
「話変わってきてる。」
そうだった。
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