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第7部 駆け出し冒険者と姫君
第312話 空白の未来
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「親父殿。アウデリアさん。」
ルトは立ち上がった。
「ぼくは正常で、なぜそういい出したかも理解いただいた。それでもぼくがいま、フィオリナと結婚することには反対でしょうか。」
はーい。
と、アキルが手をあげた。
「何度も言うけど、わたしは反対。結婚そのものではなくて、『今』でなくていい。」
アウデリアは、珍しく難しい顔で頷いた。
「こればかりは16年しか生きてないお主には理解が、難しいか。」
ロウは、クローディア大公の胸板を叩いた。女性にしては長身のロウも、クローディアの体躯の前では子供のようにの見えた。
「ロウ殿は、わたしと同じ意見か。」
クローディアとロウは、頷き合ってから言った。
「反対はせんが心配はしておる。」
「ロウもその…運命とかが。」
「わたしの場合は、星詠み。ある種の予知能力だね。アキルが『何もない』というのと同じ感覚だよ。あるべき未来に虚無しかないのはある意味、絶望しかないわ。」
「ドロシーは?」
「提案します。なにもかも捨てて、わたしと逃げましょう。」
「それは、」
冗談を言っているのではない、と思ったルトは真剣にその可能性を考えた。
「いや」
しばらく俯いてから、本当にびっくりしたように、彼は言った。
「驚いた。なにもないんだな。」
「そうなんですか?」
ドロシーは悪戯を見つかった子供のような笑いを浮かべた。
「でも、なにも見えないんだから懸けてみるのも面白いんじゃないですか?」
「それは、リウたちの考えたかだな。」
ロウが言った。
「特にかの神竜のわがままっぷりたるや…」
「でも、わたしはルトくんに、好きなようにしてほしい。」
ドロシーは、真っ直ぐにルトを見つめて、そう行った。
「リウたちは、宴席に侍らせるために、魔王宮の古竜を総動員するつもり。あと、あなたの両親に弟、クローディア家のリアも呼ぶつもりじゃないかなあ。」
「ち、ちょっと」
父である先代の王は、後妻であるメアの実子エルマートを王太子にたてるため、ルトことハルト王子に無理難題を押し付けた挙句に、迷宮内で彼を謀殺しようとした。
ちなみにメアは、闇森の魔女といわれた希代の魔法使いザザリである。
父王は、混乱を招いた責をとり、退位。エルマートが、王位を継いだのだ。
その家族を呼ぶのだろうか、ふつう。
とはいえ、裏での一切の筋書きをおこなったメアこと闇森のザザリを責める気にもなれないルトである。
一連の騒ぎは、メアとザザリ、二つの人格が転生により混乱した結果もたらされたものであり、ザザリは、また彼の仲間リウの母親でもあるのだ。
恨むなら、邪神ヴァルゴールの力を借りて、彼を抹殺しようとしたパーティ『燭乱天使』の方なのだろうが、当のヴァルゴールが目の前で、フルーツを練りこんだケーキをパクつきながら、至福の表情を浮かべて、んまぁ、とか言っているので怨みにくいというのも事実なのだ。
名前の出たリアは、王立学院の後輩だ。ただし、入学が遅かったため、年齢はルトやフィオリナと同い年になる。
元々は下町の出身で、地元のワルどものまとめ役だった。ついたあだ名が「三丁目の悪夢」。その三丁目の悪夢のまま、魔王宮第五階層主オロアと戦い、その「試し」に合格した魔法の天才である。
ルトとフィオリナの婚約破棄騒動に巻き込まれて、一時、王立学院の学籍を失ったが、そののち、復学している。
その際にリアは、クローディア家の猶子となった。
相続の件以外は家族として扱われる立場だから、式に呼ぶのは間違ってはいない。いないのだが。
「リアは、エルマートに言い寄られてるけど、袖にし続けてるはず。どこかに思う人でもいるのかしらねえ。」
「そんな微妙なひとを呼ばなくても。」
「そうだよね、新郎の愛人ばっかり呼ぶのもね。
で、そのバランスを取るためか、ミュランも呼ぶみたいよ。」
「ミュラン先輩を?」
ミュランは、ルトとフィオリナの王立学院時代の先輩だった。
現在は、グランダを離れているフィオリナにかわって、ギルド「不死鳥の冠」のギルドマスターを務めている美貌の女性だ。
ルトは、彼女を尊敬しているし、ミュランも彼を認めている、ただ、ルトとフィオリナが婚約しているというその一点が気に入らないだけだ。
だが、ことはそれだけに止まらず!ルトたちが一足先にランゴバルトに旅だったあと、ミュランはフィオリナと親密な関係になった。
それは(さらにまずいことに)隠しようもないスキャンダルとして、王都を揺るがした。
「呼ぶ? 本気で?」
「おまえたちには共通の友人が少なすぎるんだよ。」
ロウは言った。
「いちおう、共通の友人代表でスピーチもお願いするつもりだ。」
「共通の『友人』ねえ。」
ルトは白い目で、ロウを見つめながら言った。
「だったらヨウィスでいいじゃないか?」
「そうだね、ヨウィスも呼ぼうよ。ああ、楽しみになってきたなあ。絶対に平穏無事には終わらないぞっ!」
なぜそれを楽しそうに言う!?
そこに、クローディア夫妻が注文した酒と、串焼きが山盛りに乗せられた大皿が登場した。
「ルトは、今朝から食べてないよね?」
ドロシーは甲斐甲斐しく、料理を取り分けながら言った。
「ちゃんと食べてから、行った方いいです。残念姫を説得するのは、かなり体力が居ると思いますから!」
ルトは立ち上がった。
「ぼくは正常で、なぜそういい出したかも理解いただいた。それでもぼくがいま、フィオリナと結婚することには反対でしょうか。」
はーい。
と、アキルが手をあげた。
「何度も言うけど、わたしは反対。結婚そのものではなくて、『今』でなくていい。」
アウデリアは、珍しく難しい顔で頷いた。
「こればかりは16年しか生きてないお主には理解が、難しいか。」
ロウは、クローディア大公の胸板を叩いた。女性にしては長身のロウも、クローディアの体躯の前では子供のようにの見えた。
「ロウ殿は、わたしと同じ意見か。」
クローディアとロウは、頷き合ってから言った。
「反対はせんが心配はしておる。」
「ロウもその…運命とかが。」
「わたしの場合は、星詠み。ある種の予知能力だね。アキルが『何もない』というのと同じ感覚だよ。あるべき未来に虚無しかないのはある意味、絶望しかないわ。」
「ドロシーは?」
「提案します。なにもかも捨てて、わたしと逃げましょう。」
「それは、」
冗談を言っているのではない、と思ったルトは真剣にその可能性を考えた。
「いや」
しばらく俯いてから、本当にびっくりしたように、彼は言った。
「驚いた。なにもないんだな。」
「そうなんですか?」
ドロシーは悪戯を見つかった子供のような笑いを浮かべた。
「でも、なにも見えないんだから懸けてみるのも面白いんじゃないですか?」
「それは、リウたちの考えたかだな。」
ロウが言った。
「特にかの神竜のわがままっぷりたるや…」
「でも、わたしはルトくんに、好きなようにしてほしい。」
ドロシーは、真っ直ぐにルトを見つめて、そう行った。
「リウたちは、宴席に侍らせるために、魔王宮の古竜を総動員するつもり。あと、あなたの両親に弟、クローディア家のリアも呼ぶつもりじゃないかなあ。」
「ち、ちょっと」
父である先代の王は、後妻であるメアの実子エルマートを王太子にたてるため、ルトことハルト王子に無理難題を押し付けた挙句に、迷宮内で彼を謀殺しようとした。
ちなみにメアは、闇森の魔女といわれた希代の魔法使いザザリである。
父王は、混乱を招いた責をとり、退位。エルマートが、王位を継いだのだ。
その家族を呼ぶのだろうか、ふつう。
とはいえ、裏での一切の筋書きをおこなったメアこと闇森のザザリを責める気にもなれないルトである。
一連の騒ぎは、メアとザザリ、二つの人格が転生により混乱した結果もたらされたものであり、ザザリは、また彼の仲間リウの母親でもあるのだ。
恨むなら、邪神ヴァルゴールの力を借りて、彼を抹殺しようとしたパーティ『燭乱天使』の方なのだろうが、当のヴァルゴールが目の前で、フルーツを練りこんだケーキをパクつきながら、至福の表情を浮かべて、んまぁ、とか言っているので怨みにくいというのも事実なのだ。
名前の出たリアは、王立学院の後輩だ。ただし、入学が遅かったため、年齢はルトやフィオリナと同い年になる。
元々は下町の出身で、地元のワルどものまとめ役だった。ついたあだ名が「三丁目の悪夢」。その三丁目の悪夢のまま、魔王宮第五階層主オロアと戦い、その「試し」に合格した魔法の天才である。
ルトとフィオリナの婚約破棄騒動に巻き込まれて、一時、王立学院の学籍を失ったが、そののち、復学している。
その際にリアは、クローディア家の猶子となった。
相続の件以外は家族として扱われる立場だから、式に呼ぶのは間違ってはいない。いないのだが。
「リアは、エルマートに言い寄られてるけど、袖にし続けてるはず。どこかに思う人でもいるのかしらねえ。」
「そんな微妙なひとを呼ばなくても。」
「そうだよね、新郎の愛人ばっかり呼ぶのもね。
で、そのバランスを取るためか、ミュランも呼ぶみたいよ。」
「ミュラン先輩を?」
ミュランは、ルトとフィオリナの王立学院時代の先輩だった。
現在は、グランダを離れているフィオリナにかわって、ギルド「不死鳥の冠」のギルドマスターを務めている美貌の女性だ。
ルトは、彼女を尊敬しているし、ミュランも彼を認めている、ただ、ルトとフィオリナが婚約しているというその一点が気に入らないだけだ。
だが、ことはそれだけに止まらず!ルトたちが一足先にランゴバルトに旅だったあと、ミュランはフィオリナと親密な関係になった。
それは(さらにまずいことに)隠しようもないスキャンダルとして、王都を揺るがした。
「呼ぶ? 本気で?」
「おまえたちには共通の友人が少なすぎるんだよ。」
ロウは言った。
「いちおう、共通の友人代表でスピーチもお願いするつもりだ。」
「共通の『友人』ねえ。」
ルトは白い目で、ロウを見つめながら言った。
「だったらヨウィスでいいじゃないか?」
「そうだね、ヨウィスも呼ぼうよ。ああ、楽しみになってきたなあ。絶対に平穏無事には終わらないぞっ!」
なぜそれを楽しそうに言う!?
そこに、クローディア夫妻が注文した酒と、串焼きが山盛りに乗せられた大皿が登場した。
「ルトは、今朝から食べてないよね?」
ドロシーは甲斐甲斐しく、料理を取り分けながら言った。
「ちゃんと食べてから、行った方いいです。残念姫を説得するのは、かなり体力が居ると思いますから!」
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