あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第7部 駆け出し冒険者と姫君

第315話 追跡

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闇姫オルガと、『残念姫』フィオリナの破壊のあとをたどって、ルトたちは進む。
歩きながら、ルトは、ふと思いついて、尋ねた。
「アキル、ドロシー、銀灰皇国でオルガを狙ってるやつらについて、なにかきいてる?」

オルガと、しばらく一緒に旅をしているドロシーたちなら、もう少しなにか聞いているかとルトは期待したのだが、残念、ふたりの答えはNOだった。

「そこらのところは、何も語ってませんでした。なにしろ、ロデニウムのご老公が、アキルを『闇姫』だと誤解されていらっしゃいましたので、余計なことは極力言わないことにされていたようです。」
「ああ、でもこんなふうに言ってた。
“うどんとそばを除くあらゆる人類から嫌われてる”って。」
「そりゃあ、人類じゃなくて麺類だからな。」

一行が進むにつれて、破壊の後、倒れた者たちの数はふえていく。

かなり広い道が放射状にひび割れ、真ん中に棘のついた鉄球がうごめいていた。
まわりの人だかりを押しのけて、様子をみると、鉄球に見えたのは、体を丸めた人間だった。
曲面で構成された鎧を着込んでいたので、そう見えたのだろう。
地面に半ばまで、うまって、自力では脱出もできないようだった。

「うちのフィオリナがすいません。その鎧ごと、体を丸めて体当たりする戦法を使われるのでしょうが、市街戦では加速に必要な距離をかせげずに、力を出し切れなかったようですね。ここらはあなたのミスではなく、あなたをここに派遣したもののミスでしょう。
ところで、どこのどなたか伺ってもよろしいですか?」

動けない相手には、かなり聴き応えのある言葉だっただろう。
地面にうまった男は、くぐもった声で答えた。

「銀灰皇国のバルベル商会の『ドーブ』。俺はそこのアタマをはってるグラントという。
なんだあの美貌の破壊神は!」

「だから、ぼくの婚約者のフィオリナです。
彼女の一撃をくらって、口が聞けるとは驚きました。よほど優秀な鎧のようですね。」

「た、たすけてくれ・・・」
鎧の戦士グラントはうめいた。
「二度と闇姫に敵対しないと誓う・・・」

「オルガ姫は、今冒険者パーティ『踊る道化師』に属しています。『踊る道化師』に敵対しないと誓えますか?」」
「先ほどの戦女神は・・・」
「フィオリナも『踊る道化師』のひとりです。」

グラントの体が震えた。

「わかった。誓う。」
「魔術による『誓』とさせてもらいますよ。」

ルトは、『誓約』の魔法を使った。グランドは承諾する。
この魔法は強力なのだが、あまり実用性はない。契約時に使用したものの数倍から数十倍の魔力を集中すれば、誓約を破棄することは可能である。そして魔法というものはなにも一人でかけるとは限らない。集団での儀礼魔法を仕えば、個人の数倍から数十倍の魔力を確保することは容易である。
ただし、この場合、誓約魔法を使ったのはルトであるから、彼の数倍から数十倍の魔力量を確保しなければならない。誓約破棄を実行しようとしたバルベル商会は、全員蒼白となり、闇姫と『踊る道化師』に忠誠を誓うことになるのだが、それはまたのちの話である。

「いったいいくつの勢力が、オルガ暗殺に動いているのです。」

ルトは単にお人好しではない。そこらの情報がききたかったので、グラントを助けたのである。

「俺の把握しているのは、12だが・・・すべて壊滅したはずだ。」
埋もれた地面からは、ロウが掘り出したが、鎧が変形していたためか、グラントは立ち上がることさえ、できなかった。
ロウが、吸血鬼の怪力にまかせて、鎧を分解し、なんとか、動けるようになったグラントは、もはや、戦う気などまるでなさそうだった。

「各地の軍閥、暗部を司る貴族、我々のような商会・・・ミトラに派遣された者たちは、みな行動不能だ。
だが、俺の知る限りでは、あと、ひとり。やっかいなやつが残っている。
『死術』を操るアザン侯・・・増殖する死者の魔法はやっかいだ。作られた死者どもは、アザンの命令に従う。」

ルトは、パニックを起こして逃げてくる群衆をみやった。

「急いだほうがいいかな。ロウ、不死者の『支配』は有効ですか?」
「うんにゃ。」
ロウは妙な答え方をした。
「意思を奪われたものたちの悲鳴はきこえるけど、アンデッドのものじゃない。」
「なるほど、アンデッドの群れのようにみえて、そうでないものを操る・・・と。」
ルトは、ふんふんと頷いた。
「なにか付け込みようは、ありそうです。行ってみましょう。」


通りは無人と化していた。
足を凍らされた生ける死者たちがうめきを挙げる。
全身を凍らされたものは、傾きかけた陽の光をあびてキラキラと輝いた。

まだ、自由に動いているものもいたが、その動きは緩慢で、ルトたちを認識しても襲ってこようとはしない。

「生者に対しての恨みは、感じられないな・・・フィオリナとオルガさんはいっしょにいるようですか? 感じられます?」
「おまえにわからないものが、わたしにわかるもんか。」
とロウが言った。
「魔法でも使ってくれれば、探知しやすいんだけど。」

「戦ってるんです。魔法を使ってないわけはないと思うんですが。」
「ルトに魔法について講義したくはないがな。」
ロウは、耳をすますように、風の音を聞きながら言った。
「魔法はそれを生み出すさいの『ノイズ』を、わたしを音として聞き取るんだ。フィオリナとオルガは、まったく『ノイズ』を生み出さない。
正直、人間にしとくのがおしいほどの手練だぞ、あの2人。」

「魔力を『音』として感じるんだね。」

ルトは頷いた。
「たぶん、これを生み出した術者のほうを追ってるんだろう。そっちは任せて、ぼくらは、この疑似屍をなんとかしよう。」




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