あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第7部 駆け出し冒険者と姫君

第324話 駆け出し冒険者は魔女と憂う

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まったく、やっかいな相手なのだ。
ドロシーは。

ルトは、魔法で擬似竜鱗を展開した。
ドロシーの目が驚愕に丸くなる。
この状態では、彼女程度では、魔法も打撃も効果をなさない。

そのまま、近づくと、ドロシーは、ふうっ息を吐いて腰を落とした。

打撃は、相変わらず掌を用いた者だった。
スピードもそれほどではない。そもそも戦うことを初めて半年程度のドロシーは、そこまでの鍛錬は積んでいない。

その一撃が。

竜鱗の防御を打ち砕き、打撃のダメージをルトの体に浸透させた。
ボルテックが完成された魔力撃である。

“妖怪じじいは、ここまで仕込んでたのかあっ”
ごぼり、と込み上げたのは鮮血だ。肺か、そのあたりがダメージを受けている。
外傷のダメージとは異なり、「治る」ところが想像しにくい内蔵のダメージはやっかいだ。

苦悶の表情で、脇腹をおさえて地面に転がったドロシーは、それでも体を起こした。
ルトが、ドロシーの一撃をくらいながらも放った蹴りの成果であった。もちろん擬似竜鱗を展開していたのだから、ダメージはドロシーのほうが大きい!はずなのだが。

「やっぱり、強い。」
荒い息をつきながら、ドロシーの手はうるみ頬は上気している。
もともと、戦いを好まないドロシーは、戦うことを性的なコミュニケーションに置き換えてしまうのだ。

そうすることで、自分が壊れることを防ぐ。
彼女の最初の師匠であるロウとも話したが、それって、もう壊れてないかとルトは心配したのである。

しかし、ドロシーは目をうるませながらも、先程と同様、目の前て手を合わせて一礼した。
「あり、がとうご、さいま」
倒れる体をルトが、抱きとめた。


治癒魔法がない時代、例えばアキルのいた世界などはこんなとき、どうしてあたのだろうか。
ドロシーの魔力撃は、ルトが展開した魔力による竜鱗の展開を破って、彼にダメージを、与えている。
ルトの蹴りは、ドロシーの肋骨をへし折った。もし、魔法がなければどうなるのか。

横たわったドロシーの脇腹に当てたルトの手のひらで、白い光が明滅している。

「すみません。」
ドロシーが詫びた。
治癒を施してもらっていることなのか、自分の攻撃が、ルトに吐血させるほどのダメージを与えてしまったことへのものなのかはわからない。

「ベッドに運んでもらえれば、あとは自分でも治せます。」

ベッドに運ぶのは勘弁して、とルトは真剣に言った。これ以上、フィオリナを刺激しない方がいいくらいの常識は彼にもあったのだ。

「ご結婚おめでとう。」
痛みが和らいだのか、上半身を起こして、庭の置物によりかかりながら、ドロシーは言った。
「列席者もだいたい固まったみたいね。」

「ありがとう。
きみや、リウ、アモン、ギムリウス、ロウ、アキル、オルガ、レクス、グルジエンの踊る道化師の面々。魔王宮の古竜9体に、“竜王の牙”が6体。クローディアの親父殿にアウデリアさん。グランダからは、良識王夫妻とエルマート、くクローディア家のリア。友人代表として、ザックにヨウィス、ミュラさん。」

「ルト。」
ドロシーは、ため息をついた。
「確かに竜だけで、17体は酷いけど、ずいぶん問題の多い列席者よね。」

「そうなんだ。ここまでよんでおいてラウレスを仲間はずれにするのは、かわいそだから、竜は18体になるな。」
「それは確かに問題だけどね。わたしはそれ以外にも三つばかり問題点がある人選だと思うんだ。」
「そうだね。確かにネイアとルールス先生を忘れてた。ネイア先生は呼ばないわけにいかないし、そうするとルールス先生もセットにしないと。ネイア先生はともかく、ルールス先生は竜の大群は大丈夫かな。」
「ルトくんは問題点を増やしてる。あるいは竜の大群の前に、かき消されているのかも知れないけど、わたしが言いたいのは、別の三つ。」

ドロシーは、指を立てた。

「ひとつ、ミュラさんが呼ばれてる。
ひとつ、ウィルニア学長が呼ばれてない。
ひとつ、場所はどうするの?」

「ミュラ先輩は、ぼくとフィオリナの共通の先輩だよ。」
ルトは怪訝そうに、眉を寄せた。
「昔から、仲はよかったし、卒業してからも、『不死鳥の冠』のサブマスターをずっと務めてくれてるし。
特にぼくやリウたちが、先にランゴバルドに出立しちゃってからは、ずいぶん、その。」

あ、

とルトは言った。
顔が流石に引き攣っていた。
「そういうことか。」

「そういうことに決まってるでしょう?
忘れてたら、思い出すまでちくちくしようと思ったんだけど。」
ドロシーは、立てた指でルトの頬をつんつんした。

「それを言ったら、ドロシーも同じような立場では?」

ドロシーは、あっと叫んで顔をしかめた。
「でもわたしの場合は、ちゃんと婚約者もいるし、恋人もいたし。」
「なお、悪くないか、それ。」

図星だったのか、ドロシーは舌を出して視線を逸らした。

「問題といえばまだあるんだ。」
ルトは、思い出したように言った。あるいは、ドロシーをあんまり困らせなくなかったのかもしれない。
「グランダで、ぼくらの結婚式への出席権をかけて、試合が行われたらしい。」

「どこの蛮族の習慣なの、それ。」

「で、勝ち残ったのが、『燭乱天使』のリヨンという。」
「聞いたことくらいはあるけど。悪党で有名だからね、そのパーティは。
で、そこの中心メンバーのひとりである“カンバス”リヨンとは、どっちがどんな関係なの?」
「一回、殺し合いをしかけてお流れになったきりだと思う。」

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