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第7部 駆け出し冒険者と姫君
第326話 道化師たちの街ブラ
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フィオリナのかけた氷水は、リウの顔を直撃した。
顔から、首、襟、胸下までびっしょり濡らした氷は、ブラウスを透かしている。子どもっぽい見かけとは異なり、下着に包まれた双丘は、豊かに盛り上がっていた。
仲睦まじく、ケーキをたいらげ、同じグラスからジュースを飲んでいたカップルが突然、ケンカを始めたので、店内は騒然となった。
すぐに、乾いた布を持った店員が駆けつける。
「まあ。」
お客の一人が、それよりも早くハンカチを持ってとんできた。
「まあ、まあ、ダメよ。こんなところで喧嘩しては。」
「喧嘩ではない、です。」
フィオリナはちょっと怖い目をしたが、相手が純粋に善意からそうしたとわかって、丁寧に頭を下げた。
「そうなんです。わたしがちょっとのぼせてしまったので・・・・いつもこうしてもらっているんです。」
しおらしく、しょげた顔でリウに、そう言われると、完全にフィオリナのほうが悪者だった。
「まあ。」
と、身なりの良い親切なお客さんは、ちょっとフィオリナを睨んだ。
「あなたって、いっつもこんなことをしているのっ!?
虐待だわ、これはお父様に話をして
・・・」
「スザク商会のサクラさま。」
お客同士が揉めないように、店長はすばやく、乾いたタオルを差し出しながら、割って入った。
「こちらは、かのクローディア大公陛下のお身内のかたです。込み入った事情もおありかも知れません。
ここは穏便に、お願いいたします。」
他国の元首の名前は、商会筆頭の娘にもきいたようだった。
いくらか口調をあらためて、
「でも・・・あなたがたほ、本当に仲がよさそうだったから、あまり無茶なことをしてはダメよ。」
はあい。
と、フィオリナとリウは声を揃えた。
お代金は先日、十分にいただいております、と店長が固辞するのを、迷惑料だといって、銀貨を押し付けて、フィオリナとリウは店を出た。
「さあて」
フィオリナにぴったりとついたリウは、彼女にだけわかる角度で、世にも邪悪な笑みを浮かべた。
「どこかで服を乾かさないとね!」
フィオリナは、さすがに暴力に訴える愚はおかさなかったが、怖い目でリウを睨んだ。
「おまえがくだらない話をはじめたせいで肝心の要件が話せなかった。」
「ミュラのことか?
そのくらい一興じゃないか。」
「違うぞ。」
フィオリナは、真剣な面持ちでリウを睨んだ。
「ウィルニアを招待し忘れたことだ。」
「とにかく、オーダーをしてる時間がないのは、致命的だ。」
ミトラでも高級なブティックが立ち並ぶとされる「一番街」の目抜き通りを、ルールス、ネイア、アキル、オルガが行く。
オルガは国元を追われての旅暮らし、アキルも異世界から召喚されて、身につけるものをわざわざ求める時間はなかった。ネイアは、一応礼服で男装していて、それはそれで似合うのだが、結婚式にでるためのドレスなどはもっていない。そもそも結婚式に、でたことはない。
唯一、まともな出自のルールスでさえ、両眼に「真実の目」と呼ばれる魔道具を埋め込まれ、社交界とは無縁に生きてきた。
ゆえに。
年頃の美しい娘(外見上は)が、揃っているにも関わらず、全員がドレスをまともにもっていないどころか、知識は危うい。
これだけでも十分、危ないのであるが加えてミトラの治安の悪さもあるさ
今、これみよがしに担いだオルガの大鎌のおかげか、いまのところ、声をかけてくる者は皆無だった。
「ここが、ミトラでは最高のブティックとされている、らしい。」
ショーウィンドウが軒を連ねるなか、三階建ての一際目を引く1軒でルールスは立ち止まった。
「らしい、とは?」
オルガがつまらなそうに尋ねた。
「ガイドブックに書いてあった。」
グランダや銀灰みたいな田舎の出身ではない。いくらなんでもランゴバルトの王族が、とオルガが言いかけるのを、まあまあといなして、ルールスはドアを開けた。
幸いにも店は空いていた。
「いらっしゃいませ。」
店員はひとりだけだった。
店は白を基調に統一され、電気で照明がつくシャンデリアは煌々と、店内を照らしている。
入ってすぐは、色とりどりのドレスとその付属品。奥には様々な生地が並べられていた。
「当店は初めてでいらっしゃいますか?」
「は」
ルースルが固まった。
この実年齢は結構お年寄りの先生は、実は学園の外に出たことは、あまりなく、知らない人に話しかけることは、人生も数えるほどしかない。
「はじめてです。素敵なお店ですね。」
アキルが意外にも如才なく、後を引き取った。
もと女子高生に、負けるコミュ力のなさってどういうことよ、ルールス先生。
「ドレスをお探しですか?」
スラリと背の高い店員は、なかなかの美人だった。
まるで、どこぞの聖女のように柔和な笑みをたたえながら、一行を中に誘った。
「お客さまのイメージにぴったりの生地が入っております。萌えるような若草色の南国糸を職人が二年がかりで織り上げた生地です。お肌がお綺麗ですから、できるだけ露出は多めにしたほうがよろしいですわ。最新のデザインでお作り致しましょう。」
「まず、どこに来て行く衣装か聞かないのかの?」
オルガが皮肉な笑みを浮かべて言った。
「多少の意匠や丈の調整で、いくらでも使い回しはしていただけます。」
店員は言った。
「儀礼の席で難しいのは、むしろアクセサリーですわ。そちらもわたくしにお任せください。」
「わ、わかった。そのせいと・・・ゆうじんのけっこんしきなのだ。にっていがまだその・・・わからないので、ゆっくりつくっていられないのだ。」
「お任せください。ちょうど、その生地で仕立てたドレスがございます。」
店員は魔法のように、何百着あるかわからない棚から一着のドレスを取り出した。
「まずは試着いたしましょう。サイズはぴったりですから、少し調整をすれば明日にでも着ることができます。」
はあ。
と、ルールスは下を向いた。
「別の店員を頼めるかな?」
「・・・え?」
店員の笑顔が引き攣った。
「わたし何か失礼か」
一瞬だけ、ルールスの目が輝いた。
「『アンデッド』だな。おぬしは。」
アンデッドが相手の方が流暢に話ができるというのは、どういうわけだ。
とアキルとオルガは同時に思った。
顔から、首、襟、胸下までびっしょり濡らした氷は、ブラウスを透かしている。子どもっぽい見かけとは異なり、下着に包まれた双丘は、豊かに盛り上がっていた。
仲睦まじく、ケーキをたいらげ、同じグラスからジュースを飲んでいたカップルが突然、ケンカを始めたので、店内は騒然となった。
すぐに、乾いた布を持った店員が駆けつける。
「まあ。」
お客の一人が、それよりも早くハンカチを持ってとんできた。
「まあ、まあ、ダメよ。こんなところで喧嘩しては。」
「喧嘩ではない、です。」
フィオリナはちょっと怖い目をしたが、相手が純粋に善意からそうしたとわかって、丁寧に頭を下げた。
「そうなんです。わたしがちょっとのぼせてしまったので・・・・いつもこうしてもらっているんです。」
しおらしく、しょげた顔でリウに、そう言われると、完全にフィオリナのほうが悪者だった。
「まあ。」
と、身なりの良い親切なお客さんは、ちょっとフィオリナを睨んだ。
「あなたって、いっつもこんなことをしているのっ!?
虐待だわ、これはお父様に話をして
・・・」
「スザク商会のサクラさま。」
お客同士が揉めないように、店長はすばやく、乾いたタオルを差し出しながら、割って入った。
「こちらは、かのクローディア大公陛下のお身内のかたです。込み入った事情もおありかも知れません。
ここは穏便に、お願いいたします。」
他国の元首の名前は、商会筆頭の娘にもきいたようだった。
いくらか口調をあらためて、
「でも・・・あなたがたほ、本当に仲がよさそうだったから、あまり無茶なことをしてはダメよ。」
はあい。
と、フィオリナとリウは声を揃えた。
お代金は先日、十分にいただいております、と店長が固辞するのを、迷惑料だといって、銀貨を押し付けて、フィオリナとリウは店を出た。
「さあて」
フィオリナにぴったりとついたリウは、彼女にだけわかる角度で、世にも邪悪な笑みを浮かべた。
「どこかで服を乾かさないとね!」
フィオリナは、さすがに暴力に訴える愚はおかさなかったが、怖い目でリウを睨んだ。
「おまえがくだらない話をはじめたせいで肝心の要件が話せなかった。」
「ミュラのことか?
そのくらい一興じゃないか。」
「違うぞ。」
フィオリナは、真剣な面持ちでリウを睨んだ。
「ウィルニアを招待し忘れたことだ。」
「とにかく、オーダーをしてる時間がないのは、致命的だ。」
ミトラでも高級なブティックが立ち並ぶとされる「一番街」の目抜き通りを、ルールス、ネイア、アキル、オルガが行く。
オルガは国元を追われての旅暮らし、アキルも異世界から召喚されて、身につけるものをわざわざ求める時間はなかった。ネイアは、一応礼服で男装していて、それはそれで似合うのだが、結婚式にでるためのドレスなどはもっていない。そもそも結婚式に、でたことはない。
唯一、まともな出自のルールスでさえ、両眼に「真実の目」と呼ばれる魔道具を埋め込まれ、社交界とは無縁に生きてきた。
ゆえに。
年頃の美しい娘(外見上は)が、揃っているにも関わらず、全員がドレスをまともにもっていないどころか、知識は危うい。
これだけでも十分、危ないのであるが加えてミトラの治安の悪さもあるさ
今、これみよがしに担いだオルガの大鎌のおかげか、いまのところ、声をかけてくる者は皆無だった。
「ここが、ミトラでは最高のブティックとされている、らしい。」
ショーウィンドウが軒を連ねるなか、三階建ての一際目を引く1軒でルールスは立ち止まった。
「らしい、とは?」
オルガがつまらなそうに尋ねた。
「ガイドブックに書いてあった。」
グランダや銀灰みたいな田舎の出身ではない。いくらなんでもランゴバルトの王族が、とオルガが言いかけるのを、まあまあといなして、ルールスはドアを開けた。
幸いにも店は空いていた。
「いらっしゃいませ。」
店員はひとりだけだった。
店は白を基調に統一され、電気で照明がつくシャンデリアは煌々と、店内を照らしている。
入ってすぐは、色とりどりのドレスとその付属品。奥には様々な生地が並べられていた。
「当店は初めてでいらっしゃいますか?」
「は」
ルースルが固まった。
この実年齢は結構お年寄りの先生は、実は学園の外に出たことは、あまりなく、知らない人に話しかけることは、人生も数えるほどしかない。
「はじめてです。素敵なお店ですね。」
アキルが意外にも如才なく、後を引き取った。
もと女子高生に、負けるコミュ力のなさってどういうことよ、ルールス先生。
「ドレスをお探しですか?」
スラリと背の高い店員は、なかなかの美人だった。
まるで、どこぞの聖女のように柔和な笑みをたたえながら、一行を中に誘った。
「お客さまのイメージにぴったりの生地が入っております。萌えるような若草色の南国糸を職人が二年がかりで織り上げた生地です。お肌がお綺麗ですから、できるだけ露出は多めにしたほうがよろしいですわ。最新のデザインでお作り致しましょう。」
「まず、どこに来て行く衣装か聞かないのかの?」
オルガが皮肉な笑みを浮かべて言った。
「多少の意匠や丈の調整で、いくらでも使い回しはしていただけます。」
店員は言った。
「儀礼の席で難しいのは、むしろアクセサリーですわ。そちらもわたくしにお任せください。」
「わ、わかった。そのせいと・・・ゆうじんのけっこんしきなのだ。にっていがまだその・・・わからないので、ゆっくりつくっていられないのだ。」
「お任せください。ちょうど、その生地で仕立てたドレスがございます。」
店員は魔法のように、何百着あるかわからない棚から一着のドレスを取り出した。
「まずは試着いたしましょう。サイズはぴったりですから、少し調整をすれば明日にでも着ることができます。」
はあ。
と、ルールスは下を向いた。
「別の店員を頼めるかな?」
「・・・え?」
店員の笑顔が引き攣った。
「わたし何か失礼か」
一瞬だけ、ルールスの目が輝いた。
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