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第7部 駆け出し冒険者と姫君
第341話 魔王と神竜
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バカともののけは高いところに登りたがる。
ミトラの尖塔は、その昔は街自体を覆う障壁を展開していたそうだ。
実際に、同様な尖塔は、旧ミトラ市街の四方に存在する。
だが、怪しいものだな。とアモンは思った。
塔のなかは、空洞だ。
なにかの装置があった形跡もない。屋上に向かう螺旋階段は、だいぶ傷んでいてところどころ、崩れていた。
アモンにはそんなものは関係ない。
黒い翼をひろげたのは、気分の問題である。
ふわりとうかんだ体をいっきに天辺に運ぶ。
先客がいた。
伸びやかな肢体を、黒いドレスで包んだ美女は、物悲しい歌を口ずさんでいた。
歌声は、夜空に溶ける。溶けた歌声は、空に登って星になる。星は地上に降り注いで、街に明かりを灯す。
「アモン。」
ふわりと塔の先端におりたったアモンに、気づいた美女は、歌をやめて、微笑んだ。
「千と二百年前の歌だ。」
アモンは、言った。
「そうだな。魔族の侵攻で滅んだ街の歌だ。」
美女は、リウだった。
艶やかな笑みを浮かべる美女を、アモンは見下ろした。
「申し開きはあるか?」
指を組み合わせたリウに向けた手のひら。その中に、強大なエネルギーが凝縮されていく。
「我らは『踊る道化師』。」
リウは、笑みを崩さない。
「誰かが暴走しても誰かが止める。過ぎた力を持ちすぎた我々が、人の世に交じるための安全弁。だが、欠点もある。」
「そうだな。仲間のだれかを殺したいと思っても殺すことができない。」
「おや、アモン。」リウは、くすくすと笑った。「わたしを殺したいものがいるとしたら、誰だろう。でもぜったいにフィオリナが立ちはだかってくれるよね。」
「おまえを殺そうと思ったのは、はじめてだ。」
アモンは、凝縮した力を握りつぶした。バシッと音がして、その手から血が吹き出す。
「だが、もっと殺したい者のために預けておくぞ、その生命。」
「あははははっ!」
白い喉をみせてリウは笑った。
「そうか、アモンも見たいよねえ! リト対フィオリナの本気の戦いを!!」
「人間の性愛はわからん。」
むっとしたように、アモンは口をへの字にまげて、ふわりと夜空に飛び上がった。
「だが、いまのわたしにはそれが恐ろしく醜いものに感じられているぞ。」
一人残されたリウは、しばらく夜風を楽しむように、街を眺めていた。ランゴバルドにくらべ、電化のすすんでいないミトラは、薄暗く、あまり活気がないようにすら見える。
「・・・フィオリナ・・・」
リウは、目をとじた。
「・・・いない。か。別に位相に隠したか。それができるのはウィルニア。」
ほう。と美しい唇が、息を紡いだ。
「ルトに会ってみるか。」
ミトラの尖塔は、その昔は街自体を覆う障壁を展開していたそうだ。
実際に、同様な尖塔は、旧ミトラ市街の四方に存在する。
だが、怪しいものだな。とアモンは思った。
塔のなかは、空洞だ。
なにかの装置があった形跡もない。屋上に向かう螺旋階段は、だいぶ傷んでいてところどころ、崩れていた。
アモンにはそんなものは関係ない。
黒い翼をひろげたのは、気分の問題である。
ふわりとうかんだ体をいっきに天辺に運ぶ。
先客がいた。
伸びやかな肢体を、黒いドレスで包んだ美女は、物悲しい歌を口ずさんでいた。
歌声は、夜空に溶ける。溶けた歌声は、空に登って星になる。星は地上に降り注いで、街に明かりを灯す。
「アモン。」
ふわりと塔の先端におりたったアモンに、気づいた美女は、歌をやめて、微笑んだ。
「千と二百年前の歌だ。」
アモンは、言った。
「そうだな。魔族の侵攻で滅んだ街の歌だ。」
美女は、リウだった。
艶やかな笑みを浮かべる美女を、アモンは見下ろした。
「申し開きはあるか?」
指を組み合わせたリウに向けた手のひら。その中に、強大なエネルギーが凝縮されていく。
「我らは『踊る道化師』。」
リウは、笑みを崩さない。
「誰かが暴走しても誰かが止める。過ぎた力を持ちすぎた我々が、人の世に交じるための安全弁。だが、欠点もある。」
「そうだな。仲間のだれかを殺したいと思っても殺すことができない。」
「おや、アモン。」リウは、くすくすと笑った。「わたしを殺したいものがいるとしたら、誰だろう。でもぜったいにフィオリナが立ちはだかってくれるよね。」
「おまえを殺そうと思ったのは、はじめてだ。」
アモンは、凝縮した力を握りつぶした。バシッと音がして、その手から血が吹き出す。
「だが、もっと殺したい者のために預けておくぞ、その生命。」
「あははははっ!」
白い喉をみせてリウは笑った。
「そうか、アモンも見たいよねえ! リト対フィオリナの本気の戦いを!!」
「人間の性愛はわからん。」
むっとしたように、アモンは口をへの字にまげて、ふわりと夜空に飛び上がった。
「だが、いまのわたしにはそれが恐ろしく醜いものに感じられているぞ。」
一人残されたリウは、しばらく夜風を楽しむように、街を眺めていた。ランゴバルドにくらべ、電化のすすんでいないミトラは、薄暗く、あまり活気がないようにすら見える。
「・・・フィオリナ・・・」
リウは、目をとじた。
「・・・いない。か。別に位相に隠したか。それができるのはウィルニア。」
ほう。と美しい唇が、息を紡いだ。
「ルトに会ってみるか。」
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