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第7部 駆け出し冒険者と姫君
第354話 断罪
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蛇は、首に巻きつきながら、なんどもリウの顔に牙を立てた。
があああっ
リウが吠えた。噛みつこうとした蛇の鎌首を白い歯がとらえ。
ぶちん、とかみきった。
「貴様一体何の手品を」
毒に侵されながらも気丈にリウは、立ち上がりながらそういった。強力だった蛇の毒は彼の魔法によってに解除されている。
であったが、その可愛らしい口元から、ごぼっと鮮血が吹き出された。鎧の胸元を血が濡らす。
対する少年の顔は。いやそんなはずはない。リウの剣は、間違いなく少年の指を切断し鼻をそぎ落とし耳を切りおとした。確かにそのはずだ。
だが涼しい顔をして彼とフィオリナを見つめる少年の顔は傷ひとつない。
「なにがおこった。」
「魔剣が、ぼくをその主として認めた。魔剣はそのあるじを決して傷つけることはない。」
「ふざけるな。これは俺の剣だ。この魔王の」
「一人称の使い方もめちゃくちゃだ。」
ルトは、魔王に手を差し伸べた。その相手にフィオリナが割ってはいった。
「ルト? あなた一体リウに何をしたの。」
「リウの今使っていた剣は上古の昔、もともとは呪言の蛇ニーサガーダという。」
ルトは手を差し出した。頭部をリウに食いちぎられた蛇は、しゅるりとたわんで、その手におさまった。食いちぎられた頭部も再生していた。
いや、おかしい。だってその手は、リウがたったいま切り落としたはずの。
「ぼくが契約を上書きした。これは、ぼくの剣だ。」
蛇が笑った。
そんなことは、普通の蛇にはできるはずもないが、確かに笑った、のだ。
くるりと、蛇はルトの手に巻きつき、黒い刀身をもつ、大ぶりのナイフに姿を変えた。
「オレに1000年、ともにあった魔剣だ。なぜおまえに。」
「ぼくに血を流させたから。」
物分かりのわるい生徒に解いて聞かせる教師の口調だった。
「流した血を媒介に、契約した。これ以上わかりやすい契約はない。」
「リウ、気をつけて!
そいつは、他者の魔法に介入するのが得意なの!」
フィオリナは、剣を抜いた。風の魔力を帯びた今はまだ、名づけも済んでいない魔剣。
「ぼくと戦うのか、フィオリナ。」
「あなたが、リウを傷つけるなら。」
「ぼくは、まったくリウに攻撃すらしてないんだけど。」
少年は首を傾げた。立ち上がることすら、億劫そうに痩せ衰えた身体。事実、かれを見知るものは、そのやつれように、一瞬息を飲んだ。
目の前の二人だけが、その例外だった。
「こんなことがあるのか?」
いくぶん、苛立ったように、少年は言った。
「フィオリナが、覚えたばかりの悦びに惑溺して、まともな判断を失うのは、仕方ないにせよ。リウまでが。」
「色ボケ、と言ったのは、正確かもしれないな。」
小さな食卓のある小部屋の空気が、急に薄くなったような気がした。
現れた巨躯は、それだけの質量と迫力に満ちていた。
「アウデリア‥」
フィオリナがうめいた。
ガシャ。と音をたてて、リウの狼の意匠の鎧兜が飛び散った。
中のリウはほとんど、衣服を身につけていない。未成熟ながらも程よく、出るところは出て、くびれるところは括れたその裸身を、闇森の魔女は、じっくりと鑑賞して、ため息をついた。
リウは、懸命に体を隠しながら、フィオリナの背後に隠れようとする。
「陛下。」
ザザリは呆れたように、その様子を眺めた。
「なんです? そのざまは。ほこり高き武人であったはずのあなたが、愛人の背中に隠れようとするなど。」
「フィオリナは、男性になったのは初めてなので」
とルトが言った。
「まあ、新しい感覚に溺れてしまうのは、仕方ないかもしれない。そこの淫魔がいうように、男性としての行為の方が性に合ってるというのも、その通りなのかもしれない。
それにしても、そっちの淫魔の方はどうだ?
やってる行動は無茶苦茶、手持ちの剣の制御を奪われてることに気が付きもせず、鎧を剥がされただけで、コソコソと逃げ隠れする。
ザザリ、実際のところ、リウが女性として活動した時期はあるんですか?」
「わたしの知る限りでは、当時の中原の小国の将軍にベタ惚れした挙句に、女になって、二人で逃避行を決めこんで。」
ザザリは、頭痛を堪えるように、顔をしかめていた。
「確かにろくなもんじゃないわ。一国の王様が戦争中に雲隠れしてしまうのだから。
過剰魔素による凶暴化は、すぐには解けないし。制御するものだけがいなくなってしまったのだから、その将軍のいた国は、草の根ものこらぬ荒野にされたわ。
おそらく、リウが余計なことをしでかさなければ、いったん魔族軍勝利という形で休戦して何十年かの平和は享受できたはずなのに。」
「だいたい、わかった。」
ルトは、ため息をついて、椅子に深く座り込んだ。体がどうしようもなくだるかった。
「おまえらは、その性別が向いてないんだ。」
美しき魔人たちは、なんのことかわからない、と言ったように互いを見つめた。
「ルト。わたしはあなたが嫌いになったわけじゃなくって。でもリウのことも大事なの。
わかってよ。」
「オレ、わたし、があなたをみくびったことは認める。だからフィオリナの呪いを解いてやってくれ。このままではあまりにも。」
「あまりにも?」
略奪愛の張本人が被害者にいうには、あんまりなセリフだった。
気概も能力も判断力も失っていた。
ただ、互いに対する愛だけが残っている。
まるで・・・
「フィオリナとリウの残骸だ。」
ボソっとルトはつぶやいた。
性別こそ違えど、彼らはあまりにも美しい。儚げな未成熟さを持つものの、異性を魅了するリウの肢体。少年の面影を残しながらも、精悍に鍛え上げられたフィオリナの肉体。
だが、その中身は別物だ。
なぜ。
「な、ならば。」
リウが、シナを作って、ルトに笑いかけた。こわばった笑顔はあまり魅力的ではなかった。
「おまえもフィオリナと共にわたしを抱けば良い。もともとわたしたちはそのつもりだったではないか。
ふざけた『運命の空白』とやらを回避し、ともに生きよう、ルトよ。」
「そ、そうよ!
ルトがリウをわたしと同じくらいそのイタせば、チャラってことで。」
「なるほど、」
話をしてもダメな人を相手にする目付きで、ルトは二人を睨んだ。
「何回くらいすると、その『チャラ』とやらになるのかな。」
「ご、ごじゅうななかい・・・」
数えてたんかいっ!
というつっこみは、フィオリナ以外の全員から入った。
「まあ、その、回数はともかくとして。」
まだ言うか、この淫魔が。
リウは、ほとんど胸とおしりの一部だけを覆った布をずらしながら、微笑みかけた。
「どうかな?
さすがに親の前ではなんなので、どこか別室で。」
この日のリウの攻撃で一番効いたのはこれだった。
ルトは床に崩れ落ちて、さっきなんとか胃に収めたばかりのミルクティーを、盛大に吐き戻していた。
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