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第8部 残念姫の顛末
第373話 剣のユニーク
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ロデニウム公爵家の精鋭、マロクとシチカは無論、あらゆる面で無能とは対極の存在だった。
緋色の蜘蛛たちの出現位置、力の流れ、波打つ地面のエフェクトなどから、おそらく陣配置されているだろう場所に、たどり着いたのは、オルガたちと別れて、5分も経っていない。
「この家屋の地下だな。使っていないときはまだしも実際に稼働している魔方陣の場所を隠すことなど、そうそう長い時間はできない。」
それぞれ、剣と体術、得意とする分野は違っていても、それ以外ができないわけではない。専門分野のみに特化したそんな戦士は、中世を舞台の冒険者もののにしか出てこない。
そこでは、剣士は剣を振り回す。魔法使いはローブを着て魔法の杖をかざして、呪文を唱える。中にはひたすら、盾を構えて攻撃を引き寄せるだけのものもいる。
(実際にそんな者たちがいたのかは疑問視されている。歌や芝居、小説になってそれらのエビソードが流布していくなかで、キャラ付けとして各人の役割を誇張して割り振ったものだからだ。)
マロクたちは、それが当選全部できた。近代における冒険者はみな、そうだ。
家屋は無人のようである。
扉は鍵は、かかっていない。
中は、間仕切りのない広い部屋になっていた。
地下に降りる階段が一つだけあって、その前にテーブルと椅子が一つ置かれていた。
そこに、一人の少年が座っている。
整った顔立ちの少年は、アキルやドロシーと同世代に見えた。
マロクとシチカに気がつくと、彼は読んでいた本を置いて立ち上がった。
細身で、しなやかな筋肉がついている。
特徴的なのは、その腰回りだ。剣が6
本下がっている。単純にそんなことをしても扱えるのは、せいぜい2本ずつだ。
「ようこそ。」
と、少年は挨拶をした。
「わたし、僕、我は、」
少年は首を傾げた。
「性別や年代によって、あるいは話す相手によって一人称がかわるのは、本当に困るな。とにかく、あなたたちが対峙しているこの個体は、名称をヤイバという。
グランダの冒険者パーティ『緋色の研究』に所属する冒険者だ。」
「俺たちは、ミトラの冒険者だ。」
隠退した先代公爵の酔狂に付き合わされて旅暮らしのロデリウム家精鋭隊ナンバーズだ、まではマロクも名乗る気はなかった。
「冒険者なのかっ!」
少年、ヤイバは嬉しそうだった。
「西域の冒険者は何人か知り合いになったが、レベルはグランダに比べて平均して高かったと思う。
お目にかかれて光栄だ。」
「ここで、何をしている。」
そろり。
と、間合いをつめながらシチカは尋ねた。
「ぼくら『緋色の研究』は、魔王宮の第二層を探索中だったんだ。」
一人称を「ぼく」に決めたらしく、そこからはすらすらとヤイバは、話した。
「二層に、冒険者のための避難所を設置することが決まって、その許可をもらうために、階層主のラウルを探してたんだけど、彼女はひとりで引きこもってなにかしてるのが好きなタイプなんだ。ただ、第二層そのものが彼女の支配下なので、ひきこもる場所もひとつじゃない。配下の吸血鬼も誰も居場所をご存知ないときた。なので、ぼくらは、ラウルの居そうな場所を探して、魔王宮をさ迷っていたんだけど」
何だか、マロクとシチカの知る「迷宮探索」とはずいぶん違うような気がする。
「ぼくだけが、主上に呼ばれてね。
ゴウグレの蜘蛛がこの近くにある建物を食べ尽くすまで、この下の転移陣を破壊されないようにってさ。」
当たり、だ。
二人のナンバーズは呻いた。間違いない。
ここが転移陣で、この少年がその守護者に間違いない。
ここを、守るために、おそらくはこの少年も、また転移で送り込まれたのだ。
ならば。転移陣の設置を行い、緋蜘蛛とヤイバを送り込んだ主上とはいったいなにものなのか。
運ばれてきたアイスクリームの盛られた大皿は、四つわかれている。それぞれが春夏秋冬を、イメージしているらしく、例えば夏は、ミントのアイスクリームを中心に夏の果物を練りこんだアイスクリームがトッピングされている。
ミントの味をギムリウスは「とぐぶつ」、として認識したがこの位はなんてことは無い。
だが、冷たくて刺激のある塊は攻撃を受けているような気分になって、ギムリウスは口直しに、串焼きの串をぽりぼりとおほばった。
「オカワリ!」
ギムリウスは細い手を挙げた。
「こっちは大聖堂を壊されては困る立場なんだ。」
マロクは、すっと腰を落とした。手甲をはめた両手を前に突き出す。
「ここで殺し合いはしたくないな。」
「ならばここを通してもらおうか。」
「そうしたら、あなたたちは転移陣を壊してしまうだろう?」
ヤイバは、剣の1本をすうっと抜いた。
まるで、それは自然そのものの動作で、熟練のシチカも仕掛けどころを失ったほどだった。
「相当に、できる。」
シチカは、言った。
「確かにな。まるで、剣が体の一部のように、見えるぞ。」
ヤイバは困ったように笑った。
「いや、それは確かにそうなんだけれども。」
目の前の二人は、彼の仲間たち、緋のドルバーザともミア=イアとも違った剣技を見せてくれそうだった。
「ではまあ死なない程度にやりあおう。知ってるか?
殺さなくてもいいのに、殺してしまうことはそれ自体が害悪になるらしいぞ。」
緋色の蜘蛛たちの出現位置、力の流れ、波打つ地面のエフェクトなどから、おそらく陣配置されているだろう場所に、たどり着いたのは、オルガたちと別れて、5分も経っていない。
「この家屋の地下だな。使っていないときはまだしも実際に稼働している魔方陣の場所を隠すことなど、そうそう長い時間はできない。」
それぞれ、剣と体術、得意とする分野は違っていても、それ以外ができないわけではない。専門分野のみに特化したそんな戦士は、中世を舞台の冒険者もののにしか出てこない。
そこでは、剣士は剣を振り回す。魔法使いはローブを着て魔法の杖をかざして、呪文を唱える。中にはひたすら、盾を構えて攻撃を引き寄せるだけのものもいる。
(実際にそんな者たちがいたのかは疑問視されている。歌や芝居、小説になってそれらのエビソードが流布していくなかで、キャラ付けとして各人の役割を誇張して割り振ったものだからだ。)
マロクたちは、それが当選全部できた。近代における冒険者はみな、そうだ。
家屋は無人のようである。
扉は鍵は、かかっていない。
中は、間仕切りのない広い部屋になっていた。
地下に降りる階段が一つだけあって、その前にテーブルと椅子が一つ置かれていた。
そこに、一人の少年が座っている。
整った顔立ちの少年は、アキルやドロシーと同世代に見えた。
マロクとシチカに気がつくと、彼は読んでいた本を置いて立ち上がった。
細身で、しなやかな筋肉がついている。
特徴的なのは、その腰回りだ。剣が6
本下がっている。単純にそんなことをしても扱えるのは、せいぜい2本ずつだ。
「ようこそ。」
と、少年は挨拶をした。
「わたし、僕、我は、」
少年は首を傾げた。
「性別や年代によって、あるいは話す相手によって一人称がかわるのは、本当に困るな。とにかく、あなたたちが対峙しているこの個体は、名称をヤイバという。
グランダの冒険者パーティ『緋色の研究』に所属する冒険者だ。」
「俺たちは、ミトラの冒険者だ。」
隠退した先代公爵の酔狂に付き合わされて旅暮らしのロデリウム家精鋭隊ナンバーズだ、まではマロクも名乗る気はなかった。
「冒険者なのかっ!」
少年、ヤイバは嬉しそうだった。
「西域の冒険者は何人か知り合いになったが、レベルはグランダに比べて平均して高かったと思う。
お目にかかれて光栄だ。」
「ここで、何をしている。」
そろり。
と、間合いをつめながらシチカは尋ねた。
「ぼくら『緋色の研究』は、魔王宮の第二層を探索中だったんだ。」
一人称を「ぼく」に決めたらしく、そこからはすらすらとヤイバは、話した。
「二層に、冒険者のための避難所を設置することが決まって、その許可をもらうために、階層主のラウルを探してたんだけど、彼女はひとりで引きこもってなにかしてるのが好きなタイプなんだ。ただ、第二層そのものが彼女の支配下なので、ひきこもる場所もひとつじゃない。配下の吸血鬼も誰も居場所をご存知ないときた。なので、ぼくらは、ラウルの居そうな場所を探して、魔王宮をさ迷っていたんだけど」
何だか、マロクとシチカの知る「迷宮探索」とはずいぶん違うような気がする。
「ぼくだけが、主上に呼ばれてね。
ゴウグレの蜘蛛がこの近くにある建物を食べ尽くすまで、この下の転移陣を破壊されないようにってさ。」
当たり、だ。
二人のナンバーズは呻いた。間違いない。
ここが転移陣で、この少年がその守護者に間違いない。
ここを、守るために、おそらくはこの少年も、また転移で送り込まれたのだ。
ならば。転移陣の設置を行い、緋蜘蛛とヤイバを送り込んだ主上とはいったいなにものなのか。
運ばれてきたアイスクリームの盛られた大皿は、四つわかれている。それぞれが春夏秋冬を、イメージしているらしく、例えば夏は、ミントのアイスクリームを中心に夏の果物を練りこんだアイスクリームがトッピングされている。
ミントの味をギムリウスは「とぐぶつ」、として認識したがこの位はなんてことは無い。
だが、冷たくて刺激のある塊は攻撃を受けているような気分になって、ギムリウスは口直しに、串焼きの串をぽりぼりとおほばった。
「オカワリ!」
ギムリウスは細い手を挙げた。
「こっちは大聖堂を壊されては困る立場なんだ。」
マロクは、すっと腰を落とした。手甲をはめた両手を前に突き出す。
「ここで殺し合いはしたくないな。」
「ならばここを通してもらおうか。」
「そうしたら、あなたたちは転移陣を壊してしまうだろう?」
ヤイバは、剣の1本をすうっと抜いた。
まるで、それは自然そのものの動作で、熟練のシチカも仕掛けどころを失ったほどだった。
「相当に、できる。」
シチカは、言った。
「確かにな。まるで、剣が体の一部のように、見えるぞ。」
ヤイバは困ったように笑った。
「いや、それは確かにそうなんだけれども。」
目の前の二人は、彼の仲間たち、緋のドルバーザともミア=イアとも違った剣技を見せてくれそうだった。
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