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第8部 残念姫の顛末
第377話 神竜の異界
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アモンの転移は、フィオリナにも全く理解ができなかった。
起きたことは「転移」である。だが、そこに至る呪文の構築からして、今日、人間が知っているものとは、全く違っているとしか思えなかった。
おそらく、初見でこれを分析できるとしたら、ルトくらいのものだろう。
だが、ルトは、偉くぼんやりしていた。
元気もなさそうだし、一体何をやってるんだか。
たまりかねて、フィオリナは、ルトに話しかけた。
「この転移ってどうなの? わたしたちが知ってる転移魔法とは根本から違う。ギムリウスのものとも違う。まさか、これって伝説の竜魔法なのかな?」
「そうだな。思念だけの構築で、詠唱は、破棄されてるけど、人間には表現のできない『音』や、見ることができない『色』が使われてるみたいだ。
これは再現するには苦労しそうだぞ。」
「ああ・・・」
「なにが、ああ?」
「だって、さっきからぼんやりしてて、元気がなさそうだし、いつもだったら、新しい術式でも目にしたら飛びついてくるのに。どうしちゃったのよ。」
ルトは、焦点の合わない目でフィオリナを見た。
「これは・・・人格が分裂でも起こしかけてる?」
「ほっておけばもっと酷いことになる。」
アモンが小さな小さな声でいった。
「なんとかできるのは、多分、おまえだけだ。」
「勘弁して欲しいな。」
「まあ、その通りだと思う。」
そこで声を張り上げて、言った。
「さて、我が異界。神竜リアモンドの異界へようこそ!
すでに魔王と賢者は招待済みだ。」
フィオリナの目が光った。
もし、その異界が、アモンが言った通り、物理的な攻撃力を無効にする世界ならば、これが最大のそして最後のチャンスになるはずだった。
彼女とルトを、中に入れるため、異界の入り口が開くその瞬間が。
「リウ! ウィルニア! わたしに魔力を貸して。ルトを倒すわ、今!ここで!」
「酷いな。」
ルトがぼやいた。
中からはなんの反応もなかった。
「最大で、最後のチャンスは失われたってことかな。」
アモンが、フィオリナを睨んだ。目の色が金褐色に輝いていた。
「傷つけ合うのなら、中に入ってからにしてもらおうか。物理的な攻撃が通じないからといって、傷つけても死なないからといって、それが楽だとは思わないことだ。」
その異界への「門」は、とんでもない大きさだった。
おそらく、身の丈が数十メトルの竜でも楽々、出入りができるだろう。
もし、アモンが、その本来の姿に合わせて構築したのであれば、十分ありうる話だった。
「面白いと思わない?」
フィオリナがいった。
「自分の好きなように作った別世界であっても、結局は作ったもののイメージに固定される。
人間の魔道士の作る結界が、薄暗いのは、照明が十分にない奥まった部屋をイメージしてるからだし、空間創造っていうものは、魔力量以上に作る人間のイマジネーションが重要になってくるってことかしらね。」
ことかしらね?
じゃないだろう?
と、ルトは、フィオリナを見つめた。男性になっても麗麗たるその美貌は少しも衰えず、帰って、清冽さを増しているようだった。
なかは、広大な石造りの空間だった。天井が霞むほどに、巨大な柱が何本も伸びていた。
広さは、グランダ最大の練兵場くらいはあるだろうか。
だいぶ、先に人影を見つけたフィオリナの頬が紅潮した。
「リウ!」
フィオリナは全力で駆け出した。息を弾ませ、目を輝かせて、愛しい淫魔のもとへ。
「いやあぁあああああっ!」
悲鳴に似た声が上がり、凄まじい爆発が起こる。
巻き上げられて、また地面に叩きつけられたフィオリナは、呆然として顔を上げた。
物理的な攻撃は通じないといっても、きっちり吹っ飛ばされたり、服が燃えたりはするのか。
ルトは、呆れ返ってそれを見ている。
「リウ。わたしだ。フィオリナだよ! わからないのか?
ルトをここに誘き寄せたんだ。二人でこいつをやっつけて、呪いを解かせよう!そうすれば・・・」
「お、おとこ、いやあぁあああああっ」
再び閃光と爆発。
「あれは、魔王光砲といって、」
いつの間にかルトの傍らにたってた美女が、説明してくれた。
知的な顔立ちは中世的で、白いトーガを身に纏っている。それは、一千年ばかり前には、学生や教師の間で標準的な衣服として流行っていたものだが、現在ではすっかり廃れている。
「もともと、戦場で、万からの敵を一掃するのに奴が愛用していた魔術だ。個人に使われるのは初めて見たな。」
衣服をほとんど飛ばされて、腰布とブーツだけになったフィオリナがそれでも、這い上がる。
「リウ! わたしがわからないのか?」
「わかるけど、くるなあああああっ!」
湧きあがった爆炎と、吹っ飛ぶフィオリナ。確かに負傷はしていないが、髪の毛は焦げている。
髪が焦げるのは「物理的なダメージ」ではないのだろうか?
「いったい何がどうなっている?」
ルトは、隣の美女に尋ねた。
「いや、それより、まず、なぜおまえが女性になっているか、聞こうか、ウィルニア。」
「リウは、この数日ですっかり男性恐怖症になってしまった。」
氷の目でルトは、女性化したウィルニアを睨んだ。
「おまえのせいで、リウが男性恐怖症になってしまったということだね? ウィルニア。」
起きたことは「転移」である。だが、そこに至る呪文の構築からして、今日、人間が知っているものとは、全く違っているとしか思えなかった。
おそらく、初見でこれを分析できるとしたら、ルトくらいのものだろう。
だが、ルトは、偉くぼんやりしていた。
元気もなさそうだし、一体何をやってるんだか。
たまりかねて、フィオリナは、ルトに話しかけた。
「この転移ってどうなの? わたしたちが知ってる転移魔法とは根本から違う。ギムリウスのものとも違う。まさか、これって伝説の竜魔法なのかな?」
「そうだな。思念だけの構築で、詠唱は、破棄されてるけど、人間には表現のできない『音』や、見ることができない『色』が使われてるみたいだ。
これは再現するには苦労しそうだぞ。」
「ああ・・・」
「なにが、ああ?」
「だって、さっきからぼんやりしてて、元気がなさそうだし、いつもだったら、新しい術式でも目にしたら飛びついてくるのに。どうしちゃったのよ。」
ルトは、焦点の合わない目でフィオリナを見た。
「これは・・・人格が分裂でも起こしかけてる?」
「ほっておけばもっと酷いことになる。」
アモンが小さな小さな声でいった。
「なんとかできるのは、多分、おまえだけだ。」
「勘弁して欲しいな。」
「まあ、その通りだと思う。」
そこで声を張り上げて、言った。
「さて、我が異界。神竜リアモンドの異界へようこそ!
すでに魔王と賢者は招待済みだ。」
フィオリナの目が光った。
もし、その異界が、アモンが言った通り、物理的な攻撃力を無効にする世界ならば、これが最大のそして最後のチャンスになるはずだった。
彼女とルトを、中に入れるため、異界の入り口が開くその瞬間が。
「リウ! ウィルニア! わたしに魔力を貸して。ルトを倒すわ、今!ここで!」
「酷いな。」
ルトがぼやいた。
中からはなんの反応もなかった。
「最大で、最後のチャンスは失われたってことかな。」
アモンが、フィオリナを睨んだ。目の色が金褐色に輝いていた。
「傷つけ合うのなら、中に入ってからにしてもらおうか。物理的な攻撃が通じないからといって、傷つけても死なないからといって、それが楽だとは思わないことだ。」
その異界への「門」は、とんでもない大きさだった。
おそらく、身の丈が数十メトルの竜でも楽々、出入りができるだろう。
もし、アモンが、その本来の姿に合わせて構築したのであれば、十分ありうる話だった。
「面白いと思わない?」
フィオリナがいった。
「自分の好きなように作った別世界であっても、結局は作ったもののイメージに固定される。
人間の魔道士の作る結界が、薄暗いのは、照明が十分にない奥まった部屋をイメージしてるからだし、空間創造っていうものは、魔力量以上に作る人間のイマジネーションが重要になってくるってことかしらね。」
ことかしらね?
じゃないだろう?
と、ルトは、フィオリナを見つめた。男性になっても麗麗たるその美貌は少しも衰えず、帰って、清冽さを増しているようだった。
なかは、広大な石造りの空間だった。天井が霞むほどに、巨大な柱が何本も伸びていた。
広さは、グランダ最大の練兵場くらいはあるだろうか。
だいぶ、先に人影を見つけたフィオリナの頬が紅潮した。
「リウ!」
フィオリナは全力で駆け出した。息を弾ませ、目を輝かせて、愛しい淫魔のもとへ。
「いやあぁあああああっ!」
悲鳴に似た声が上がり、凄まじい爆発が起こる。
巻き上げられて、また地面に叩きつけられたフィオリナは、呆然として顔を上げた。
物理的な攻撃は通じないといっても、きっちり吹っ飛ばされたり、服が燃えたりはするのか。
ルトは、呆れ返ってそれを見ている。
「リウ。わたしだ。フィオリナだよ! わからないのか?
ルトをここに誘き寄せたんだ。二人でこいつをやっつけて、呪いを解かせよう!そうすれば・・・」
「お、おとこ、いやあぁあああああっ」
再び閃光と爆発。
「あれは、魔王光砲といって、」
いつの間にかルトの傍らにたってた美女が、説明してくれた。
知的な顔立ちは中世的で、白いトーガを身に纏っている。それは、一千年ばかり前には、学生や教師の間で標準的な衣服として流行っていたものだが、現在ではすっかり廃れている。
「もともと、戦場で、万からの敵を一掃するのに奴が愛用していた魔術だ。個人に使われるのは初めて見たな。」
衣服をほとんど飛ばされて、腰布とブーツだけになったフィオリナがそれでも、這い上がる。
「リウ! わたしがわからないのか?」
「わかるけど、くるなあああああっ!」
湧きあがった爆炎と、吹っ飛ぶフィオリナ。確かに負傷はしていないが、髪の毛は焦げている。
髪が焦げるのは「物理的なダメージ」ではないのだろうか?
「いったい何がどうなっている?」
ルトは、隣の美女に尋ねた。
「いや、それより、まず、なぜおまえが女性になっているか、聞こうか、ウィルニア。」
「リウは、この数日ですっかり男性恐怖症になってしまった。」
氷の目でルトは、女性化したウィルニアを睨んだ。
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