424 / 574
第8部 残念姫の顛末
第401話 万策尽きる
しおりを挟む「なあにをやってるの、アウデリア。」
瓦礫の山をかきわけて、女傑が立ち上がったとき、目の前には、主婦が見下ろしていた。
腰に手を当てて顎を突き出すように、アウデリアを見下ろす表情は、汚いものでもみるような侮蔑感が漂っていた。
これが、旧知のザザリモードなら、口より斧が先に出たかもしれないが、物腰、口調、表情は、引っ込み思案で万事に大人しいメアのものだったので、ぶうたれながらも、アウデリアは、よっこらせと体を起こした。
魔剣による傷は治癒しにくいものだが、すでに肩の傷は白い線を残すのみになっている。
身体は治っても、鎧がズタズタになっているのはどうしょうもない。
いや、どうしょうもはあるのだが、所詮は、普段着替わりの簡易鎧だ。わざわざ修復する必要も感じなかったのだ。
「どうです? わたしの息子は?
強いでしょう?」
「本気で聞いているのか?」
アウデリアはぶうたれた。
「強い弱いで言ったら、それはつよい。だが、お互いに命のやりとりまではする気がなかった。あれでは、本当の強さはわからん。」
「そうね。」
ザザ=メアは、同意した。
「コンビとしては、どう?
ルトくんと、フィオリナさんみたいないいコンビネーションは発揮できてた?」
「両方とも自分が斬りかかりたいタイプだからな。よくはない。」
アウデリアはぐるりと周りを見回した。
周りのものたちが、動きをとめていた。
空間の「記憶」を左右するザザリの結界だった。
「あなたとその娘、それから息子のせいでこの一帯はひどいありさまよ。
幸いなことに、ギムリウスが駆けつけたのが早くって、命を落としたものはいないの。
なので、わたしの結界に包んだこのままの状態で『巻き戻し』をかけるわ。
怪我は治るし、建物は修復される。
まわりの人たちの記憶としては、そうね。建物が吹き飛んだみたいなすごい爆音がしたけど、とびだしてみたら、なにも無かった、そんなかんじね。」
「神話級の魔術だ。」
不快そうに、アウデリアが言った。
「おまえは神か?」
「馬鹿なことを言わないで!
ギムリウスが居なければ無理よ。」
元通りになった街で、人々は不思議そうに、周りを見回している。
ホテル鴎浪飯店は、その威容を取り戻していた。道路に飛びちった、建物の一部が破砕されたときの瓦礫も綺麗さっぱり消えている。
「よくやったな、ギムリウス。」
アウデリアは褒めたが、ギムリウスはうかない顔をしていた。
「ルトを魔王宮に拉致するのに、失敗しました。」
ギムリウスは言った。
「アウデリアさまは、ひょっとして。」
「おまえの想像通りだな。フィオリナをぶちのめして、病院送りを狙ったが、リウと一緒にいやがった。」
アウデリアは、ぺっと唾を吐いた。
「二人がかりでぶちのめされて、このザマだ。ザザリとおまえが来てくれなかったら痛い思いをしたうえに死傷者続出だった。」
「あの二人はどうしたの?」
「転移で逃げられた。あとを追えるかギムリウス?」
「追えますが・・・力づくでどうとかは難しいかと。」
「あれで、このまま逐電してくれれば、いいのだが。」
アウデリアは、いまいましげに言った。
「どうもフィオリナはウエディングドレスを合わせていたから、式には来るつもりらしい。」
「打つ手はなし、ということか。
なら、我がバカ息子とおぬしの駄姫がたくらんだように、リウとフィオリナの結婚式にかえてしまうか?」
口調が王妃メアから、闇森の魔女ザザリのそれに変化していた。
こちらは、若干余裕がある。
ザザリにとっては、「運命の空白」さえ回避できれば、その後の混乱はあまり問題視していない。
千年前に中断された「魔王」による制覇が、フィオリナという伴侶をえて、再開されるだけのことである。
魔素の過剰供給による魔族の凶暴化は、現在では、リウが年齢をコントロールすることで抑えることができる。
「言っておくが、リウが人類社会に対して覇権を求めるならば、『踊る道化師』が立ち向かうことになる。」
アウデリアが言った。
ザザリは、我が意を得たり、とばかりに頷いた。
「それはいい!
なにも抵抗のない征服など、虚しいだけだからな!」
魔道列車による鉄道網は、西域社会を狭くしている。
各国の首都には、主要国の領事館が置かれて、出稼ぎに来た自国の民の要望に応えている。
その中には、さまざまなトラブルの解決に加え、婚姻や葬式といった人生につきものの、行政手続きも行なっている。
ドロシーは、役人の顔をまじまじと見つめた。
目が驚きのあまり、飛び出しそうになっている。
「不受理、ですか?」
「そうだな。」
厳しい顔つきの、事務官は別にわざと意地悪をしているわけでは、なさそうだった。
ドロシーとしては、内心ヒヤヒヤものである。
なにしろ、ルトがサインしたら誓約書は、ドロシーを終世にわたってパートナーとするというもので、実際には婚姻届けではない。それを婚姻届けとして提出してしまうことで、あとで行われるフィオリナとの結婚式を無効にしてしまおうという、とんでもない計画だった。
だが、これは上手くいく。
と、ドロシーは確信していた。
ルトやフィオリナのいう「ちゃんとした理由」に、例えば「法律」による制限も含まれると解釈したのだ。
ドロシーがルトと結婚したことになれば、法律上、妻はひとりのみとなるため、ドロシーが離婚しない限り、フィオリナとルトの結婚は、法律上成立しない。
これで、果たして「運命の空白」を回避できるのか?
運命を見る力をもつアキルやロウに、この案を話してみたが、彼らは呆然としていた。
「いける!」
アキルが叫んだ。
「すごいよ! ドロシーさん!」
「し、しかし、その、おまえはマシューという婚約者がいて、ジウルの愛人で」
ロウが、言ったが、言ってて途中で気がついた。別にドロシーも(見かけと違って)貞淑な乙女ではない。
「そうか。ほとぼりが覚めたら、離婚すればいいな。これはいい!」
だが。
「なぜでしょうか。提出はかならずしも両人で来る必要はないはずですし、契約者以外のサインは弾く専用の誓紙で作られています。
いったい、なんの不備が。
いえ、その」
視線がキョドる。そもそもウソの婚姻届けなので、そこいらは弱気なドロシーだった。
「いや、そんなことはないのだが、問題はここだ。」
事務官は、書類の一点を指差した。
ドロシーの目がこぼれそうなほど、見開かれた。
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる