あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
440 / 574
エピローグとプロローグ

そりゃあ愛ある罰だ

しおりを挟む
「ずるいぞ。」
ルトの作り出した真っ赤に焼けた岩石をかわしながら、フィオリナは叫んだ。

「ずるくはないよ。そっちだって、リウから貰った魔剣の補助で風の鞭を作ってるんだから。」
「ルトの魔剣ニーサガーダは、リウから盗んだものさだろう?」

フィオリナの名のない魔剣は優秀だ。フィオリナの呼びかけに応えて冷気をたっぷりと含んだ烈風を巻き起こす。灼熱した岩石が熱を奪われて、黒い岩塊となって地に落ちた。

「人聞きの悪いことを言うなよ、王妃サマ。」
ニーサガーダの頭身に、黒い瞳が現れて、フィオリナにむかってウィンクした。
「ぼくは望んでこの第二の魔王ともいうべき坊やの味方をしているんだ。」

「リウから盗まれたモノには違いないだろ?」
「それを言うなら、おまえさんもルトから盗まれたモノだな。」
「違う。わたしはわたしの意思で…」

フィオリナは黙った。
舌戦で、しかも剣に負けるってなによ。

転移と「瞬き」を組み合わせた斬撃は空を切った。
ルトはどういうものか、フィオリナの転移を常に読み切っている。
振り返った時に、踏んだ小石が不安定で、わずかにバランスを崩したのは、偶然ではない。
ルトが、わざとそこにその小石を置いたのだ。
ルトの突きは、真っ直ぐに心臓を狙ったものだった。
痺れるような感覚が、フィオリナの体を凍られる。

わたしを殺すの?
わたしが、ほかの相手と体を交えたから?
それだけで、わたしはあなたにとって、いらないモノになっちらゃうの?

風の魔剣はふたたび、ダンスの動きで、ニーサダーガを弾き返し、からわりに無数の斬撃で、ルトを包む。

「そんなことはない。」
頬に、脇腹に、新たな傷を作りながら少年はそう言った。
「フィオリナとはちゃんと一緒にいる。」
「でも!」

魔剣同士の斬り合いのさなかに、足を踏んずける、という攻撃はどうなのだろう。フィオリナは、ブーツでルトは布製の紐靴だった。
だが、骨にヒビくらいは入ったからもしれない。
激痛は、フィオリナの剣戟を止まさせるのでなく、倍加させた。いや、そう思ったのはフィオリナだけか。

動きが雑になっている。
さっきはそれでも十に一つは、掠めていた斬撃がひとつも当たらない。

「フィオリナが、ぼくから離れようとしてるんだろ?」

どうして、この綺麗なお姉さんは、バカなのか。
あ、そうでした。
と、驚いたように立ち尽くしたフィオリナの脇腹に、ルトの蹴りが吸い込まれた。魔力循環。防御強化。
うっかり、心臓が、鼓動を辞めないようにフィオリナも常に戦うことをわめない。

完全に防御したはずの、わき腹。そこから、
振動が、全身に伝わり。
倒れる代わりに、フィオリナは後ろに飛んだ。風魔法も、併用してそれはもう。飛んで後ろの崖に自分を叩きつけたのだ。

ルトは光の剣を続けざまに射出する。後ろの岩肌から、出現した巨大な腕が、フィオリナを抱き抱えるようにして守ろうとした。一撃で分際。
だが、巨人の腕は次々と生み出され、ルトが打ち込んだ光の剣から、主を、守り通した。

次にフィオリナが選んだのは、竜巻。
自分自身だけを、風で包む小規模なものだ。ながく維持したほうが簡単なのだが、そうすれば制御を乗っ取られる。
ルト、とはかくもやっかいな相手なのだっ!
この世界で唯一、無二のっ!

「そうだった。」
なんの策もない体当たりは、たしかにルトの意表はついていた。
だからと言ってぶざまに体当たりを食らうことはない。
かわしざまに、ニーサダーガでフィオリナをぶった斬る。
腰から太ももにかけて、ざっくりいった手応えがあった。それでもフィオリナは、しがみつく。組み付いてさまえば、そこはフィオリナの風の長剣ではなく、短剣ニーサダーガの距離。

雷撃が二人の体を貫いた。
体の骨格が透けて見えるエフェクトのかかる本格的なやつだった。

「ドロシー流じゃないか」
白く濁った眼窩。ひび割れた唇から、呆れたような声はルトのもの。
「あんな鶏ガラと一緒にしないで!」

接近しての雷撃魔法は、一種の自爆技だ。ドロシーはギムリウスの糸で編まれたボデイースーツを着ることで自らのダメージを、軽減しながらこれを行うのだが。

互いに生身ならば、受けるダメージは道徳だ。いや放ったほうが酷いか。
フィオリナは、身体を痙攣させている。体を動かす重要な部分が損傷し、呼吸すら、心臓の鼓動すら止まっていた。動くはずのない手を動かして、自分の胸を殴りつけだ。
がはっ。
と、血を吐いた。吐いた血は目の前のルトにかかった。

動き始めた心臓が送り込む血液に助けられたフィオリナの両手が、ルトの胸にかかる。
爪先を差し込んで、そのままルトの体を切り裂く。
迸る血が、フィオリナの顔を、胸を濡らした。
「まずいことに、気がついた。」
フィオリナは、声帯が回復するのも待たずに、しゃがれた声で言った。
「リウと一緒にカザリームに行ったらそこにはルトはいないんだね。」

あたりまえ、だろう。フィオリナの腕を極めて、手首と肘をくじきながら、ルトは答えた。
「フィオリナがぼくから離れようとしてるんだって。」
「ああ、分かってきた。」
噛み付こうとしたフィオリナに、わざと衣服の袖を噛ませた引っばった。生地も避けたがフィオリナの歯も何本か飛んだ。

腹を蹴り上げて、馬乗りになる。
フィオリナのもう片方の腕も折った。フィオリナが口から吐き出した折れた歯が、ルトの耳を引きちぎる。

「痛い。」

ぼそりとフィオリナが、言った。
「リウが」
「駄魔王サマがなにか?」
「初めてのときの痛みは、ルトのために取っておけって言うの。」

それなりに、感動すべきなのか。
ルトは考えた。ジウル・ボルテックもドロシーに似たようなことをやっている。年齢のいった男はそんな事を考えるだろうか。
どっちにしても性別を違いに替えて、さんざん大人のことをしまくった後で、言われても違うような気がした。

「でも、思ったらルトとはずっと前から、痛いことはしょっちゅう、してるよ、ね。」

フィオリナはルトを抱きしめようとして、失敗した。腕はなんとか持ち上がったが肘から先は動かなかったのだ。
もちろん、負傷した手を動かすこと自体、フィオリナはものすごく痛かったが、それは無視した。
無視できるほど、ルトが好きなことに、いまさらながら気がつく。

「普通のことが出来なくってもいまはまだ、いいんだよ。ゆっくり大人になろう?
これが、いまのわたしたちの愛し合い方なんだ。」
ふざけんなっ!
と、思いつつどこか納得するルトだった。
「これが、わたしたち流の睦ごと。
わたしだけ愛し合い方。」

言ってフィオリナは、真っ赤になった。
ねえ、二人であったら間違いなくしてるよね、これって。

憮然として、ルトは答えた。
ああ、確かによっぽど相性がいいんだろうね。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...