あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
483 / 574
第9部 道化師と世界の声

残念姫逃げた

しおりを挟む

晩餐会は、普通だった。

ご馳走は、十分美味で。わりと、西域での高級ディナーとしては、定番の料理。怪しげな没薬の入ったものもない。

ただ、会場は特殊である。

魔導人形たちが、持ってきた板を貼り合わせ、梁に固定して、ぼくらの泊まるスペースに隣接して、広いバルコニーを作り上げた。そこに、椅子やテーブルを並べて、晩餐会場にしたのだ。

スープは根菜類のはいったクリームスープ。
カザリーム流に煮こごりとカットされた野菜の前菜は一緒に運ばれてきた。

もともと、偏食で名高い長寿族のガセルも、たぶん人間とは食生活自体の異なる女王蜂さんも大人しく、食べている。

お酒は、グランダの白酒ににた、やたらアルコール度数高いくせに口当たりのいいやっかいなやつだった。
古竜さんたちは、気に入ったらしく、盛んにオカワリをしている。
小さなグラスを途中から、大きなものに変えさせさていた。陶器製のグラスは、取ってが着いた花瓶のように見える…てゆーか、それ花瓶じゃないか!

メインの料理が運ばれてくる頃には、酔ったアルゼ姫が、魔力不足のため、とかく無視されていた幼少期の思い出話を披露し、泣き始めた。
魔力が多すぎるため、やたら孤独な幼少期をすごしたぼくとしては、なにか手助けをしてやりたくなったが、ぼくがなにか言う前に、ルールス先生がぼくの袖をひっぱって、止めた。

“なにを仕出かすつもりだっ!
わたしたちは、別に目的があってここを訪れているだぞっ??”
“いや、あの”

ぼくの視線の前では、アルゼ姫がすすり泣きながら、酒盃を傾けている。泣き上戸、というやつかもしれない。

“彼女の頭にある手術の傷口が、癒えないのは魔力強化の為に投与した吸血鬼因子の呪いのせいです。”
“だから!”
“ロウの双主変を使えば、呪いは上書きされて消滅するし、傷跡もきれいに治る。全体的な魔力統合もレベルがあがると思うんだ。”
“頼むから、余計なことにくびを突っ込んでくれるな。”

まあ、デザートのアイスクリームまで含めて、食事は上々の出来だった。
強いて言うならば、マニュアル通りすぎて、料理人の個性というか、独自の一工夫やこだわりがまるで感じられなかったことだけど、それは、料理人がたぶん、魔道人形なのだから仕方ないのかもしれない。
ここにいる魔道人形はすべて、人の姿に翼がはえた汎用性の高いものばかりで、なにかに特化したタイプは見受けられなかった。

それはともかく、ルールス先生の言うことももっともだった。
アルゼ姫はなんとかするにしても、後回しにしてもいい案件かもしれない。

その後、酔っばらったルールス先生が間違えて、ぼくのベッドに潜り込んできたのをやさしくたたき出すなどのイベントはあったのだが、とりあえずぼくらは、魔道列車の寝台よりは快適に一夜を過ごしてのだった。

でも、ここで一泊、ゆっくりしたのは、失敗だった。

翌日。
ぼくらは出立の準備をしていた。とはいえ、全員がけっこうな魔力持ちなので、イゼル以外はほぼ手ぶら。「収納」が苦手なガセルも、同様の効果のあるリュックをもっていて、きわめて身軽である。
そんな高級なマジックアイテムなど、冒険者学校の生徒がもったらほんとはいけないのだけれど、なにせ彼は、グランダの大森林に住む長寿族の長老のひとりだ。

「別れを惜しむ、一族の若い娘たちが餞別でくれた。」と本人が言ってるのは、嘘ではないかもしれない。

そんなぼくらのところに、駅員が駆け込んできたのだ。
ぼくらも身をもって体験したように、ここは、魔法、とくにこの場合は浮遊か飛行の魔法が使えない限り、建物から建物への移動もままならない、こまった街であったが、彼はちゃんとどちらも使えた。
鉄道公社のレベルの高さには、あきれるばかりだ。

「ランゴバルドから、ルトさまへ緊急の伝言です。」

そう。
魔道列車は、こんなサービスも行っている。

でもそれはあくまで、列車の安全確保のための技術で、それを私信に使うととんでもない出費が必要だ。だいたい、すでに列車を降りたぼくらに、そんなことをしてくれるのは異例中の異例だ。

ぼくは、駅員さんに丁寧にお礼をいって、折りたたんだ紙片を受け取った。
もちろん、いやいやである。
正直、これは受け取る予定じゃなかったな。

受け取る前に、列車を降りて、皇都までの山道に入ってしまうつもりだった。

連絡は、やっぱりネイア先生からだった。

文章は短い。だが簡潔で明瞭で、ぼくがわざわざ報告してほしくない内容のトップだ。

無味乾燥な文字だ。
白い紙に、青いインク。


『ザンネンヒメ、ニゲタ』。


説明しておくと、残念姫は、ぼくの婚約者フィオリナ・クローディアのことだ。
もともと、ランゴバルド冒険者学校とグランダ魔道院が、対抗戦を開催することになった折に、正体を隠すために仮面とマントをつけて、偽名で出場しようとしたのだが、それが、レオタードにラメ入りのアイマスク、キラキラの原色をとりまぜたマントという出で立ちだったので、「美人だけど残念なひと」と、ドロシーが認識したのが、はじまりだ。

その後、ミュラ先輩といい仲になっていたのが、発覚したり、リウと恋仲になって、婚約者のぼくを亡き者にしようとしたりと、やらかしまった挙げ句に、クローディア大公家からは放逐されてしまっている。
(ただ、完全に勘当されたのか、それとも大公位の継承者でなくなっただけなのかは、ちょっと微妙。)

いずれにしても、いま現在、フィオリナは大公家の庇護もないまま、ランゴバルド冒険者学校で、在学のまま冒険者をしている。悪役令嬢としては十分に、ざまあ展開のような気もするが、本人があまり、認識していないので、こちらもあまりざまあ見ろとも思わないし、そもそもぼくらは、婚約の解消すらしていない。
ただ頭を冷やす意味で、リウは、しばらくランゴバルドを離れることになった。

リウが半年前、自分を慕う手下を選抜して、遠くカザリームへと旅立ったのは、そんな事情だったのだが。
フィオリナは、ランゴバルドに残された。

不満そうでは会ったが、それなりに、ぼくらは日常を取り戻しつつあったのだ。

そのフィオリナが、ランゴバルドを出奔したと。
ネイア先生からの手紙はそう言っていた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...