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第9部 道化師と世界の声
残念姫逃げた
しおりを挟む晩餐会は、普通だった。
ご馳走は、十分美味で。わりと、西域での高級ディナーとしては、定番の料理。怪しげな没薬の入ったものもない。
ただ、会場は特殊である。
魔導人形たちが、持ってきた板を貼り合わせ、梁に固定して、ぼくらの泊まるスペースに隣接して、広いバルコニーを作り上げた。そこに、椅子やテーブルを並べて、晩餐会場にしたのだ。
スープは根菜類のはいったクリームスープ。
カザリーム流に煮こごりとカットされた野菜の前菜は一緒に運ばれてきた。
もともと、偏食で名高い長寿族のガセルも、たぶん人間とは食生活自体の異なる女王蜂さんも大人しく、食べている。
お酒は、グランダの白酒ににた、やたらアルコール度数高いくせに口当たりのいいやっかいなやつだった。
古竜さんたちは、気に入ったらしく、盛んにオカワリをしている。
小さなグラスを途中から、大きなものに変えさせさていた。陶器製のグラスは、取ってが着いた花瓶のように見える…てゆーか、それ花瓶じゃないか!
メインの料理が運ばれてくる頃には、酔ったアルゼ姫が、魔力不足のため、とかく無視されていた幼少期の思い出話を披露し、泣き始めた。
魔力が多すぎるため、やたら孤独な幼少期をすごしたぼくとしては、なにか手助けをしてやりたくなったが、ぼくがなにか言う前に、ルールス先生がぼくの袖をひっぱって、止めた。
“なにを仕出かすつもりだっ!
わたしたちは、別に目的があってここを訪れているだぞっ??”
“いや、あの”
ぼくの視線の前では、アルゼ姫がすすり泣きながら、酒盃を傾けている。泣き上戸、というやつかもしれない。
“彼女の頭にある手術の傷口が、癒えないのは魔力強化の為に投与した吸血鬼因子の呪いのせいです。”
“だから!”
“ロウの双主変を使えば、呪いは上書きされて消滅するし、傷跡もきれいに治る。全体的な魔力統合もレベルがあがると思うんだ。”
“頼むから、余計なことにくびを突っ込んでくれるな。”
まあ、デザートのアイスクリームまで含めて、食事は上々の出来だった。
強いて言うならば、マニュアル通りすぎて、料理人の個性というか、独自の一工夫やこだわりがまるで感じられなかったことだけど、それは、料理人がたぶん、魔道人形なのだから仕方ないのかもしれない。
ここにいる魔道人形はすべて、人の姿に翼がはえた汎用性の高いものばかりで、なにかに特化したタイプは見受けられなかった。
それはともかく、ルールス先生の言うことももっともだった。
アルゼ姫はなんとかするにしても、後回しにしてもいい案件かもしれない。
その後、酔っばらったルールス先生が間違えて、ぼくのベッドに潜り込んできたのをやさしくたたき出すなどのイベントはあったのだが、とりあえずぼくらは、魔道列車の寝台よりは快適に一夜を過ごしてのだった。
でも、ここで一泊、ゆっくりしたのは、失敗だった。
翌日。
ぼくらは出立の準備をしていた。とはいえ、全員がけっこうな魔力持ちなので、イゼル以外はほぼ手ぶら。「収納」が苦手なガセルも、同様の効果のあるリュックをもっていて、きわめて身軽である。
そんな高級なマジックアイテムなど、冒険者学校の生徒がもったらほんとはいけないのだけれど、なにせ彼は、グランダの大森林に住む長寿族の長老のひとりだ。
「別れを惜しむ、一族の若い娘たちが餞別でくれた。」と本人が言ってるのは、嘘ではないかもしれない。
そんなぼくらのところに、駅員が駆け込んできたのだ。
ぼくらも身をもって体験したように、ここは、魔法、とくにこの場合は浮遊か飛行の魔法が使えない限り、建物から建物への移動もままならない、こまった街であったが、彼はちゃんとどちらも使えた。
鉄道公社のレベルの高さには、あきれるばかりだ。
「ランゴバルドから、ルトさまへ緊急の伝言です。」
そう。
魔道列車は、こんなサービスも行っている。
でもそれはあくまで、列車の安全確保のための技術で、それを私信に使うととんでもない出費が必要だ。だいたい、すでに列車を降りたぼくらに、そんなことをしてくれるのは異例中の異例だ。
ぼくは、駅員さんに丁寧にお礼をいって、折りたたんだ紙片を受け取った。
もちろん、いやいやである。
正直、これは受け取る予定じゃなかったな。
受け取る前に、列車を降りて、皇都までの山道に入ってしまうつもりだった。
連絡は、やっぱりネイア先生からだった。
文章は短い。だが簡潔で明瞭で、ぼくがわざわざ報告してほしくない内容のトップだ。
無味乾燥な文字だ。
白い紙に、青いインク。
『ザンネンヒメ、ニゲタ』。
説明しておくと、残念姫は、ぼくの婚約者フィオリナ・クローディアのことだ。
もともと、ランゴバルド冒険者学校とグランダ魔道院が、対抗戦を開催することになった折に、正体を隠すために仮面とマントをつけて、偽名で出場しようとしたのだが、それが、レオタードにラメ入りのアイマスク、キラキラの原色をとりまぜたマントという出で立ちだったので、「美人だけど残念なひと」と、ドロシーが認識したのが、はじまりだ。
その後、ミュラ先輩といい仲になっていたのが、発覚したり、リウと恋仲になって、婚約者のぼくを亡き者にしようとしたりと、やらかしまった挙げ句に、クローディア大公家からは放逐されてしまっている。
(ただ、完全に勘当されたのか、それとも大公位の継承者でなくなっただけなのかは、ちょっと微妙。)
いずれにしても、いま現在、フィオリナは大公家の庇護もないまま、ランゴバルド冒険者学校で、在学のまま冒険者をしている。悪役令嬢としては十分に、ざまあ展開のような気もするが、本人があまり、認識していないので、こちらもあまりざまあ見ろとも思わないし、そもそもぼくらは、婚約の解消すらしていない。
ただ頭を冷やす意味で、リウは、しばらくランゴバルドを離れることになった。
リウが半年前、自分を慕う手下を選抜して、遠くカザリームへと旅立ったのは、そんな事情だったのだが。
フィオリナは、ランゴバルドに残された。
不満そうでは会ったが、それなりに、ぼくらは日常を取り戻しつつあったのだ。
そのフィオリナが、ランゴバルドを出奔したと。
ネイア先生からの手紙はそう言っていた。
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