あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
492 / 574
第9部 道化師と世界の声

試合という名のなにか2

しおりを挟む
見物している者たちの、感嘆を、カテリアはうとましく、思っている。
剣と素手では、あまりにも挑戦者たる「銀雷の魔女」に分が悪いため、あえて、剣を落として、近接戦に持ち込んでやっているのだ、と。そう、思っているのだ。

ドロシーは、スラリと手足が長い。一段と色気のましたその肢体が、クロノともつれあっているサマは、なにか戦い方とは、別の行為を思い起こさせて、カテリアは、はなはだ不愉快だった。

———————————

ドロシーの技はひとつもきまらない。
伸びきった状態から、体重をかけても
らくらくと返されてしまう。
一方で、クロノの技もきまらない。
こちらは、完全に「極る」直前に、クロノが手を抜いて、逃げ出すチャンスをくれているからだ。

周りからは、近接で打撃を打ち込んでいる分、ドロシーのほうが有利に戦いを進めている…かのように見えるだろう。
だが、実際は全てがクロノの手の内。

クロノとドロシーが「内密な会談」をするための時間稼ぎにしかすぎない。

“しかし、またリウはなぜ、そんな事を?”
俗に言うヘッドロックの体勢である。
本気で、この勇者が力を込めれば、ドロシーの頭蓋骨など、カザリーム名物の煮凝り料理くらい簡単に潰れるだろう。だが、あくまでこれは試合。
ドロシーのギブアップを疑うために、力は適度に抜いている。

そのクロノの腰に手を回して、ロックすると、後ろに投げ飛ばす…クロノに足をかけられて、一緒に倒れた。

“ルトくんに対する対抗心もあったのかもしれません。”
ドロシーは、滝のように汗を流している。
実際に、折ったり、酷い傷をおわせたりする気はないのは、すぐに分かった。
だが、伝説の勇者と試合をするという圧迫感が、ドロシーを必要以上に消耗させている。
“くわしくは、直接会ってどうぞ。”
“そうは言ってもだな。”

床に倒れ、密着した状態からも、拳を打ち込むドロシーを制するように、クロノはドロシーを抱きしめた。

そのまま、身体の骨を砕くことだってできたはずだが、それはしない。
耳もとで、囁く。

“ぼくは勝手にミトラを離れられないのさ。毎日毎日、起きてる間はずっとスケジュールが入っていてね!”

“勇者が、カザリームを訪問しなければならない理由があれば可能なのでは?”

端正なクロノの顔。その鼻柱に、ドロシーは額を打ち付けた。
ぐっ、と呻いてクロノが顔を仰け反らす。

抑えた手の間から、血がこぼれた。

ヒュッ!
くるりと回ったドロシーの踵が跳ね上がって顎にヒットした。
よろよろと後退するクロノに、足払いをかける。

クロノの指が、ドロシーの道着にかかり、ふたりはまた一緒に倒れた。

“昼間はスケジュールがいっぱいだって言ったけど、夜は別なんだ。”

うずくまるクロノに覆い被さるように、ドロシーが抱きつく。首に回された腕は、きっちりと首を絞めていた。

えっと。
“この体勢だと、だいたい5秒くらいで失神するはずなんですケド?”
“もし、ベッドの上でよければ失神はさせてあげられると思う。”
“検討しときます。”

けっこうなクソ勇者であるが、ドロシーはそれを「男なんて多少の差異はあれ、こんなもん」と思
う程度には冷めている。

ドロシーは、首に回した手に力を込めた。裸絞は入ってる。入っているけど、別にクロノは呼吸困難にもなっていない。顔を覗き込むとウインクされた。

“わたしたちが、カザリームで名前を知られるようになったのは『踊る道化師トーナメント』のおかげなんです。”
“噂では、聞いてる。いくらなんでも『踊る道化師』を名乗るものが続出するなんて、西域中心部じゃちょっと、考えられないよ。まして、ホンモノをトーナメントで決めさせるなんてね。”

“興行です。お金になるんですよ。”
ドロシーは、なおも力を込める。
“味をしめたのか、また新しい企画が持ち上がりました。”
“なんだよ、今度は?
真の魔王決定戦か?”
“惜しいですね。『栄光の盾決定トーナメント』です。”

クロノの身体の動きがとまった。
まさか、失神!?
勇者が敗れたのか!!

ギャラリーがざわめいたが、もちろんそんなことは無く。

後ろから首を絞められたまま。
クロノは立ち上がる。

そんな事をすれば、かえって、首に腕が食い込む。だが、クロノは楽しそうだ。
笑っている。
ああ。
笑っている。

いい笑顔だなあ。

そう思った瞬間、ドロシーの体が宙に舞った。
なにをした訳では無い。
クロノは、腰を起点に上半身を回した。ただそれだけ。

何が起こったのか。呆然のまま、舞ったドロシーは、そのまま落ちれば、首か肩にかなりの怪我をするはめに、なったかもしれない。

だが、クロノが受け止めてくれた。そのまま、今度はクロノがドロシーの首を背後から締め上げる。

“ふざけた企画だな!”
“はい。ただ、とんでもない額が動きます。”

ドロシーが口にした数字に、一瞬、クロノの手が緩んだ。
裸絞を脱出したドロシーとクロノの身体が、またももつれ合う。

“ぼくが、栄光の盾を名乗ったのは千年前だ。”
ぼやくように、クロノは囁いた。
“別段、商標として登録してる訳じゃないが、あんまり大っぴらなことをされるのは心外だな!
そのトーナメントに優勝したものが、公式に『栄光の盾』を名乗れると、カザリームがお墨付きをだす格好になるわけなんだろう?”
“それに、近いことにはなるでしょう。うちの事務所…ああ、こっち流にいうと冒険者ギルドは、カザリームの上層部とがっちりつながってますからね。”

クロノの拳が、ドロシーの頭の横の床材を貫いた。
“面白くはないな。”
“そう言いながら、顔は、笑ってますよ。”

    
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...