あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

それぞれの旅路

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窓から吹き込む風が、フィオリナの髪を揺らした。
肘を社外に突き出すようにした、フィオリナは、左右に広がる穀倉地帯を、吹き渡る風に目を細める。

遙か遠くに、ブリッサム山系の山々が霞む。
ところどころに雪が残っていた。

魔道列車なんかで、移動が行われるようになると、旅の風情などは失われる、とその昔、書かれた評論を、フィオリナは読んだことがあった。

とんでもない。

確かに徒歩で歩く、あるいは、馬で移動するのとは違って、走るのは決められた軌道のうえだ。
だが、それで旅の楽しみが無くなる訳では、決して、無い。

列車の目的地は、エルカルテの街だ。
カザリーム行きの船が出ているのは、港町バルドだが、実はそこに列車を乗り継ぐよりも、エルカルテまで行き、そこから歩いてバルドに移動したほうが、ランゴバルドからの連絡はいい。

エルカルテからバルドは、普通は二日の行程だが、フィトリナとグルジエンの脚力なら、その日のうちに着くことが出来るだろう。恐らくはそのまま、カザリーム行きの船を見つけて、乗り込んでしまえば、翌朝にはカザリームだっ!!

「グルジエンっ!」
風に負けないように、大きな声で、フィオリナは怒鳴った…つもりでは、あったが、聞いたグルジエンのほうが、
まるで小鳥が囀ったように聞こえた。
「わたしは! きれいかな!」

「前にも話したと思うけど、わたしは異世界の生き物で、この世界では古竜に相当する存在なんだ。」
「分からなければ、キレイデスネーって言っといてくれればいいんだけど。」
「この世界の竜と違うのは、わたしたちが、殆どの意思疎通できる生き物を滅ぼしてしまったことにある。」

美人のメイドさんは、悲しげにそう言った。

「その罪滅ぼしのつもりで、私たちの祖先は、他の生き物とも交配し、その遺伝子を後世に残す義務を感じた。
わたしたちが、多様な性をもち、子をなすのに、三つ以上の性が集まらなければならなくなったのは、そのためだ、と考えられている。」

ええっ。
フィオリナは、別に会話を楽しむのは嫌いでは無いが、自分が美しいかどうかの答えとしては、あまりにも的を外れているような気がした。

グルジエン…もと異世界生物で、鉄道公社の「絶」魔法士。いまは酔狂にフィオリナのメイドを務める美女はかまわずにすすめた。

「当然、相手はその見かけからして多種多様でな。なかには、お前たち人間に近い容姿を取り込んだ者もいた。」
「つまり!!?」
「おまえは、限りなく魅力的に感じる。もう1人、パートナーがいれば、子をなしたいほどだ。」

うぐぐ。
フィオリナは、心の中で呻いた。
望んだとおりの答えなのになんか違う。
しかも口説かれてるし。

列車は、エルカルテに着いた。
膨大な数魔力をもつフィオリナの「収納」と、己の「世界」を作り出すことが出来るグルジエンは、ほとんど手周りの荷物もない。

デートをすっぽかして、カフェに置き去りにしたランゴバルド伯の甥はそろそろ、ネイアのところに、泣きついただろうか。

フィオリナに、カザリームへ行き、リウたちと合流するように命じたのは、ルト自身だ。
だがそのことは、ルトとフィオリナ、それに彼女に同行しているグルジエンしか知らない秘密である。

知られれば当然、追手が、かかるだろう。

ギムリウスの眷属たちは、ギムリウスが不在の現在、動かしにくいだろうが、ヴァルゴールの使徒がいる。特に古竜にも匹敵すると言われている「12使徒」をはじめ、ほとんどの高弟は、いまランゴバルド冒険者学校に集合しているのだ。
あるいは、ネイア自身が出てくるか。

密かにフィオリナは、それを期待していたのだが、空振りだった。

ルトたちが、出立してからもう四日が過ぎている。ルトとの稽古もその間、当然していない。

フィオリナは少しがっかりしたが、旅が順調なのはいいことには違いなかった。

----------------------

ギムリウスは、クロノとフィオリナを
グランダ魔道院の前に放り出すと、じゃあ、と言って姿を消した。
悪気はないのだが、いまギムリウスは、ギウリークのアライアス侯爵に雇われている。任務は、アライアス侯爵とその息子の護衛なので、あまり、任地を離れてはいけないのは、常識あるギムリウスにはよくわかるのだ。

それに、グランダは、ランゴバルドとは違って、亜人差別が酷く、トラブルを起こしたくなかったギムリウスは早々に引き上げたのだ。

ドロシーとクロノがなにをどうしたいかまでは、関心がなく、聞きもしなかった。もし、ギムリウスの助けが必要なら呼ぶだろうし、ドロシーの頼みならば、ギムリウスは喜んで協力するつもりだった。

でも、どうやってギムリウスを呼ぶ?

そこまでは、ギムリウスの知ったことではなかった。

グランダ魔道院の門は、黒々と目の前にそびえている。
前回、ここに来た時には、いきなり競技場に案内されてしまい、そのまま入院となったので、実は、魔道院にはほとんど印象が残っていないのだ。

それにしても。
いきなり、最難関の勧誘だ。

かつての愛人。師匠。ジウル・ボルテック。
実は御歳、百何十年歳。魔道院の妖怪。

しかも隣にいるのは、つきさっきまで、新たなる秘め事の相手になった勇者クロノだ。

クロノは快活に。明るすぎてある種の傍若無人さを感じされるほどに、快活に、明るい声で、明らかに人間では無い門番に声高らかに、告げたのだ。

「魔拳士ジウル殿に、勇者クロノが火急の用にて参上したと伝えてくれたまえ。」

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