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第9部 道化師と世界の声
紅き瞳の訪問者
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ロゼリッタは、優雅な暮らしを望む。
例えば、たっぷりとした湯に、お気に入りの花弁を浮かべた湯には、朝晩二回は浸かりたいし、食事には1時間はかけたい。
酒の銘柄にもうるさい。
好みの味はあるのだか、人前で注文する時は、パスコリカの水晶葡萄をつかった発砲ワインと決めている。
ボトルを保護するための、クリスタルの外殻に収められた逸品だ。
卵型のそれを、開封する時、周りのものたちの羨望にみちた眼差しが、ロゼリッタにはなによりのご馳走だったのだ。
むろん、値段だってとんでもないのだが、ロゼリッタの収入は、それを悠々と可能にしていた。
今回の一件に巻き込まれるまでは。
このカザリームは、西域と中原の文化が入り交じる街である。
西域で暮らしたものには、たぶん別世界にきたような、エキゾチックな魅力を感じることができるのだろう。
だが、それは、中原から来たものにも当てはまるのだ。
こと、西域では、未成年(成人年齢は、国によって異なるがほとんどは16から20歳)の飲酒への偏見が、物凄いのだ。
上水道の発達していない地域では、ごく弱い酒を飲むことは、一応は認められているらしい。
だが、高級レストランで、高い酒を注文するのは、別の問題だ。
若い女が、そんなことをするのは、明らかに異常にうつるようだった。
一度やってはみたのだが、周りの視線に耐え兼ねて、やめた。
そして、ロゼリッタは、どう見ても成人に達しているようには見えない。
ロゼリッタは、枕に顔を埋めながら、悶えた。サノス老師と、ドゥルノはいつまでカザリームにいるつもりなのだろうか。
結論は出でいる。
永久に、というわけではないだろうが、少なくとも何年かは滞在を続けるつもりだ。
すでに、サノス老師は、カサリームの学校で教鞭を取り始めていたし、ドゥルノに至っては、女と同棲まで始めている。しかもこの前まで、敵として戦った相手だ。頭が軽すぎるにもほどがある!
コンコン。
窓ガラスがノックされた。
ここは、11階のはずだ。
恐る恐る窓を見やったロゼリッタは、悲鳴を上げかけた。
バルコニーもない11階の窓の外に、美しい女性が立っていた。
首まで覆うドレスは、やや年配のお堅い女性が、好むものだ。
顔はまったくの無表情。
玲瓏は美貌のなかに、その瞳だけが真紅に燃えていた。
「開けなさい、ロゼリッタ。」
ロゼリッタは首を振りながら、ベッドの隅に縮こまった。
「ここを開けて、中に入れなさい。ロゼリッタ。」
低い声は、耳元で破鐘でもならされたかのように、ロゼリッタを揺さぶる。
「こないで!」
「用事があって、きました。ここを開けなさいロゼリッタ。」
「入っちゃダメって!」
ロゼリッタ。
窓の淑女はため息をついた。
「あなたはもう魂まで、わたしのもののなのですよ。」
く、くるなあ。
叫ぼうとしたロゼリッタは、うっかり相手の目を見てしまった。
赤光が脳髄まで溶かす。
ロゼリッタは、唇を噛み締めた。食い破った。血が滴る、その痛みで辛うじて、さけんた。
「く、くるなあっくるなっ、くるなあぁっ!!」
「なんて小さな悲鳴なんでしょう。」
氷の淑女は、ささやいた。
「そんなんじゃ、誰にも聞こえないわ。いえ、誰にも聞かれたくないから、わさと小さな声で助けを優呼ぶのね。
大丈夫。ここにはあなたと、わたしたちだけよ。さあ、ここを開けて。あなたもわたしの仲間にお成りなさい。」
違う違う。
わたしは、おまえの仲間になんかならない。わたしはわたしは。
窓に向かって、よろよろと歩く足を、わざとチェストに、ひっかけて転んだ。
いや・・・・いやだ。わたしはおまえのモノじゃないんだ、わたしはわたしだ。わたしはわたしのモノだ。
そうとも。
妖しい赤い目が頷いた。
そして、もうわたしのものでもある。
黒いスーツの袖口から、白いシャツが見える。
セットアップのスーツをきたもう一人が、勝手に窓を開けた。
鍵はかかっていない。なにしろ、11階である。
抗議するような険しい眼で、ロゼリッタとロウランに、睨まれたロウ=リンドは、それを無視して、よっこせ、と言いながら、窓枠を跨いだ。
「・・・・・なにか?」
二人がじっと見つめてくるので、ロウは顔を顰めていった。
「・・・今、盛り上がってたとこなのに。」
「大事な初訪問の儀式だぞ。これからが、いいところだったのに。」
呆れた顔で、ロウは部屋のソファに腰を下ろした。
ジャケットとスラックスは黒。細身のセットアップスーツは、中性的な美貌のロウによく似合っていた。まるで少年のような美しさだが、胸は柔らかな曲線を描いている。
「あのなあ。」
ロウは、ため息をついた。
「吸血鬼同士でも、それって必要なのか?」
「全然ありですよ! そもそも何であなたは許可なしに、他人の部屋に入れるんです?」
そう。
ラナ公爵ロゼリッタ。西域、中原全体を見ても、現在「公爵」級の吸血鬼は五人しかいない。
その一人が、部屋で不貞寝を決め込んだいた少女、ロゼリッタである。
対する訪問者の淑女は、ミイナ、という。ここ、カザリームでは、アルセンドリック侯爵ロウラン、で通っている。迷宮都市カザリームを代表する冒険者の一人で、こちらも吸血鬼であった。
例えば、たっぷりとした湯に、お気に入りの花弁を浮かべた湯には、朝晩二回は浸かりたいし、食事には1時間はかけたい。
酒の銘柄にもうるさい。
好みの味はあるのだか、人前で注文する時は、パスコリカの水晶葡萄をつかった発砲ワインと決めている。
ボトルを保護するための、クリスタルの外殻に収められた逸品だ。
卵型のそれを、開封する時、周りのものたちの羨望にみちた眼差しが、ロゼリッタにはなによりのご馳走だったのだ。
むろん、値段だってとんでもないのだが、ロゼリッタの収入は、それを悠々と可能にしていた。
今回の一件に巻き込まれるまでは。
このカザリームは、西域と中原の文化が入り交じる街である。
西域で暮らしたものには、たぶん別世界にきたような、エキゾチックな魅力を感じることができるのだろう。
だが、それは、中原から来たものにも当てはまるのだ。
こと、西域では、未成年(成人年齢は、国によって異なるがほとんどは16から20歳)の飲酒への偏見が、物凄いのだ。
上水道の発達していない地域では、ごく弱い酒を飲むことは、一応は認められているらしい。
だが、高級レストランで、高い酒を注文するのは、別の問題だ。
若い女が、そんなことをするのは、明らかに異常にうつるようだった。
一度やってはみたのだが、周りの視線に耐え兼ねて、やめた。
そして、ロゼリッタは、どう見ても成人に達しているようには見えない。
ロゼリッタは、枕に顔を埋めながら、悶えた。サノス老師と、ドゥルノはいつまでカザリームにいるつもりなのだろうか。
結論は出でいる。
永久に、というわけではないだろうが、少なくとも何年かは滞在を続けるつもりだ。
すでに、サノス老師は、カサリームの学校で教鞭を取り始めていたし、ドゥルノに至っては、女と同棲まで始めている。しかもこの前まで、敵として戦った相手だ。頭が軽すぎるにもほどがある!
コンコン。
窓ガラスがノックされた。
ここは、11階のはずだ。
恐る恐る窓を見やったロゼリッタは、悲鳴を上げかけた。
バルコニーもない11階の窓の外に、美しい女性が立っていた。
首まで覆うドレスは、やや年配のお堅い女性が、好むものだ。
顔はまったくの無表情。
玲瓏は美貌のなかに、その瞳だけが真紅に燃えていた。
「開けなさい、ロゼリッタ。」
ロゼリッタは首を振りながら、ベッドの隅に縮こまった。
「ここを開けて、中に入れなさい。ロゼリッタ。」
低い声は、耳元で破鐘でもならされたかのように、ロゼリッタを揺さぶる。
「こないで!」
「用事があって、きました。ここを開けなさいロゼリッタ。」
「入っちゃダメって!」
ロゼリッタ。
窓の淑女はため息をついた。
「あなたはもう魂まで、わたしのもののなのですよ。」
く、くるなあ。
叫ぼうとしたロゼリッタは、うっかり相手の目を見てしまった。
赤光が脳髄まで溶かす。
ロゼリッタは、唇を噛み締めた。食い破った。血が滴る、その痛みで辛うじて、さけんた。
「く、くるなあっくるなっ、くるなあぁっ!!」
「なんて小さな悲鳴なんでしょう。」
氷の淑女は、ささやいた。
「そんなんじゃ、誰にも聞こえないわ。いえ、誰にも聞かれたくないから、わさと小さな声で助けを優呼ぶのね。
大丈夫。ここにはあなたと、わたしたちだけよ。さあ、ここを開けて。あなたもわたしの仲間にお成りなさい。」
違う違う。
わたしは、おまえの仲間になんかならない。わたしはわたしは。
窓に向かって、よろよろと歩く足を、わざとチェストに、ひっかけて転んだ。
いや・・・・いやだ。わたしはおまえのモノじゃないんだ、わたしはわたしだ。わたしはわたしのモノだ。
そうとも。
妖しい赤い目が頷いた。
そして、もうわたしのものでもある。
黒いスーツの袖口から、白いシャツが見える。
セットアップのスーツをきたもう一人が、勝手に窓を開けた。
鍵はかかっていない。なにしろ、11階である。
抗議するような険しい眼で、ロゼリッタとロウランに、睨まれたロウ=リンドは、それを無視して、よっこせ、と言いながら、窓枠を跨いだ。
「・・・・・なにか?」
二人がじっと見つめてくるので、ロウは顔を顰めていった。
「・・・今、盛り上がってたとこなのに。」
「大事な初訪問の儀式だぞ。これからが、いいところだったのに。」
呆れた顔で、ロウは部屋のソファに腰を下ろした。
ジャケットとスラックスは黒。細身のセットアップスーツは、中性的な美貌のロウによく似合っていた。まるで少年のような美しさだが、胸は柔らかな曲線を描いている。
「あのなあ。」
ロウは、ため息をついた。
「吸血鬼同士でも、それって必要なのか?」
「全然ありですよ! そもそも何であなたは許可なしに、他人の部屋に入れるんです?」
そう。
ラナ公爵ロゼリッタ。西域、中原全体を見ても、現在「公爵」級の吸血鬼は五人しかいない。
その一人が、部屋で不貞寝を決め込んだいた少女、ロゼリッタである。
対する訪問者の淑女は、ミイナ、という。ここ、カザリームでは、アルセンドリック侯爵ロウラン、で通っている。迷宮都市カザリームを代表する冒険者の一人で、こちらも吸血鬼であった。
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