あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

愚者の盾の到着1

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船は、スルスルとカザリームの港、その桟橋のひとつに滑り込んだ。
見事な操船技術であったし、当たり前と言えば当たり前なのだが、ここまでの旅にはなんの支障もなかった、と言っていい。

ジウルは、話が決まるとさっさと、ひとり、ランゴバルドに転移し、輸送が得意な黒竜ラウレルに乗って、翌日にはグランダに到着したのだ。

ドロシーたちは、ラスレスに、乗せてもらってカザリームへの直行便のある港町まで運んでもらい、そこから、船に乗り換えて、無事にカザリームに到着した、というわけだ。

「難しい顔をしないでよ、ドロシー。」
ドロシーの隣のクロノは、ニコニコと機嫌よく話しかけてくる。
確かに、快適で順調な旅だった。
それでも、なお予想外のことは起こるわけで。

他ならぬラウレスから、フィオリナがそのメイドとともに出奔していることを聞かされたのだ。

もちろん、ラウレスは「踊る道化師」の一員ではないし、冒険者学校の生徒ですらないのだが、輸送手段として、ちょくちょく雑に扱われる彼が、今回のフィオリナの失踪に絡んでいないか、一応、ネイア先生から確認があってのである。

残念姫が逃げ出す先。
それはカザリーム。引き裂きれた恋人であるリウのところに間違いなかった。

まったく!
盛りでもついているのだろうか、あの大公家の姫君は。

桟橋に迎えに出ていた青年が、ドロシーの名を呼んで、大きく手を振った。

「ただいまっ!ドゥルノ!」
ドロシーも叫び返した。
「無事に帰りました! いい子にしててくれた!?」
「寂しかったよ、ドロシー!」
「みんなの入管手続きをするから、待っててね!」

アウデリアは、となりのジウルをつついた。
「我が娘も、別れて、半年しか我慢できずに男のもとに走った訳なんで、あまり強くも言えないのだか。」
顔には苦笑いが浮かんでいる。
「あのドロシーってのは、いったいなんだ?
それともあのくらいが、今の若いもんの標準なのか。」
こちらは苦虫を噛み潰したような顔のジウル。無言だった。

それをからかうように、アウデリアは、彼の逞しい胸を小突いた。

「すまん。おまえは、一応、見かけは『今の若いもん』だったけな。どうだ
前の恋人が、新しい恋人とイチャつくさまを、その浮気相手と一緒に眺めるという感想は。」

「アウデリア。あんまり、ジウルをからかっちゃダメだよ。」

ヨウィスは、その小柄な体を、甲板の手すりにもたれかからせて、潮風を楽しんでいる。
重い灰色のフードをまくって、キラキラと輝くような笑顔で、一同を眺めた。

それは、ボソボソと陰気ないつものヨウィスではなかった。快活で陽気で。限りなく残虐なもう一人のヨウィス。「ぼく」。
そのヤバさを知るものは、ほとんどいなかったし、ごく少数の事情がわかっているもの。例えば、アウデリアやジウルにとっては、それでも大騒ぎする方が、かえってあぶないことがよく分かっていた。

「からかっている訳ではない。諭しているのだ。若造りの老体が、若い女に手を出しても碌な結果にならないということを。」

ジウルは、ドロシーの横に立つ、クロノの首を後ろから抱き抱えるようにして、引き離した。

「ちょっと、ボルテック卿・・・・」
「あまりドロシーと引っ付くな! 少なくとも今のドロシーの恋人は、あの魔導師の若僧だ。話をややこしくするな!」
「痛いってば、ちょっと!」

ドロシーはどうしていたかと言うと、ジウルもクロノも眼中にはなかった。

「待ち切れないんだけど!」
「もう!」

頬を赤らめて、ドロシーは叫んだ。

「もう! ドゥルノってば!」

そのまま、船の縁から身を躍らせる。
高さは、訓練されていないものなら、十分、骨折できるだけのものであったが、魔導師たるドゥルノは、風を起こして、ドロシーの体を舞い上げると、ふわりと落ちてきたその細身の体を抱き留めた。

人目憚らず、口づけを交わす、二人をジウルとクロノは憮然として、見守った。

「さあ、ぼくたちも入管手続きとやらをすませて、カザリームに入ろうじゃないか。」

ある意味、一番の常識人として、この場を仕切ったのは、ヨウィスだった。
彼女は、珍しく先頭に立って一行を促した。憮然としたままのジウルとクロノ。その様子を面白そうに見守るアウデリアを従え、颯爽とタラップを降りるその姿は、ルトあたりが見たら恐ろしく、不吉なものを感じたことだろう。

腕ききの料理人または、無限に近い「収納魔法」の使い手である「わたし」のヨウィスに対し、「ぼく」にのヨウィスは、純粋に戦いのみに、その能力も人格さえも振り切っている存在だ。

一応、記憶は共有しているようだが、性格はいくら暗かろうが、キレてもせいぜい鼻の先を切り飛ばす程度の「わたし」のヨウィスの方が、キレもせずに、相手の首を刎ねる「ぼく」よりも、グランダでの人気は、はるかに高かったのだ。

そのヨウィスが、あえて「ぼく」の人格を全面に出して出している・・・ということは。


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