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第9部 道化師と世界の声
愚者の盾の到着3
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ケルトは、面白いジョークでも披露するように答えた。
「我々は、冒険者としての腕前を、今一度、カザリーム市民に見せつけておかねばなりません。」
「どういう意味です?」
「ラザリム&ケルト事務所は、カザリーム行政府とのコネを持ち、イベントで稼ぐ、企画屋ではなく、冒険者事務所であり、ラザリムとケルト自身も凄腕の冒険者だということを、周知させておく必要があります。」
「何を言いたいのです?」
ドロシーは、ケルトに詰め寄った。
「わたしとラザリムも今回のトーナメントに出場することになりました。」
「なるほど、きみたちも出場するならば、主催者を兼ねるのは、公正の面からも難しいかもしれないな。」
クロノが言った。
「このギルド・・・冒険者事務所所属の冒険者で、パーティを組むのか?」
「わたしと、ラザリムそして、真祖を名乗る爵位持ちの吸血鬼三体のパーティです。」
「なるほど。いいメンバーだな。」
驚愕のあまり、ケルトを見つめる一同の中、ひとりわからぬドゥルノ・アゴンは、平然と続けた。
「で、わたしの希望は、ドロシーを我がパーティに迎えたい、というものだ。最終的な交渉は『沈黙』とやらと行うとして、そちらからも話を通しておいてもらえるとありがたい。」
誰一人。
誰一人、ドゥルノ・アゴンの言う事など聞いていなかった。
「なぜ、ロウ=リンドがトーナメントに?」
人が慌てふためく場面で、かえって冷静になれるのが、女傑アウデリアである。
問も、おそらくはこの場でもっとも、「踊る道化師」とカザリーム。双方に通じているであろうドロシーに対し、まっすぐに問いかけられていた。
「まったくわかりません。ですがそもそもかの御方は、新たにリウがカザリームでスカウトしたメンバーであるベータのことが気に入らなかったようです。
その決着の場として、『栄光の盾」トーナメントを利用しようとしたのかもしれません・・・・リウならば思いつきそうなことです。」
「その『ベータ』とやらは、何者だ。」
ジウルが唸るように言った。
「魔道院の妖怪ボルテック卿が、作った魔道人形です。」
ジウル・ボルテックは、このときまで、何年も前にグランダに留学していたカザリーム出身の、ちょっと才能のある若者のことを忘れていた。
たしかに、魔導具、特に魔道人形の制作には、かなりの才能があったが・・・・突然、学校をやめて、帰国してしまった。
そのとき、試作していた魔道人形の一体を盗み去ったことなど、気が付きもしなかった・・・・施策の魔道人形は、作ることもさることながら、メンテナンスが難しい。たとえ、盗み出したとしても、悪用するまもなく、動作不能になっていただろう。
完成後、細かく手をいれて、それが「存在」し続けることができるように、調整を行ってはじめて本当の意味での完成となるのだ。
彼を弁護するならば、「作りかけ」の魔道人形の管理がいい加減だったのは、そういうことだった。
そして、カザリーム出身の若者が、出奔して、故国に帰ってしまったことについては・・・・。
もうひとつ、ボルテックを弁護しよう。
ボルテックは教育者として、まったくだめな人間ではなかったが、「魔道」というものの性質上、その才のないものに時間と手間をかけるだけ、無駄という割り切りった考えをもっていた。
その中で、才能のあるものには、理解と協力を惜しまなかったのであるが・・・・。
このとき、ボルテックは、王立学院に入学してきたふたつの才能に心惹かれており、遠く離れた国の留学生のことなど、きれいさっぱり忘れてしまっていたのである。
「確かにそんな事件はあったな・・・・」
ジウル・ボルテック、表向きは、かのボルテック卿のひいひいひい孫と主張する男は、難しい顔で答えた。
「確かに、そうだ。あの当時、人の人格、記憶、能力をそっくりコピーした魔道人形が作れないものかいろいろと試行錯誤を行っていたところだ・・・・と、ひいひいひいじいさんは語っていたな。」
「ベータは、フィオリナを模した魔道人形です。」
ドロシーは、きっぱりと言った。厳密には、勇者クロノと、ケルトは部外者であったが、これは目端のきくものにとっては、公然の秘密だっただろう。
「それは、ありえないぞ、ドロシー。」
顔をしかめながら、ジウル・ボルテックは言った。
「魔道人形は、始動させたあと細やかな調整をおこなってはじめて、完成品となる。その作業を一体誰が・・・」
「カザリーム魔道評議会のアシット・クロムウェル議長です。彼は、フィオリナ人形を、グランダ貴族の娘と偽って、カザリームに連れ込み、そこから自らの手を教育し、成長させ、恋人としました。」
「成長・・・・って。まあ、それに相当する部品の交換を行えば、問題はない。七年も稼働を続けていればもはや魂も人間のものとかわりなくなるだろう。」ジウルの目がランと輝いている。拳士のそれではなく、魔道の探求者の目つきだった。
「恋人・・・というのも面白い。確かに魔道人形に人格としての安定性を与えるには、そのような関係をもつのは、悪くない手段だ。
ドロシー、さっそく、俺をベータとやらのところに案内してくれ。アシットの小僧のほうでもいい。話がしたい。」
「ドロシー嬢の推測の通りですね。」
ケルトは、さっき届いた書類を一同の前に取り出した。
「これは、アシット・クロムウィル議長からの、自らのトーナメント参加の要望書です。まだ参加メンバーは固まっていないようですが・・・当然、許可せざるを得ないでしょう。
参加メンバーは、アシット・クロムウィル閣下ご自身と、ベータ、それに・・・・」
そこに書かれた名前に、ケルトは気がつき、目を丸くした。
「フィオリナ・クローディア・・・その従者グルジエン・・・・」
「それより、まずは、フィオリナのほうじゃない? なんとかしないといけないのは。」
驚愕のあまり、一同が呆然自身つするなか「ぼく」のほうのヨウィスがへらへらと笑いながら言った。
「『愚者の盾』は本来、メンバーになるべき人材を失ってしまったんだ。なんでまた、フィオリナとベータが同じパーティでトーナメントに参加することになったんだ?」
「それはわたしも聞きたいな。」
アウデリアが、とんとんと腰の斧の柄をかるく叩きながら、ケルトの顔を見た。睨んでるわけではない。ただ、笑った口元の白い歯がまるで、牙のように見えた。
「そもそも、フィオリナは、ランゴバルドを離れることを、ルトとリウから禁じられていたはずだ。それが、なぜ、よりにもよってカザリームにあらわれて、しかも自分の魔道人形などとつるんで、試合をしようとしている?」
「我々は、冒険者としての腕前を、今一度、カザリーム市民に見せつけておかねばなりません。」
「どういう意味です?」
「ラザリム&ケルト事務所は、カザリーム行政府とのコネを持ち、イベントで稼ぐ、企画屋ではなく、冒険者事務所であり、ラザリムとケルト自身も凄腕の冒険者だということを、周知させておく必要があります。」
「何を言いたいのです?」
ドロシーは、ケルトに詰め寄った。
「わたしとラザリムも今回のトーナメントに出場することになりました。」
「なるほど、きみたちも出場するならば、主催者を兼ねるのは、公正の面からも難しいかもしれないな。」
クロノが言った。
「このギルド・・・冒険者事務所所属の冒険者で、パーティを組むのか?」
「わたしと、ラザリムそして、真祖を名乗る爵位持ちの吸血鬼三体のパーティです。」
「なるほど。いいメンバーだな。」
驚愕のあまり、ケルトを見つめる一同の中、ひとりわからぬドゥルノ・アゴンは、平然と続けた。
「で、わたしの希望は、ドロシーを我がパーティに迎えたい、というものだ。最終的な交渉は『沈黙』とやらと行うとして、そちらからも話を通しておいてもらえるとありがたい。」
誰一人。
誰一人、ドゥルノ・アゴンの言う事など聞いていなかった。
「なぜ、ロウ=リンドがトーナメントに?」
人が慌てふためく場面で、かえって冷静になれるのが、女傑アウデリアである。
問も、おそらくはこの場でもっとも、「踊る道化師」とカザリーム。双方に通じているであろうドロシーに対し、まっすぐに問いかけられていた。
「まったくわかりません。ですがそもそもかの御方は、新たにリウがカザリームでスカウトしたメンバーであるベータのことが気に入らなかったようです。
その決着の場として、『栄光の盾」トーナメントを利用しようとしたのかもしれません・・・・リウならば思いつきそうなことです。」
「その『ベータ』とやらは、何者だ。」
ジウルが唸るように言った。
「魔道院の妖怪ボルテック卿が、作った魔道人形です。」
ジウル・ボルテックは、このときまで、何年も前にグランダに留学していたカザリーム出身の、ちょっと才能のある若者のことを忘れていた。
たしかに、魔導具、特に魔道人形の制作には、かなりの才能があったが・・・・突然、学校をやめて、帰国してしまった。
そのとき、試作していた魔道人形の一体を盗み去ったことなど、気が付きもしなかった・・・・施策の魔道人形は、作ることもさることながら、メンテナンスが難しい。たとえ、盗み出したとしても、悪用するまもなく、動作不能になっていただろう。
完成後、細かく手をいれて、それが「存在」し続けることができるように、調整を行ってはじめて本当の意味での完成となるのだ。
彼を弁護するならば、「作りかけ」の魔道人形の管理がいい加減だったのは、そういうことだった。
そして、カザリーム出身の若者が、出奔して、故国に帰ってしまったことについては・・・・。
もうひとつ、ボルテックを弁護しよう。
ボルテックは教育者として、まったくだめな人間ではなかったが、「魔道」というものの性質上、その才のないものに時間と手間をかけるだけ、無駄という割り切りった考えをもっていた。
その中で、才能のあるものには、理解と協力を惜しまなかったのであるが・・・・。
このとき、ボルテックは、王立学院に入学してきたふたつの才能に心惹かれており、遠く離れた国の留学生のことなど、きれいさっぱり忘れてしまっていたのである。
「確かにそんな事件はあったな・・・・」
ジウル・ボルテック、表向きは、かのボルテック卿のひいひいひい孫と主張する男は、難しい顔で答えた。
「確かに、そうだ。あの当時、人の人格、記憶、能力をそっくりコピーした魔道人形が作れないものかいろいろと試行錯誤を行っていたところだ・・・・と、ひいひいひいじいさんは語っていたな。」
「ベータは、フィオリナを模した魔道人形です。」
ドロシーは、きっぱりと言った。厳密には、勇者クロノと、ケルトは部外者であったが、これは目端のきくものにとっては、公然の秘密だっただろう。
「それは、ありえないぞ、ドロシー。」
顔をしかめながら、ジウル・ボルテックは言った。
「魔道人形は、始動させたあと細やかな調整をおこなってはじめて、完成品となる。その作業を一体誰が・・・」
「カザリーム魔道評議会のアシット・クロムウェル議長です。彼は、フィオリナ人形を、グランダ貴族の娘と偽って、カザリームに連れ込み、そこから自らの手を教育し、成長させ、恋人としました。」
「成長・・・・って。まあ、それに相当する部品の交換を行えば、問題はない。七年も稼働を続けていればもはや魂も人間のものとかわりなくなるだろう。」ジウルの目がランと輝いている。拳士のそれではなく、魔道の探求者の目つきだった。
「恋人・・・というのも面白い。確かに魔道人形に人格としての安定性を与えるには、そのような関係をもつのは、悪くない手段だ。
ドロシー、さっそく、俺をベータとやらのところに案内してくれ。アシットの小僧のほうでもいい。話がしたい。」
「ドロシー嬢の推測の通りですね。」
ケルトは、さっき届いた書類を一同の前に取り出した。
「これは、アシット・クロムウィル議長からの、自らのトーナメント参加の要望書です。まだ参加メンバーは固まっていないようですが・・・当然、許可せざるを得ないでしょう。
参加メンバーは、アシット・クロムウィル閣下ご自身と、ベータ、それに・・・・」
そこに書かれた名前に、ケルトは気がつき、目を丸くした。
「フィオリナ・クローディア・・・その従者グルジエン・・・・」
「それより、まずは、フィオリナのほうじゃない? なんとかしないといけないのは。」
驚愕のあまり、一同が呆然自身つするなか「ぼく」のほうのヨウィスがへらへらと笑いながら言った。
「『愚者の盾』は本来、メンバーになるべき人材を失ってしまったんだ。なんでまた、フィオリナとベータが同じパーティでトーナメントに参加することになったんだ?」
「それはわたしも聞きたいな。」
アウデリアが、とんとんと腰の斧の柄をかるく叩きながら、ケルトの顔を見た。睨んでるわけではない。ただ、笑った口元の白い歯がまるで、牙のように見えた。
「そもそも、フィオリナは、ランゴバルドを離れることを、ルトとリウから禁じられていたはずだ。それが、なぜ、よりにもよってカザリームにあらわれて、しかも自分の魔道人形などとつるんで、試合をしようとしている?」
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