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第9部 道化師と世界の声
あの子が欲しい2
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「真祖のお姉さん。」
ベータは、口元に嫌な笑いを浮かべている。
フィオリナとベータの顔立ちは、確かに似通っていた。
もともとは、幼少期のフィオリナをモデルに、天才魔導師ボルテック卿が作り上げた魔道人形だ。
それを、カザリーム最高の魔導師アシット・クロムウェルが、グランダから人間として育てた。
その歳月が。
もともとそっくりのはずの、二人を分けている。
表情も体のラインも、ベータのほうが柔らかい。だが、それでもこんな表情を浮かべるときは、確かにこの2人は、同じ人間なのだと。
そう思える。
「面白い子を拾ったよね。」
「当たり前だ!
わたしは人を見る目はあるのだっ!」
「でもふられたよね?」
「恋愛というのは、フラれてから、はじまるのだっ!」
面倒みのいい真祖は、断言した。
「ともに語り、ともに歩くうちに、必ず振り向り向かせてみせる!」
「うまくいくの?」
あまりに楽観的なロウの発言に、ベータもさすがに呆れたように言った。
「あの、ロウさん。ぼくだって、いろい、なトラブルを抱えてる身なんです。あなたにご迷惑でもかかったりしないとも限らない。」
「安心しろ、わたしは不死身だ。」
ロウは胸をはる。確かに抜群な美人さんなのだが、自慢をはじめると途端にアホみたいに見えるのは何故だろう。
「そうだ。例えば突進してくる竜のまえに、立ちはだかって見せてやろうか?」
「いくら、吸血鬼でも死んじゃいますよ?」
「死なぬっ!
そこで決めゼリフ『ボクは死にましぇん!』だ。どうだ、惚れるだろう?」
「うーん、確かに、ぼくの付き合う相手はある程度、強いに越したことはないのですが。」
「よし、決まりだ!
今度、知り合いの黒竜に、頼んでみる。」
「そんな事しなくても。そこのアモンさんって、竜人ってことにしてるけど、本当は、人化した古竜でしょ?
ロウさん、お知り合いみたいだから、アモンさんに頼めば?」
「いいぞ、ロウ。」
ゆらっと、アモンが立ち上がる。
アウデリアのように、抜群の長身でも、ゴツイ筋肉に覆われてる訳でもない。
だが、床が。石畳が敷かれた床が、その1歩で放射上にひび割れた。
「ちょっと待て!」
引きつった顔で、ロウが振り向いた。
明らかにその表情は「たすけてくれ」だった。
「まあ、アモンさん。店を壊してしまったら、不味いですよ。」
「ここには・・・・閉鎖空間を展開するのが、特異なものは・・・・サノス、おまえはどうだ。」
老魔導師は、首を横にふった。
「十分な時間と準備があれば・・・・というとこです。」
ロウがほっと安心したように、ため息をついたのもつかの間・・・・・
「なら、仕方ないわたしがやろう。」
というアモンの言葉に、ロウは再び真っ青になった。
アモンが立ち上がる。右手をあげて、なんどか拳を開いたり、閉じたり。その手のひらの中に、渦巻く光が明滅する!
「ストップ! 今やるべきことを優先してください。」
アモンは、うむ、と頷いてあっさり引き下がった。
腰をおろし、飲み物のお替りを注文した。
「話がそれすぎです。まずは大事なことから話しましょう。」
「そ、そうだな。まず、婚約というのは人間同士がするものであって、わたしは人間ではないのだから、おまえに婚約者がいようがいまいが、わたしと付き合うことについては、どこから文句は出ないと思う。まあ、これは個人的な見解がわかれるとは、思うが、」
「個人的な見解すぎます。誰か賛成してくれるものがいますか?」
アモンが手をあげて、答えた。
「竜の見解だが、竜にとっての『婚姻』は、子育てのための一時的な番だ。子が卵から孵り、ひとりで餌をとれるようになるまで、20年はかかる。そのあいだは、子育てが番となったペアにとっては、最優先されるもので、その間に、それ以外の愉しみ、例えば、闘争や他の竜との恋愛などにうつつを抜かすようなことは、充分非難の対象となるな。」
「り、竜にまで否定されたっ・・・・」
「いや、もともと60年程度の寿命の中で、20年以上を子育てに割いてしまう人間のほうが歪なのだ。それでは、まるで、子供を産み育てるために、生をうけたようではないか。」
「そ、それはだから、」
ロウは助けをもとめるように、周りを見回して、フィオリナに目をとめた。パッと顔が輝く。
「どう? フィオリナなら、婚約者がいても好きな相手ができたら、取り敢えず、婚約者ほっといても行くよね?
まあ、ついでに婚約者をぶち殺そうと思うのは、やりすぎだと思うけど。」
これは、フィオリナにとっては、一番触れられたくない部分だった・・・・彼女だって反省することはあるのである。
“反省してるのなら、なぜカザリームくんだりまで押しかけてきたのか”
と、彼女の母なら言いそうだが。
「え? それって・・・どういう・・・フィオリナの婚約者ってハルト王子よねえ? それを殺そうと・・いやハルトは殺そうと思ってもそう簡単に殺せる相手じゃないけど。え? で、その浮気の相手って。」
ロウがガッツポーズを作った。いや、労せずして、フィオリナのチームはこれで崩壊・・・・じゃない!
「あの、すいません。大事な話というのは、ぼくとロウさんが付き合うとか付き合わないとかいう話でも、ありません。」
えっ?
なんだっけ?
と、言う顔をしたのは、さすがにロウ一人だった。
ベータは、口元に嫌な笑いを浮かべている。
フィオリナとベータの顔立ちは、確かに似通っていた。
もともとは、幼少期のフィオリナをモデルに、天才魔導師ボルテック卿が作り上げた魔道人形だ。
それを、カザリーム最高の魔導師アシット・クロムウェルが、グランダから人間として育てた。
その歳月が。
もともとそっくりのはずの、二人を分けている。
表情も体のラインも、ベータのほうが柔らかい。だが、それでもこんな表情を浮かべるときは、確かにこの2人は、同じ人間なのだと。
そう思える。
「面白い子を拾ったよね。」
「当たり前だ!
わたしは人を見る目はあるのだっ!」
「でもふられたよね?」
「恋愛というのは、フラれてから、はじまるのだっ!」
面倒みのいい真祖は、断言した。
「ともに語り、ともに歩くうちに、必ず振り向り向かせてみせる!」
「うまくいくの?」
あまりに楽観的なロウの発言に、ベータもさすがに呆れたように言った。
「あの、ロウさん。ぼくだって、いろい、なトラブルを抱えてる身なんです。あなたにご迷惑でもかかったりしないとも限らない。」
「安心しろ、わたしは不死身だ。」
ロウは胸をはる。確かに抜群な美人さんなのだが、自慢をはじめると途端にアホみたいに見えるのは何故だろう。
「そうだ。例えば突進してくる竜のまえに、立ちはだかって見せてやろうか?」
「いくら、吸血鬼でも死んじゃいますよ?」
「死なぬっ!
そこで決めゼリフ『ボクは死にましぇん!』だ。どうだ、惚れるだろう?」
「うーん、確かに、ぼくの付き合う相手はある程度、強いに越したことはないのですが。」
「よし、決まりだ!
今度、知り合いの黒竜に、頼んでみる。」
「そんな事しなくても。そこのアモンさんって、竜人ってことにしてるけど、本当は、人化した古竜でしょ?
ロウさん、お知り合いみたいだから、アモンさんに頼めば?」
「いいぞ、ロウ。」
ゆらっと、アモンが立ち上がる。
アウデリアのように、抜群の長身でも、ゴツイ筋肉に覆われてる訳でもない。
だが、床が。石畳が敷かれた床が、その1歩で放射上にひび割れた。
「ちょっと待て!」
引きつった顔で、ロウが振り向いた。
明らかにその表情は「たすけてくれ」だった。
「まあ、アモンさん。店を壊してしまったら、不味いですよ。」
「ここには・・・・閉鎖空間を展開するのが、特異なものは・・・・サノス、おまえはどうだ。」
老魔導師は、首を横にふった。
「十分な時間と準備があれば・・・・というとこです。」
ロウがほっと安心したように、ため息をついたのもつかの間・・・・・
「なら、仕方ないわたしがやろう。」
というアモンの言葉に、ロウは再び真っ青になった。
アモンが立ち上がる。右手をあげて、なんどか拳を開いたり、閉じたり。その手のひらの中に、渦巻く光が明滅する!
「ストップ! 今やるべきことを優先してください。」
アモンは、うむ、と頷いてあっさり引き下がった。
腰をおろし、飲み物のお替りを注文した。
「話がそれすぎです。まずは大事なことから話しましょう。」
「そ、そうだな。まず、婚約というのは人間同士がするものであって、わたしは人間ではないのだから、おまえに婚約者がいようがいまいが、わたしと付き合うことについては、どこから文句は出ないと思う。まあ、これは個人的な見解がわかれるとは、思うが、」
「個人的な見解すぎます。誰か賛成してくれるものがいますか?」
アモンが手をあげて、答えた。
「竜の見解だが、竜にとっての『婚姻』は、子育てのための一時的な番だ。子が卵から孵り、ひとりで餌をとれるようになるまで、20年はかかる。そのあいだは、子育てが番となったペアにとっては、最優先されるもので、その間に、それ以外の愉しみ、例えば、闘争や他の竜との恋愛などにうつつを抜かすようなことは、充分非難の対象となるな。」
「り、竜にまで否定されたっ・・・・」
「いや、もともと60年程度の寿命の中で、20年以上を子育てに割いてしまう人間のほうが歪なのだ。それでは、まるで、子供を産み育てるために、生をうけたようではないか。」
「そ、それはだから、」
ロウは助けをもとめるように、周りを見回して、フィオリナに目をとめた。パッと顔が輝く。
「どう? フィオリナなら、婚約者がいても好きな相手ができたら、取り敢えず、婚約者ほっといても行くよね?
まあ、ついでに婚約者をぶち殺そうと思うのは、やりすぎだと思うけど。」
これは、フィオリナにとっては、一番触れられたくない部分だった・・・・彼女だって反省することはあるのである。
“反省してるのなら、なぜカザリームくんだりまで押しかけてきたのか”
と、彼女の母なら言いそうだが。
「え? それって・・・どういう・・・フィオリナの婚約者ってハルト王子よねえ? それを殺そうと・・いやハルトは殺そうと思ってもそう簡単に殺せる相手じゃないけど。え? で、その浮気の相手って。」
ロウがガッツポーズを作った。いや、労せずして、フィオリナのチームはこれで崩壊・・・・じゃない!
「あの、すいません。大事な話というのは、ぼくとロウさんが付き合うとか付き合わないとかいう話でも、ありません。」
えっ?
なんだっけ?
と、言う顔をしたのは、さすがにロウ一人だった。
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