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第9部 道化師と世界の声
運営者たち
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アシュラムとエミリアは、真っ青になっていた。スタジアムへの動員もともかく、各地に設置された『鏡』でこれを観戦している者は、その数十倍くらいはいる。
しっかりとそちらもチケットをお買い求めいただいているし、どうような混乱が、世界中で起こっていると考えるだけで、バニックになりそうだった。
さらに。アシュラムの隣に置かれた宝珠が輝き、各地区の胴元から、今回の賭けをどう成立させたらよいのかの苦情が、続々と入り始めていた。
賭けは、パーティとしての勝敗はもちろん、誰と誰が対戦するかや、その個々の勝負、あるいは、死人がでるかどうかなど、さまざまなパターンで行なわれている。
まさか、そので優勝候補の筆頭である古竜たちのパーティが、出場辞退で戦わずして、『栄光の盾・魔王』の勝ち上がりが決まるとは!
こんなものに、賭けてるやつが…。
「当たったああぁぁぁっ!!」
正面の壁に、手に掴んだチケットを振り回す若者が映った。
観客のひとりらしい。貴族ではなさそうだったが、裕福そうな身なりをしていた。
「い、いっせんもたたかわないで、『栄光の盾・魔王』の勝利!
配当1万三千倍だあっ!」
なるほど。
アシュラムは、エミリアと視線を交わした。そういう風に賭けを設定した胴元がいるのなら、これもまた、あるべきひとつの姿なのだ。
頷いたエミリアは、目の前の『鏡』に手を触れた。それはご婦人たちが持ち歩くコンバクト程度の大きさで。
アキルがみたら「あ、スマホだ。」と言っただろう。
その鏡に光がともり、エミリアの姿が、会場の上空に設置された巨大な『鏡』に映しだされた。
「やほーっ! みんなあ!」
エリミアは、戦うためになんでも使う。
とくに棒術と並んで得意としているのが、己の美貌、だった。
騒然としたいた会場が、一瞬静まり、次の瞬間。
「えっみっりっあっちゃーん!!」
独特なイントネーションで、一斉にそう叫んだ者は、数百はくだらなかっただろう。
「今日はこのトーナメントに来てくれて、ありがとねーーっ。みんな愛してるよー!」
踊る道化師は、この半年で随分と名前を売っている。カザリームに来て直後の「踊る道化師トーナメント」の話などは、ついに舞台にまでなった。
リーダーのリウはもちろん、ドロシーやエミリア、ベータたち美形の少年少女や、筋肉男のクロウドにも固定のファンはついている。
「今日はね! 『沈黙』と一緒に会場に来てるんだっ! わたしたち、『踊る道化師』もいくつかのパーティに別れた参加してるから、応援してね!
これから次の試合の準備があるから、みんなお席にすわってよね?
暴れる子は、」
エミリアの手に、枷の着いた鎖が現れた。
「逮捕しちゃうぞつ!」
逮捕してーーっ!
という声は千を越えていた。
大画面が再び、切り替わる。
今度は、さきほど「栄光の盾・魔王」の先鋒として登場した水着の美女だった。
気品と野性味を両立させた美女は、胸の膨らみを強調するかのように、その下で腕組んでいる。
「あー…どうも、『踊る道化師』のアモンだ。ご覧の通り、」
アモンは片手を顔の前に上げた。
チラチラと光るうろこ状の力場。爪の先端は鋭く尖っていた。
「竜人だ。」
おおおっ。
会場がどよめく。
カザリームのものにとっては、『踊る道化師』に竜人の美女がいるとか、あるいはそれが、古竜ですら恐れる存在だ、ということは、噂でしか無かった。
だが、それがいま、目の前で証明されたのだ!
「あいつらは、全員試合放棄だそうた。
根性のない蜥蜴どものせいで、試合が成立しなかったのは、申し訳なく思う。
だが諸君!」
アモンは両手を広げた。
「スタジアムに、集まってくれた諸君。あるいは、遠い地で、『鏡』でこれを見ているもの達に、わたしは言いたい!
本当の戦いはこれからだっ!」
一体となった観客の声は地鳴りにも似て。
次の試合への期待は、否が応でも高まった。
すっかり、出番をなくしたウィルニアは、机に突っ伏していた。
その背中を、シャーリーがちょいちょいと、つついた。
「ほ。ほっといてくれっ!
もう帰る!」
「それは、困るよ。」
その声にウイルニアは、飛び上がった。
「る、ルトなのかっ …」
確かに目の前の少年はルトに、似ている。しかし。なにかわからない微妙な違和感があった。それを埋めるようにするり、と少年がささやいた。
「ぼくは、ルウエン。魔法士見習いです。」
あ、ああ。
と、シラケた風が、放送席に吹き渡った。
「なぜ、そのルウエンくんが」
惚けたように、ウィルニアは繰り返した。
ルウエンの手にポットとグラスが現れた。
まるで、魔法のようだったが、それは本当に魔法だったのかもしれない。
ポットは、水滴がついていた。
冷たい飲み物のようだった。
「ルトとリウからの差し入れです。
実況がんばってね、とのことです。」
ウィルニアの顔が紅潮した。
「わ、わたしは!」
なぜそれをこの少年に言うのか、分からないままに、ウィルニアは叫んだ。
「わたしは、ルトとリウに酷いことをした。そう言ってたと、伝えてくれないか。」
それは、直接どうぞ、とルウエン少年は首を傾げた。
「会ったらちゃんと言えない気がするんだ。
そもそも、わたしは自分のどこが悪かったのかよくわかっていない。
もともと、リウとフィオリナが浮気した挙句に、ルトを殺そうとしたんだから、どう考えてもあいつらがわるいだろ?」
それもまあ、そうなんだが。
と、ルウエンの仮面を被ったルトは、思った。
シャーリーを見ると、彼女は頷いた。
「リンド伯爵曰くは、出会った時からこうだったようです。つまり、賢者はそう呼ばれる前から賢者だったということです。」
「だがな。」
と、ウィルニアは続けた。
「あいつらの浮気騒動を、ああいう風に利用すべきじゃないのは、よくわかった。
だから、もうもう二度とそんなことはしないと誓う。
ルトとリウにそう伝えてくれないか。」
反省はしてるのかもしれないが、的外れだ。
と、ルウエンは思った。
それじゃあ、フィオリナが浮気してるのが前提みたいじゃないか。
しっかりとそちらもチケットをお買い求めいただいているし、どうような混乱が、世界中で起こっていると考えるだけで、バニックになりそうだった。
さらに。アシュラムの隣に置かれた宝珠が輝き、各地区の胴元から、今回の賭けをどう成立させたらよいのかの苦情が、続々と入り始めていた。
賭けは、パーティとしての勝敗はもちろん、誰と誰が対戦するかや、その個々の勝負、あるいは、死人がでるかどうかなど、さまざまなパターンで行なわれている。
まさか、そので優勝候補の筆頭である古竜たちのパーティが、出場辞退で戦わずして、『栄光の盾・魔王』の勝ち上がりが決まるとは!
こんなものに、賭けてるやつが…。
「当たったああぁぁぁっ!!」
正面の壁に、手に掴んだチケットを振り回す若者が映った。
観客のひとりらしい。貴族ではなさそうだったが、裕福そうな身なりをしていた。
「い、いっせんもたたかわないで、『栄光の盾・魔王』の勝利!
配当1万三千倍だあっ!」
なるほど。
アシュラムは、エミリアと視線を交わした。そういう風に賭けを設定した胴元がいるのなら、これもまた、あるべきひとつの姿なのだ。
頷いたエミリアは、目の前の『鏡』に手を触れた。それはご婦人たちが持ち歩くコンバクト程度の大きさで。
アキルがみたら「あ、スマホだ。」と言っただろう。
その鏡に光がともり、エミリアの姿が、会場の上空に設置された巨大な『鏡』に映しだされた。
「やほーっ! みんなあ!」
エリミアは、戦うためになんでも使う。
とくに棒術と並んで得意としているのが、己の美貌、だった。
騒然としたいた会場が、一瞬静まり、次の瞬間。
「えっみっりっあっちゃーん!!」
独特なイントネーションで、一斉にそう叫んだ者は、数百はくだらなかっただろう。
「今日はこのトーナメントに来てくれて、ありがとねーーっ。みんな愛してるよー!」
踊る道化師は、この半年で随分と名前を売っている。カザリームに来て直後の「踊る道化師トーナメント」の話などは、ついに舞台にまでなった。
リーダーのリウはもちろん、ドロシーやエミリア、ベータたち美形の少年少女や、筋肉男のクロウドにも固定のファンはついている。
「今日はね! 『沈黙』と一緒に会場に来てるんだっ! わたしたち、『踊る道化師』もいくつかのパーティに別れた参加してるから、応援してね!
これから次の試合の準備があるから、みんなお席にすわってよね?
暴れる子は、」
エミリアの手に、枷の着いた鎖が現れた。
「逮捕しちゃうぞつ!」
逮捕してーーっ!
という声は千を越えていた。
大画面が再び、切り替わる。
今度は、さきほど「栄光の盾・魔王」の先鋒として登場した水着の美女だった。
気品と野性味を両立させた美女は、胸の膨らみを強調するかのように、その下で腕組んでいる。
「あー…どうも、『踊る道化師』のアモンだ。ご覧の通り、」
アモンは片手を顔の前に上げた。
チラチラと光るうろこ状の力場。爪の先端は鋭く尖っていた。
「竜人だ。」
おおおっ。
会場がどよめく。
カザリームのものにとっては、『踊る道化師』に竜人の美女がいるとか、あるいはそれが、古竜ですら恐れる存在だ、ということは、噂でしか無かった。
だが、それがいま、目の前で証明されたのだ!
「あいつらは、全員試合放棄だそうた。
根性のない蜥蜴どものせいで、試合が成立しなかったのは、申し訳なく思う。
だが諸君!」
アモンは両手を広げた。
「スタジアムに、集まってくれた諸君。あるいは、遠い地で、『鏡』でこれを見ているもの達に、わたしは言いたい!
本当の戦いはこれからだっ!」
一体となった観客の声は地鳴りにも似て。
次の試合への期待は、否が応でも高まった。
すっかり、出番をなくしたウィルニアは、机に突っ伏していた。
その背中を、シャーリーがちょいちょいと、つついた。
「ほ。ほっといてくれっ!
もう帰る!」
「それは、困るよ。」
その声にウイルニアは、飛び上がった。
「る、ルトなのかっ …」
確かに目の前の少年はルトに、似ている。しかし。なにかわからない微妙な違和感があった。それを埋めるようにするり、と少年がささやいた。
「ぼくは、ルウエン。魔法士見習いです。」
あ、ああ。
と、シラケた風が、放送席に吹き渡った。
「なぜ、そのルウエンくんが」
惚けたように、ウィルニアは繰り返した。
ルウエンの手にポットとグラスが現れた。
まるで、魔法のようだったが、それは本当に魔法だったのかもしれない。
ポットは、水滴がついていた。
冷たい飲み物のようだった。
「ルトとリウからの差し入れです。
実況がんばってね、とのことです。」
ウィルニアの顔が紅潮した。
「わ、わたしは!」
なぜそれをこの少年に言うのか、分からないままに、ウィルニアは叫んだ。
「わたしは、ルトとリウに酷いことをした。そう言ってたと、伝えてくれないか。」
それは、直接どうぞ、とルウエン少年は首を傾げた。
「会ったらちゃんと言えない気がするんだ。
そもそも、わたしは自分のどこが悪かったのかよくわかっていない。
もともと、リウとフィオリナが浮気した挙句に、ルトを殺そうとしたんだから、どう考えてもあいつらがわるいだろ?」
それもまあ、そうなんだが。
と、ルウエンの仮面を被ったルトは、思った。
シャーリーを見ると、彼女は頷いた。
「リンド伯爵曰くは、出会った時からこうだったようです。つまり、賢者はそう呼ばれる前から賢者だったということです。」
「だがな。」
と、ウィルニアは続けた。
「あいつらの浮気騒動を、ああいう風に利用すべきじゃないのは、よくわかった。
だから、もうもう二度とそんなことはしないと誓う。
ルトとリウにそう伝えてくれないか。」
反省はしてるのかもしれないが、的外れだ。
と、ルウエンは思った。
それじゃあ、フィオリナが浮気してるのが前提みたいじゃないか。
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