あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

第2試合開始!

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「どこに行っていた?」
「真・栄光の盾」の待つ、円盤に戻ってきたぼくをアシットさんは、怖い顔で、問い詰めた。

「ウィルニアさんのところです。」
「何をしに?」
「陣中見舞いってやつです。ほら、最初の試合があんな感じだったんで、落ち込んでるかと思ったので。」
「知っているのか? あの賢者ウィルニアを名乗る男を。」

なんて、答えればいいのだろう。ぼくは、いま魔道士見習いのルウエンで、駆け出し冒険者のルトとは、別の人間ということになっている。

「あの『自称ウィルニア』の侍女と、ぼくは血が繋がってまして。」
嘘じゃないぞ。実際にシャーリーは、ぼくの血をすすり、そのために、ぼくとシャーリーには、主従関係が成り立ってしまっている。
「なるほど。ただの小僧ではないと思っていたが、ウィルニアの身内か。
どうせ、そのお主の姉とかいう侍女もふつうの存在ではあるまい。」
「ああ、別に姉ってほど近くもないんですが」
ぼくは、気軽に、少なくとも気軽にきこえるように答えた。
「昔むかし、ミトラの皇女で邪神に魂を捧げた罪で地下迷宮におとされ、アンデッド化したのがいましたよね。」
「黒き聖女シャーリーか?」
アシットさんは、気味悪そうな顔をした。

「カザリームでは、寝付きの悪い子どもをさらいに来る妖怪だな。」
「ウィルニアの侍女がそのシャーリーです。」

アシットさんは嫌な顔をした。
「じぶんの身内を妖怪に例えるのはゾッとしないが。」
「例えじゃなくて本人です。」

事実を淡々と述べるほどに、信用されなくなる。だが、アシットはぼくが信頼をどうしても得たい人物ではなかった。
なので、ぼくはなおさら、ていねいにしゃべった。

「いつもは、さっき『鏡』に映ったような地味なドレス姿ですが、本当は身の丈3メトルはある、黒い巨大な骸骨です。分身を作り出すことが得意で、大きな鎌を使います。これに切られると、なかなか回復が難しい。」

「アシット、アシット閣下。」
フィオリナが、呼びかけた。
こちらは、軽装の鎧。輝くばかりの姫騎士姿である。
「あんまり、ルウエンを虐めるのはおやめくださいな。」
「彼がどこに行っていたのか、問いただしていただけです、フィオリナ姫。」

アシットは唇を尖らせて、言い返した。どうも、彼もなかなかの人物なのだが、どうもフィオリナは苦手らしい。
ずっと、昔にフラれたくらいなら、青春の1ページなのだろうが、当時のフィオリナはまだ10歳で、フラれた16歳のアシットは、フィオリナを模して作られた魔道人形を盗んで、カザリームに逃げ帰り、そこで魔道人形をフィオリナと偽って、大事大事に育てたのだ。
そこまででも、随分、拗らせてるとは思うのだが、これから、結婚しようとした矢先に、突如現れた魔王に、フィオリナを寝盗られた。

「まあ、恋愛感情を魔法で植え付けるようなことをすると、そうなりますよね。」
ぼくの言葉に、アシットさんは、ギクリとしたように振り返った。

「おまえに…何がわかる。」
「魔道士見習いに、なにも分かりませんよ。」

“あれで魔道士見習いを名乗るなんて、いい根性よね。なんだかルトがひたすらに、駆け出し冒険者を名乗るのと被っててイラっとするわ。”
“いまのルトに会ったことがないので。あんな感じなの?”
“まるっきり、あんな感じ。”

「擬似的植え付けられた恋心は、どうもね。」
彼はぼくより年長で、魔法の達人である。
もし、ぼくもボルテック卿の弟子ならば、兄弟子に当たるわけだ。その彼に魔法のレクチャーはとっても、気が引ける。
「本来、その人物が恋すべき相手が、目前に現れた時は、それを止めることはできないんです。」

「それが、リウだというのか!」

なにしろ、ベータだって、フィオリナですからねえ。

これは口に出さなかったが。
アシットさんは、蒼白になった顔で頷いた。

「ならば、わたしがリウに勝る、と証明しよう、フィオリナは、それを見てからこの先のことを判断してもらいたい。」

どっちのフィオリナに話しかけたかは、定かにあらず。
だか、どちらのフィオリナと笑みを浮かべて頷いた。

こういうのは。
フィオリナは、嫌いじゃないはずだ。

「わたしが先鋒で出る。」

きっばりとそう言うと、アシットさんは、
ワンドや長剣、さまざまな護符を差し込んだベルトを装着し、上からマントを羽織った。

「アモンのマネをしても、絶士は、誰も恐れ入ってはくれないぞ?」
グルジエンが冷静に言った。
「それに、絶士の手の内がわからないから、先鋒はわたしが出ることになっていたのでは?」

待機場所の円盤は、ゆっくりと降下しつつある。試合をする両チームが乗った円盤が、地上につけば、そこで降りればいい。なにもカッコつけに飛び降りる必要すらないのだ。

「フィオリナにこの勝利を捧げたい。」
アシットさんは、きっぱりとそう言って、円盤から空中に身を踊らせた。

だから、地上に着いてから、降りればいいのに。
ぼくが呟くと、フィオリナも
「それにこれ、勝ち抜きじゃなくて五対五の総当りだから、アシットががんばって、結局一勝は一勝でしかないのよねえ。」

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