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第9部 道化師と世界の声
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アシットは、すべての「砲」を打ち尽くした。
これ以上威力のあるものは、使えない。会場を破壊したり、観客を傷つけてしまう恐れがある。
狙いをじっくりつける余裕もなかった。いずれにしても「砲」は、魔道によるコントロールなしでは、弾の飛ぶ方向を制御するのがやっと。20メトル離れた的に当てるのは実際のところ、至難の業であった。
だが、鉄の玉は、当れば一撃で体がひしゃげ、骨は砕ける。
これで。
これで、ナハムが倒せるとは思っていない。
一撃で体を打ち砕く鉄の玉?
それがなんだというのだ。相手は鉄道公社の絶士だぞ。
だが、要するに、だ。
ナハムにこちらが、接近戦を嫌っていると。そう思わせればこの場はいいのだ。
土煙が割れた。
飛び出してきた人影は、盾を構えている。
どこから出したのか、わからないが、全身をカバー出来る巨大な盾だった。
何ヶ所も凹みや大きなキズが出来ていた。
アシットの攻撃が、相手を捉えたことの、それが証だった。
アシットは、剣を振り回した。
剣の軌跡は、そのまま切断面となり、アシットを守る。
ここまでは、さっきまでの戦いでwおまえは見たはずだ。さあ、どうする?
突っ込んでくれば、そのまま両断されるぞ?
ナハムは構わずに突っ込んできた。
盾と、アシットの斬撃が噛み合い、火花を散らした。
舌打ちしながら、アシットはさらに後退する。
軌跡の斬撃は、あくまでも相手を斬り殺す対ためのもので、金属製の頑丈な防具にしては相性はよくない。
ガガガガっ
盾はひしゃけそうになりながらも抵抗を。続けていた。
さらに剣の軌跡を作り出そうとするアシット目がけて、ナハムは盾を投げつけた。
ほとんど、人の身長ほどもある金属製の盾。回転しながら飛んできたそれは、避けるしかない。
受け止めようとすれば、それだけで大ダメージは必至だ。
だがそのような大きなものを避けるためには、動く方向の選択肢は、限られる。
盾を一緒に、ナハムは飛んでいる。
アシットが作り出した切断の軌跡が、盾に削られて消滅していく。
さあ。
逃げる方向は、左だけだ。
盾は、アシットの左方向から回転ひながら迫ってくる。
下がることは意味がない。右方向では、盾の回転に巻き込まれる。
ナハムの肩がぐにゃりと。力を抜いてから、はめ直す。そこに加速が生まれる。
手首までの78の関節で同じことをする。
先端はもう、ムチとかわらない。
身体のどこに当たっても貫く。
その自信がナハルにはあった。
な!
アシットは、垂直に身を沈めながら、盾を下から蹴り飛ばした。
確かにそういう避け方はあるだろう。だがそれは、徒手の打撃系の格闘技の達人が行う動作であって。
アシットは、そのまま、地に手をついて、倒立の姿勢から、蹴りを打ち込んだ。
そのままでは、顎を撃ち抜かれていただろう一撃を、ナハルは辛うじてガードした。
くるりと起き上がったアシットは、そのまま剣で突きを放った。
これもかわしたが、ナハルの仮面に、ざっくりと大きな傷が残る。
とっさに後退しようとする体を、ナハルは懸命に押しとどめた。
ここは、自分の距離のハズだ。
相手は魔法士。確かに体術も非凡だが、所詮は付け焼き刃のハズ。
ナハルの腕は、伸縮したように伸び、あらぬ方向からの手刀を繰り出す。
それを巧みに避けつつ、ナハル目掛けて、突き出す剣筋は鋭い。
魔法士でもあり、剣士でもあり、体術の心得もある。
ナハルは、アシットをそう判断した。魔道については天才というべき、いずれは当代を代表する魔導師のひとりとなるだろう、というのが、保安局情報部からの伝達であった。
だから、殺すな。殺してはならないが、屈服させろ。一度は「絶士」の恐ろしさを叩き込むのだ。カザリームには、まだ、鉄道を通す時期ではない。
それは、山脈をつらぬき、数万メトルのトンネルを通す技術が確率してからになる。
おそらく、それは十数年後にはなるだろう。そのとき交渉の表にたつのが、アシット・クロムウェルだ。
だがら、いまはアシットに屈辱を味あわせておくのだ。
そのときにアシットが、判断を謝るように。
絶士には珍しくないいわゆる戦闘狂であるナハルには、大きなお世話だった。
だが、これも「仕事」だ。
ナハルは、踏み込みざまに、アシットの剣をもつ手を払った。
アシットの剣が、その手をはなれて地面におちる。
これで。
なに?
アシットの拳が、ナハルの腹をえぐった。息が詰まる。前かがみになったナハルの顎を、アシットの膝が蹴り上げた。のけぞったところに、立て続けに、パンチをもらう。頭がグラグラと揺れた。
わざと・・・・か。
わざと剣をちらつかせて、それを手放すことで、一瞬、注意をそちらにむけさせておいて。
だが。
徒手の格闘技は、ナハルのフィールドだ。
続く攻撃は、しっかりとガードした。
息を整えながら、音速の手刀を繰り出す。
見えない攻撃を、アシットはかわした。
おそらく。
肩の動きから、手刀の軌道をよんでいる。
一方で、アシットの攻撃もナハルには当たらない。
おおおおおおっ。
大観衆がどよめいた。
こんな戦いを彼らは、見たかったのだ。
「おおっと! 互いの打撃をよんでいる! これは膠着状態か? どう見ますか、ウィルニアさん。」
「うむむ。基礎体力は、絶士ナハルが上でしょう。アシット・クロムウェルも魔法、剣、打撃、すべてが高レベルなのですが、基本的に戦いにおいては、経験値がものをいいます。絶士は、鉄道公社保安部の精鋭中の精鋭。
このままでは、体力、集中力がきれた瞬間に、アシットが打倒される。そんな予想しかできません。そしてそれは、長くて数分後になるでしょう。」
いつものトーガに着替えたウィルニアが、したり顔で解説する。こちらもいかにも敬虔な聖女らしいローブ姿になったシャーリーは、さらに問うた。
「つまり、アシットにはもはや打つ手なし?と。ナハルの勝ちは揺るがない?」
「会場内で使える規模の魔法では、ナハルは打ち倒せないとみて、接近戦をナハルから仕掛けさせた。ここまではよかったのですが・・・・。
徒手の打撃においても、ナハルのほうが上でした。」
「打、で勝てないなら『極』はいかがでしょう? カザリームの徒手格闘技は、いまはどうか知りませんが、わたしの若い自分には、殴る蹴るは前哨戦で、そこからの関節技に重きをおいていたような気がします。」
「その通りなのですが・・・・ナハルの手足は、無数の関節をもつ義体なのです。関節技は効きません。」
アシットさまっ!
ウィルニアの解説に説得力を感じたのだろう。観客からそんな声があがる。
たちまちそれは、声を揃えての大声援となった。
これ以上威力のあるものは、使えない。会場を破壊したり、観客を傷つけてしまう恐れがある。
狙いをじっくりつける余裕もなかった。いずれにしても「砲」は、魔道によるコントロールなしでは、弾の飛ぶ方向を制御するのがやっと。20メトル離れた的に当てるのは実際のところ、至難の業であった。
だが、鉄の玉は、当れば一撃で体がひしゃげ、骨は砕ける。
これで。
これで、ナハムが倒せるとは思っていない。
一撃で体を打ち砕く鉄の玉?
それがなんだというのだ。相手は鉄道公社の絶士だぞ。
だが、要するに、だ。
ナハムにこちらが、接近戦を嫌っていると。そう思わせればこの場はいいのだ。
土煙が割れた。
飛び出してきた人影は、盾を構えている。
どこから出したのか、わからないが、全身をカバー出来る巨大な盾だった。
何ヶ所も凹みや大きなキズが出来ていた。
アシットの攻撃が、相手を捉えたことの、それが証だった。
アシットは、剣を振り回した。
剣の軌跡は、そのまま切断面となり、アシットを守る。
ここまでは、さっきまでの戦いでwおまえは見たはずだ。さあ、どうする?
突っ込んでくれば、そのまま両断されるぞ?
ナハムは構わずに突っ込んできた。
盾と、アシットの斬撃が噛み合い、火花を散らした。
舌打ちしながら、アシットはさらに後退する。
軌跡の斬撃は、あくまでも相手を斬り殺す対ためのもので、金属製の頑丈な防具にしては相性はよくない。
ガガガガっ
盾はひしゃけそうになりながらも抵抗を。続けていた。
さらに剣の軌跡を作り出そうとするアシット目がけて、ナハムは盾を投げつけた。
ほとんど、人の身長ほどもある金属製の盾。回転しながら飛んできたそれは、避けるしかない。
受け止めようとすれば、それだけで大ダメージは必至だ。
だがそのような大きなものを避けるためには、動く方向の選択肢は、限られる。
盾を一緒に、ナハムは飛んでいる。
アシットが作り出した切断の軌跡が、盾に削られて消滅していく。
さあ。
逃げる方向は、左だけだ。
盾は、アシットの左方向から回転ひながら迫ってくる。
下がることは意味がない。右方向では、盾の回転に巻き込まれる。
ナハムの肩がぐにゃりと。力を抜いてから、はめ直す。そこに加速が生まれる。
手首までの78の関節で同じことをする。
先端はもう、ムチとかわらない。
身体のどこに当たっても貫く。
その自信がナハルにはあった。
な!
アシットは、垂直に身を沈めながら、盾を下から蹴り飛ばした。
確かにそういう避け方はあるだろう。だがそれは、徒手の打撃系の格闘技の達人が行う動作であって。
アシットは、そのまま、地に手をついて、倒立の姿勢から、蹴りを打ち込んだ。
そのままでは、顎を撃ち抜かれていただろう一撃を、ナハルは辛うじてガードした。
くるりと起き上がったアシットは、そのまま剣で突きを放った。
これもかわしたが、ナハルの仮面に、ざっくりと大きな傷が残る。
とっさに後退しようとする体を、ナハルは懸命に押しとどめた。
ここは、自分の距離のハズだ。
相手は魔法士。確かに体術も非凡だが、所詮は付け焼き刃のハズ。
ナハルの腕は、伸縮したように伸び、あらぬ方向からの手刀を繰り出す。
それを巧みに避けつつ、ナハル目掛けて、突き出す剣筋は鋭い。
魔法士でもあり、剣士でもあり、体術の心得もある。
ナハルは、アシットをそう判断した。魔道については天才というべき、いずれは当代を代表する魔導師のひとりとなるだろう、というのが、保安局情報部からの伝達であった。
だから、殺すな。殺してはならないが、屈服させろ。一度は「絶士」の恐ろしさを叩き込むのだ。カザリームには、まだ、鉄道を通す時期ではない。
それは、山脈をつらぬき、数万メトルのトンネルを通す技術が確率してからになる。
おそらく、それは十数年後にはなるだろう。そのとき交渉の表にたつのが、アシット・クロムウェルだ。
だがら、いまはアシットに屈辱を味あわせておくのだ。
そのときにアシットが、判断を謝るように。
絶士には珍しくないいわゆる戦闘狂であるナハルには、大きなお世話だった。
だが、これも「仕事」だ。
ナハルは、踏み込みざまに、アシットの剣をもつ手を払った。
アシットの剣が、その手をはなれて地面におちる。
これで。
なに?
アシットの拳が、ナハルの腹をえぐった。息が詰まる。前かがみになったナハルの顎を、アシットの膝が蹴り上げた。のけぞったところに、立て続けに、パンチをもらう。頭がグラグラと揺れた。
わざと・・・・か。
わざと剣をちらつかせて、それを手放すことで、一瞬、注意をそちらにむけさせておいて。
だが。
徒手の格闘技は、ナハルのフィールドだ。
続く攻撃は、しっかりとガードした。
息を整えながら、音速の手刀を繰り出す。
見えない攻撃を、アシットはかわした。
おそらく。
肩の動きから、手刀の軌道をよんでいる。
一方で、アシットの攻撃もナハルには当たらない。
おおおおおおっ。
大観衆がどよめいた。
こんな戦いを彼らは、見たかったのだ。
「おおっと! 互いの打撃をよんでいる! これは膠着状態か? どう見ますか、ウィルニアさん。」
「うむむ。基礎体力は、絶士ナハルが上でしょう。アシット・クロムウェルも魔法、剣、打撃、すべてが高レベルなのですが、基本的に戦いにおいては、経験値がものをいいます。絶士は、鉄道公社保安部の精鋭中の精鋭。
このままでは、体力、集中力がきれた瞬間に、アシットが打倒される。そんな予想しかできません。そしてそれは、長くて数分後になるでしょう。」
いつものトーガに着替えたウィルニアが、したり顔で解説する。こちらもいかにも敬虔な聖女らしいローブ姿になったシャーリーは、さらに問うた。
「つまり、アシットにはもはや打つ手なし?と。ナハルの勝ちは揺るがない?」
「会場内で使える規模の魔法では、ナハルは打ち倒せないとみて、接近戦をナハルから仕掛けさせた。ここまではよかったのですが・・・・。
徒手の打撃においても、ナハルのほうが上でした。」
「打、で勝てないなら『極』はいかがでしょう? カザリームの徒手格闘技は、いまはどうか知りませんが、わたしの若い自分には、殴る蹴るは前哨戦で、そこからの関節技に重きをおいていたような気がします。」
「その通りなのですが・・・・ナハルの手足は、無数の関節をもつ義体なのです。関節技は効きません。」
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