あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

義体士の誤算

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「実力は、どうもナハルさんのほうが上、ですね。」
ぼくは、アシットさまコールをはじめた場内を見回しながら、呟いた。

アシットさま!
アシットさま!
アシットさま!!

「人気があるのよ、あの人。」
ベーダが呟いた。
「留学をやめて、意に沿わない相手と結婚させられそうになっていた貴族の娘と駆け落ち。そのあと、大切に彼女を養育して、」
「いよいよ、結婚しようという矢先に、娘はほかの男に走ってしまった、と?」
「ろまんちっくじゃない?」
「現実には当の本人には相手にされず、本人を模した人形を盗み出して、ご帰国。少女愛、人形愛、それにNTR。どこからつっこんでいいか分からないくらいいろんな属性が入り交じってるな。」

「ずいぶん、仲がいいのね。」
フィオリナが割って入る。
「あなたに遠慮して、リウを訪ねるのは我慢してるんだけど、そういうことなら・・・」

おまえは、リウと浮気の続きをしにきたんじゃなくて、リウを銀灰皇国に連れてくるのが役目なんだけどな!

ぼくは心の中でつぶやいた。

「いいの? 婚約者のルトがきいたら、泣いちゃうよ?」
「まあ、泣く。」
フィオリナはむずかしい顔で頷いた。
「だか、しっかり仕返しもされる。」
「あの、優しいハルトが?」

ベーダもぼくが九つのときまでの記憶は持っているのだ。

「わたしはな! 性的に不能にされたんだっ!!!」

ちょっと、何言ってんのかわからない。

フィオリナ並に聡明なベーダも、この発言には面食らったようだった。

「つまりだな。」
さすがに顔を赤くして、フィオリナは「リウと交渉をもつときに、あいつは女の子になって、わたしを男にしたんだ。」

「なにゆえ!?」

うん、そこはぼくも聞きたかった。

「それなら、浮気にならない。」

「んなわけあるかっ」(×4)。

もともと、「性」が20種類くらいある種族のグルジエンにまで、言われてたから、やっばりフィオリナは変だ。

「わたしは、ほんとにのぼせていてな。」
遠い昔を懐古するよう目で、フィオリナは空を見上げた。そんなに昔じゃないし、そもそも下では、アシットくんがきみらにいいとこ見せようと奮戦中なんだ。雲を数えるのは止めろ!

「もう、すっかりリウと番になるつもりでいた。ルトも別に嫌いじゃないので、小姓にして、傍に置いてはやろうかと。で、立場を分からせるために少し痛めつけてやったんだ。そしたら」

「自分のアレが使い物にならなくなってた、と。」
若干、引き気味のベーダである。
自分自身に、引かれるなよ、フィオリナ。

「で、今度浮気したらいったんどんなお仕置をされるのかと・・・想像すると・・・」
自分を抱きしめるように、両肩を抱かえて、フィオリナは身震いした。
「怖いし、でもそれはルトのわたしへの愛情の裏返しだから楽しみな一面もあって」

「そこまでこじらせてるんかいっ!」(×4)。

真下の闘技場では、アシットくんとナハルさんの戦いが、大詰めを迎えていた。

互角の打ち合いから、じりじりとアシットくんは追い込まれつつある。まだ、ナハルさんのムチのようにしなる打撃は、一発もくらっていない。
ナハルさんの動きのおこりを見抜いて、その打撃をかわし続けているのだ。
逆に言えば、一撃入れられたら、そこで終わる。
そんな威力のある打撃を、ナハルさんは自在に曲がる腕で、ありえない角度から放ってくる。

それをかわせてるのだから、何だかんだ、拗らせてても、さすがはアシットさんだ。

この間に、ナハルに攻撃を当てて少しでもダメージを蓄積できれば。
だが、最初の数発を当てて以降、アシットさんもまた、ナハルさんに有効な打撃を与えられないでいる。

このままでは、ウィルニアの言う通り、いずれは。

ガクン!
ナハルさんの顔が仰け反った。
どこからの打撃?
蹴りは使っていないし、その前の左右の連撃は、ナハルさんは間違いなくかわしていた。

その、徒手の格闘士としては、華奢な体が、見えない打撃をうけて、吹っ飛ぶ。

「奥の手、と言うやつだな。」
アシットさんは、背中から、第三の腕が生えていた。マントの下になにかの装置を背負っているのか、あるいは。
「絶義体士、というそうだな。」

倒れたナハルさんに、アシットさんはゆっくりと、近づく。
「だが、義体士としては、わたしも専門でなあ。こんなふうに体内に隠し腕を仕込むことなど容易いのだ。」

それは。
人間の腕のように、に見えた。
アシットさんの肩口から、生えている。

だが、それはこの距離では辛うじてなにかがあると、わかるもの。
半透明の素材で作られていた。

これでは、対戦している相手には見きれない。

ナハルさんが体を起こした。
仮面が割れている。
顔には無数の線上の刺青が、走っていた。どこかの民族で罪の証として、そういうことをするのだ、と聞いたことがある。

額と、唇が切れて、血が流れていた。

「これはすごい! 素晴らしい!
ナハルに血を流させるなど!」
ランスが、興奮したように囀った。もっとも小鳥の表情などよく分からなかったのだが。

「ああ、アシットは強い。」
グルジエンも言った。
「これは将来、叩き潰すのではなく、正当な交渉相手とすることを、『絶士』グルジエンは提言する。」
「絶士ランス、しかと受け取った。」

小鳥は、忙しく、周りを羽ばたいた。

「局長にはそのように伝えよう。わたしも同意見だ。」

ナハルは、立ち上がった。
ダメージは大きい。目も虚ろだったし、足元もふらついていた。

「我が奥義にて葬ろう。」
アシットさんがそんなことを言ったのは、ただの演出だと思いたい。
奥義なんて、初見だから意味があるのだ。こんな観衆の前で、しかも史上初の中継までしちゃってる状態で出すものではない。

「霞三連」
呟いたアシットさんの体がぶれた。
そう見えたほどの高速の踏み込み。
だが、ナハルさんはそれに対応した。

左の突きは、右手でキャッチ。右の突きは左手でキャッチしている。
そした、義体の腕による三撃めは。

背中から持ち上がった三本めの腕がガードしていた。

「お、おまえも、か!」
「絶『義体』士。」

それだけ呟いたナハルさんの、四本めの腕が、アシットくんを地面に打ち倒していた。
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