あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

妖惨流鋼糸

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「うまいことを言うな。」
フィオリナが、ルウエンの隣に立った。
「出自が何者であろうと、私はアレを生きていると感じた。そして、気に入った。
それがすべてだ。
リウにとっても同様だろう。
気に入ったら自分の好きにする、己の欲を通す。それが、わたしたちだ。」

よくわかってらっしゃる。
ルウエンは、心の中で嘆息した。

「だが、ルトは違う。同等以上の力を持ちながら、わたしのような困った人間のために、東奔西走して、この世が傷つかないように、わたしが自壊しないように、常に気を使ってくれる。」

フィオリナは、少し腰を落として、少年の目をまっすぐに見つめた。
「ルウエン。おまえはルトに似ている。きっと。
だから、おまえも我らとともに来い。」
「踊る道化師、への勧誘ですか?」
「わたしとリウには、ルトがいる。ベータのために誰かが必要だ。」

アシットは、そのまま治療のために、運ばれて、戻ってこない。

人数の減った円盤の上は、ルウエン=ルトにとっては、この半年、つい先日まで一緒に行動していた面子である。

ルウエンは、試合場を見つめた。
ベータは、相変わらずのツナギ姿だ。フィオリナそっくりの美貌(当たり前だが)なのだから、何を着たって似合うんのだろうに。

対する相手は、遠目にもわかるイケメン、美丈夫だ。両方の腰に剣。背中にも剣を背負っている。
腕組みをして、ベータをみつめるその表情は、冷徹で、なにかの感情を読み取れるものではなさそうだった。
異世界の竜族であるグルジエンの力から判断しても、絶士のレベルの高さはそうとうのものだと思ってはいたが、これほどとは。

「最悪の場合でも、わたしとグルジエン、おまえで3勝だ。」
そう、言ってから、フィオリナは、顔をしかめて、続けた。
「違うな。どうもおまえがいると、ルトと一緒にいるように錯覚してしまう。」

「ベータさんの力はどんなものなのですか? 実際。」
「さっきも言った通り、わたしは、あれが、アシットと、乳くりあっていた間もずっと、ルトと鍛錬を続けてきた。
その差がででいる。つまり」
「どちらが人間として幸せだったかは、別問題だぞ、主。」
グルジエンが、口を挟んだ。

フィオリナは、黙り込んだ。

「指導したのが、アシットさんだったので、実際の戦闘で矢面にたつよりよ、いろんな魔道具の開発や運用に向いてるように思います。」
ルウエンは、言った。
「どこらが優れているとか、優劣を競ってみたところで、いったん『身内』として、みとめてしまった以上、ひとつの個性としてうけいれるしかありませんよね。」


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「盛り込み過ぎだなあ、ウィルニアは。」
勇者クロノ率いる『愚者の盾』の面々は、浮遊する円盤のひとつに乗って、上空で待機させられている。

アウデリアは、あぐらをかいて、どこから持ち込んだのか、琥珀色の酒をちびちび飲みながら、文句の言いっぱなしだ。最初の試合「栄光の盾・竜」が、戦いもせずに負けを認めて引き下がったときも一番先にブーイングをしたのが彼女だった。
「盛り込み過ぎ・・・・でしょうか?」

お相伴しているのは、ひとのいいドロシーである。格好は、ギムリウスのボディスーツは、それだけだとあまりにも扇情的なので、上からマントを羽織っている。彼女自身は、一口も酒には口をつけてはいないが、バッグに持ち込んだ乾きもので、簡単な肴をつくったり、酌をしたりと甲斐甲斐しい。

「盛り込み・・・・の原因のひとつは、おぬしにも責任があるのだぞ、ドロシー。」
そう、言われて、ドロシーは、首をかしげた。
「わたしが、なにか?」

「このトーナメントはな!
もともと、カザリームという西域からみれば、僻地の都市国家の一冒険者ギルドが、儲けのためにはじめたものだ。前回お主らが『踊る道化師トーナメント』で盛り上げててみせたので、味をしめたんだろう。
もともと、それはこの街の中で終わるイベントだった。ただ、『栄光の盾』という初代勇者パーティの名前を賭けたものになったせいで、おそらくはあとから教皇庁から、お叱りと贖罪のための喜捨をもとめられて、利益の大半はもっていかれただろうがな。
それを避けるために、わたしたち『愚者の盾』を参加させたのは、それだけみれば、妙案だ。
だがな。そのためにこの大会は西域全体から注目されるものに、なってしまった。なにより、あのウィルニアに目をつけられる羽目になってしまった。
この結果がこれだ。有史始まって以来の同時配信。」

「アキルから、少し話はきいたことがあります。」
ドロシーは、言った。ドロシーとしては、「楽しそう」だという印象しかない。

「せめてそれだけなら、な。」
アウデリアは、杯を飲み干して、トンと床においた。
ドロシーが、酒を注ぎなおす。
「たとえば、この円盤だ。このスタジアムの内側という限定空間でしか動かせないようなら、移動手段としては難しいかもしれないが、たとえば、攻城戦への投入はどうだ?」

クロノとジウル、ヨウィスは、無視をつらぬいていて。酔っ払ったアウデリアに好んで話しかけられるのは、クローディア大公とルトくらいのものだ。

フードを深く被って、うつむいたヨウィスが、顔をあげた。

むう。
と、不満そうな声をもらす。

「妖惨流鋼糸使いのハウルだ。」
ヨウィスが吐き捨てた。

「知っているのか、ヨウィス!」

アウデリアが、ゆるりと立ち上がった。
大柄ではある。筋骨たくましいが、一人の人間の女性には違いない。だが、それは聳える山脈が動き出したように、感じられた。

『愚者の盾』を乗せた円盤が、ぐらりと傾いた。
アウデリア一人の重みに、耐えかねたように、傾いたまま、試合場へと落下をはじめる。

「面白いぞ! 異端の糸使いハウルに、あれが、フィオリナをモデルにした魔道人形か。」
アウデリアは哄笑する。
「剣と・・・・魔道具をよく使う、というのだな。ドロシー。」
「はい、そのとおりです。アウデリアさま。」
「実にいい。この目で確かめさせてもらおう。」

ウィルニアがコントロールしているはずの円盤は、ずるずると落下していく。
立っているのが、難しい角度になったその縁から、アウデリアが身を躍らせた!


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