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第9部 道化師と世界の声
再会! 母よ
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会場に集まった大観衆も、それを中継されて、「視聴」しているさらに多くの人たちも、なにが起きたのかわからなかった。
なにか、が。
それもとんでもない質量のものが落ちてきた。
わかったのは、それだけだ。
着地の衝撃は、地を割り、あがった土煙は、アシットの砲撃魔法の比ではない。
「こ、これは。乱入か!」
ウィイニアは叫んだ。
「『愚者の盾』のアウデリアさまです。」
シャーリーは、冷静に解説した。
「第4試合に登場のご予定でしたが、待ちきれない状況が出来たようですね。」
歴戦の猛者であり、アウデリアの評価は、西域ではかなり高い。
聖光教会が認めた勇者であるクロノは、その実力は定かならず。当代最高の魔術師の一人と名高いボルテック卿は行方不明であり、替わりはそのヒヒマゴを名乗る拳士だ。
さらにそのひとりであったフィオリナ姫も離脱して、「真・栄光の盾」に参加してしまっていたが、これは「踊る道化師」の中心である「銀雷の魔女」ドロシーが加わったことで、十分相殺できたと解釈されていた。
「何をする気なんです!」
アウデリアが飛び降りたことで、安定を取り戻した円盤上からドロシーは、叫んだ。
「遊ぶだけだ。」
土煙の中から、声がした。
土煙が急速に晴れていく。
ウィルニアが、シャーリーを見上げた。操作する文字盤は、確か撮影機や音声の増幅を制御するものだったが、いくつか見慣れないスイッが加わっていた。
「こんなこともあろうかと! コスモエアクリーナーを開発しておいてよかった。」
「アウデリア様としては、土煙の中でケリをつけてしまいたかったと、思いますね。」
「こんな楽しい見せ物を、こっそりた片付けられてたまるもんか。」
ベータは、その女をよく知っている。
たまにしか、家に帰ってこなかったし、ベータを構ってくれる事は、さらに少なかったが、その声も顔も。頭を撫でてくれた大きな手もよく、覚えている。
腰に手を当て、ベータの顔を覗き込むように、する。そのオレンジのざんばらの髪が急にぼやけたとような気がして、ベータは、目を拭った。
濡れている。いや、ボルテック卿は、あるいはアシット・クロムウェルは優秀だ。
自分は泣くことさえできる。
「おか‥‥あ、さん。」
女偉丈夫は、驚いたように、ベータを見返したあと、その体を抱きしめた。
「おかあさん、おかあさん、おかあさん。」
ベータは泣きじゃくった。
その胸に顔を埋めて。
--------------------
「あの女に、母親と呼ぶなんて! わたしのコピーにあるまじき行いだ。」
「きみが、捻くれたのは主に思春期らしい。」
ルウエンが、隣に腰かけたフィオリナに話しかけた。
「少なくとも、むかしは、きみはアウデリアさまにそれなりに懐いていたはずだ。」
「見てきたように言うのね?」
「いまのベータの反応を見ればわかるよ。」
--------------------
「なんということだ!」
ウィルニアが大袈裟に叫んだ。
「我らの戦士ベータ・グランダは、一部で噂されていた通り、クローディア大公国のフィオリナ姫だったのか。ならば、この度、フィオリナを名乗って参戦してきた女はいったい、何者なんだあっ!」
--------------------
カザリームの観戦者たちは、この展開に大いに盛り上がった。
アシット・クロムウェルが、留学先からう連れ帰ったのが、グランダ高位貴族の娘であることは、公然の秘密であり、それがクローディア家の公女であったとの噂も囁かれていた。
それが、真実として突きつけられたのだ。
だが、この展開は、カザリーム以外の視聴者には、蚊帳の外、であった。
「なにがどうなっている?」
アライアス侯爵は、小姓に尋ねた。
可愛らしい顔をいした小姓は、すらすらと答えた。
アレは、フィオリナを模して作られた魔道人形であり、記憶もそれが作られた7年前までは、フィオリナと同じものを持っている。
「つまり、アレは7年ぶりの親子の再会であり、ベータにしてみれば、家を裏切って飛び出してしまった負い目もあるのでしょう。感情的にはこらえられないものが、あるのだと思います。」
「対したものだな!」
文明社会から途絶した亜人の村落で育ったにしては、随分と人情の機微に通じるものだ、と、アライアス侯爵は素直に感心した。
「一般常識で習いましたから。」
というのが神獣ギムリウスの答えだった。
--------------------
それは、充分、感動できる場面であると同時に、国家のそれなりの地位にあるものたちには、今後のカザリームとクローディア大公国の関係に悩ましい事項が一つ加わったのに間違いなかった。
もちろん、それでおさまらないものもいた。
例えば、ベータの対戦相手だった絶士ハウルがそうだ。
「『真・栄光の盾』は、戦う気はなさそうだ。」
彼は、声を張り上げた。
「こちらの不戦勝でよいか。」
「そうだな。それで構わんぞ。」
アウデリアは、突然に降って湧いた母親業に狼狽えている。ベータの頭をなでてやり、おかあさんおかあさん、と呼びたびに、フィオリナの名を呼んでやる。
だから、この返事も上の空だったし、本来アウデリアが決めていいことではない。
「『栄光の盾・絶』連勝だ!!」
実況アナウンスが響き渡った。
「さあ、これで『真・栄光の盾』にはあとがなくなったあっ!
さあ、どうする。次は誰が出る?」
やれやれ、と言った顔で、踵をかえしたハウルの目の前に、ぬっと太い腕が突き出された。
鍛え上げた戦士の腕だ。
見上げたハウルの目前で、アウデリアが笑っていた。白い犬歯が牙に見えた。
「勝ちはそちらでいいが、少し運動に付き合ってもらおうか。」
アウデリアが言った。
「おまえもなにもしないで帰るのは、先ほどの古竜どもと一緒で心残りだろう。わたしと遊んでいけ。」
なにか、が。
それもとんでもない質量のものが落ちてきた。
わかったのは、それだけだ。
着地の衝撃は、地を割り、あがった土煙は、アシットの砲撃魔法の比ではない。
「こ、これは。乱入か!」
ウィイニアは叫んだ。
「『愚者の盾』のアウデリアさまです。」
シャーリーは、冷静に解説した。
「第4試合に登場のご予定でしたが、待ちきれない状況が出来たようですね。」
歴戦の猛者であり、アウデリアの評価は、西域ではかなり高い。
聖光教会が認めた勇者であるクロノは、その実力は定かならず。当代最高の魔術師の一人と名高いボルテック卿は行方不明であり、替わりはそのヒヒマゴを名乗る拳士だ。
さらにそのひとりであったフィオリナ姫も離脱して、「真・栄光の盾」に参加してしまっていたが、これは「踊る道化師」の中心である「銀雷の魔女」ドロシーが加わったことで、十分相殺できたと解釈されていた。
「何をする気なんです!」
アウデリアが飛び降りたことで、安定を取り戻した円盤上からドロシーは、叫んだ。
「遊ぶだけだ。」
土煙の中から、声がした。
土煙が急速に晴れていく。
ウィルニアが、シャーリーを見上げた。操作する文字盤は、確か撮影機や音声の増幅を制御するものだったが、いくつか見慣れないスイッが加わっていた。
「こんなこともあろうかと! コスモエアクリーナーを開発しておいてよかった。」
「アウデリア様としては、土煙の中でケリをつけてしまいたかったと、思いますね。」
「こんな楽しい見せ物を、こっそりた片付けられてたまるもんか。」
ベータは、その女をよく知っている。
たまにしか、家に帰ってこなかったし、ベータを構ってくれる事は、さらに少なかったが、その声も顔も。頭を撫でてくれた大きな手もよく、覚えている。
腰に手を当て、ベータの顔を覗き込むように、する。そのオレンジのざんばらの髪が急にぼやけたとような気がして、ベータは、目を拭った。
濡れている。いや、ボルテック卿は、あるいはアシット・クロムウェルは優秀だ。
自分は泣くことさえできる。
「おか‥‥あ、さん。」
女偉丈夫は、驚いたように、ベータを見返したあと、その体を抱きしめた。
「おかあさん、おかあさん、おかあさん。」
ベータは泣きじゃくった。
その胸に顔を埋めて。
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「あの女に、母親と呼ぶなんて! わたしのコピーにあるまじき行いだ。」
「きみが、捻くれたのは主に思春期らしい。」
ルウエンが、隣に腰かけたフィオリナに話しかけた。
「少なくとも、むかしは、きみはアウデリアさまにそれなりに懐いていたはずだ。」
「見てきたように言うのね?」
「いまのベータの反応を見ればわかるよ。」
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「なんということだ!」
ウィルニアが大袈裟に叫んだ。
「我らの戦士ベータ・グランダは、一部で噂されていた通り、クローディア大公国のフィオリナ姫だったのか。ならば、この度、フィオリナを名乗って参戦してきた女はいったい、何者なんだあっ!」
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カザリームの観戦者たちは、この展開に大いに盛り上がった。
アシット・クロムウェルが、留学先からう連れ帰ったのが、グランダ高位貴族の娘であることは、公然の秘密であり、それがクローディア家の公女であったとの噂も囁かれていた。
それが、真実として突きつけられたのだ。
だが、この展開は、カザリーム以外の視聴者には、蚊帳の外、であった。
「なにがどうなっている?」
アライアス侯爵は、小姓に尋ねた。
可愛らしい顔をいした小姓は、すらすらと答えた。
アレは、フィオリナを模して作られた魔道人形であり、記憶もそれが作られた7年前までは、フィオリナと同じものを持っている。
「つまり、アレは7年ぶりの親子の再会であり、ベータにしてみれば、家を裏切って飛び出してしまった負い目もあるのでしょう。感情的にはこらえられないものが、あるのだと思います。」
「対したものだな!」
文明社会から途絶した亜人の村落で育ったにしては、随分と人情の機微に通じるものだ、と、アライアス侯爵は素直に感心した。
「一般常識で習いましたから。」
というのが神獣ギムリウスの答えだった。
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それは、充分、感動できる場面であると同時に、国家のそれなりの地位にあるものたちには、今後のカザリームとクローディア大公国の関係に悩ましい事項が一つ加わったのに間違いなかった。
もちろん、それでおさまらないものもいた。
例えば、ベータの対戦相手だった絶士ハウルがそうだ。
「『真・栄光の盾』は、戦う気はなさそうだ。」
彼は、声を張り上げた。
「こちらの不戦勝でよいか。」
「そうだな。それで構わんぞ。」
アウデリアは、突然に降って湧いた母親業に狼狽えている。ベータの頭をなでてやり、おかあさんおかあさん、と呼びたびに、フィオリナの名を呼んでやる。
だから、この返事も上の空だったし、本来アウデリアが決めていいことではない。
「『栄光の盾・絶』連勝だ!!」
実況アナウンスが響き渡った。
「さあ、これで『真・栄光の盾』にはあとがなくなったあっ!
さあ、どうする。次は誰が出る?」
やれやれ、と言った顔で、踵をかえしたハウルの目の前に、ぬっと太い腕が突き出された。
鍛え上げた戦士の腕だ。
見上げたハウルの目前で、アウデリアが笑っていた。白い犬歯が牙に見えた。
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