あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

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第9部 道化師と世界の声

絶糸使いと斧神

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「ど、どうするんですかあっ! これって、どうする・・・・」
解説席で、シャーリーが、ウィルニアの胸ぐらを掴んでいる。
白く、たおやかな腕は、黒い骸骨と化していた。

音声は・・・・切ったつもりにだけなっていて、場内中に、いや、中継を通して各国に鳴り響いている。
超絶の魔力と技術を持った、超絶に間抜けな二人であった。

「アレを止めようと思ったら、神竜后妃と魔王が束にならないと駄目なんですよ・・・・あ。」
骸骨にかわり始めていたシャーリーの顔が敬虔な聖女のものに戻る。
「そうなんだ。それはそれで、なんとかなる。」
ウィルニアは、こちらも安請け合いをしてみせた。

「まあ、ベータ選手は試合どころじゃなくなってしまったから、不戦敗しかないだろう。ついでに、勝手に乱入したということで、『愚者の盾』にもベナルテイを課そうと思う。アウデリアは、次の試合は無条件で負け。」

「ち、ちょっと!」
抗議の声は、ドロシーのものだったが、あっさり無視された。

-----------------

「絶士に挑むか? 古き時代の英雄よ。」
ハウルの顔に笑みが浮かんでいる。

「おまえのところの絶拳士殿には、少々借りがあってな。」
アウデリアは、腰から斧を抜き放った。。
こちらも戦いが楽しくてしょうがないと、言わんばかりの、こころからの笑顔だ。
とてもいい顔だ。
「正直、八つ当たりの一種ではあるが、つきあってもらおう。」

返答は、踏み込みからの斬撃だった。
これ以上の対話は必要なかったし、あるいは二人にとっては、これも対話の続きだったのかもしれない。

ハウルは、体を前に倒すように踏み込み、背中の大剣による袈裟懸けの一撃を繰り出した。
大岩でも両断しただろう一撃を、アウデリアの斧が跳ね返した。
いや、跳ね飛ばしたのだ。

大剣は、ハウルの手を離れ、くるくると回転しながら、あらぬ方向に飛んでいく。

委細構わず、ハウルの手は、両腰に装備された長剣の柄にかかっていた。
交差して、繰り出された逆しまの刃の流れを、のけぞってかわしたアウデリアの炎のオレンジをした前髪が、数本切断されて、宙に舞う。

2本の剣は、自在の軌道を描いて、アウデリアを襲った。
見えない。

少なくとも観客の目には、剣の軌跡は全く見えなかった。

その速度は、あるいは先に登場した絶士ナハルの手刀以上か。

アウデリアの回避もまた神速。だが、その胸当てに。胴巻に。頬に傷が刻まれる。

「疾い、な。」

前髪のひとふさが切断され、一瞬遅れて、太い血液の流れが、アウデリアの片目を塞いだ。
後退しようとするが、はたせず、次々と繰り出される剣は、懸命にかわすアウデリアに、先ほどより、深い傷を刻み始めた。
肩当てが吹っ飛び、二の腕からも血飛沫が舞い散る。

目に流れた血が、その視界を奪っているのだ。

------------------

「絶士にせよ、アウデリアさまにせよ、魔法は達者なはずですが、」
シャーリーが首を傾げた。
「先ほどのナハル選手とアシット選手の試合もそうですが、近接の戦闘に変調しているきらいがありますね。」

「場所は場所だからな。」
ウィルニアが、当たり前のことをなぜ聞く?と言わんばかりの表情で答えた。
「これだけのレベルの相手に、有効な魔法では、観客席まで巻き込んでしまう。本当の殺し合いなら、迷宮の中にでも闘技場を作らないと、街そのものを被害に巻き込んでしまう。」

その言葉の意味に気がついた一部の観客から、悲鳴が上がった。

そんな試合に、観客を入れるな。

「傷の治りも遅い。」
シャーリーが言った。
「この程度、アウデリアさまなら、瞬時に修復してのけるはず・・・・・」

「ハウルの使っているのは、いくつも付与のかかった魔剣だ。自動回復の術式だけでは、ほぼ無効化されてしまう。
そして、実際に回復のための魔法を使うのは、一対一の戦いの中では、まず意味がない。」

ひゅっ!

ハウルが呼気と共に、深く踏み込んだ斬撃を繰り出した。

一刀は、片口から心の臓へ。もう一刀は、腹部を抉る突きを。

この瞬間に、ハウルは価値を確信していた。手当てが間に合えば、一命は取り留めるかもしれない。だが、それは、それ。
相手を倒す。意識を奪うか、少なくともこれ以上戦闘不能なダメージを与える。ただそのこと以外に、ハウルの念頭にはない。

大観衆も。見守る絶士たちも。
ハウルの勝ちを確信した。

例外は、ほんの数人。
それは例えば、アウデリアの実子であるフィオリナであり。見習い魔法士ルウエンの仮面を被ったルトであり。ヘタレの古竜どものせいで、何も腕を振るえず、あれからずっと機嫌の悪いアモンであり。真祖吸血鬼ロウ=リンドであり。

ハウルは、目を見開いた。

剣は、肩口に、骨まで深く切り込んでいる。だが、それ以上、進まない。致命的な臓器はその下にあるのだ。
腹に差し込んだ突きもまた。アウデリアの腹筋が食い止めて、内臓までの到達を阻んでいる。

がごん。

鈍い音は、アウデリアの拳が、ハウルの頭部を叩いた音だった。
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