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第9部 道化師と世界の声
糸繰り奥義
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ハウルの頭部が地面に叩きつけられた。
そのまま、地面にめり込む。
アウデリアの体から、剣が落ちた。
骨と筋肉による真剣白刃取り。
そこまで、切られたらもう白刃取りでも、なんでもないだろう、とかつて、ルトに冷静に指摘されたことがあるが、要はそういうことである。
よろり、と後方に揺らいだ体を、駆け寄ったベータが支えた。
「おかあさまっ!」
「安心せい。かすり傷・・・・というわけでもないが。」
戦闘が終われば、回復魔法を使える。
噴き出た血は、みるみる止まり、顔の血を拭いとると、もうそこには傷は見えなかった。
「困ったものだな。」
アウデリアの唇に野太い笑みが浮かんだ。
「何が?」
「どういうわけか、わたしはおまえを自分の『娘』として認識してしまっている。」
「はあ・・・・」
ベータは、ため息をついた。
「残念ですが・・・あなたの娘はあそこにおります。わたしは、そのコピー。ボルテック卿の魔道によって作られた人形です。」
「だが、その娘はわたしを母とも呼ばないのだが。」
アウデリアは、首を傾げた。
「リウのやつはおまえをフィオリナと呼んで、そばに置いていたそうだな?」
「リウは、フィオリナと引き離されておりましたので、その代用品かと。」
ベータの天上の美を写したような顔立ちは、苦痛に歪んでいる。
「そもそも、わたしがグランダから連れ出された・・・いえ」
浮かんだ笑みは、自嘲のものだ。
「持ち出されたのも、フィオリナの代用品としてでした。」
会話は、ウィルニアたちにも聞こえない。
アウデリアが、さりげなく結界を張っていた。
アウデリアも油断があったのだろう。本来なら、相手の戦闘不能とアウデリアの勝利を告げるアナウンスがあったはずなのだが、アウデリアの使った音声を遮断する結界はそれを妨げていた。
そして、相手の戦闘不能を確信したアウデリアは、その必要を感じてさえいなかったのである。
「リウは、あれで恋愛には古風なヤツだ。」
アウデリアは、昔を懐かしむような顔で、腕を組んだ。
「恋愛対象としては、必ず異性を好む。それはかなり頑固で、例えばそういった関係になりたい相手がいて、それが同性だった場合には、自分の性をわざわざ変えるほどだ。
それはそれで、かなり個性豊かなやり方ではあるが。
その中に、人形を愛するといった選択肢はない。
おまえが、人間の女性として、認識したから、あれはおまえを側に置いたのだろう。」
ベータは顔を上げた。
悲鳴を上げるように口が開き、そのまま体当たりをするように、アウデリアを突き飛ばした。
次の瞬間。
ベータの肩から胸が、切り裂かれていた。
吹き上がった液体は、ちゃんと血の色をしていた。
アウデリアは、斧を握って振り返った。
ベータを切り裂いたのは。
先に、アウデリアが、跳ね飛ばしたハウルの大剣だった。
それは、支えるものもなく空に浮き。
それに並ぶようにして、2本の長剣が頭上を旋回し始めていた。
たちあがったハウルの顔は土にまみれ、吐き出した血の中には、折れた歯も混じっている。
「我が糸繰りの技はこれからだ。」
血走った目で、ハウルが笑った。
「ベータもおまえも。我が奥義の贄となれ。」
「アウデリアさま!!」
ルウエンが、ルトが、盤上から叫んだ。
「ベーダさんは、重傷です!
早いとこ片付けて、治療を!!」
あいよっ!
と、アウデリアは親指をたてた。
くるくるくるくるくるくる
三本の剣は、空中を廻る。
「絶糸使い。」
アウデリアの笑みは、ふてぶてしい。
「ということだ。とっとと、仕掛けてくれ。」
「ほざいたな、アウデリア!」
ハウルの大剣が分裂した。
それは、数千の針となって、アウデリアと、地に伏したベーダの周りをとりかこんだ。
二本の長剣は、威嚇でもするかのように、互いの間に稲妻を走らせた。
対して、アウデリアは。
かがみ込むと、ベータのツナギを脱がせていた。
「何をしている。」
激昂した、ハウルが、歯を噛みならした。
「見ての通りの応急処置だ。」
アウデリアの顔がしかめられた。
傷はかなり、深い。
損傷した臓器は、明らかに臓器でなく「装置」であるものも多かった。
長剣の放つ稲妻が、アウデリアの広い背中に続け様に命中した。
女偉丈夫の筋肉に覆われた体に、痙攣が走り、焼けた背中から、煙があがった。
一才無視して、アウデリアは、ベータの身体に停滞フィードをかけ終えた。
「俺を無視するか、無視しくさるのか、アウデリア!」
ハウルは両手を振り上げた。そこから伸びる強くしなやかな鋼糸が、彼の剣を操っている。
それは、彼自身の手が直接、柄を握るより、はるかに速く、適切に、剣を操る。
背中に背負っていた大剣は、元々無数の細剣を鋼糸でまとめたものだった。
今、それは数千の刺突となってアウデリアを、襲った。
アウデリアは、先ほどと同じ方法で耐えた。
全身の筋肉を固めて、一つ一つが致命傷になるのを、避けたのだ。
とはいえ、数千にもわかれた長い針となった刺突の全てを、筋肉で抑え切ることは出来ない。
アウデエリアの背は、首は、無数の穴が開き、血が再び噴出する。
それでも、ベータを見つめるその顔は、優しく、太い笑みを浮かべて動かない。
アウデリアが避ければ、攻撃はベータに当たる。
それがわかっての、その行動だった。
アウデリアが手を伸ばす。その手にも細剣は、突き刺さる。
構わず、アウデリアは虚空を握りしめた。
ハウルの顔に緊張が、走った。
剣を操っていた糸を、アウデリアが掴んだのだ。
その末端は当然、ハウルの手元にあり。
アウデリアは、それを力任せに引いた。その凄まじい金剛力。抵抗出来るものなど、誰がいよう。
ハウルの体は、有無を言わせず引き寄せられ、その先にはアウデリアの拳骨が待っていた。
何か。
叫ぼうとした。
のだと思う。ハウルは。
その開いた口に、アウデリアの拳骨が叩き込まれたのだ。
そのまま、拳は曲線を描いて、ハウルの頭を闘技場の土に埋め込んでいた。
「勝負あり!」
審判も兼任していたのか、と、何人かを苦笑させながら、ウィルニアが宣言した。
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そのまま、地面にめり込む。
アウデリアの体から、剣が落ちた。
骨と筋肉による真剣白刃取り。
そこまで、切られたらもう白刃取りでも、なんでもないだろう、とかつて、ルトに冷静に指摘されたことがあるが、要はそういうことである。
よろり、と後方に揺らいだ体を、駆け寄ったベータが支えた。
「おかあさまっ!」
「安心せい。かすり傷・・・・というわけでもないが。」
戦闘が終われば、回復魔法を使える。
噴き出た血は、みるみる止まり、顔の血を拭いとると、もうそこには傷は見えなかった。
「困ったものだな。」
アウデリアの唇に野太い笑みが浮かんだ。
「何が?」
「どういうわけか、わたしはおまえを自分の『娘』として認識してしまっている。」
「はあ・・・・」
ベータは、ため息をついた。
「残念ですが・・・あなたの娘はあそこにおります。わたしは、そのコピー。ボルテック卿の魔道によって作られた人形です。」
「だが、その娘はわたしを母とも呼ばないのだが。」
アウデリアは、首を傾げた。
「リウのやつはおまえをフィオリナと呼んで、そばに置いていたそうだな?」
「リウは、フィオリナと引き離されておりましたので、その代用品かと。」
ベータの天上の美を写したような顔立ちは、苦痛に歪んでいる。
「そもそも、わたしがグランダから連れ出された・・・いえ」
浮かんだ笑みは、自嘲のものだ。
「持ち出されたのも、フィオリナの代用品としてでした。」
会話は、ウィルニアたちにも聞こえない。
アウデリアが、さりげなく結界を張っていた。
アウデリアも油断があったのだろう。本来なら、相手の戦闘不能とアウデリアの勝利を告げるアナウンスがあったはずなのだが、アウデリアの使った音声を遮断する結界はそれを妨げていた。
そして、相手の戦闘不能を確信したアウデリアは、その必要を感じてさえいなかったのである。
「リウは、あれで恋愛には古風なヤツだ。」
アウデリアは、昔を懐かしむような顔で、腕を組んだ。
「恋愛対象としては、必ず異性を好む。それはかなり頑固で、例えばそういった関係になりたい相手がいて、それが同性だった場合には、自分の性をわざわざ変えるほどだ。
それはそれで、かなり個性豊かなやり方ではあるが。
その中に、人形を愛するといった選択肢はない。
おまえが、人間の女性として、認識したから、あれはおまえを側に置いたのだろう。」
ベータは顔を上げた。
悲鳴を上げるように口が開き、そのまま体当たりをするように、アウデリアを突き飛ばした。
次の瞬間。
ベータの肩から胸が、切り裂かれていた。
吹き上がった液体は、ちゃんと血の色をしていた。
アウデリアは、斧を握って振り返った。
ベータを切り裂いたのは。
先に、アウデリアが、跳ね飛ばしたハウルの大剣だった。
それは、支えるものもなく空に浮き。
それに並ぶようにして、2本の長剣が頭上を旋回し始めていた。
たちあがったハウルの顔は土にまみれ、吐き出した血の中には、折れた歯も混じっている。
「我が糸繰りの技はこれからだ。」
血走った目で、ハウルが笑った。
「ベータもおまえも。我が奥義の贄となれ。」
「アウデリアさま!!」
ルウエンが、ルトが、盤上から叫んだ。
「ベーダさんは、重傷です!
早いとこ片付けて、治療を!!」
あいよっ!
と、アウデリアは親指をたてた。
くるくるくるくるくるくる
三本の剣は、空中を廻る。
「絶糸使い。」
アウデリアの笑みは、ふてぶてしい。
「ということだ。とっとと、仕掛けてくれ。」
「ほざいたな、アウデリア!」
ハウルの大剣が分裂した。
それは、数千の針となって、アウデリアと、地に伏したベーダの周りをとりかこんだ。
二本の長剣は、威嚇でもするかのように、互いの間に稲妻を走らせた。
対して、アウデリアは。
かがみ込むと、ベータのツナギを脱がせていた。
「何をしている。」
激昂した、ハウルが、歯を噛みならした。
「見ての通りの応急処置だ。」
アウデリアの顔がしかめられた。
傷はかなり、深い。
損傷した臓器は、明らかに臓器でなく「装置」であるものも多かった。
長剣の放つ稲妻が、アウデリアの広い背中に続け様に命中した。
女偉丈夫の筋肉に覆われた体に、痙攣が走り、焼けた背中から、煙があがった。
一才無視して、アウデリアは、ベータの身体に停滞フィードをかけ終えた。
「俺を無視するか、無視しくさるのか、アウデリア!」
ハウルは両手を振り上げた。そこから伸びる強くしなやかな鋼糸が、彼の剣を操っている。
それは、彼自身の手が直接、柄を握るより、はるかに速く、適切に、剣を操る。
背中に背負っていた大剣は、元々無数の細剣を鋼糸でまとめたものだった。
今、それは数千の刺突となってアウデリアを、襲った。
アウデリアは、先ほどと同じ方法で耐えた。
全身の筋肉を固めて、一つ一つが致命傷になるのを、避けたのだ。
とはいえ、数千にもわかれた長い針となった刺突の全てを、筋肉で抑え切ることは出来ない。
アウデエリアの背は、首は、無数の穴が開き、血が再び噴出する。
それでも、ベータを見つめるその顔は、優しく、太い笑みを浮かべて動かない。
アウデリアが避ければ、攻撃はベータに当たる。
それがわかっての、その行動だった。
アウデリアが手を伸ばす。その手にも細剣は、突き刺さる。
構わず、アウデリアは虚空を握りしめた。
ハウルの顔に緊張が、走った。
剣を操っていた糸を、アウデリアが掴んだのだ。
その末端は当然、ハウルの手元にあり。
アウデリアは、それを力任せに引いた。その凄まじい金剛力。抵抗出来るものなど、誰がいよう。
ハウルの体は、有無を言わせず引き寄せられ、その先にはアウデリアの拳骨が待っていた。
何か。
叫ぼうとした。
のだと思う。ハウルは。
その開いた口に、アウデリアの拳骨が叩き込まれたのだ。
そのまま、拳は曲線を描いて、ハウルの頭を闘技場の土に埋め込んでいた。
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