あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
557 / 574
第9部 道化師と世界の声

百年早い

しおりを挟む
「こ、これはとんでもないことになったあっっ!」
ウィルニアは、叫んだ。

「もともと、結界で客席と試合会場を分断しとけば良かったのでは?」
シャーリーが、疑問を口にすると、ウィルニアは、まじめな顔で、答えた。
「いや、中継ポイントに悪影響がでる可能性があったから。」

シャーリーは、黙った。
要するに、彼がやりたかった「全世界同時配信」に、影響がでるから、闘技場内に結界を張らなかった、ということか。

思えば、いままでも結構、危ない場面だらけであった。古竜たちが自暴自棄になって、本来の竜の姿で、アモンに挑んだら。
アシットの砲撃が誤って客席に飛び込んだら。

いまは、アンデットであり、アンデットとしての価値観しかもたないシャーリーにとって、死は自分と同じ存在を誕生させることであり、なんら忌避すべきものではない。それでも分かるのだ。生きてるものは、死ぬのをいたずらにいやがる、ということくらいは。
だから、死ぬことを強要しない方がいいとか。

「ウィルの倫理観には、アンデットのわたしもひくんですけど。」

-----------------------


両手を上げたカプリスの身体に、紫電が走る。
それは、手のひらから吹き上がり、稲妻出できた虎の姿を形作る。
「紫電獣バロン。」

虎は天を向いて、吠えた。
声は聞こえない。
咆哮の代わりに雷が、迸った。

続いてカプリスの全身を炎が包む。
螺旋をまいた炎の渦は、急速に巨大化して竜の姿を形作る。

「豪炎竜ルクファース。」
地上に降り立った竜の足元の地面が、高温のため溶け始めていた。

そして、カプリス自身は、召喚した鳥の背に乗った。
鳥は、青白い冷気をまとっている。
翼を広げれば5メトルはあるだろう。
「霊気神鳥ラルリラル。」

霊鳥が嘴から奇怪な叫びを上げると同時に、闘技場のあちこちから、氷の岩が出現し、それは見るまに、背丈3メトルを超える、盾と剣をかまえた氷の巨人となった。

「カプリスの『三獣士』。」
グルジエンがボソッと言った。

ぼくの隣りのグルジエンは、あぐらをかいてお茶を飲み始めている。
何でこんな時に、と思ったりもするのだが、料理が破壊的に致命的なメイドさんであるグルジエンには、「お茶を入れる」ことが出来たのが、たぶんうれしいのだ。

ぼくにむかって、もうひとつのカップを差し出す。
「さっき、フィオリナに着いてきたのは、色恋ではないと言ったが、やつとの間に子供は作ってみたいと思う。」

ぼくは、お茶にむせるというけっこうなダメージを受けた。
「ただ、わたしの種族は、少なくとも3つの性が揃わなければ、子作りができない。前にルトを誘ってみたが、あいつはまだその行為のための準備が整っていないようだ。
おまえはどうだ?
フィオリナはあれで絶世の美女と言われているし、わたしは、人間としてはごく標準的な外見を持っているはずだか。」

「絶士は互いのことをよく知らないと、言ってたけど、よく知ってるじゃないか。」
ぼくは、ぼくの返答もまたずにいそいそと服を脱ぎかけるグルジエンを止めながら言った。
西域のいたるところで、この会場は見られてるんだぞ。いったい何を配信するつもりなんだ!?

「これはすまない。まず、フィオリナがカプリスを片付けないとな。
子作りというのは、神聖なもので、戦いの片手間に行うものではない。
カプリスの能力の話しか?
そうだな、やつとは1年ほど前に一緒に組んだことがある。あのときは、捕虜にした爵位持ちの吸血鬼の処遇を巡って、カプリスとやりあったことがあるので。まあ、その力の一端は、知ってる程度だ。」
「あれと戦ったのか?」
 
霊鳥が、叫びをあげる度に、氷の巨人はその数を増やしていく。
すでに20体近い。
見た限り、鈍重そうではなく、その動きはなめらかだ。

炎の竜は大地を踏みしめ、カッと開いた口腔内に「ブレス」が形成されていく。

雷の虎は、紫電をまといながら、隙をうかがう。

「うむ。ビリビリ虎とアツアツ竜は、物理的な斬撃が通らないので、苦労した。フィオリナはどう対処するかな。」

ぼくは闘技場を指さした。
「まあ、普通にああだな。」

フィオリナの起こした竜巻に、カプリスと冷鳥が、巻き込まれていった。
鳥の作った氷の巨人戦士も同様。

虎は俊敏な動きで、竜巻を避けたが、すまんフィオリナが作り出して、コントロールできる竜巻はひとつじゃないんだ。

そのひとつが、炎の竜を飲み込んで、その炎を、吹き消していく。

「うわあっ!
こ、これはまるで天変地異かっ!
あの竜巻は、フィオリナ選手がつくりだしたものだったのでしょうか?」
シャーリーが、まくし立てる。
「カプリス選手何も、しない! できない!」

「もともと、剣と魔法を併用するのが、フィオリナ流の戦い方だからな。」
ウィルニアが、冷たく言った。
「魔法を自由に使えるように、してしまってはとてもとても。だいたい」

「魔法ならフィオリナに勝てると思うなんざあ、百年早いわッ!」(×2)。

奇しくも、ぼくの呟きとウィルニアの解説は、口調も文句も100%被ったのだ。
これは恥ずかしい。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...