あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己

文字の大きさ
567 / 574
第9部 道化師と世界の声

吸血鬼と殺し屋

しおりを挟む
オールべの駅前に建てることになった剣神フィオリナ神殿。
「絶導師」カプリスさんは、かなり実務的な方らしく、「これはあくまで試案、たたき台です。」と言いながら、4人がけのテーブルほどはある紙に、完成予想図をせっせと描いている。
もちろん、各階の平面図もついている。

敷地面積は、わりと小さい。
さすがに、駅前の一等地をまるまる神殿にしてしまうのは、難しいと悟ったのか。
しかし、どうも図面を見るに、その建物は30階を越える超高層建築体となりそうなのだ。

これを階段で移動するのは、いくら健脚なものでも骨が折れそうなので。

「カザリームの繭を導入するつもりですね。」
ぼくが声をかけると、我が意を得たりと、カプリスじいちゃんはニッコリした。

「さすがに慧眼ですな。ただ、わたしとしては、床をそのまま昇降させて、一度に数十人を運べるようにしたい。」

そのほうが、アキルの言ってた「エレベーター」に近いなと、ぼくは思った。

「そうだ。あなたさまからも、我が神を説得していただきたいのです。」

あんたがその図面をかいてる間に、ぼくは、あんたらのリーダーを、ぶっとばして、勝ちを決めてきたんだが、そのことは、もうカプリスさんにはどうでもよさそうだった。

「説得、ですか?」
「さようです。神の像を正面に設置したいのですが、わたしは、これほどの美貌に恵まれた神ならば、よけいな装飾物は、無用だと申し上げているのですが、どうしても許可をいただけません。」

「フィオリナ・・・」
「真面目に言うと、このカプリスが、これで味方に付いてくれるのなら、神殿でもなんでも立てればいい。」
フィオリナは、むすっとした顔でそう言った。
「わたしは、いくら信者が集まろうが、その祈りを力に転換する術がないので、まったく無意味なのだけど。
ただ、素っ裸のわたしの石像を、中庭に建てるのはいやっ!」
「主上。」
カプリスさんが呼びかけた。
「中庭ではなく、正面玄関です。それと石像がお嫌なら銅像でも構いません。高さは20メトルは確保したいと考えております。」
「ゼッタイ、ヤダ!」

グルジエンが、試合場を眺めて、あれはなんだろう?と呟いた。

フィオリナの竜巻と、ぼくとランスさんの魔法の衝突で、「会場」とは言えない状態にまで、でこぼこになっている。

そこに、ウィルニア配下の魔物たちが入り込み、さらに溝を深く掘り下げ、大きな岩だのを、設置していく。

「次は、ロウたちと、暗殺集団の試合だ。」
ぼくは答えた。
「集団戦で片方の全滅まで、戦って、勝敗が決まるようだから、隠れたり、不意打ちがしやすいように、地形をいじってるんだろう。」

会場上面の「鏡」に、リウのご尊顔が映った。また、会場のあちこちから嬌声が聞こえる。
「カザリームおよび西域各所でこれを観戦いただいているみなさん。」

フィオリナが、その顔を食い入るように眺めている。
こういう反応はぼくには、しないんだよな。

「ウィルニアの招待をうけて解説席に座らせてもらっている。!
さて、次の試合だが、『踊る道化師』の一人、ロウ=リンドの率いる『栄光の盾・永遠』と、暗殺集団クリスト一族の『栄光の盾・闇』。
ここまで、1VS1の戦いをご覧いただいたので、今回は少し趣向を変える。」

リウは、まるで野外の戦場のように作り替えられつつある試合会場を指さした。
「5対5の殲滅戦。どちらが、全滅または全員が降参するまで、試合は続けられる。
この方式は、両パーティの希望でね。
ただ、ウィルニアは、ハンデをつけようとしたらしい。
殺しても死なない吸血鬼が、メンバーの過半を占める『栄光の盾・永遠』が、あまりにも有利になりすぎるからね。
首を切り落とすか心臓を抉るか、でたとえ、戦闘続行を望んでもやられた方の負けとなる。」

リウは、ため息をひとつ。

「うぐぐっ」
フィオリナが呻いた。
婚約者がほかの異性に、欲情してるとこはあんまり見たくは無いが、これも慣れ、だ。

「ところが、誇り高きクリスト一族は、これを拒否してきた。
竜人でも吸血鬼でも的にしたことはあるし、その対処も身につけている、と。」

もともと、吸血鬼の誇りなどない、ロウはともかくとして、ロウランさんと、ロゼリッタさんはそれをどう受け取るだろうか?
どうも、リウってば、クリスト一族を褒めるふりして、吸血鬼たちをチクチクしてるとしか思えない。さすがは魔王。

「なので、クリスト一族には、別のハンデを用意した。
このあらたに造成された戦場に、クリスト一族のみが、先に潜むことを許可されている。罠をしかけてもOKだ。
この間、『栄光の盾・永遠』」は、会場を見ることは許されない。」

クリスト一族を、乗せた円盤は、ゆっくりと試合場の端に降りてきた。
だがその上には、ドレスに身を包んだきれいな女の人が1人だけだった。

彼女が口を開く。
「すてきなハンデをありがとう。わたしたちは展開を終えた。いつでも始めてくれてよろしいわ。」


大して、いまだ上空を浮遊している「栄光の盾・永遠」の円盤から、飛び降りたのは。


「ほう?
全員ではなく、ひとりずつ挑むというのか?
先方は、カザリーム屈指の冒険者“氷の貴婦人”ロウラン!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...