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第9部 道化師と世界の声
罠師、罠にかかる
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何れにせよ、ここは戦う場所だ。
ジウル・ボルテックは、少々うんざりしていた。
「愚者の盾」なんかに参加するのではなかった。あれは、「魔王宮」に挑むための臨時のパーティ、それ以上でもそれ以下でもない。
こんなことなら、魔道院で、生徒のしどうでもしていたほうがよほど、マシだった、とジウルは思う。
なんとなく、来てしまったのは、主にドロシーのせいだ。
一応「進むべき道が違う」という、もっともらしいセリフで、袂を分かったことには、なっていたが、単に近衛勤めの衛史が、隣町の駐屯所に異動になった程度の意味合いでしかなく、会えばそれなりに睦まじく、心地よく過ごせたのだ。
今回もそんなことを、期待していたのかもしれない。
ジウルは己の愚かさを、罵った。
知らないうちに自分自身に呪詛をかけないように注意しながら、である。
ドロシーは、半年ばかり会わない間に、新しい男を作っていたのだ。
その経緯がよくわからない。
どうも、彼女たち「踊る道化師」のカザリーム班と戦った相手のようなのだ。
今回のトーナメントで、その男が「栄光の盾・魔王」にいると聞いて、とりあえず、拳で語り合おうと、ジウルは心に決めていた。
とりあえず今日は消化試合だ。
はやくはじめて、とっと終わろう。
主にドロシーと、クロノの話し合いで、彼らは「5対5」をえらんだ。
「真なる女神の盾」は、いちばん彼らにとって有利になる集団戦を選ぶだろうという推測だった。
そうすれば、双方の意見が不一致とのことで、「勝ち抜き戦」で戦うことができる。
「さあ、本日最後の試合となる『愚者の盾』対『真なる女神の盾』。
今回の勝負は」
アウデリア欠場の原因を作ったウィルニアは、涼しい顔で、ちらりと手元に目を落とした。おそらくそこに、両パーティが選んだ試合方法が記されているのだろう。
「全員が、闘技場で戦う集団戦となります!」
魔法士見習いルウエンこと、我らの主人公ルトは、ほっと安堵のため息をついた。
それを見咎めたベータは、ルトを小突いた。
「なに? いまのため息は。」
「だって。ほら。」
ルトは、フィオリナが耕したあとに、岩やら塹壕を掘りまくり、そこにロウランが雪をふらして、それがとけた泥濘だらけの試合場を指さした。
「もし一対一の試合をするんなら、これを整地しないといけないんだよ。」
「なんで、あなたがそんなことを心配するのよ!」
フィオリナが、食ってかかった。
「そんなことは、主催者にまかしてとけばいいのよ。まったく・・・・そんなことにまで首をつっこむなんて・・・ルトみたい!」
ベータは、懸命に口をつぐんだ。
「やられました。」
ドロシーは、顔をしかめている。
「集団戦では単に、四対五。こちらが不利で戦うだけです。おそらく、彼らは全力でクロノを倒しにくるでしょう。わたしたちは、クロノを守りつつ・・・」
「大丈夫。」
うつむいて、「綾取り」に精を出していたヨウィスが、顔をあげた。
「わたしの『糸』がある。まえもって、闘技場に罠をしかておこう。踏み込んだ者は絡み取られ、切断され、死体となって転がる。」
ヨウィスの武器は、「鋼糸」だった。
彼女はほとんど、目視することもかなわぬそれを、自在に操る。いかな刃物より長く、鋭い得物は、相手がなにをされたかもわからぬまま、バラバラに切断することも用意だ。
習得の難しい、使うものの少ない技だが、ヨウィスは、おそらく北方諸国でも最高の使い手のひとりだった。
さらに恐ろしいのは、まえもってそれを「罠」として張り巡らせた場合だ。
彼女自身は、魔道院に通いながら、ソロの冒険者として、収入を得ていたが、この技のせいで各パーティからひっぱりだこの人気ものだった。
空中の盤上に待機したまま。いま、彼女の両手から鋼糸が伸びる。
それは、闘技場に無数の罠を作り出し・・・・・
「ヨウィス選手失格!」
ウィルニアの声が響いた。
はあ?
という顔で、ヨウィスが解説席をみやった。
「試合開始の合図まえに、勝手に罠をしかけたら、失格!」
えーーーっと。
助けをもとめるように、ヨウィスは周りをみまわした。
アウデリアが、肩をすくめた。
「珍しくウィルニアの言うことに理屈が通っている。」
「お、おま・・・・」
ジウルとドロシーも呆れている。
「ヨウィスさん・・・・この前も同じ状況で失格をくってませんでしたっけ?」
それは、魔道院内のサークル対抗戦でのことである。ヨウィスは、試合開始の合図前に、相手を糸で拘束してしまって、反則負けを期していた。
思い出したのか、ヨウィスは、ふてくされたように、ぶつぶつと呪詛をつぶやきながら、一歩奥にさがった。
かくして、『愚者の盾』と『真なる女神の盾』は3対5で戦うことになった。
ジウル・ボルテックは、少々うんざりしていた。
「愚者の盾」なんかに参加するのではなかった。あれは、「魔王宮」に挑むための臨時のパーティ、それ以上でもそれ以下でもない。
こんなことなら、魔道院で、生徒のしどうでもしていたほうがよほど、マシだった、とジウルは思う。
なんとなく、来てしまったのは、主にドロシーのせいだ。
一応「進むべき道が違う」という、もっともらしいセリフで、袂を分かったことには、なっていたが、単に近衛勤めの衛史が、隣町の駐屯所に異動になった程度の意味合いでしかなく、会えばそれなりに睦まじく、心地よく過ごせたのだ。
今回もそんなことを、期待していたのかもしれない。
ジウルは己の愚かさを、罵った。
知らないうちに自分自身に呪詛をかけないように注意しながら、である。
ドロシーは、半年ばかり会わない間に、新しい男を作っていたのだ。
その経緯がよくわからない。
どうも、彼女たち「踊る道化師」のカザリーム班と戦った相手のようなのだ。
今回のトーナメントで、その男が「栄光の盾・魔王」にいると聞いて、とりあえず、拳で語り合おうと、ジウルは心に決めていた。
とりあえず今日は消化試合だ。
はやくはじめて、とっと終わろう。
主にドロシーと、クロノの話し合いで、彼らは「5対5」をえらんだ。
「真なる女神の盾」は、いちばん彼らにとって有利になる集団戦を選ぶだろうという推測だった。
そうすれば、双方の意見が不一致とのことで、「勝ち抜き戦」で戦うことができる。
「さあ、本日最後の試合となる『愚者の盾』対『真なる女神の盾』。
今回の勝負は」
アウデリア欠場の原因を作ったウィルニアは、涼しい顔で、ちらりと手元に目を落とした。おそらくそこに、両パーティが選んだ試合方法が記されているのだろう。
「全員が、闘技場で戦う集団戦となります!」
魔法士見習いルウエンこと、我らの主人公ルトは、ほっと安堵のため息をついた。
それを見咎めたベータは、ルトを小突いた。
「なに? いまのため息は。」
「だって。ほら。」
ルトは、フィオリナが耕したあとに、岩やら塹壕を掘りまくり、そこにロウランが雪をふらして、それがとけた泥濘だらけの試合場を指さした。
「もし一対一の試合をするんなら、これを整地しないといけないんだよ。」
「なんで、あなたがそんなことを心配するのよ!」
フィオリナが、食ってかかった。
「そんなことは、主催者にまかしてとけばいいのよ。まったく・・・・そんなことにまで首をつっこむなんて・・・ルトみたい!」
ベータは、懸命に口をつぐんだ。
「やられました。」
ドロシーは、顔をしかめている。
「集団戦では単に、四対五。こちらが不利で戦うだけです。おそらく、彼らは全力でクロノを倒しにくるでしょう。わたしたちは、クロノを守りつつ・・・」
「大丈夫。」
うつむいて、「綾取り」に精を出していたヨウィスが、顔をあげた。
「わたしの『糸』がある。まえもって、闘技場に罠をしかておこう。踏み込んだ者は絡み取られ、切断され、死体となって転がる。」
ヨウィスの武器は、「鋼糸」だった。
彼女はほとんど、目視することもかなわぬそれを、自在に操る。いかな刃物より長く、鋭い得物は、相手がなにをされたかもわからぬまま、バラバラに切断することも用意だ。
習得の難しい、使うものの少ない技だが、ヨウィスは、おそらく北方諸国でも最高の使い手のひとりだった。
さらに恐ろしいのは、まえもってそれを「罠」として張り巡らせた場合だ。
彼女自身は、魔道院に通いながら、ソロの冒険者として、収入を得ていたが、この技のせいで各パーティからひっぱりだこの人気ものだった。
空中の盤上に待機したまま。いま、彼女の両手から鋼糸が伸びる。
それは、闘技場に無数の罠を作り出し・・・・・
「ヨウィス選手失格!」
ウィルニアの声が響いた。
はあ?
という顔で、ヨウィスが解説席をみやった。
「試合開始の合図まえに、勝手に罠をしかけたら、失格!」
えーーーっと。
助けをもとめるように、ヨウィスは周りをみまわした。
アウデリアが、肩をすくめた。
「珍しくウィルニアの言うことに理屈が通っている。」
「お、おま・・・・」
ジウルとドロシーも呆れている。
「ヨウィスさん・・・・この前も同じ状況で失格をくってませんでしたっけ?」
それは、魔道院内のサークル対抗戦でのことである。ヨウィスは、試合開始の合図前に、相手を糸で拘束してしまって、反則負けを期していた。
思い出したのか、ヨウィスは、ふてくされたように、ぶつぶつと呪詛をつぶやきながら、一歩奥にさがった。
かくして、『愚者の盾』と『真なる女神の盾』は3対5で戦うことになった。
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