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声にならない声を聞いて
お葬式
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マルティネス帝国のお葬式は、当たり前だが日本とは形式が違う。服装は黒の正装がふさわしいというのは同じだが、故人への最後の挨拶や礼法、その他使ってもいい言葉とそうじゃない言葉、違うことは山ほどある。
そういったことはこの世界では常識なのだが……僕はここに来て一年も経っていない。しかも、今回は王族のお葬式だ。礼儀作法が大事になってくる。
だから、僕は外で待っていることにした。アリアさんはそんなに気にしないでも良いと言ってくれたけど、それでも、大事な場だ。
「……本当に、来ないのか?」
黒い質素なワンピースに身を包み、髪をおろしたアリアさんは、僕にそう訊ねる。金色の髪は黒い服に映え、真っ白い肌も目立った。
「私が言うのもおかしいが……お前も、父上と関わりがあっただろう? ほんの数日だが、一緒に過ごした。これが最後なんだ」
「でも……国の人は、僕よりもエヴァンさんに対する想いが強いはずです。外から来た僕が場を乱したらダメだと思うので」
「そうか……」
アリアさんは少し考えて、それから顔をあげた。
「なら、最後に入ってこい」
「え?」
「マルティネスの葬儀は、一人ずつ故人にお辞儀して、声をかけ、それから手短に遺族に挨拶をして、終わった人から帰っていくのが一般的だ。
葬儀に来る国民の数は、エドが把握している。全員が出ていけば、お前は礼儀作法をそれほど気にしなくても済むだろう。中にいるのは私と父上だけなはずだからな」
「……それ、いいんですか? そのあとの段取りとか」
「大丈夫だ。全員が挨拶を終えたあとに、遺族だけで過ごす時間がある。これは時間に制限がない。だから、お前が顔を出すくらい平気だ」
……きっと、アリアさんなりに考えてくれた結果なのだろう。時間も余裕もないなかでこう言ってくれたんだ。ここは素直に、その言葉に甘えよう。
「なら……そうします」
「よし。なら、会場の外で待っててくれ。エドが一番最初に入って、それから外の受け付けをやることになっている。お前もそれ手伝え」
「分かりました」
「それと……」
ふと、アリアさんの言葉がつまる。何事かと思ってその次を待っていると、モゴモゴと小さい声で呟いた。
「会場から出たあと……待っててくれないか?」
「え? 別にいいですけど」
「その、他のやつらには……言わないでほしくて、な。
親族だけの時間になったら帰るのが常識的なマナーだから、その場にはいないとは思うが、でも……。
……私、一人じゃ…………」
……あぁ、なるほど。
「全然、構いませんよ。僕はそんな礼儀作法知らないし、アリアさんと一緒に帰るつもりだったので、勝手に待っていました」
「……ごめんな」
「気持ちは、それなりにわかってるつもりですから。まぁ、つもりですけど」
「つもりでもいいさ。……ありがとう」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「ほら」
「あっ、ありがとうございます!」
エドさんが部屋に来て、喪服を貸してくれた。僕よりもがたいがよかったから、サイズが合うものを持っているのが不思議だった。
黒い、スーツのようなシンプルなつくりで、でもスーツほど大人っぽくはなく、どちらかというと制服よりだった。
そのままエドさんの横で僕が着替え始めると、エドさんは椅子に座り、ポツリと言った。
「……アリア様を、頼むぞ」
「え……」
「俺たちじゃ、あの人を泣かせるのは無理だからな」
そして、そのまま出ていった。僕はしばらく突っ立ったあとに、急いで着替えて、そのあとを追った。
受付の仕事は、来た人に名前を書いてもらい、会場の中へと順番に案内すること。エドさんも一緒にいたし、何ごともなく、スムーズに仕事は進む。
「……今入ったので、最後だ」
エドさんがそう、僕に声をかける。
「お疲れさま。俺は先に戻ってる。今のやつが出てきたら、お前が入れ」
「は……はい」
そのまま、席をたち、どこかへ行ってしまった。
それから少しして、最後の人が、涙を流しながら出てくる。それを見送り、僕は席をたち、中へと入った。
黒と白の空間。手向けられた花々の噎せかえるような香りが鼻をつく。
その花の前に立つ人は、ひどく疲れているようにも見えた。
「……ウタ」
どこかほっとしたようにそう溢したアリアさんは、小さく微笑んだ。
「お前で、最後だ」
「……えっと、どうすれば?」
「とりあえず、そんなところに立ってないで、父上の方に行ってくれ」
僕は言われたように奥へと進み、エヴァンさんの前に立った。
いきなりの事実を突きつけられ、冷静に物事を見れていなかったせいか、ここにきて、急に、『最期なんだ』という気持ちが膨れ上がってきた。
つんと、鼻の奥が痛くなる。込み上げるもの止めたくて、僕は思わず上を向いた。
「ウタ……。ここは、別れの場。故人との別れを、悲しんでいい場所だぞ?」
それはわかっている。ここで泣いたって、誰も僕を責めない。決して責めない。でも……僕自身が、それを嫌がった。
「だって……まだ、アリアさんが泣いてないじゃないですか」
「……え」
「アリアさんが泣いてないのに……っ、僕が、泣くわけにはいかないんです」
そして、そのまま上を向き続けた。すると、右手をあたたかいものが包む。
驚いて目をやると、アリアさんが僕の手を握っていた。
「……大丈夫だ」
そういうアリアさんは、泣いていた。
「お前のせいだからな」
その止まらない涙を見ながら、僕は泣いた。
「僕のせいにしてください。アリアさんが泣いてるのは、僕が泣いてるせいです」
そのあと、アリアさんは一人になるのを嫌がった。手を握ったまま、離してくれなかったのだ。
僕は、エヴァンさんとの最期を悲しみながら、謝りながら泣きじゃくるアリアさんが落ち着くのを、待ち続けた。
……これだけの涙を、これまでずっと堪えていたんだ。そう思うと、僕もまた辛くなってきた。
謝ることは、何一つない。
これが普通の反応だ。
そういったことはこの世界では常識なのだが……僕はここに来て一年も経っていない。しかも、今回は王族のお葬式だ。礼儀作法が大事になってくる。
だから、僕は外で待っていることにした。アリアさんはそんなに気にしないでも良いと言ってくれたけど、それでも、大事な場だ。
「……本当に、来ないのか?」
黒い質素なワンピースに身を包み、髪をおろしたアリアさんは、僕にそう訊ねる。金色の髪は黒い服に映え、真っ白い肌も目立った。
「私が言うのもおかしいが……お前も、父上と関わりがあっただろう? ほんの数日だが、一緒に過ごした。これが最後なんだ」
「でも……国の人は、僕よりもエヴァンさんに対する想いが強いはずです。外から来た僕が場を乱したらダメだと思うので」
「そうか……」
アリアさんは少し考えて、それから顔をあげた。
「なら、最後に入ってこい」
「え?」
「マルティネスの葬儀は、一人ずつ故人にお辞儀して、声をかけ、それから手短に遺族に挨拶をして、終わった人から帰っていくのが一般的だ。
葬儀に来る国民の数は、エドが把握している。全員が出ていけば、お前は礼儀作法をそれほど気にしなくても済むだろう。中にいるのは私と父上だけなはずだからな」
「……それ、いいんですか? そのあとの段取りとか」
「大丈夫だ。全員が挨拶を終えたあとに、遺族だけで過ごす時間がある。これは時間に制限がない。だから、お前が顔を出すくらい平気だ」
……きっと、アリアさんなりに考えてくれた結果なのだろう。時間も余裕もないなかでこう言ってくれたんだ。ここは素直に、その言葉に甘えよう。
「なら……そうします」
「よし。なら、会場の外で待っててくれ。エドが一番最初に入って、それから外の受け付けをやることになっている。お前もそれ手伝え」
「分かりました」
「それと……」
ふと、アリアさんの言葉がつまる。何事かと思ってその次を待っていると、モゴモゴと小さい声で呟いた。
「会場から出たあと……待っててくれないか?」
「え? 別にいいですけど」
「その、他のやつらには……言わないでほしくて、な。
親族だけの時間になったら帰るのが常識的なマナーだから、その場にはいないとは思うが、でも……。
……私、一人じゃ…………」
……あぁ、なるほど。
「全然、構いませんよ。僕はそんな礼儀作法知らないし、アリアさんと一緒に帰るつもりだったので、勝手に待っていました」
「……ごめんな」
「気持ちは、それなりにわかってるつもりですから。まぁ、つもりですけど」
「つもりでもいいさ。……ありがとう」
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
「ほら」
「あっ、ありがとうございます!」
エドさんが部屋に来て、喪服を貸してくれた。僕よりもがたいがよかったから、サイズが合うものを持っているのが不思議だった。
黒い、スーツのようなシンプルなつくりで、でもスーツほど大人っぽくはなく、どちらかというと制服よりだった。
そのままエドさんの横で僕が着替え始めると、エドさんは椅子に座り、ポツリと言った。
「……アリア様を、頼むぞ」
「え……」
「俺たちじゃ、あの人を泣かせるのは無理だからな」
そして、そのまま出ていった。僕はしばらく突っ立ったあとに、急いで着替えて、そのあとを追った。
受付の仕事は、来た人に名前を書いてもらい、会場の中へと順番に案内すること。エドさんも一緒にいたし、何ごともなく、スムーズに仕事は進む。
「……今入ったので、最後だ」
エドさんがそう、僕に声をかける。
「お疲れさま。俺は先に戻ってる。今のやつが出てきたら、お前が入れ」
「は……はい」
そのまま、席をたち、どこかへ行ってしまった。
それから少しして、最後の人が、涙を流しながら出てくる。それを見送り、僕は席をたち、中へと入った。
黒と白の空間。手向けられた花々の噎せかえるような香りが鼻をつく。
その花の前に立つ人は、ひどく疲れているようにも見えた。
「……ウタ」
どこかほっとしたようにそう溢したアリアさんは、小さく微笑んだ。
「お前で、最後だ」
「……えっと、どうすれば?」
「とりあえず、そんなところに立ってないで、父上の方に行ってくれ」
僕は言われたように奥へと進み、エヴァンさんの前に立った。
いきなりの事実を突きつけられ、冷静に物事を見れていなかったせいか、ここにきて、急に、『最期なんだ』という気持ちが膨れ上がってきた。
つんと、鼻の奥が痛くなる。込み上げるもの止めたくて、僕は思わず上を向いた。
「ウタ……。ここは、別れの場。故人との別れを、悲しんでいい場所だぞ?」
それはわかっている。ここで泣いたって、誰も僕を責めない。決して責めない。でも……僕自身が、それを嫌がった。
「だって……まだ、アリアさんが泣いてないじゃないですか」
「……え」
「アリアさんが泣いてないのに……っ、僕が、泣くわけにはいかないんです」
そして、そのまま上を向き続けた。すると、右手をあたたかいものが包む。
驚いて目をやると、アリアさんが僕の手を握っていた。
「……大丈夫だ」
そういうアリアさんは、泣いていた。
「お前のせいだからな」
その止まらない涙を見ながら、僕は泣いた。
「僕のせいにしてください。アリアさんが泣いてるのは、僕が泣いてるせいです」
そのあと、アリアさんは一人になるのを嫌がった。手を握ったまま、離してくれなかったのだ。
僕は、エヴァンさんとの最期を悲しみながら、謝りながら泣きじゃくるアリアさんが落ち着くのを、待ち続けた。
……これだけの涙を、これまでずっと堪えていたんだ。そう思うと、僕もまた辛くなってきた。
謝ることは、何一つない。
これが普通の反応だ。
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