初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら寵妃になった僕のお話

トウ子

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初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら寵妃になった僕のお話

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「あなたを愛しています」

薬の残骸を握ったまま、僕はそう告げる。
これが幸福になるための唯一の方法だと信じて。






僕の降嫁先が決まったのは、王国が百年ぶりの大飢饉で喘いでいた頃だ。
当時まだ幼子だった僕を差し出す代わりに、父王は隣の新興帝国に援助を求めた。
歴史だけはある王国の血筋の者を皇帝の側室として迎えれば箔がつくと、顔に大きな傷のある粗雑な皇帝は笑って了承したと言う。

英雄色を好むを地でいく皇帝は、大層煌びやかな後宮を構えているらしい。
正室には若い頃から連れ添った糟糠の妻がおり、既に世継ぎの皇子を含めて何人もの皇子皇女がいるという。
側室だって、もう数え切れないほどいるらしい。

由緒ある古い王国の王子であった僕は、そんな数多の側室の中の一人として嫁ぐことになった。

父王は「せめて正室にしてやりたかった」と僕に泣いて詫びたが、今の帝国と王国の力関係では、仕方ない。僕は男で、子が産めないのだから、基本的に世継ぎを産むことが要求される正室になるのは、よほどの理由がないと難しい。それこそ、帝国側から是非にと乞われるくらい、僕に政治的に強い意味がないと。

「お気になさらないで下さいませ、父上。僕ひとりの身で我が国に助けの手を差し伸べて下さるのならば、ありがたいことでございましょう」

そう言って、僕は笑って嫁いだ。
男も女も好むという好色な皇帝の元へ。

母に渡されたを持って。

王家に伝わる昔ながらの惚れ薬は、望まぬ結婚をすることが多い王家の者のための秘薬として伝わっている。
愛していれば、たいていのことは耐えられるから、と。

けれど逆かもしれないと気づいたのは、後宮に入ってすぐだった。
愛しているのに愛されないのはとてもつらい。
この薬は互いに飲むからこそ意味があるのだ。
返されぬ愛、満たされぬ恋は酷く人を摩耗させてしまう。

だから僕はこの薬は飲むまいと思っていた。
ただ、時折訪れる皇帝に慎ましく仕え、この体を差し出せばよい、と。

そう思っていた。
に出会うまでは。




は後宮を守る騎士だった。
神に身を捧げ、俗世の欲を断ち切った清廉で高潔な神殿騎士だ。
後宮の警備すら任せられるほどに、神も皇帝も認める清らかな人物だった。
王国でも出会ったことのない、素晴らしい人格者だった。

僕は酷く己を恥じた。
彼のような清らかで美しい人に懸想し、あまつさえ欲情してしまうことに。

そして気も狂わんばかりに苦悩した。
決して叶わない恋と、満たされぬ体の飢えに。

僕は初めて抱いた自分の激情が恐ろしかった。
このままでは思い詰めた自分がどんな行動に出るか分からなかったのだ。
このままでは彼を穢し、帝国を裏切り、皇帝の怒りを買い、故国を破滅に追いやってしまうかもしれない。

だから、決意したのだ。

彼への恋心を消すために、僕は皇帝へこの恋情を向けようと。
人工的に運命の恋を作り出す、王家の秘薬に頼ろう、と。







久々の皇帝の訪れを予告された僕は、寝所で薬を片手に待っていた。
女官に皇帝の入室を告げられ、覚悟を決めた僕はごくりと唾を飲んだ。

「久しいな、王子よ。恙無く暮らしているか」
「はい、陛下」

獰猛な笑顔で僕を見下ろす皇帝に微笑みを返し、僕は大柄な男をテーブルまで導く。

「皇妃様から南国の茶を賜りまして。いかがでしょうか」
「あぁ、あの茶か。そういえば後宮に配ると言っておったな。飲もう」
「ではご用意いたしますね」

微笑み、僕は茶器を用意する。
手ずから目の前で茶を注ぎ、一口毒味として口をつけてから、皇帝の前に置いた。

「あぁ、失礼いたしました。茶菓子を用意して参ります」

そう告げて、僕は棚の中から菓子を取り出すふりをして、袂に入れていた薬を口に放り込んだ。

ごくり。

飲み下してから振り返れば、以前と変わらぬ皇帝の姿。
いつ効いてくるのだろうと思いつつ、僕は菓子を差し出した。

「菓子の毒味はいかが致しましょうか」
「ふむ…毒味のフリをして毒を飲まされても困るしな」
「え?」

皇帝はクククッと笑って、射殺すような目で僕を見た。

「今、お前は何を口に含んだ?」
「あっ」

不自然さのないように気をつけたはずが、あっさりと見抜かれていたことに震え上がる。
戦乱を勝ち抜いてきた男を王宮という温室で生まれ育った僕が欺けるわけがないのに。こんな怪しい振る舞いをして、見逃してもらえるわけがなかったのに。

「……ほ、れ薬、です」

震えながら告げれば「愉快な話だなぁ」と言って、皇帝は獲物を喰い殺す猛獣のような笑みを浮かべて、僕を視線で嬲るように見た。

「大人しくしていると思ったら、随分と思い切った真似を……落ちぶれた王国の王子の分際で俺の心を欲したか?無様に俺に縋ったあの父王に言い含められていたのか?」
「い、え」

殺されるかもしれない。けれど僕は決死の覚悟で告白した。
故国に罪はないのだから。

「僕が、心からの愛をあなたに捧げるために、飲んだのです」
「……はぁ?」

理解不能だと眉を顰める皇帝に、僕は平伏してその足に縋った。

「この後宮で、あなた以外に愛を捧げることは万死に値する禁忌。であれば僕は、禁忌を犯す前にこの心を作り変えねばならなかったのです」
「……ふむ。つまりお前は、俺の他に好む相手が出来てしまい、その心を捻じ曲げるために惚れ薬を使ったと?随分な告白だなぁ」

呆れた顔の皇帝に僕は涙ながらに訴えた。この機会を逃せば、次に皇帝に会うのはきっと処刑台の上だ。

「罪は僕一人の物でございます。どうかお許し下さいませ」
「まぁ、深く突っ込むのはやめておいてやろう。お前の日頃の行いに、やましいものがないのは報告で知っているからな」

ため息混じりに告げられたのは、あっさりとした許しの言葉だ。思いのほかに寛容な返答に、僕は安堵と感激でとうとう泣き出した。

「あぁっ、寛大なお心に感謝致します、陛下!」

泣き崩れる僕の手を引いて立たせた皇帝は、呆れたような顔でこきりと首を傾げた。

「さて、そして今のお前は、どうなっているのだ?」
「あなたを愛しています」

薬の残骸を握ったまま、僕はそう告げる。迷いもなく、まっすぐに皇帝を見つめて。これが正しいのだと信じて。

「……なかなか面白いことになったなぁ」

しみじみと呟きながら、皇帝は太い腕を組み、僕の顔をしげしげと見る。

「遅い初恋を拗らせるとこうなるのか……いやぁ、だんだん哀れに思えてきたなぁ」
「でしたらどうか、御慈悲をくださいませ」

細められた目の妙な優しさにつけ込んで、僕は皇帝の腰にしがみつき、逞しい体に頬擦りした。
普段ならありえない破廉恥極まりない真似だが、自然なように思えたのだ。
薬の効果だろうか。

皇帝の言葉の端々から僕への優しさや労りのようなものが感じられて、嬉しさに涙がこぼれそうになる。
布越しに伝わる温かさに悦び、幸福感が満ちてくる。
昂る心のままに、僕は皇帝を見た。
この愛に飢えた哀れな男に、僅かの憐憫と愛情を授けてはくれないかと。

「どうか、お情けを」
「……はぁ」

潤んだ瞳でじっと見上げれば、皇帝は複雑な顔で見下ろしている。
人々からは「美しい」と言われる顔だ。
決死の誘惑に流されてくれ、と願っていると大仰なため息が聞こえてくる。

「幼い頃から天女のような顔立ちだとは思っていたが、うまく育ちすぎだな」

ぐいっと抱き上げられて、そのまま寝台に放り込まれる。

「誘ったのはお前なのだからな、諦めろ」

雑に言って皇帝は僕の夜着をむしり取る。
そしてこれまでにない熱量で、僕は抱かれた。

皇帝は情熱的に僕を愛撫した。
普段ならば僕が皇帝の太く逞しい陰茎を口に含み、いまだにおぼつかない仕草で奉仕するのを愉快そうに見た後は、すぐに挿入して果てるのに。

「あっ、ああっ!へいか!もう、もうっ!」
「まだまだこれからだぞ?普段は体力のないお前を慮ってサッサと終わらせていたが、煽ってきたのはお前なのだ。受け入れろ」
「う、くぅ、んっ、あーーっ!」

獣のような呻き声を発し、奇声じみた叫び声しかあげられない僕を、皇帝は爛爛と輝く目で舐めるように視姦した。

「口を開けろ」
「え?んっふ、ぅんんっ」
「息を吸え、馬鹿者が」
「んーーっ」

はあはあと犬のように喘ぐ僕の口を大きな唇で覆い、熱く厚い舌で口の中を舐め回す。
泣きながら胸板を叩き、息苦しさを訴える僕に嗜虐的な笑みを浮かべて、皇帝はガリっと僕の唇を噛んだ。

「小さな口だ。これで俺のモノを咥えているのを見るのも愉快だが、今日はやめておこう。それどころではなさそうだからな」
「へ?あ、そんな、あっ、んーーーっ」

そう言うと皇帝は躊躇いもなく、涎を垂らす僕の陰茎を咥えた。初めての刺激に僕の視界には星が散った。

「あ、あ、あっ、あ、あぁっ」
「ははっ、愛らしい反応だなぁ?俺以外に、何も知らん体だ。貞操を守り続けて偉いぞ?」

何も話せなくなって、喘ぎ声をあげるしかない僕を笑いながら、皇帝が戯言のように褒める。その言葉が嬉しくて、僕は泣きながら喘いだ。

「あっ、あぁ、陛下っ、ありが、とうございっますッ、んーっ!」
「ははっ、素直なことだ」

赤く腫れた乳首を片手で嬲りながら、皇帝は楽しげに笑う。

「これからは、いろいろ教えこんでやろう」

未来のことを告げる言葉に、僕は嬉しさのあまり逞しい体に抱きついて泣いた。

「うれしゅうございます……っ!あぁ、あいしております、わたしのこうていへいか……へいかぁ……っ」
「こら、赤ん坊のように泣くな。泣くならば、快楽に咽び啼け」
「あっ、あぁあっ、ぅ、んーっ!ああああっ!」

僕は一晩に何度も、悲鳴とともに果てた。
それは夢のような夜で、翌朝僕は温かな腕の中で目覚め、果てしない幸福感に浸っていた。
そして確信したのだ。

やはりこれが正解だったのだと。



「真実の愛の中で愛されると、これほど心地よいものなのですね」

呆然とそう呟くと、皇帝はどこか不満気に口を開いた。

「これまではよくなかったかのような口振りだな」
「これまでも快を与えて頂いておりましたが、比べ物になりません」

はっきりと断言する僕に、皇帝は呆れ顔で首を振り、ひどく優しく苦笑した。

「……素直なのも考えようだなぁ。まぁ、悦かったのならば、なによりだがな」

その通りだ。
愛というのは最高の刺激薬スパイスらしい。






その後、皇帝の訪れは頻回になり、僕は寵妃として後宮でもそれなりに幸せに暮らしていくことができた。
心を捧げればそれなりの心が返ってくるのだな、と僕は満たされた心身で思った。

後に皇帝が「子供ほどの年齢の男に本気になる気はなかったのだがなぁ」と寝物語に呟いた時に、僕は笑った。

「ふふっ、ようございました」
「ちなみに今更だが、あの時お前が好いていたというのは誰だったのだ?」
「さぁ、子供の頃の恋など、もう覚えておりません」
「しっかり聞いておけばよかったな…」

少々後悔している様子の皇帝に笑いかけ、僕は逞しい胸にしなだれかかりながら目を伏せた。

「良いではありませんか。僕はもう、心よりあなたをお慕いしているのですから」
「薬のおかげでな」

面白くなさそうに言う皇帝の言葉に、僕はひっそりと笑いを噛み殺す。

あの惚れ薬の効果は三年だ。
正室が世継ぎの子を産むまでの間、心を繋ぎ止めるための薬。
その三年の間に夫婦としてしっかり心を通わせるようにと伝えられている。
もう五年経ったから、薬の効果は切れているのだ。
でも僕はきちんと、この粗雑で乱暴で愛情深い皇帝を好いているから、大成功なのだけれど……。

「愛されないのに愛してしまったら不幸ばかりかと思っておりましたが、真心から愛すれば返してもらえるものなのですねぇ」

しみじみと言う僕に、皇帝はまた「薬のおかげでな」と返す。

「ふふっ」

思わず吹き出して、僕は傷のある皇帝の頬に口付けた。

「今が幸福ならば、それで良いではありませんか。

……愛しい僕の陛下」
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