美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

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第二章 動く五月

25.デートバイデイライト その3

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 太らないかな、なんて心配しながらも、先輩にとってその弁当箱の大きさは魅力的なものだったみたいだ。真剣な眼差しで考え込んでいる。

「どうしよう……」
「やっぱ、カロリーが気になりますか?」
「うん、いきなり食べる量を増やしたら、体重も増えちゃいそうだし」

 こういう悩みは、女の子らしくていいなぁ。苦悩している先輩には申し訳ないけれど、俺の心はほっこりと温まってしまった。
 そのフワフワしたテンションのまま、思いついたことを口にする。

「だったら、野菜系のおかずをたくさん詰めてきますよ。ウチはご飯も麦飯なんで、ヘルシーですし。昼食にたくさん食べれば、お菓子を食べなくて済むから、カロリー的にはトントンになるんじゃないですか?」

 俺の提案を聞いた先輩は、感心したように目をぱちくりさせる。

「……そっか、そうだよね。むしろ、お菓子食べるよりもずっと健康にいいよね!」
「そうですよ。糖質も制限できて、良いこと尽くめだと思いますよ」

 俺の言葉に背中を押されたらしく、先輩の顔いっぱいに笑みが広がる。 

「うん、じゃあこのお弁当箱にしようかな!」
「決まりですね」
「ねぇゴウくん、どっちの色がいいと思う?」
「えっ!」

 先輩の笑顔に見とれていた俺は面食らった。
 よくよく売り場を見てみれば、俺が最初に目を留めた青色の他に、ピンク色のものも陳列されていた。ううむ、これはまた難しい質問をぶつけられてしまったぞ。

 ぶっちゃけ、色なんてどっちでもいい。大切なのは、俺が作る中身の方だろう。
 でも、その思考をそのまま先輩にぶつけるのは、あまりにも失礼だ。いや、どんな女子に対してだって、『どっちでもいい』はNGだって、理解している。

 俺は最初、青色しか認識してなかったんだから、そっちでいいだろう、と思った。
 いや、でも、ちょっと待てよ……。

 俺は、想像を巡らせた。頭の中に、弁当を食べる先輩の姿を作り出す。
 俺の作ったおかずを頬張りながら、満足そうに笑う先輩。
 その手元にあるのは、青とピンク、どちらの弁当箱が相応ふさわしいだろう。どちらの色が似合っているだろうか。

 ボーイッシュで大人っぽい雰囲気の先輩には、青が似合う?

 ……いや、ピンクかな。

 先輩の第一印象は『美人』だったけれど、先輩のいろいろな表情を知るたびに、俺は先輩を『かわいい』と思うようになっていた。
 だから、かわいい先輩には、女の子らしいピンクの弁当箱が似合う……と思う。

「えっと、ピンクがいいんじゃないですか」
「なんで?」

 なんで、ときたか。

「……かわいいからです」

 それは先輩のことだけれど、この流れなら、ピンクという色がかわいい、という意味に取ってもらえるだろう。
 でも、照れて身体が熱くなった。よく考えたら、女子に対して『かわいい』なんて言うのは生まれて初めてじゃないか? 俺の初めては先輩に捧げられた……!

 おバカなことを考えながら脳内で身悶えする俺に対し、先輩はなんでもない様子で「ふぅん、そっか」とつぶやいて、色違いの弁当箱を交互に見つめる。
 ああ、果たして先輩は、俺の大一番の選択を受け入れてくれるだろうか。ピンクなんて趣味じゃない、って言うだろうか。

「ねぇゴウくん」

 先輩の肘が、俺を小突く。つんつん、つん、となんだかリズミカルに。
 戸惑いつつ先輩の表情をうかがうと、ニンマリと笑っていた。

「迷ってる女の子は、男の子からのそういう言葉・・・・・・に弱いんだよ」
「へっ、あっはい、すみません?!」
「もう、なんで謝るの」

 くちびるを尖らせた先輩は、ピンクの弁当箱をさっと手に取ると、それを俺に掲げてみせる。

「じゃあ買ってくるね。通路の向こうで待ってて」
「あ……はい」

 俺は言われるがままに店を出て、通行人の邪魔にならないよう、壁にもたれかかった。
 なんかよくわからないけれど、先輩は俺の『かわいいから』という言葉を聞いて、ピンクを選択したってことでいいんだろうか。
 先輩は、大きさから色から、すべてを俺が選んだ弁当箱を使ってくれる、ってことだよな。

 ……うん、それはとても嬉しい。ますます作り甲斐があるってものだ。ああ、月曜日、先輩は俺にどんな笑顔を見せてくれるだろうか。

 やがて、ショップの袋を下げた先輩が戻ってきた。中身はただの弁当箱だけれど、『最高の獲物が取れた!』みたいなホクホク顔をしている。そんな表情見せられたら、俺も笑みがこらえきれない。
 互いに微笑み合う俺たちは、はたから見たら、仲睦まじいカップルそのものだろう。通行人の皆様には、存分にそう思ってもらわなくては。

 嬉しいけれど、ちょっと心残りなことがある。
 本当は、俺が弁当箱の代金を払いたかった。先輩にプレゼントしてあげたかった。

 でも俺たちは、まだそんな仲じゃない。俺には、先輩になにかをプレゼントする権利はないんだ。
 誕生日とかだったら別だろうけど、なんでもない日に、二千円近いものを贈るなんて、先輩は絶対に受け取ってくれないと思う。

 今の俺にできるのは、先輩のため、腕によりをかけて弁当を作ることだけだ。
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