美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

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第四章 知る七月、八月

59.くたばれ! 先代副会長

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 こうして、俺と先輩の『関係』は双方の母親公認となったうえ、マイマザーが先方のお母さまにいろいろと働きかけてくれたらしい。
 その結果、先輩の我が家訪問日が増えた。
 母ちゃん不在の水曜日だけじゃなく、週末の昼なんかにも。
 しかも、母ちゃんは気を使って外出してくれたりする。『あんたのことを信じているからね!』と釘は刺されまくっているけれど。

 夏休みも、夏期講習の合間とかに来てくれるらしい。終業式のあとは会う機会がぐっと減ると覚悟していたのに、こんな幸せなことってあるかよ。

 でもこのままじゃ、いつまで経っても『飯友メシトモ』のまま。生徒会長の任期が終わる九月に玉砕して、『はい、おしまい』だ。
 だから俺は、少しだけ先輩の私情へ踏み込んでみようと決意した。

 夏休みを目前に控えたある日の昼休み。
 満足顔で弁当を食べる先輩へ、勇気を振り絞って尋ねてみる。

「ところで先輩。先代の生徒会長って、すごく立派なひとだったって小耳に挟んだんですけど、実際はどうだったんですか?」

 困らせちゃうかなぁ、はぐらかされるかなぁ、と不安だったけれど、予想に反して先輩の表情がぱぁっと輝く。

「あっ、うん、阿藤あとう先輩ね! めちゃくちゃカッコイイひとだったよ~!」

 その物言い……まさか先代生徒会長は男か?!

 ああ、余計なことを聞くんじゃなかった、と血の気が引いた。
 先輩は、俺の料理を見るときと同じくらい瞳をキラキラさせている。

「頭がよくて、しっかり者で、頼りになって。初めて会った瞬間、好きになっちゃった」
「?!! …………そ、そそそそうですか」

 やばい、これ以上聞きたくない。胸の奥がズーンと重くなり、食欲が完全に消え失せた。

 ちなみに今日の弁当のメインディッシュは、酢豚ならぬ酢鶏だ。豚の代わりに鶏からあげを使っている。
 他の具材は玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ。

 一見するとカレーとよく似たラインナップだけれど、ジャガイモは千切りにしてあって、シャキシャキした食感に仕上がっている。
 ホクホクしたジャガイモもいいけれど、このシャキシャキ感もなんともたまらないのだ。

 具だくさんになっているから腹持ちがいいし、甘酸っぱくてごはんにすごく合うから、俺も上機嫌で口に運んでいたのだけれど……。
 俺が余計な色気を出したせいで、箸を置く羽目になってしまった。

 ……あれ、もしかして先輩が志望しているN大学って、その阿藤先輩が通ってるところ……なんてことはないよな?!
 ら、ラブイズオーバー……?

 暗く沈み込む俺を意に介した様子もなく、先輩は至極朗らかに言ってのけた。

「わたしがショートヘアこの髪形にしたのも、阿藤先輩の真似っこなんだ!」
「……そ、そうですか」

 ってことは、阿藤先輩は女、ということでいいだろうか。俺は疑念を完全に晴らすことを優先した。

「素敵な『女性』だったんですね?」
「うん! 才色兼備、って言葉がぴったりだったよ」

 内心で『よかったぁぁぁぁあ!!』と大歓喜しながら、俺は平然としたつらで「そうなんですね」と相槌を打つ。

 でも、先輩がいかに先代会長を尊敬していたか、はっきりと理解できた。髪形を真似するくらいだし、相当のもんだろう。先代のやってきたことを無駄にしないために新生徒会長になったんだって、安元先輩も言っていたし。

 じゃあ……副会長はどうなんだろう。不祥事を起こした張本人だという、副会長は。
 安元先輩はどうしても副会長が許せなかったと言っていたけれど、一方の巴先輩はどう思っているんだろう。

 よし、話の流れで聞いてしまえ!

「それで、あの、校則違反をやらかしたのは副会長だって聞いたんですけど、その人のことも、聞いてもいいですか? 問題を起こしたあとに転校したってことは知ってます」
「……うん」

 先輩の面持ちが一気に暗くなった。ウインナー入り卵焼きを掴むのをやめて、弁当箱の上に箸を置いてしまう。さっきの俺とまったく同じ状態だ。

榎木田えのきだくんはね……どこかでくたばってればいいのに、って思う……」
「へ?」

 俺は耳を疑った。いつも明るく優しい先輩の口からそんな物騒な言葉が出てくるなんて、あまりに意外だった。先輩の瞳の中に宿る光も、びっくりするくらい仄暗ほのぐらい。

「憎まれっ子世にはばかる、ってやつかなぁ。なんだかんだ、他校で楽しい高校生活を送ってるらしいんだ。もし会ったらわたし、ぶん殴っちゃうかも」

 と先輩は拳を掲げ、びしっと正面に突き出した。一見するとお茶目な仕草ではあったし、口元は笑みの形になっているけれど、目はまったく笑っていなかった。

「というわけで、腹が立つのでこの話題はおしまいにしよ!」
「は、はい……」

 先輩の妙に明るい声には、有無を言わさぬ迫力がこもっていた。俺はなにも気にしていないふりをして、食事を再開する。
 けれど、口に含んだ酢鶏は、どうしようもないくらい味気なかった。とりあえず奥歯で噛み潰して、ごくりと飲み込む。

 食事を続けるうちに、『まぁ、そりゃ当然か』と納得する気持ちも湧いてきた。
 副会長が事件さえ起こさなければ、先輩は余計な気苦労を背負わずに済んだ。生徒会はこんな第一資料室なんかに追いやられずに済んだし、今頃は多くの役員でにぎわっていたかもしれない。

 それに、副会長のことを口にしたときの先輩の目を思い出すと、少しだけぞくりとする。そこにあったのは、怒りや悲しみというシンプルな感情じゃない。
 たぶん先輩は、榎木田とやらを心の底から憎み、軽蔑しているんだ。

 それから、生徒会についてはなにも話すことができず、夏休みに突入した。
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