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Ⅸ リンの生きる場所
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リンは夢を見た。とても悲しい夢。愛した人と幸せになろうと思ったのに、結ばれることがなく孤独に一人で死を選ぶ夢。苦しくて切ない夢。
全てはリンが罪人だからいけないのだ。リンには罪人の烙印がある。焼ける様な背中の痛み。生きる意味が分からなくなる虚無感。
『いやだぁぁ!』
リンは夢の中で悲鳴を上げた。
「リン!」
呼び声にリンはハッと覚醒し、声の方に視線を向ける。そこには驚いた顔でリンの手を握っているセレスがいた。
「リン、大丈夫? うなされていたよ。さっきは悲鳴を上げた。悪夢だった?」
「うん。すごく怖い夢、だった気がするなぁ」
「もう忘れちゃった?」
セレスの言葉にリンは首をかしげる。確かに先ほどまで覚えていたのだけれど。
「忘れた。あ~~怖かった。それは覚えているよ。ほら、すっごい汗」
リンの額と背中が汗で湿っている。
「本当だ。着替える?」
「うん。そうする。そうだ。ここに着いてから気持ち悪くなって吐いたんだ。注射で眠らせてもらった気がする」
「そうそう。三時間寝ていたよ。旅の疲れかもね。気を張っていたし。僕も疲れたよ」
セレスの微笑みにリンの心が落ち着いてくる。
「歓迎の場で吐くなんて貴族失格だ」
「そんな事はリンが気にしなくていいよ。どうする? 気分が大丈夫ならシャワーで身体きれいにする?」
「うん。浴室借りても大丈夫かな?」
「ここは迎賓室だって。何でも揃った貴賓室だよ。浴室も豪華なのが付いているんじゃないかな。見てくるよ」
リンが寝ている寝室から続く扉をセレスが開ける。
「やっぱり。リン、浴室ついているよ。侍女に言って用意してもらおうかって王城の侍従ってどう声をかけるのかな。分からないや」
「浴室はどこも扱い方は一緒じゃないか? ちょっと見に行くよ」
リンは眩暈が無くなっている事を確認し、セレスのもとに行く。
「おお、豪華な浴室だ。セレスと二人で入っても十分な広さだね」
「一緒に入っちゃう?」
「いいね。小さい頃みたいだ」
セレスと目を合わせニカっと笑い合う。
「やるか」
「やっちゃうか」
そこからは「このスイッチが湯のボタンだ!」「違うだろう。こっちだ!」と浴室をいじりまくってシャワーから水が出て二人でびしょ濡れになり大笑いした。水シャワーはさすがに夏でも寒くて、すぐに湯船に湯を張った。
「リン、服脱ぐよ」
「あ、僕の背中ガーゼ張っているんだった。いつもは触るなってカロール殿下が言うんだよ。でも、今日はいっか」
「は? ちょっと、リン! 自分でやるな。カロール殿下が来るまでこのままじゃ風邪ひくか。う~~、仕方ない。僕がやるけど、背中は自分で見ているの?」
「いや。見てもいけないって言うから見ていないよ」
「じゃ、僕と入浴したことで見たとなると僕は処刑されるかも。リン、絶対に背中を自分で見るなよ」
「セレスが処刑になるのは絶対だめだ。わかった。見ない」
「よし。じゃ、僕が剥がすからね。リン、鏡も見るなよ」
「分かっている。セレスを守るためならば!」
「あはは。その意気だ」
セレスと共に服を一気に脱ぎ捨てる。リンはセレスの裸体の美しさに息を飲んだ。線の細いオメガ独特の身体のライン。透き通る肌が人間離れしている。
「リン、綺麗だ……」
セレスに見とれてしまったリンだが、セレスもリンを正面から見て真っ赤になっている。二人でクスクス笑う。
「僕ら、オメガ同士で褒めたたえ合って見惚れ合ってバカだね」
「ほんとその通り。リンと居ると緊張感とかどうでも良くなっちゃうよ。ほら、背中のガーゼ剥がすよ」
クルリとセレスに身体の向きを変えられる。
「はい、お願いしまーーす」
いつもカロール殿下にしてもらっている時のように目を閉じた。
ピリピリとテープが剥がれる感覚。ガーゼが取れた時「うっ」とセレスの小さな声。セレスが息を飲むのが伝わってくる。
「あぁ、ちょっとグロテスクなのかも。ごめん。先に言えば良かった。カロール殿下が教えてくれないけれど、ちょっとひどい打ち身になっているらしいんだ」
セレスが数回深呼吸するのが伝わってくる。リンの肩にセレスが手を添える。セレスの手が震えている。
「セレス?」
「何でもないよ。そうだね。リンは絶対に見ないでね。絶対にダメだよ」
「分かっているって。カロール殿下にも言われているしね。もう目を開けてもいい?」
「待ってね。湯船に入るまでは僕が誘導するよ。鏡で背中が目に入ったら困るからね」
「僕は介護されるおじいちゃんか!」
笑い合いながらセレスに手を引かれて湯船に入る。
「もう目を開けていいよ」
セレスの声で前を見る。向かい合わせにセレスが湯船に入っている。
「あはは。本当に一緒に入っている」
「当たり前。こんな楽しいチャンスは逃すわけない」
「だよね。セレスがいるだけで田舎だって輝く天国だった。今だって気持ちがとっても楽になっている」
「そんな風に言ってくれて嬉しい。僕も同じだよ。リンは僕の輝く太陽だ。いつも僕の先を照らしてくれて幸せの場所を教えてくれるんだ。リンは天使そのものだよ」
「セレス」
「リン」
感極まって二人で湯船の中で抱きしめ合った。柔らかい肌がカロール殿下と大違いだと思った、その時。
「リン! セレス!」
浴室のドアが開けられて青い顔のカロール殿下とドーラ殿下が飛び込んできた。あまりの剣幕にリンとセレスは抱き合ったまま殿下二人を呆然と見つめた。
四人でしばらく無言。
「……ゴチソウサマ。最高。なにこれ。神回再来。大好き。オメガ萌え!」
リンとセレスを変態顔で眺めるドーラ殿下。途端に恥ずかしくなる。
「ギャー! 浴室覗くとか、ありえないだろう! 変態アルファ!」
セレスが声を上げた。
「え? えぇ? そんな、セレス、嫌わないで」
一筋の鼻血を垂らしてセレスに手を伸ばすドーラ殿下。
「わぁぁ! 近づくなぁ!」
セレスが思いっきりドーラ殿下に湯をかけた。
ザザ国王太子にそんなことをして不敬罪にならないのかリンはハラハラしたが、セレスはお構いなしの表情。目配せで『大丈夫だよ』とリンに合図してくる。ドーラ殿下を見れば「そんなぁ」とヘタレ顔。セレスとドーラ殿下の関係性が良く分かりリンは嬉しくなった。カロール殿下はコントの様な一部始終に呆れ顔だ。
「ドーラ、鼻血を拭け。そして、リンとセレス。勝手に入浴など、そんな愛らしいことをして、風呂で抱きしめ合っているなど、あぁ、もう満点だ!」
感極まって浴室の天井を見るカロール殿下。カロール殿下はややドーラ殿下に毒されているなぁとリンは思う。二人の殿下の様子にリンとセレスは肩をすくめ合う。
「あの、もう出ますから部屋でお待ちください」
「二人で大丈夫かな?」
「はい。背中は見ていません。セレスが全てしてくれました」
「そうか。セレスありがとう。では仲が良いところをお邪魔してすまなかった。脱衣所で待つよ」
カロール殿下がドーラ殿下を連れて出て行く。ドーラ殿下は「俺も入るぅ」と言っていたがカロール殿下に却下されていた。その様子がおかしくてリンとセレスは声に出して笑い合った。
「四人で暮らしたら毎日楽しそうだね」
「僕もそう思っていた。ま、夢のまた夢だけれど」
「なぁ、セレスはドーラ殿下のところに嫁ぐのか?」
「そのつもり。ドーラ殿下と生きて行きたい」
セレスが凛とした顔でリンを見る。
「リンはカロール殿下と結婚するんだ。そうして僕たちは隣領地の幼馴染から隣国同士の仲良し妃殿下になる」
自信たっぷりに声にするセレスが可愛くてリンはセレスの茶色い髪を撫でた。リンはもう叶わない夢だけどセレスには幸せになって欲しい。そう考えて、リンは何故自分がそんな風に思うのか理解できなかった。
ゆっくり入浴を楽しんだリンとセレス。湯から上がると、脱衣所でリンはカロール殿下にバスタオルで包み込まれ、セレスはドーラ殿下に包み込まれていた。「いたずらオメガめ」と幼子に言い聞かせる様なカローラ殿下の声がくすぐったかった。
「あ、これ僕の家の洋ナシ果実水です」
「正解。ニッゼン子爵からの献上品だよ」
「本当だ。甘くて美味しいね」
風呂上がりのリンとセレスはバスローブだけ着てひと休みしている。
ドーラ殿下は「可愛い! ここは天国か!」と変態行為を楽しんでいる。
「ねぇ、セレス。ドーラ殿下はいつもこんな変態行動をしているの? こんなでいいの?」
小さな声でリンが聞くとセレスが吹きだして笑う。
「こう見えて、やるときはやる切れ者王子殿下だよ。リンがそれを僕に教えてくれていたのに、逆転している」
「そうなんだね。ここ一年の欠けた記憶が濃厚だったんだなぁ。このおかしなドーラ殿下が切れ者になる姿が見たいよ」
セレスと二人で果実水を飲みながら囁きあう。
「リン、今日は国王主催の晩餐会があるから俺とドーラは戻りが遅い。だから今日はこの部屋にセレスと泊ってほしい。リンとセレスは晩餐会に出席しなくて良いから」
「リンとセレスが楽しめるように部屋に恋愛小説を届けるよう手配した。セレスからリンと読みあったと聞いたからね。あとお菓子パーティーも。それから食事は部屋に運ぶようにしたから。この部屋で楽しく過ごせるよう侍女を手配する。欲しいものは何でも侍女に言えばいい。玄関前には護衛兵をつけるね。鍵をかけて人の出入りが無いようにね」
なぜか必死なカロール殿下にリンは首をかしげる。まるで『室内から出るな』とリンに言っているようだ。
「この部屋の中にいます。大丈夫です」
「うん。でも心配だ。一歩も出て欲しくない」
不安そうなカロール殿下を見て、リンは先ほどの意味不明な体調不良を思い出した。
城の中に入ったときの恐怖感。ここはリンにとってカロール殿下と過ごした幸せが詰まった場所のはずなのに怖さを感じるのは何故だろう。理解できない事だらけだ。でもそんなリン以上に不安になっているカロール殿下がいる。これ以上カロール殿下を悲しませたくない。リンは「わかりました」と返事をして、カロール殿下を送り出した。
全てはリンが罪人だからいけないのだ。リンには罪人の烙印がある。焼ける様な背中の痛み。生きる意味が分からなくなる虚無感。
『いやだぁぁ!』
リンは夢の中で悲鳴を上げた。
「リン!」
呼び声にリンはハッと覚醒し、声の方に視線を向ける。そこには驚いた顔でリンの手を握っているセレスがいた。
「リン、大丈夫? うなされていたよ。さっきは悲鳴を上げた。悪夢だった?」
「うん。すごく怖い夢、だった気がするなぁ」
「もう忘れちゃった?」
セレスの言葉にリンは首をかしげる。確かに先ほどまで覚えていたのだけれど。
「忘れた。あ~~怖かった。それは覚えているよ。ほら、すっごい汗」
リンの額と背中が汗で湿っている。
「本当だ。着替える?」
「うん。そうする。そうだ。ここに着いてから気持ち悪くなって吐いたんだ。注射で眠らせてもらった気がする」
「そうそう。三時間寝ていたよ。旅の疲れかもね。気を張っていたし。僕も疲れたよ」
セレスの微笑みにリンの心が落ち着いてくる。
「歓迎の場で吐くなんて貴族失格だ」
「そんな事はリンが気にしなくていいよ。どうする? 気分が大丈夫ならシャワーで身体きれいにする?」
「うん。浴室借りても大丈夫かな?」
「ここは迎賓室だって。何でも揃った貴賓室だよ。浴室も豪華なのが付いているんじゃないかな。見てくるよ」
リンが寝ている寝室から続く扉をセレスが開ける。
「やっぱり。リン、浴室ついているよ。侍女に言って用意してもらおうかって王城の侍従ってどう声をかけるのかな。分からないや」
「浴室はどこも扱い方は一緒じゃないか? ちょっと見に行くよ」
リンは眩暈が無くなっている事を確認し、セレスのもとに行く。
「おお、豪華な浴室だ。セレスと二人で入っても十分な広さだね」
「一緒に入っちゃう?」
「いいね。小さい頃みたいだ」
セレスと目を合わせニカっと笑い合う。
「やるか」
「やっちゃうか」
そこからは「このスイッチが湯のボタンだ!」「違うだろう。こっちだ!」と浴室をいじりまくってシャワーから水が出て二人でびしょ濡れになり大笑いした。水シャワーはさすがに夏でも寒くて、すぐに湯船に湯を張った。
「リン、服脱ぐよ」
「あ、僕の背中ガーゼ張っているんだった。いつもは触るなってカロール殿下が言うんだよ。でも、今日はいっか」
「は? ちょっと、リン! 自分でやるな。カロール殿下が来るまでこのままじゃ風邪ひくか。う~~、仕方ない。僕がやるけど、背中は自分で見ているの?」
「いや。見てもいけないって言うから見ていないよ」
「じゃ、僕と入浴したことで見たとなると僕は処刑されるかも。リン、絶対に背中を自分で見るなよ」
「セレスが処刑になるのは絶対だめだ。わかった。見ない」
「よし。じゃ、僕が剥がすからね。リン、鏡も見るなよ」
「分かっている。セレスを守るためならば!」
「あはは。その意気だ」
セレスと共に服を一気に脱ぎ捨てる。リンはセレスの裸体の美しさに息を飲んだ。線の細いオメガ独特の身体のライン。透き通る肌が人間離れしている。
「リン、綺麗だ……」
セレスに見とれてしまったリンだが、セレスもリンを正面から見て真っ赤になっている。二人でクスクス笑う。
「僕ら、オメガ同士で褒めたたえ合って見惚れ合ってバカだね」
「ほんとその通り。リンと居ると緊張感とかどうでも良くなっちゃうよ。ほら、背中のガーゼ剥がすよ」
クルリとセレスに身体の向きを変えられる。
「はい、お願いしまーーす」
いつもカロール殿下にしてもらっている時のように目を閉じた。
ピリピリとテープが剥がれる感覚。ガーゼが取れた時「うっ」とセレスの小さな声。セレスが息を飲むのが伝わってくる。
「あぁ、ちょっとグロテスクなのかも。ごめん。先に言えば良かった。カロール殿下が教えてくれないけれど、ちょっとひどい打ち身になっているらしいんだ」
セレスが数回深呼吸するのが伝わってくる。リンの肩にセレスが手を添える。セレスの手が震えている。
「セレス?」
「何でもないよ。そうだね。リンは絶対に見ないでね。絶対にダメだよ」
「分かっているって。カロール殿下にも言われているしね。もう目を開けてもいい?」
「待ってね。湯船に入るまでは僕が誘導するよ。鏡で背中が目に入ったら困るからね」
「僕は介護されるおじいちゃんか!」
笑い合いながらセレスに手を引かれて湯船に入る。
「もう目を開けていいよ」
セレスの声で前を見る。向かい合わせにセレスが湯船に入っている。
「あはは。本当に一緒に入っている」
「当たり前。こんな楽しいチャンスは逃すわけない」
「だよね。セレスがいるだけで田舎だって輝く天国だった。今だって気持ちがとっても楽になっている」
「そんな風に言ってくれて嬉しい。僕も同じだよ。リンは僕の輝く太陽だ。いつも僕の先を照らしてくれて幸せの場所を教えてくれるんだ。リンは天使そのものだよ」
「セレス」
「リン」
感極まって二人で湯船の中で抱きしめ合った。柔らかい肌がカロール殿下と大違いだと思った、その時。
「リン! セレス!」
浴室のドアが開けられて青い顔のカロール殿下とドーラ殿下が飛び込んできた。あまりの剣幕にリンとセレスは抱き合ったまま殿下二人を呆然と見つめた。
四人でしばらく無言。
「……ゴチソウサマ。最高。なにこれ。神回再来。大好き。オメガ萌え!」
リンとセレスを変態顔で眺めるドーラ殿下。途端に恥ずかしくなる。
「ギャー! 浴室覗くとか、ありえないだろう! 変態アルファ!」
セレスが声を上げた。
「え? えぇ? そんな、セレス、嫌わないで」
一筋の鼻血を垂らしてセレスに手を伸ばすドーラ殿下。
「わぁぁ! 近づくなぁ!」
セレスが思いっきりドーラ殿下に湯をかけた。
ザザ国王太子にそんなことをして不敬罪にならないのかリンはハラハラしたが、セレスはお構いなしの表情。目配せで『大丈夫だよ』とリンに合図してくる。ドーラ殿下を見れば「そんなぁ」とヘタレ顔。セレスとドーラ殿下の関係性が良く分かりリンは嬉しくなった。カロール殿下はコントの様な一部始終に呆れ顔だ。
「ドーラ、鼻血を拭け。そして、リンとセレス。勝手に入浴など、そんな愛らしいことをして、風呂で抱きしめ合っているなど、あぁ、もう満点だ!」
感極まって浴室の天井を見るカロール殿下。カロール殿下はややドーラ殿下に毒されているなぁとリンは思う。二人の殿下の様子にリンとセレスは肩をすくめ合う。
「あの、もう出ますから部屋でお待ちください」
「二人で大丈夫かな?」
「はい。背中は見ていません。セレスが全てしてくれました」
「そうか。セレスありがとう。では仲が良いところをお邪魔してすまなかった。脱衣所で待つよ」
カロール殿下がドーラ殿下を連れて出て行く。ドーラ殿下は「俺も入るぅ」と言っていたがカロール殿下に却下されていた。その様子がおかしくてリンとセレスは声に出して笑い合った。
「四人で暮らしたら毎日楽しそうだね」
「僕もそう思っていた。ま、夢のまた夢だけれど」
「なぁ、セレスはドーラ殿下のところに嫁ぐのか?」
「そのつもり。ドーラ殿下と生きて行きたい」
セレスが凛とした顔でリンを見る。
「リンはカロール殿下と結婚するんだ。そうして僕たちは隣領地の幼馴染から隣国同士の仲良し妃殿下になる」
自信たっぷりに声にするセレスが可愛くてリンはセレスの茶色い髪を撫でた。リンはもう叶わない夢だけどセレスには幸せになって欲しい。そう考えて、リンは何故自分がそんな風に思うのか理解できなかった。
ゆっくり入浴を楽しんだリンとセレス。湯から上がると、脱衣所でリンはカロール殿下にバスタオルで包み込まれ、セレスはドーラ殿下に包み込まれていた。「いたずらオメガめ」と幼子に言い聞かせる様なカローラ殿下の声がくすぐったかった。
「あ、これ僕の家の洋ナシ果実水です」
「正解。ニッゼン子爵からの献上品だよ」
「本当だ。甘くて美味しいね」
風呂上がりのリンとセレスはバスローブだけ着てひと休みしている。
ドーラ殿下は「可愛い! ここは天国か!」と変態行為を楽しんでいる。
「ねぇ、セレス。ドーラ殿下はいつもこんな変態行動をしているの? こんなでいいの?」
小さな声でリンが聞くとセレスが吹きだして笑う。
「こう見えて、やるときはやる切れ者王子殿下だよ。リンがそれを僕に教えてくれていたのに、逆転している」
「そうなんだね。ここ一年の欠けた記憶が濃厚だったんだなぁ。このおかしなドーラ殿下が切れ者になる姿が見たいよ」
セレスと二人で果実水を飲みながら囁きあう。
「リン、今日は国王主催の晩餐会があるから俺とドーラは戻りが遅い。だから今日はこの部屋にセレスと泊ってほしい。リンとセレスは晩餐会に出席しなくて良いから」
「リンとセレスが楽しめるように部屋に恋愛小説を届けるよう手配した。セレスからリンと読みあったと聞いたからね。あとお菓子パーティーも。それから食事は部屋に運ぶようにしたから。この部屋で楽しく過ごせるよう侍女を手配する。欲しいものは何でも侍女に言えばいい。玄関前には護衛兵をつけるね。鍵をかけて人の出入りが無いようにね」
なぜか必死なカロール殿下にリンは首をかしげる。まるで『室内から出るな』とリンに言っているようだ。
「この部屋の中にいます。大丈夫です」
「うん。でも心配だ。一歩も出て欲しくない」
不安そうなカロール殿下を見て、リンは先ほどの意味不明な体調不良を思い出した。
城の中に入ったときの恐怖感。ここはリンにとってカロール殿下と過ごした幸せが詰まった場所のはずなのに怖さを感じるのは何故だろう。理解できない事だらけだ。でもそんなリン以上に不安になっているカロール殿下がいる。これ以上カロール殿下を悲しませたくない。リンは「わかりました」と返事をして、カロール殿下を送り出した。
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