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Ⅸ リンの生きる場所
③
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カロール殿下は中年の穏やかな侍女三名をリンの部屋につけてくれた。常に部屋の中にいるのに出過ぎなくて居心地のいい人たちだ。彼女たちが部屋の中を華やかに飾り付けてテーブルいっぱいのお菓子を盛り付けてお茶も果実水も用意してくれた。
「なぁ、これさぁ、何人分?」
「うん。同じ事を考えていたよ。僕たちどれだけ大食らいに思われているのかな?」
リンとセレスの会話に穏やかに微笑む侍女たち。大きなダイニングテーブルを生花とお菓子が埋め尽くしている。クッキーやケーキ、チョコ、プリンゼリー類にアイスまである。パンも並んでいる。飲み物もガラスのピッチャーに入れられて美しく並んでいる。
「いやいや、リンをココから出したくないんだろうな。室内で満足するように必死なカロール殿下の思いが伝わってくる」
「そうだよね。この部屋は怖くないけれど、城に入ったときはダメだと思った。王城は僕にとって嫌な場所かもしれない」
「リン。あまり考えないで。お願い」
「うん。調子悪くなったらセレスが困るよね。僕にもどこで体調悪くなるのか分からないから大人しくしているよ。あ、そういえばこの城にはカロール殿下のペットのフクロウがいるらしい。そのフクロウには会いたいなぁ」
リンの声に侍女の一人が反応する。
「リン様、フクロウのルーならば連れてくることができます。カロール殿下より許可が出ております。お連れしましょうか?」
「良いのですか? ぜひお願いします」
「かしこまりました」
侍女が二人退室する。
「セレス、フクロウって昼間は寝ているのかな?」
「いや、室内飼育されているフクロウは昼寝程度じゃないかな。猛禽類なのにリンは怖くないの?」
「うん。ルーに会いたくて仕方ないんだ」
「きっと王城で仲良しだったのかもね」
紅茶とお菓子を食べながら「この旅で太りそうだ」とセレスと笑い合った。食べてばかりになりそうで城の庭でも散歩したいよね、と話し合っていた時。
「失礼します。フクロウのルーをお連れしました」
侍女が大きな鳥かごに入ったフクロウを運んできた。止まり木に居るフクロウがリンを見て目を大きくする。その瞬間にリンは心が跳ね上がるほどの喜びを感じた。ローテーブルに置かれたルーのそばにリンが駆け寄る。
「ルー! ありがとう。元気に生きていてくれて良かった。本当に心配したんだ! 僕は助けてもらってばかりでルーに何もしてあげられなくてゴメン。ルー!」
リンは自分が何を言っているのか自分で分からなかった。かごの扉を開けてルーの羽をそっと触れる。嫌がらずにルーが羽をモゾモゾ動かす。
「ルー、ブレスレットを届けてくれてありがとう。羽を怪我したの? 出来るなら代わってあげたいよ。自由に飛びたいよね。僕のせいでゴメン」
興奮の心のままに言葉がリンの口から出てくる。気がつくとリンは涙を流していた。
ルーが『ホゥ』と鳴き羽をバサッと広げる。まるで『大丈夫さ』とでも喋り出しそうな様子がルーらしくて微笑ましい。
「ルーは優しいね。ありがとう。大好きだよ」
リンがそっとルーの頭に触れる。嬉しそうなルーの様子に癒やされる。
「リンと仲良しというか、フクロウのルーがリンを好きみたいだね」
セレスの声にリンは振り向く。
「違うよ。僕がルーを好きなんだ。ルーが居なかったら僕は生きていなかったかもしれないし」
「え? どういうこと?」
「不法の森に捨てられて、背中の痛みと苦しさでもう死ぬんだって絶望したけれど、ルーがドーラ殿下を連れてきてくれた。あの出会いがなければ僕は死んでいた」
リンの言葉に青ざめて動きを止めているセレス。リンは言葉が続かなくてセレスと見つめ合う。セレスを見ていると自分が何を話していたのか分からなくなる。考えると頭痛がしてリンは顔をしかめる。
「あれ? 何の、話だったかな? えっと……」
「リン、ルーは何を食べるのかな? ナッツとかあげても良いと思う?」
急にセレスに声を掛けられてリンは首をかしげる。セレスの言葉で今考えていたことがあやふやになる。
「え? 虫とかかなぁ。猛禽類だからナッツは無理かも」
「じゃ、キャラメルナッツ美味しいけれど食べないよね」
このセレスの言葉にリンは吹き出した。
「あはは。キャラメルナッツは普通の鳥でも無理だろ。ルーは夜の散歩で野性のネズミを捕獲することもあるよ。そうそう、夜のお茶会でルーが鼠を捕まえて持ち帰ったことがあったよ。それだけは見るのが嫌だったなぁ。餌はカロール殿下が管理しているからあげなくて大丈夫。ね、ルー」
キャラメルナッツと聞いて懐かしいと思うリンがいる。愛らしいルーの瞳にリンは夢中だった。だから隣のセレスが困った顔でリンを見ていたのに気が付かなかった。
「ね、リン。フクロウのルーは昼寝程度でも昼間は休みたいかもね。ここに居たら休めないかもしれないよ?」
セレスの声にリンは我に返った。
「そうだね。夜の散歩までは昼間に小屋から出すことは無かったよ。ルーに無理をさせたら可哀そうだ。カロール殿下の書斎に戻っていてもらおうかな。ルー、また夜にね」
部屋の侍女にお願いしてルーを戻してもらった。
「セレス、どうかした?」
セレスの顔色が優れない。
「何でもない。大丈夫だよ。今はカロール殿下が不在だしリンに刺激が無いようにしたいな。それよりお菓子食べながら小説読みふけって過ごそうよ。ダラダラパーティーだ」
刺激ってなんだ? とリンは首をかしげたが、セレスと楽しいパーティーが出来ると思えば気持ちが明るくなった。
「あはは。それいい! でも良いのかなぁ。殿下お二人が仕事なのに遊び惚けていて」
「いんじゃない? リンと二人だけって贅沢を満喫しないのは損だ!」
リンはセレスと目を合わせる。途端に楽しくなってくる。
「じゃ、楽しんじゃおう」
「大賛成!」
侍女に下がっていて欲しいと頼んでリンとセレスの二人きり。
「ソファーに布団を運ぼうか」
「枕も、だね。あと食べたい飲みたい物はローテーブルに移そうか」
「リンはカロール殿下の服って持っている?」
セレスの質問にリンの心臓がドキッとする。
「持っている、けど。白状するのが恥ずかしいよ」
「気にしないで。僕もドーラ殿下の服を持っている。巣作りじゃないけど、安心するよな」
「わかる。オメガの本能かなぁ」
「だから、それも持って来ようよ。大好きなリンに恋人アルファの匂い。お菓子を行儀悪く食べて本も読み放題!」
「わぉ! 最高!」
セレスと二人で笑いながら薄掛け布団を運んだ。枕は投げ合いながら運んだ。居間のロングソファーを二人で動かして二つ並べる。重くて声を上げて動かしていたら、様子を見に来た侍女が慌てて手を貸してくれた。
「危ないことはしないでください」と注意されてしまった。セレスとリンは「ごめんなさい」と謝った。小さい頃のようにリンはセレスと顔見合わせてペロリと舌を出した。その懐かしさに二人で笑った。侍女たちは「幼子のようでございます」と微笑みながら別室に下がってくれた。
「なぁ、これさぁ、何人分?」
「うん。同じ事を考えていたよ。僕たちどれだけ大食らいに思われているのかな?」
リンとセレスの会話に穏やかに微笑む侍女たち。大きなダイニングテーブルを生花とお菓子が埋め尽くしている。クッキーやケーキ、チョコ、プリンゼリー類にアイスまである。パンも並んでいる。飲み物もガラスのピッチャーに入れられて美しく並んでいる。
「いやいや、リンをココから出したくないんだろうな。室内で満足するように必死なカロール殿下の思いが伝わってくる」
「そうだよね。この部屋は怖くないけれど、城に入ったときはダメだと思った。王城は僕にとって嫌な場所かもしれない」
「リン。あまり考えないで。お願い」
「うん。調子悪くなったらセレスが困るよね。僕にもどこで体調悪くなるのか分からないから大人しくしているよ。あ、そういえばこの城にはカロール殿下のペットのフクロウがいるらしい。そのフクロウには会いたいなぁ」
リンの声に侍女の一人が反応する。
「リン様、フクロウのルーならば連れてくることができます。カロール殿下より許可が出ております。お連れしましょうか?」
「良いのですか? ぜひお願いします」
「かしこまりました」
侍女が二人退室する。
「セレス、フクロウって昼間は寝ているのかな?」
「いや、室内飼育されているフクロウは昼寝程度じゃないかな。猛禽類なのにリンは怖くないの?」
「うん。ルーに会いたくて仕方ないんだ」
「きっと王城で仲良しだったのかもね」
紅茶とお菓子を食べながら「この旅で太りそうだ」とセレスと笑い合った。食べてばかりになりそうで城の庭でも散歩したいよね、と話し合っていた時。
「失礼します。フクロウのルーをお連れしました」
侍女が大きな鳥かごに入ったフクロウを運んできた。止まり木に居るフクロウがリンを見て目を大きくする。その瞬間にリンは心が跳ね上がるほどの喜びを感じた。ローテーブルに置かれたルーのそばにリンが駆け寄る。
「ルー! ありがとう。元気に生きていてくれて良かった。本当に心配したんだ! 僕は助けてもらってばかりでルーに何もしてあげられなくてゴメン。ルー!」
リンは自分が何を言っているのか自分で分からなかった。かごの扉を開けてルーの羽をそっと触れる。嫌がらずにルーが羽をモゾモゾ動かす。
「ルー、ブレスレットを届けてくれてありがとう。羽を怪我したの? 出来るなら代わってあげたいよ。自由に飛びたいよね。僕のせいでゴメン」
興奮の心のままに言葉がリンの口から出てくる。気がつくとリンは涙を流していた。
ルーが『ホゥ』と鳴き羽をバサッと広げる。まるで『大丈夫さ』とでも喋り出しそうな様子がルーらしくて微笑ましい。
「ルーは優しいね。ありがとう。大好きだよ」
リンがそっとルーの頭に触れる。嬉しそうなルーの様子に癒やされる。
「リンと仲良しというか、フクロウのルーがリンを好きみたいだね」
セレスの声にリンは振り向く。
「違うよ。僕がルーを好きなんだ。ルーが居なかったら僕は生きていなかったかもしれないし」
「え? どういうこと?」
「不法の森に捨てられて、背中の痛みと苦しさでもう死ぬんだって絶望したけれど、ルーがドーラ殿下を連れてきてくれた。あの出会いがなければ僕は死んでいた」
リンの言葉に青ざめて動きを止めているセレス。リンは言葉が続かなくてセレスと見つめ合う。セレスを見ていると自分が何を話していたのか分からなくなる。考えると頭痛がしてリンは顔をしかめる。
「あれ? 何の、話だったかな? えっと……」
「リン、ルーは何を食べるのかな? ナッツとかあげても良いと思う?」
急にセレスに声を掛けられてリンは首をかしげる。セレスの言葉で今考えていたことがあやふやになる。
「え? 虫とかかなぁ。猛禽類だからナッツは無理かも」
「じゃ、キャラメルナッツ美味しいけれど食べないよね」
このセレスの言葉にリンは吹き出した。
「あはは。キャラメルナッツは普通の鳥でも無理だろ。ルーは夜の散歩で野性のネズミを捕獲することもあるよ。そうそう、夜のお茶会でルーが鼠を捕まえて持ち帰ったことがあったよ。それだけは見るのが嫌だったなぁ。餌はカロール殿下が管理しているからあげなくて大丈夫。ね、ルー」
キャラメルナッツと聞いて懐かしいと思うリンがいる。愛らしいルーの瞳にリンは夢中だった。だから隣のセレスが困った顔でリンを見ていたのに気が付かなかった。
「ね、リン。フクロウのルーは昼寝程度でも昼間は休みたいかもね。ここに居たら休めないかもしれないよ?」
セレスの声にリンは我に返った。
「そうだね。夜の散歩までは昼間に小屋から出すことは無かったよ。ルーに無理をさせたら可哀そうだ。カロール殿下の書斎に戻っていてもらおうかな。ルー、また夜にね」
部屋の侍女にお願いしてルーを戻してもらった。
「セレス、どうかした?」
セレスの顔色が優れない。
「何でもない。大丈夫だよ。今はカロール殿下が不在だしリンに刺激が無いようにしたいな。それよりお菓子食べながら小説読みふけって過ごそうよ。ダラダラパーティーだ」
刺激ってなんだ? とリンは首をかしげたが、セレスと楽しいパーティーが出来ると思えば気持ちが明るくなった。
「あはは。それいい! でも良いのかなぁ。殿下お二人が仕事なのに遊び惚けていて」
「いんじゃない? リンと二人だけって贅沢を満喫しないのは損だ!」
リンはセレスと目を合わせる。途端に楽しくなってくる。
「じゃ、楽しんじゃおう」
「大賛成!」
侍女に下がっていて欲しいと頼んでリンとセレスの二人きり。
「ソファーに布団を運ぼうか」
「枕も、だね。あと食べたい飲みたい物はローテーブルに移そうか」
「リンはカロール殿下の服って持っている?」
セレスの質問にリンの心臓がドキッとする。
「持っている、けど。白状するのが恥ずかしいよ」
「気にしないで。僕もドーラ殿下の服を持っている。巣作りじゃないけど、安心するよな」
「わかる。オメガの本能かなぁ」
「だから、それも持って来ようよ。大好きなリンに恋人アルファの匂い。お菓子を行儀悪く食べて本も読み放題!」
「わぉ! 最高!」
セレスと二人で笑いながら薄掛け布団を運んだ。枕は投げ合いながら運んだ。居間のロングソファーを二人で動かして二つ並べる。重くて声を上げて動かしていたら、様子を見に来た侍女が慌てて手を貸してくれた。
「危ないことはしないでください」と注意されてしまった。セレスとリンは「ごめんなさい」と謝った。小さい頃のようにリンはセレスと顔見合わせてペロリと舌を出した。その懐かしさに二人で笑った。侍女たちは「幼子のようでございます」と微笑みながら別室に下がってくれた。
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