真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉

小池 月

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Ⅱ ダイエットは食事から!

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 土曜日はよく晴れたいい天気になった。待ち合わせの八時五分前に到着した凛太朗は、陽射しの強さに嫌気がさして日陰に避難した。

 駅前集合にしたが、駅構内にすればよかった。晴れたのは嬉しいが、六月末なのに夏のようだ。

(暑いなぁ。昼間はもっと暑いかも。熱中症気を付けよ)
 日陰から空を見上げると、肩をポンと叩かれた。凛太朗の身体がビクリと反応する。だが、その大きな手に心当たりがありすぎてクスッとした。

「凛太朗、おはよ」
 振り返れば、はにかんだ顔の酒井がいた。

「おはよ。早いじゃん」
「ん。楽しみすぎて早起きした」

「僕も。Y県には新幹線で行く?」
「うん。隣の県だから一時間半でつくよ。はい、凛太朗の分」

 酒井から新幹線のチケットを渡された。「サンキュ」と受け取ってまじまじと酒井を見ると、いつもの制服とは違うラフな格好が目に入る。

「酒井ってシンプル系着るんだ」
 つい感想が漏れた。

 酒井の服は黒いズボンに黒のTシャツ、斜め掛けのバックがベージュだ。大きな柄はなく、スポーツブランドのロゴが目立たないように入っている。シンプルながら大柄な体系を覆うジャストフィットな服が見た目をスッキリさせている。

「どんなの着れば良いのか分からなくて。ネットでさ、体系から似合う服を選んでくれるサイトがあって使ってみた。変じゃない?」
「そんなサイトがあるのか。うん、良く似合ってる。いいじゃん」
 凛太朗の言葉に酒井の頬がニッコリ持ち上がる。酒井の服はバッチリだが、髪型はいつもと同じで目が隠れている。

 凛太朗は手を伸ばして酒井の前髪を少し分けた。切れ長のたれ目と凛とした眉毛が出てくる。額を出すだけでこれほど印象が変わるのに勿体ないと凛太朗は思う。

「な、なに?」
 急な接触に目をキョロキョロさせる様子が愛らしい。
「何でもない。酒井は男前だなって思っただけ」
「は、はぁ? な、何なんだ」

 時々刺すような強い眼光を放つのに、今は可愛らしく焦っている酒井に心がホンワカする。グシャグシャっと酒井の前髪を戻して笑いかければ、首を傾げながら酒井が笑う。そんなやりとりだけでワクワクしてくる。

「よし! 行くか」
「だな! あと、その、凛太朗も、服、似合ってる」

 駅構内に歩き始めた時の酒井の言葉に振り返れば、真っ赤になった酒井が見えた。

 凛太朗は細身のベージュパンツに星空柄の襟付き半袖シャツを着ている。似合っているかは分からないが、凛太朗は柄が入っているシャツを着ることが多い。

「オシャレとか分からなくて適当に選んで着ているだけなんだけど、サンキュ。って、なんか照れるんだけど」
 互いに私服を褒め合ってくすぐったい気分だ。でもそんなのも酒井となら悪くない。

「あ、水分買って行こう。今日はダイエット気にせず楽しもう! 食べ過ぎなきゃオッケにしよ」
「そうだな。ご褒美だし」

「うん。僕が監視しているから大丈夫だ」
「あはは。それは願ったりだ」

 売店でお茶のペットボトルとガムを買った。

「一時間新幹線乗った後、在来線に乗り換えて三十分だよ」
「そっか。僕は友達と遠出とかしたことないや。ちょっと緊張」
「俺も」
「似た者同士じゃんか。あ、ここ二人席空いてる。座ろ」

 新幹線の自由席に酒井と並んで座った。酒井は身体が大きいから、はみ出してもいい通路側に座りたいと言って来た。そこまでデカくはないだろ、と思ったが、実際にはみ出る酒井の上半身に笑った。「よし、もっと痩せよう」と二人で決意を新たにした。

「酒井、昼はパン食っていた時よりカロリーダウンしているけど、それ以外の朝食とか夕食はどうしてる? それに筋トレとかどうやってるんだ?」
「うん。凛太朗が一生懸命になってくれてるから、絶対にダイエット成功したくて。朝食は置き換えダイエットっていう飲料にしてる。夕食は一人前の弁当以上は食べないって決めてるよ。そしたら食費は浮くし、良い事ばっか」

「その浮いた金が今日に費やされているワケか」
「そゆこと。楽しいことに使われたほうがお金も幸せだ」

 酒井がニカっと笑うと存在感のある頬が盛り上がる。その頬をツンツンしてみた。その弾力を味わいながら、頬も小さくなったと凛太朗は思った。幸せとか楽しいといった感情を酒井が自分の言葉で表現していることが嬉しかった。「美味しい」「食べたい」に続いて良い方向に酒井の心が動いているのを感じた。

「あとさ、筋トレも動画検索してやってる。ちょっとしまってきたんだ」

 頬を紅潮させる酒井を撫でたい気持ちになったが、ここは新幹線の中だと思い出して手を止めた。いや、高校生の友人度同士で撫でるなど普通に考えてオカシイ。
 自分自身を(何考えてんだよ、僕は)と窘めて、友達らしくするにはどうすべきかを考えた。
 ふと先日酒井に触れた感触を思い出した。身体がダイエット前より固かった。きっとあれは気のせいではなかったのだ。

「そっか。だから筋肉ついたんだな」
そう言いながら隣の酒井の胸部を触った。頭を撫でるのは抵抗があるが、男として筋肉を触るのはアリだろう。だが、触れてみて驚いた。本当に固くなっていた。

「あれ? マジで筋肉ついている。もっと触らせろ」
「なな、何してんだよ。凛太朗、ちょっと、待って」

 焦る酒井の弱い抵抗を抜けて胸部を揉みもみすると、筋肉の固さが手に伝わって来た。これはポヨンではない。もともとの肉厚さもあり、ガッチリ体形だ。

「いつの間に……」
 凛太朗はつい自分の胸筋を揉みもみして、その違いにガクリと肩を落とした。

「僕の方がポヨポヨだ」
「な、なんて? ポ、ポヨポヨ……?」

「うん。そっか。酒井は筋肉が付きやすい体質だったのか。数週間で……。何だか悔しいぃ」
 もう一度自分の胸筋を揉んでから酒井の胸に手を伸ばすと、酒井の大きな手に遮られた。

「何だよ」
「凛太朗、本当に、ちょっと。ここ、その、新幹線だし」

 真っ赤になった酒井を見て、ハッとした。場をわきまえずに騒いだ自分が恥ずかしい。凛太朗は座席に深く座り体を小さくした。

「ヤバ。小学生でもあるまいし」
 ぽつりとつぶやくと酒井がクスッと笑った。

「大声出したわけじゃないし、いいんじゃない? でも、俺ばっか触られてるから、凛太朗のポヨポヨも触って良い?」

 酒井に言われると急に照れくさくなる。酒井はガッチリになっているのに、凛太朗の薄っぺらい胸筋など触らせて良いのだろうか。同じ男として情けなくなる。

「えっと、そうだな……」
 やんわりと断るか、話題を変えようとしたその時。

「ひゃぁ!」
 変な声が凛太朗の口から洩れた。

 すぐに口を押えて酒井を睨んだ。心臓が飛び出そうな驚きで体温が一気に上昇したのを感じた。

「凛太朗、ポヨポヨじゃない。すごく、可愛い」
 ゾワリとする酒井の声に凛太朗の腹の底がズクンとした。優しく離れた酒井の手を恨めしく横目で追った。

(なんて触り方をするんだよ!)
 凛太朗は身体の熱が治まるのを待った。

 凛太朗は、酒井の大きな手で胸部を確かめるように触られた。厚い手が凛太朗の胸を包み込み、脇のラインをなぞるように指が動いた。身体の厚みを確かめるような一瞬の動きに小さな悲鳴が漏れていたのだ。

 凛太朗が気持ちを落ち着かせて酒井を見れば、いつもの余裕顔をしていた。何故か無性に腹が立った。
「酒井、お前エロ魔王か」
 悔しくて小声で非難をした。すると酒井が心底驚いた顔をした。

「え? 揉みもみした凛太朗の方がエロ大魔王じゃない?」
 酒井に言われて凛太朗は静止してしまった。それは、その通りだ。

 凛太朗は触るどころか揉んで感触を味わった。それに比べたら酒井の触れ方は優しかった。触られた驚きばかりが先に立って自分がしたことをうっかり忘れていた。何という自己中心的なことをしたのだろう。凛太朗は心から反省した。

「酒井、触ってごめん。これからは、もうしないから」
 自分の幼稚さを謝罪すると意外な答えが返ってきた。

「え? これからも触ってほしい。筋トレ成果を凛太朗にも感じて欲しいし。それに、凛太朗にも、触りたい」

 最後の方は聞き取れないほど小さな声だった。凛太朗は鍛えていないから分からないけれど、やはり自分が頑張った成果は実感したいのだろう。酒井は凛太朗の薄い身体と比較して達成感に浸りたいのかもしれない。なんだか切ない気もするが、それで酒井の気分が上るなら協力しようと思えた。

「うん。わかった。ま、触ってもいいけど、お互いに急には止めような。あと、二人だけの時にしよう」
 笑いながら応えると酒井は真っ赤になってコクリと頷いた。

「二人だけ……」
 そう酒井が呟いた。凛太朗は当然だろうと思った。人がいるところで触り合うなど頭がおかしいと思われてしまう。

 そこからは筋トレのメニューやウォーキングコースなど運動トークで盛り上がった。酒井が本格的に取り組んでいることがよく分かった。

 それに三週間で四キロ落としたのは、偶然ではなくそれだけの努力があったのだと分かった。ダイエットの話をするときは酒井が生き生きしていた。そんな酒井を見て、これからも気合の入った弁当を作ろうと思った。
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