真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉

小池 月

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Ⅳ 停滞期

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「酒井、立てるか?」
 声を掛けると酒井はスッと立ち上がった。その様子を見て凛太朗はホッとした。

 酒井の荷物と自分の荷物を持ち、「ん」と酒井に肩を差し出した。肩に寄りかかれば歩くのに楽だと思ったから。それなのに酒井はひょいっと凛太朗から荷物を奪ってしまう。

「おい、僕が持つって」
「いや、俺が持って凛太朗に完全に寄りかかる方が楽」

 荷物を肩にかけた酒井が甘えるように凛太朗の肩に圧し掛かった。思った以上の寄りかかりぶりに凛太朗は酒井の背中に腕を回してガッチリホールドをした。

 まるで二人でいちゃついて歩くカップルみたいだ。クラスの皆から「おお」「やば」「なんか、すげえな」と声が上がった。照れくささを感じた。

(そうだよ。酒井は、こういう奴だった)

 凛太朗は床屋に向かう時にお姫様抱っこをされたのを思い出した。その時にも酒井は人目を気にせず大胆な行動をした。照れる風もなく行動する酒井を思い出し、凛太朗は(あれ?)と思った。

 凛太朗は酒井の赤面するところを知っている。その度に可愛いなぁと思うほどだった。どんな時か思い出せないが、思い出せないほど小さな場面と言う事だ。
 大胆行動は平気でするのに、酒井の基準はよく分からない、と凛太朗は軽く首を傾げた。

「ん? 凛太朗どうした?」
 酒井と密着していて少しの動きがすぐに伝わる。

「いや、何でもない」
「そっか。なんか、懐かしい。やっぱ、凛太朗はイイ」

 酒井が凛太朗の髪に顔をすり寄せる。グラウンドでは閉会式が始まり、凛太朗たちの周辺に人はいない。それでも密着度合いが高すぎる。凛太朗はもう一度首を傾けた。

「酒井。熱中症で脳みそ、やられたか」
「いや、大丈夫。けど、俺さぁ、ここんとこ、めっちゃ辛かった。寂しかったし、苦しかった」

 頭に注ぎ込むように声が落ちてくる。
「さ、酒井……」
 狼狽える身体を酒井に壁に追い込まれる。壁に押さえつけられて逃げられない。
 ドサリと荷物が足元に落ちた。

「体重だって全然落ちなくなって、全部うまく行かない。毎日楽しくもないし、あんなに美味しいと思ってた食事だって砂みたいだ! 俺には、凛太朗がいなきゃダメなんだ……」

 急な事に驚いて凛太朗は酒井の身体から抜け出ようと身動きした。しかし、酒井に両腕を捕らわれて壁に縫い留められる。自由を奪われて鼓動が速くなる。真剣な顔の酒井から目が離せない。

 凛太朗の耳に閉会式のアナウンスが響く。酒井の顔が近づいた。

(あぁ、キス、か……)
 夏休みに額にキスをされたのを思い出し、凛太朗はそっと目を閉じた。

 嫌だとは思わなかった。それどころか期待している自分がいる。妙なドキドキが凛太朗を支配する。

 酒井の唇が触れた。

 凛太朗はハッと目を開けた。酒井は凛太朗の唇にキスをしている。

『なんで?』と声が出そうになり唇を開いた。

「んぅ!」
 凛太朗の口から漏れたのは音のような声だった。言葉が出せなかったのは、キスが深くなったから。呼吸が奪われそうなキスだ。

「……ごめん」
 酒井に解放されて凛太朗はズルズルと座り込んだ。混乱に呼吸が荒くなり、頭の中は疑問符が占めつくした。心臓がうるさいくらいに鳴り響いている。

「嫌だったよ、な。ほんと、ゴメン」
 酒井が肩を落として俯く。凛太朗は息を整えて、はっきりと伝えた。

「嫌じゃない。だけどな、ちょっと場所を考えろって」

 自分の口から出た言葉に凛太朗自身が首を傾げた。もう一度言った言葉を考えて、やはり嫌じゃなかったと思い至った。酒井は驚いたようにポカンとしている。

「あ、いや、だから……」
 嫌ではないけれど、それを伝えて良かったのか分からなくなり羞恥心が凛太朗を襲う。自分の顔が熱くなるのを感じた。

「そっか。嫌じゃ、ないのか」
 急に酒井がニコニコした。頬を染めて笑う顔を見るのは久しぶりだ。

「酒井こそ、いいのかよ。僕は、嫌われ者で、一緒に居るのが嫌にならないのかよ」
 凛太朗が心の底で抱えていた不安をぶつけた。答えが怖くて下を向いた。

「俺は凛太朗としか一緒に居ない。俺には凛太朗だけだ」
 ハッキリと凛とした声が響いた。酒井を見上げれば耳まで真っ赤になっている。

 それが何だか可愛くて凛太朗はフフっと笑った。酒井は赤い顔のままハハっと笑い返した。何だか分からない笑いのまま、肩を抱き合って救護所に向かった。


 救護所では「軽い熱中症」としてシャーベット状のスポーツドリンクを酒井に飲ませててくれた。少し寝てから帰宅するように言われて凛太朗は付き添った。途中で担任の先生が来て、クラスは無事に解散したと教えてくれた。

 酒井は救護所のベッドに横になりながら、凛太朗の手を離さなかった。その手から酒井の不安や寂しさが流れ込んできて、凛太朗はずっと手を握っていた。

(酒井が僕にキスをしたのは熱中症のせいだ。きっと、そうだ)
 凛太朗はそう自分に言い聞かせた。
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