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Ⅳ 停滞期
⑮
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救護所で一時間休んでから酒井と一緒に帰った。今日は凛太朗が酒井を送る。あれだけ夏休みも一緒に居たのに酒井の家に行くのは初めてだ。
途中で弁当を買って一緒に酒井の家で食べることにした。
「おじゃまします」
酒井の家はマンションの一室だった。母親が亡くなっているから勝手に汚いのだろうと思っていたが、酒井のうちはピカピカに綺麗だった。
「父さんが、掃除はきっちりやるんだ。母さんが綺麗好きだったから、せめてこれくらいは守ってやろうって。父さんの寂しさが分かるから、掃除は俺も協力してる。他はグズグズなのにな。父さんも俺も意地になっているだけかもだけど。変なつながり意識って感じかな」
酒井の言葉に凛太郎は何も言えずに頷いた。
酒井と酒井の父なりの思いがあると感じた。酒井は父親と食事が別々で希薄な関係なのだろうと凛太朗は勝手に思っていたが、酒井の家庭にしか分からない事があるのだろう。
「そっか。きっとお母さん嬉しいだろうな」
「え?」
「酒井も、酒井のお父さんも、お母さんを大切にしてるってことじゃん。そんなん、空から見てたら嬉し泣きレベルだろ」
酒井がハッと立ち止まっている。
「……うん。凛太朗、ありがと」
酒井は優しく微笑んだ。少し涙目になっているのは見ない振りをした。
部屋にお邪魔すると、まったく使っていないだろうキッチンと、ゴミ箱から溢れる総菜弁当の空が目に入った。綺麗な室内とアンバランスな光景だった。
ダイニングテーブルで酒井と向き合って弁当を食べた。まるで夏休みのようで心の壁が低くなる。
「酒井、食事どうしてる?」
「普通に今まで通りだよ。買って食べてる」
「そっか。昼は?」
「パンに戻ったって言いたいけど、実は昼を食べるのが嫌になって」
「昼は教室から居なくなったと思っていたら、食ってないのか?」
驚いて酒井を見つめた。
「まぁ。でも、不思議と一食抜いているのに体重が落ちない」
「それって、身体に悪いからだろ。本にも書いてあった。だから今日バテたんだろ」
酒井は何も言わなかった。
「また、作るよ。僕の弁当でよければ」
素直にそう思えた。理香子たちに言われた言葉がズキリと心に引っかかっているが、それよりも酒井のために何かしたいと思えた。
「いや、凛太朗の負担になりたくないんだ」
「負担、とかじゃないんだけど。ちょっと、落ち込むことがあって。とても酒井の隣に立てる気持ちじゃなかったんだ」
「うん」
「もう、大丈夫だと思う。学級委員の仕事も無くなるし、また昼飯一緒にしよ」
「うん」
頷きながら酒井がポロポロ涙を流した。
その様子に凛太朗の心がキュンとする。いつも大人っぽい落ち着いた酒井が、凛太朗といると子どものようだ。
これはきっと凛太朗しか知らない部分だ。温かい気持ちがこみあげて、その思いのままに酒井を抱き締めて背をさすった。
(酒井は、大きいなぁ)
そう思いながら優しくナデナデした。
今日はもう休め、と言って酒井の家を後にした。目を赤くした酒井はニカっと笑った。久しぶりの笑顔に凛太朗もニカっと笑い返した。
明日の弁当は気合入れて作るぞ、と気分が上がった。
酒井が泣くと背中を撫でたくなる。酒井が笑うと心がホワッとする。酒井をいつもそばで見ていたいと思う。それに酒井のキスを思い出すと内股がモゾモゾする。
酒井の事ばかり思ってキュンとなる自分がいる。恥ずかしいような叫びたい気持ちが凛太朗に渦巻く。
――これは、この感覚は、何だろう?
胸元を押さえていないと不思議な感情が零れてしまいそうだった。苦しいような切ないような愛おしさを何度も心に仕舞い込んだ。
途中で弁当を買って一緒に酒井の家で食べることにした。
「おじゃまします」
酒井の家はマンションの一室だった。母親が亡くなっているから勝手に汚いのだろうと思っていたが、酒井のうちはピカピカに綺麗だった。
「父さんが、掃除はきっちりやるんだ。母さんが綺麗好きだったから、せめてこれくらいは守ってやろうって。父さんの寂しさが分かるから、掃除は俺も協力してる。他はグズグズなのにな。父さんも俺も意地になっているだけかもだけど。変なつながり意識って感じかな」
酒井の言葉に凛太郎は何も言えずに頷いた。
酒井と酒井の父なりの思いがあると感じた。酒井は父親と食事が別々で希薄な関係なのだろうと凛太朗は勝手に思っていたが、酒井の家庭にしか分からない事があるのだろう。
「そっか。きっとお母さん嬉しいだろうな」
「え?」
「酒井も、酒井のお父さんも、お母さんを大切にしてるってことじゃん。そんなん、空から見てたら嬉し泣きレベルだろ」
酒井がハッと立ち止まっている。
「……うん。凛太朗、ありがと」
酒井は優しく微笑んだ。少し涙目になっているのは見ない振りをした。
部屋にお邪魔すると、まったく使っていないだろうキッチンと、ゴミ箱から溢れる総菜弁当の空が目に入った。綺麗な室内とアンバランスな光景だった。
ダイニングテーブルで酒井と向き合って弁当を食べた。まるで夏休みのようで心の壁が低くなる。
「酒井、食事どうしてる?」
「普通に今まで通りだよ。買って食べてる」
「そっか。昼は?」
「パンに戻ったって言いたいけど、実は昼を食べるのが嫌になって」
「昼は教室から居なくなったと思っていたら、食ってないのか?」
驚いて酒井を見つめた。
「まぁ。でも、不思議と一食抜いているのに体重が落ちない」
「それって、身体に悪いからだろ。本にも書いてあった。だから今日バテたんだろ」
酒井は何も言わなかった。
「また、作るよ。僕の弁当でよければ」
素直にそう思えた。理香子たちに言われた言葉がズキリと心に引っかかっているが、それよりも酒井のために何かしたいと思えた。
「いや、凛太朗の負担になりたくないんだ」
「負担、とかじゃないんだけど。ちょっと、落ち込むことがあって。とても酒井の隣に立てる気持ちじゃなかったんだ」
「うん」
「もう、大丈夫だと思う。学級委員の仕事も無くなるし、また昼飯一緒にしよ」
「うん」
頷きながら酒井がポロポロ涙を流した。
その様子に凛太朗の心がキュンとする。いつも大人っぽい落ち着いた酒井が、凛太朗といると子どものようだ。
これはきっと凛太朗しか知らない部分だ。温かい気持ちがこみあげて、その思いのままに酒井を抱き締めて背をさすった。
(酒井は、大きいなぁ)
そう思いながら優しくナデナデした。
今日はもう休め、と言って酒井の家を後にした。目を赤くした酒井はニカっと笑った。久しぶりの笑顔に凛太朗もニカっと笑い返した。
明日の弁当は気合入れて作るぞ、と気分が上がった。
酒井が泣くと背中を撫でたくなる。酒井が笑うと心がホワッとする。酒井をいつもそばで見ていたいと思う。それに酒井のキスを思い出すと内股がモゾモゾする。
酒井の事ばかり思ってキュンとなる自分がいる。恥ずかしいような叫びたい気持ちが凛太朗に渦巻く。
――これは、この感覚は、何だろう?
胸元を押さえていないと不思議な感情が零れてしまいそうだった。苦しいような切ないような愛おしさを何度も心に仕舞い込んだ。
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