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二章 発情トラブル
発情トラブル 10
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「あんたさぁ、名前なんて言ったっけ?」
エルネストはぼくの隣にいるヴィンセントに顔を向ける。ヴィンセントが名乗ると、エルネストは口の中で繰り返した。
「やるじゃん、ヴィンセント。俺、強いヤツ好き」
「おい、やめろ」
エルネストは、今度はヴィンセントに長い腕を回した。ヴィンセントもかなりの長身だけど、エルネストは更に十センチ近く背が高い。
「あれ?」
エルネストはヴィンセントの首筋に鼻を近づけた。
「なにすんだ、離せよ」
ヴィンセントが腕を解こうとすると、エルネストはニヤリと笑った。
「なるほどね、ヴィンセントって、フツーの人間じゃないんだ。どんな味がするのか試してみたいなあ。ダメ?」
「ダメに決まってるだろ」
トントンと首をつつかれたヴィンセントは、エルネストの腕を抜けて距離をとった。
「残念。今度は俺と手合わせしようね、ヴィンセント」
エルネストは背中越しに腕を振って去って行った。その後ろ姿を、ヴィンセントは呆然と見送っている。
「アーシェン」
「なんだ」
「あいつ、不気味だな」
やっと気づいたか。
ぼくたちはしばらく周囲を視察して、呼ばれていたレザードの研究室に向かった。
ドアを開けると、以前の刺激臭とは別の、なんとも表現しがたいにおいが充満している。
六人掛けのテーブルの上には、フラスコやビーカーのようなものが所狭しと並べられていて、中にさまざまな色の液体が入っていた。部屋のあちらこちらにも、箱や袋が積み上がっている。
「おいでになりましたか。物が多いので、気を付けてくださいね」
小瓶に粉を詰めていたレザードは、手をとめてぼくたちを手招きした。
「なんだ、これは」
「商売をしていると言いましたでしょ。頼まれた新商品の試薬です、お気になさらず」
レザードは棚から何枚かの羊皮紙を取り出して、魔法陣のポイントを解説しながら、ぼくに一枚一枚渡してくれる。土の保水性を高める模様、排水性を高める模様、通気性を良くする模様、有機物を増やす模様、害虫を寄せ付けない模様……。
「こんなに……」
ぼくは感動した。
魔族の自給自足を提案してから、それほど日は経っていない。その間にレザードは、魔族領の改革をして、魔法陣の開発までしていた。しかも、商売までしながらだ。
どこにそんな時間があるのかと思ったけれど、睡眠時間を削っていたのかもしれない。レザードの目の下にクマができている。
「すまないレザード。わたしが無茶を通したばかりに、苦労をかけているな。おかげで軌道に乗っているから、今日はゆっくり休むといい」
労いの言葉をかけると、レザードは目を丸くした。
「あなたが謝るなんて……」
それから目元を赤く染めて。フイッと顔をそらす。
「別に、あなたのためではありませんから。報酬はいただきますし、この僕がするのですから、中途半端な結果にはさせられません」
レザードと敵対すると、毒とか麻痺とかの状態異常になるボムを使ってきて面倒だったけど、こうして仲間になると頼りになるし、いいヤツだ。
それに、レザードは中性的で端正な顔立ちなので、頬を染める姿は可愛らしくも見える。
「おにいたまあ!」
突然、研究室のドアが開いたかと思うと、弟のピッピがとてててと走り込んできた。
エルネストはぼくの隣にいるヴィンセントに顔を向ける。ヴィンセントが名乗ると、エルネストは口の中で繰り返した。
「やるじゃん、ヴィンセント。俺、強いヤツ好き」
「おい、やめろ」
エルネストは、今度はヴィンセントに長い腕を回した。ヴィンセントもかなりの長身だけど、エルネストは更に十センチ近く背が高い。
「あれ?」
エルネストはヴィンセントの首筋に鼻を近づけた。
「なにすんだ、離せよ」
ヴィンセントが腕を解こうとすると、エルネストはニヤリと笑った。
「なるほどね、ヴィンセントって、フツーの人間じゃないんだ。どんな味がするのか試してみたいなあ。ダメ?」
「ダメに決まってるだろ」
トントンと首をつつかれたヴィンセントは、エルネストの腕を抜けて距離をとった。
「残念。今度は俺と手合わせしようね、ヴィンセント」
エルネストは背中越しに腕を振って去って行った。その後ろ姿を、ヴィンセントは呆然と見送っている。
「アーシェン」
「なんだ」
「あいつ、不気味だな」
やっと気づいたか。
ぼくたちはしばらく周囲を視察して、呼ばれていたレザードの研究室に向かった。
ドアを開けると、以前の刺激臭とは別の、なんとも表現しがたいにおいが充満している。
六人掛けのテーブルの上には、フラスコやビーカーのようなものが所狭しと並べられていて、中にさまざまな色の液体が入っていた。部屋のあちらこちらにも、箱や袋が積み上がっている。
「おいでになりましたか。物が多いので、気を付けてくださいね」
小瓶に粉を詰めていたレザードは、手をとめてぼくたちを手招きした。
「なんだ、これは」
「商売をしていると言いましたでしょ。頼まれた新商品の試薬です、お気になさらず」
レザードは棚から何枚かの羊皮紙を取り出して、魔法陣のポイントを解説しながら、ぼくに一枚一枚渡してくれる。土の保水性を高める模様、排水性を高める模様、通気性を良くする模様、有機物を増やす模様、害虫を寄せ付けない模様……。
「こんなに……」
ぼくは感動した。
魔族の自給自足を提案してから、それほど日は経っていない。その間にレザードは、魔族領の改革をして、魔法陣の開発までしていた。しかも、商売までしながらだ。
どこにそんな時間があるのかと思ったけれど、睡眠時間を削っていたのかもしれない。レザードの目の下にクマができている。
「すまないレザード。わたしが無茶を通したばかりに、苦労をかけているな。おかげで軌道に乗っているから、今日はゆっくり休むといい」
労いの言葉をかけると、レザードは目を丸くした。
「あなたが謝るなんて……」
それから目元を赤く染めて。フイッと顔をそらす。
「別に、あなたのためではありませんから。報酬はいただきますし、この僕がするのですから、中途半端な結果にはさせられません」
レザードと敵対すると、毒とか麻痺とかの状態異常になるボムを使ってきて面倒だったけど、こうして仲間になると頼りになるし、いいヤツだ。
それに、レザードは中性的で端正な顔立ちなので、頬を染める姿は可愛らしくも見える。
「おにいたまあ!」
突然、研究室のドアが開いたかと思うと、弟のピッピがとてててと走り込んできた。
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