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二章 発情トラブル
発情トラブル 11
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「おにいたまあ!」
突然、研究室のドアが開いたかと思うと、弟のピッピがとてててと走り込んできた。その後ろにはゆったりと尻尾を振ったフェンリルもいる。
「ピッピさん、走らないでください。今日は特に、貴重な材料を積んでいるんです」
レザードが眉をしかめて、素早く注意した。
「ピッピ、どうしたんだ」
「おにいたまにプレゼントしたいものがあって……ぴゃあっ」
かがんだぼくに抱きつこうとしたピッピは、近くにいるヴィンセントを見て、慌ててUターンして逃げ出した。
「きゃああっ」
そこでピッピは箱を足に引っ掛けて倒れる。テーブルにぶつかって、ビーカーが落ちてきた。
「ピッピ!」
ぼくはとっさにピッピに被さると、身体にいくつかのビーカーが当った。
痛みはさほどなかったが、びしょ濡れになった。甘いとも酸っぱいともいえない、ヌットリとしたにおいがする。
「あああっ、なんてことをするんです、大切な試薬なんですよ! 同じものを作るのに、どれだけの材料と時間がかかることか! ……魔王さま、わかっていますね」
大袈裟に騒ぐレザードに、ぼくはしぶしぶと返事をする。
「弁償する」
「よろしい」
レザードはメガネの位置を直しながら、にっこりと微笑んだ。
ぼくはピッピを抱いて立ち上がりながら、濡れた髪や服を魔法で乾かした。
「その薬品ななんだ? アーシェンは結構な量を浴びていたが、問題はないのか」
尋ねたヴィンセントに、レザードは笑顔のまま答える。
「ええ、命にかかわるようなものではありませんし、直ちに効果が出るものでもありません。経口薬ですし、まだ途中の段階だったので、さほど影響はないかと。ああ、でも、もし身体に変化があったら報告してくださいね。ゆっくり休めと甘い言葉をかけながら、また僕に徹夜をさせるのですから。お詫びにそれくらいしてくださるでしょ?」
ものすごい笑顔で嫌味を言ってくる。
ぼくは承諾しながら、腕の中で震えるピッピに顔を向けた。
「どうした、ピッピ」
「あれ、怖いの」
ぼくの肩に顔を押し付けたまま、ふっくらとした小さな手で指さしたのは、ヴィンセントの腰にある剣だった。
聖剣カレトヴルッフ。どうやら龍神族に絶大な効果があるようだ。
ぼくも「ちょっと嫌」な感じがするけれど、ピッピは恐怖を感じるようだ。
「かわいそうに、こんなに脅えて。兄がなんとかしよう」
ぼくはピッピの小さな背中をなでながら、ヴィンセントに目を向けた。
「それを元の台座に戻してもらおうか。ピッピのために」
「するわけがないだろう、兄バカめ」
レザードに続いてヴィンセントにまで毒づかれた。ぼくは魔王なのに、どういうことだ。
「わたしにプレゼントがあると言っていたな」
「うん、これ」
ピッピがポケットから布を取り出して広げると、たくさんの小さな種があった。
「お散歩していて見つけたの。これね、とても珍しくて、美味しい実をつけるんだって、チビが教えてくれたの。だから、おにいたまの畑にどうかなって」
「わたしのために……! ありがとう、ピッピ」
「へへっ」
ぼくは感動して、ピッピに頬ずりをする。ふくふくとした頬が気持ちいい。最近ピッピと過ごすことがなかったから、淋しい思いをさせていたのかもしれない。
ぼくとヴィンセントは、ピッピも交えて昼食をとることにした。
「レザード、邪魔をしたな」
「ええ、本当に」
部屋のドアを開けながらぼくが声をかけると、レザードは肩をすくめた。
「この魔法陣も、陣頭指揮の件も感謝している。レザード以外にこれほどのことができる者はいない。これからもよろしく頼む」
そう言うと、レザードは頬を染めながら眉をつりあげ、ぼくたちに背を向けた。
「おかしなものでも食べたのですか? 最近のあなたといると調子が狂います。用が済んだら、さっさと出て行ってください」
ぼくたちは荷物に触れないようにして、静かに研究室を後にした。
突然、研究室のドアが開いたかと思うと、弟のピッピがとてててと走り込んできた。その後ろにはゆったりと尻尾を振ったフェンリルもいる。
「ピッピさん、走らないでください。今日は特に、貴重な材料を積んでいるんです」
レザードが眉をしかめて、素早く注意した。
「ピッピ、どうしたんだ」
「おにいたまにプレゼントしたいものがあって……ぴゃあっ」
かがんだぼくに抱きつこうとしたピッピは、近くにいるヴィンセントを見て、慌ててUターンして逃げ出した。
「きゃああっ」
そこでピッピは箱を足に引っ掛けて倒れる。テーブルにぶつかって、ビーカーが落ちてきた。
「ピッピ!」
ぼくはとっさにピッピに被さると、身体にいくつかのビーカーが当った。
痛みはさほどなかったが、びしょ濡れになった。甘いとも酸っぱいともいえない、ヌットリとしたにおいがする。
「あああっ、なんてことをするんです、大切な試薬なんですよ! 同じものを作るのに、どれだけの材料と時間がかかることか! ……魔王さま、わかっていますね」
大袈裟に騒ぐレザードに、ぼくはしぶしぶと返事をする。
「弁償する」
「よろしい」
レザードはメガネの位置を直しながら、にっこりと微笑んだ。
ぼくはピッピを抱いて立ち上がりながら、濡れた髪や服を魔法で乾かした。
「その薬品ななんだ? アーシェンは結構な量を浴びていたが、問題はないのか」
尋ねたヴィンセントに、レザードは笑顔のまま答える。
「ええ、命にかかわるようなものではありませんし、直ちに効果が出るものでもありません。経口薬ですし、まだ途中の段階だったので、さほど影響はないかと。ああ、でも、もし身体に変化があったら報告してくださいね。ゆっくり休めと甘い言葉をかけながら、また僕に徹夜をさせるのですから。お詫びにそれくらいしてくださるでしょ?」
ものすごい笑顔で嫌味を言ってくる。
ぼくは承諾しながら、腕の中で震えるピッピに顔を向けた。
「どうした、ピッピ」
「あれ、怖いの」
ぼくの肩に顔を押し付けたまま、ふっくらとした小さな手で指さしたのは、ヴィンセントの腰にある剣だった。
聖剣カレトヴルッフ。どうやら龍神族に絶大な効果があるようだ。
ぼくも「ちょっと嫌」な感じがするけれど、ピッピは恐怖を感じるようだ。
「かわいそうに、こんなに脅えて。兄がなんとかしよう」
ぼくはピッピの小さな背中をなでながら、ヴィンセントに目を向けた。
「それを元の台座に戻してもらおうか。ピッピのために」
「するわけがないだろう、兄バカめ」
レザードに続いてヴィンセントにまで毒づかれた。ぼくは魔王なのに、どういうことだ。
「わたしにプレゼントがあると言っていたな」
「うん、これ」
ピッピがポケットから布を取り出して広げると、たくさんの小さな種があった。
「お散歩していて見つけたの。これね、とても珍しくて、美味しい実をつけるんだって、チビが教えてくれたの。だから、おにいたまの畑にどうかなって」
「わたしのために……! ありがとう、ピッピ」
「へへっ」
ぼくは感動して、ピッピに頬ずりをする。ふくふくとした頬が気持ちいい。最近ピッピと過ごすことがなかったから、淋しい思いをさせていたのかもしれない。
ぼくとヴィンセントは、ピッピも交えて昼食をとることにした。
「レザード、邪魔をしたな」
「ええ、本当に」
部屋のドアを開けながらぼくが声をかけると、レザードは肩をすくめた。
「この魔法陣も、陣頭指揮の件も感謝している。レザード以外にこれほどのことができる者はいない。これからもよろしく頼む」
そう言うと、レザードは頬を染めながら眉をつりあげ、ぼくたちに背を向けた。
「おかしなものでも食べたのですか? 最近のあなたといると調子が狂います。用が済んだら、さっさと出て行ってください」
ぼくたちは荷物に触れないようにして、静かに研究室を後にした。
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