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二章 発情トラブル
発情トラブル 15
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「起きたか、アーシェン」
すぐ後ろから声が聞こえて、ぼくは内心で悲鳴をあげた。
現実をよくよく見れば、ぼくの腰にはヴィンセントの腕が回っていた。
だから重みがあったのか。
それに、服が変わっていた。
このシャツはぼくのじゃない。ということは、ヴィンセントのものだろう。
昨夜のぼくは汗だくだったし、いっぱい精を吐き出して、服は濡れていたはずだ。
だからヴィンセントはぼくの身体を拭いて、新しい服に着替えさせてくれたに違いない。
いつもぼくは魔法で着替えているから、ヴィンセントはぼくの服がどこにあるかわからず、自分の服を着せてくれたのではないだろうか。
そこまで考えて、ぼくは頭を抱えた。
どんな顔をして振り向けばいいんだ!
「もう身体は元通りになったのか?」
腰を引き寄せられて、頭にキスされた。
そこから連想して、夜のあれやこれやを詳細に思い出し、一気に体温が上昇した。
初めてのことで、すっごく気持ちよかったからと言って、流されすぎだよ、ぼく!
ぼくは上体を起こしてヴィンセントから距離をとった。
「一度わたしの性処理をしたくらいで、馴れ馴れしくしないでもらおう」
そう言ったあとに、ぼくは下半身になにも身に着けていないことに気づいた。ヴィンセントのシャツは膝に届きそうなほど大きいけど、素足をさらして魔王の威厳もあったものではない。それに、いくらシャツが大きくても、尻尾があるので後ろから見るとお尻が丸見えだろう。
「うぅ……」
ぼくは羞恥で更に身体が熱くなった。きっと全身が真っ赤で、茹でダコのようになっているに違いない。
情けなくて恥ずかしくて、両手で顔を隠した。
消えたい。
ヴィンセントの記憶と、ついでにぼくの記憶を消去する魔法がないか考えたけど、思いつかなかった。
「昨日は、異常事態で緊急事態だった」
ぼくは顔を隠したまま言い訳をした。
「そうだな」
「昨夜のわたしは、わたしではない。忘れるように」
「そうかな?」
ベッドの揺れで、ヴィンセントが近づいてくるのがわかる。手首を握られて、手を顔から外された。微笑んでいるヴィンセントを睨んでみるけど、ぜんぜん迫力なんてないだろう。
「昨夜のアーシェンは、素直で可愛かった」
「やめないか。だからそれは……」
「オレは常々思っていたんだ。アーシェンは無理をしているのではないか。もっと言うと、魔王らしくあろうと芝居をしているのではないか、と」
「えっ……、どうして?」
どうしてヴィンセントに気づかれたんだろう。
「違和感のある言動をすることは一度や二度ではなかったし、魔族たちの話を聞くと、アーシェンはここ最近で性格が変わったようだ。オレのところに来て平和な世界を目指そうと言い出したのも、そのあたりが関係しているのではないかと推測している」
すごい。当たってる。
ここまで見抜かれていたら、隠しているほうが不信感を与えてしまうかもしれない。
信じるかはヴィンセントの問題だ。ぼくは少し迷ったけれど、簡単に事情を伝えることにした。
つまりは、十八歳で死んだ病弱な人間だった前世の記憶を取り戻し、その時の人格が合わさったために、性格が変化したこと。その記憶の影響で先読みができること。
魔族と人とが争っていては、いずれ自分は暴走して、ヴィンセントに討たれて死んでしまう。それを回避したかった。
ざっくりと、そんな話をヴィンセントに伝えた。
「できるだけ今までのように振舞っているのは、そのほうがスムーズに生活できると思ったし、力でヒエラルキーが決まっている魔族の中で、気弱な性格だと知られたら付け込まれると思ったからだよ」
あと純粋に、魔王っぽく振舞うとカッコいいよな、と思ったんだけど、それは言わないでおく。
「信じてくれる?」
「信じるよ。オレはアーシェンの言うことは信じると決めているから」
そういえば、前にもヴィンセントはそう言ってくれた。
「ただ、一つ訂正な」
ヴィンセントはぼくの頬に長い指をそえた。
「アーシェンは気弱じゃなくて、優しいんだ。優しい魔王がいてもいいじゃないか。オレは今のアーシェンが好きだよ。オレの前では素でいてほしい」
真っすぐな瞳でヴィンセントが見つめてくる。せっかく落ち着いてきたぼくの体温が再上昇した。ソワソワして尻尾を大きく揺らしてしまう。
「ありがとう、ヴィンセント」
支えてくれて。
助けてくれて。
……そして、信じてくれて。
ぼくの耳の奥で、「好きだよ」というヴィンセントの甘美な言葉が、何度もリフレインされた。
すぐ後ろから声が聞こえて、ぼくは内心で悲鳴をあげた。
現実をよくよく見れば、ぼくの腰にはヴィンセントの腕が回っていた。
だから重みがあったのか。
それに、服が変わっていた。
このシャツはぼくのじゃない。ということは、ヴィンセントのものだろう。
昨夜のぼくは汗だくだったし、いっぱい精を吐き出して、服は濡れていたはずだ。
だからヴィンセントはぼくの身体を拭いて、新しい服に着替えさせてくれたに違いない。
いつもぼくは魔法で着替えているから、ヴィンセントはぼくの服がどこにあるかわからず、自分の服を着せてくれたのではないだろうか。
そこまで考えて、ぼくは頭を抱えた。
どんな顔をして振り向けばいいんだ!
「もう身体は元通りになったのか?」
腰を引き寄せられて、頭にキスされた。
そこから連想して、夜のあれやこれやを詳細に思い出し、一気に体温が上昇した。
初めてのことで、すっごく気持ちよかったからと言って、流されすぎだよ、ぼく!
ぼくは上体を起こしてヴィンセントから距離をとった。
「一度わたしの性処理をしたくらいで、馴れ馴れしくしないでもらおう」
そう言ったあとに、ぼくは下半身になにも身に着けていないことに気づいた。ヴィンセントのシャツは膝に届きそうなほど大きいけど、素足をさらして魔王の威厳もあったものではない。それに、いくらシャツが大きくても、尻尾があるので後ろから見るとお尻が丸見えだろう。
「うぅ……」
ぼくは羞恥で更に身体が熱くなった。きっと全身が真っ赤で、茹でダコのようになっているに違いない。
情けなくて恥ずかしくて、両手で顔を隠した。
消えたい。
ヴィンセントの記憶と、ついでにぼくの記憶を消去する魔法がないか考えたけど、思いつかなかった。
「昨日は、異常事態で緊急事態だった」
ぼくは顔を隠したまま言い訳をした。
「そうだな」
「昨夜のわたしは、わたしではない。忘れるように」
「そうかな?」
ベッドの揺れで、ヴィンセントが近づいてくるのがわかる。手首を握られて、手を顔から外された。微笑んでいるヴィンセントを睨んでみるけど、ぜんぜん迫力なんてないだろう。
「昨夜のアーシェンは、素直で可愛かった」
「やめないか。だからそれは……」
「オレは常々思っていたんだ。アーシェンは無理をしているのではないか。もっと言うと、魔王らしくあろうと芝居をしているのではないか、と」
「えっ……、どうして?」
どうしてヴィンセントに気づかれたんだろう。
「違和感のある言動をすることは一度や二度ではなかったし、魔族たちの話を聞くと、アーシェンはここ最近で性格が変わったようだ。オレのところに来て平和な世界を目指そうと言い出したのも、そのあたりが関係しているのではないかと推測している」
すごい。当たってる。
ここまで見抜かれていたら、隠しているほうが不信感を与えてしまうかもしれない。
信じるかはヴィンセントの問題だ。ぼくは少し迷ったけれど、簡単に事情を伝えることにした。
つまりは、十八歳で死んだ病弱な人間だった前世の記憶を取り戻し、その時の人格が合わさったために、性格が変化したこと。その記憶の影響で先読みができること。
魔族と人とが争っていては、いずれ自分は暴走して、ヴィンセントに討たれて死んでしまう。それを回避したかった。
ざっくりと、そんな話をヴィンセントに伝えた。
「できるだけ今までのように振舞っているのは、そのほうがスムーズに生活できると思ったし、力でヒエラルキーが決まっている魔族の中で、気弱な性格だと知られたら付け込まれると思ったからだよ」
あと純粋に、魔王っぽく振舞うとカッコいいよな、と思ったんだけど、それは言わないでおく。
「信じてくれる?」
「信じるよ。オレはアーシェンの言うことは信じると決めているから」
そういえば、前にもヴィンセントはそう言ってくれた。
「ただ、一つ訂正な」
ヴィンセントはぼくの頬に長い指をそえた。
「アーシェンは気弱じゃなくて、優しいんだ。優しい魔王がいてもいいじゃないか。オレは今のアーシェンが好きだよ。オレの前では素でいてほしい」
真っすぐな瞳でヴィンセントが見つめてくる。せっかく落ち着いてきたぼくの体温が再上昇した。ソワソワして尻尾を大きく揺らしてしまう。
「ありがとう、ヴィンセント」
支えてくれて。
助けてくれて。
……そして、信じてくれて。
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