32 / 57
三章 愛しい人との別れ
愛しい人との別れ 3
しおりを挟む
それから半月ほどが経ち、魔族と人との国境に、特別自治区ができあがった。
魔族と人の間に生まれた者を中心に希望者を募ると、予想以上に集まった。それだけ彼らは生きづらい思いをし、隠れて暮らしていたのだろう。
レザードを司令塔として街が構築された。住居ができ、商店が並び、インフラが整備され、主な公共施設もそろった。
魔族と人の両方の血統の者は能力が高いことが多いため、自然に新しい商売が生まれ、街が栄え、さらに人が集まるという好循環が生まれた。
ぼくは毎日のように視察がてらに散歩に来ているけれど、街が日々成長しているのが目に見えてわかるので楽しくなる。
「あれは……」
街の中央広場で、ヴィンセントとレザードが並んで歩いているのを見かけた。最近ヴィンセントは、よくレザードと一緒にすごしている。夜は今までどおりぼくと一緒に眠っているけど、疲れているのかヴィンセントはすぐに眠ってしまって、あまり話もできていなかった。
膝まであるグレーのジュストコール越しでもわかる長身で引き締まった体躯のヴィンセントと、ウェーブがかったアッシュブルーの髪が白い肌にかかっている中性的な美貌のレザードが並んでいると、お似合いのカップルのようにも見えた。
……なんだか、モヤッとする。
ぼくは眉を寄せて胸に手を当てた。
なんだろう、この気持ち。
「アーシェン、視察か」
ぼくに気づいたヴィンセントが声をかけてきた。
「そうだ。すっかり城下町並みに賑やかになったな」
「そうでしょう、そうでしょう! 僕が本気を出せばこんなものです。なにせ、僕が代表とする街ですから」
いつものようにレザードは、歌い上げるようにして鼻を高くした。
そこに、「レザードさま!」と数人の男女が駆け寄ってきた。服装から、商人グループと、職人グループのようだ。みんな背中から羽が生えていたり、お尻から尻尾が生えていたりする、魔族と人のハーフだ。
「レザードさま、これから人間と大きな商談があるんです。立ち会ってください!」
「こっちは教会の内装のデザインで揉めてるんだよ。レザードさまに判断してほしいんだ」
「僕は忙しいんです、急に言われても困ります。これからも予定が……」
「お願いします、レザードさまがいないとダメなんです!」
複数人に拝み倒されたレザードは、「仕方がありませんねえ」と胸ポケットから手帳を取り出した。
「このあとすぐでしたら、少しだけ時間を作れます。あとは、ここしか捻出できません」
「うちは緊急なので、先にレザードさまをください!」
「じゃあ、オレたちはこっちの時間で。教会で待ってますからね、レザードさま!」
あっという間に、レザードは引っ張られて姿を消した。
「レザードは大変なことになっているね」
「そうなんだよ。でも、ちょっと嬉しそうなんだよな」
それは思った。レザードはこれまで出自を隠してきたので、同じ立場の仲間たちに会う機会がなかったのだろう。
「おかげで、こき使われてるオレも忙しいよ。傍に居て実感してるけど、あいつは人の百倍は働いてるな」
やれやれと、ヴィンセントは肩を回す。
「聞きたかったのだけど、ヴィンセントはなぜレザードの手伝いをしているの?」
ぼくが尋ねると、ヴィンセントは腰に手を当てて、なんとも複雑な表情をした。
「レザードを忙しくさせている一端は、オレにもあるというか……」
そこで言葉をとめると、ぼくを抱きしめてヴィンセントは横に跳ねた。次の瞬間、ぼくたちのいた場所に魔弾が当り、その場が焦げついた。
「なっ……!」
突然のことに驚いて、ぼくは硬直してしまう。
魔族と人の間に生まれた者を中心に希望者を募ると、予想以上に集まった。それだけ彼らは生きづらい思いをし、隠れて暮らしていたのだろう。
レザードを司令塔として街が構築された。住居ができ、商店が並び、インフラが整備され、主な公共施設もそろった。
魔族と人の両方の血統の者は能力が高いことが多いため、自然に新しい商売が生まれ、街が栄え、さらに人が集まるという好循環が生まれた。
ぼくは毎日のように視察がてらに散歩に来ているけれど、街が日々成長しているのが目に見えてわかるので楽しくなる。
「あれは……」
街の中央広場で、ヴィンセントとレザードが並んで歩いているのを見かけた。最近ヴィンセントは、よくレザードと一緒にすごしている。夜は今までどおりぼくと一緒に眠っているけど、疲れているのかヴィンセントはすぐに眠ってしまって、あまり話もできていなかった。
膝まであるグレーのジュストコール越しでもわかる長身で引き締まった体躯のヴィンセントと、ウェーブがかったアッシュブルーの髪が白い肌にかかっている中性的な美貌のレザードが並んでいると、お似合いのカップルのようにも見えた。
……なんだか、モヤッとする。
ぼくは眉を寄せて胸に手を当てた。
なんだろう、この気持ち。
「アーシェン、視察か」
ぼくに気づいたヴィンセントが声をかけてきた。
「そうだ。すっかり城下町並みに賑やかになったな」
「そうでしょう、そうでしょう! 僕が本気を出せばこんなものです。なにせ、僕が代表とする街ですから」
いつものようにレザードは、歌い上げるようにして鼻を高くした。
そこに、「レザードさま!」と数人の男女が駆け寄ってきた。服装から、商人グループと、職人グループのようだ。みんな背中から羽が生えていたり、お尻から尻尾が生えていたりする、魔族と人のハーフだ。
「レザードさま、これから人間と大きな商談があるんです。立ち会ってください!」
「こっちは教会の内装のデザインで揉めてるんだよ。レザードさまに判断してほしいんだ」
「僕は忙しいんです、急に言われても困ります。これからも予定が……」
「お願いします、レザードさまがいないとダメなんです!」
複数人に拝み倒されたレザードは、「仕方がありませんねえ」と胸ポケットから手帳を取り出した。
「このあとすぐでしたら、少しだけ時間を作れます。あとは、ここしか捻出できません」
「うちは緊急なので、先にレザードさまをください!」
「じゃあ、オレたちはこっちの時間で。教会で待ってますからね、レザードさま!」
あっという間に、レザードは引っ張られて姿を消した。
「レザードは大変なことになっているね」
「そうなんだよ。でも、ちょっと嬉しそうなんだよな」
それは思った。レザードはこれまで出自を隠してきたので、同じ立場の仲間たちに会う機会がなかったのだろう。
「おかげで、こき使われてるオレも忙しいよ。傍に居て実感してるけど、あいつは人の百倍は働いてるな」
やれやれと、ヴィンセントは肩を回す。
「聞きたかったのだけど、ヴィンセントはなぜレザードの手伝いをしているの?」
ぼくが尋ねると、ヴィンセントは腰に手を当てて、なんとも複雑な表情をした。
「レザードを忙しくさせている一端は、オレにもあるというか……」
そこで言葉をとめると、ぼくを抱きしめてヴィンセントは横に跳ねた。次の瞬間、ぼくたちのいた場所に魔弾が当り、その場が焦げついた。
「なっ……!」
突然のことに驚いて、ぼくは硬直してしまう。
37
あなたにおすすめの小説
勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜
天宮叶
BL
十歳の誕生日の日に森に捨てられたソルは、ある日、森の中で見つけた遺跡で言葉を話す剣を手に入れた。新しい友達ができたことを喜んでいると、突然、目の前に魔王が現れる。
魔王は幼いソルを気にかけ、魔王城へと連れていくと部屋を与え、優しく接してくれる。
初めは戸惑っていたソルだったが、魔王や魔王城に暮らす人々の優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。
いつの間にか魔王のことを好きになっていたソル。2人は少しずつ想いを交わしていくが、魔王城で暮らすようになって十年目のある日、ソルは自身が勇者であり、魔王の敵だと知ってしまい_____。
溺愛しすぎな無口隠れ執着魔王
×
純粋で努力家な勇者
【受け】
ソル(勇者)
10歳→20歳
金髪・青眼
・10歳のとき両親に森へ捨てられ、魔王に拾われた。自身が勇者だとは気づいていない。努力家で純粋。闇魔法以外の全属性を使える。
ノクス(魔王)
黒髪・赤目
年齢不明
・ソルを拾い育てる。段々とソルに惹かれていく。闇魔法の使い手であり、歴代最強と言われる魔王。無口だが、ソルを溺愛している。
今作は、受けの幼少期からスタートします。それに伴い、攻めとのガッツリイチャイチャは、成人編が始まってからとなりますのでご了承ください。
BL大賞参加作品です‼️
本編完結済み
限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。
篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
いつも役立たずで迷惑だと言われてきた僕、ちょっとヤンデレな魔法使いに執着された。嫉妬? 独占? そんなことより二人で気ままに過ごしたいです!
迷路を跳ぶ狐
BL
貴族の落ちこぼれの魔法使いの僕は、精霊族の魔法使いとして領主様の城で働いてきた。
だけど、僕はもともと魔力なんてあんまりないし、魔法も苦手で失敗ばかり。そんな僕は、どうも人をイラつかせるらしい。わざとやってるのか! と、怒鳴られることも多かった。
ある日僕は使用人に命じられて働く最中、魔力が大好きらしい魔法使いに出会った。たまに驚くようなこともするけど、僕は彼と話すのは楽しかった。
そんな毎日を過ごしていたら、城に別の魔法使いが迎えられることになり、領主様は僕のことはもういらなくなったらしい。売ろうとしたようだが、無能と噂の僕に金を出す貴族はいなくて、処刑しようなんて考えていたようだ。なんだよそれ!! そんなの絶対に嫌だぞ!!
だけど、僕に拒否する権利なんてないし、命じられたら死ぬしかない……
怯える僕を助けてくれたのが、あの魔法使いだった。領主様の前で金を積み上げ、「魔法なら、俺がうまく使えるようにしてあげる。他にも条件があるなら飲むから、それ、ちょうだい」って言ったらしい。よく分からないが、精霊族の魔力が欲しかったのか??
そんなわけで、僕は、その魔法使いの屋敷に連れてこられた。「これからたくさん弄ぶね」って言われたけど、どういう意味なんだろう……それに僕、もしかしてこの人のこと、好き……なんじゃないかな……
大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります
かとらり。
BL
前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。
勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。
風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。
どうやらその子どもは勇者の子供らしく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる