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三章 愛しい人との別れ
愛しい人との別れ 14
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翌日。
朝食を済ませると、ぼくたちはヴィンセントの部屋に移動した。
「気乗りしねえな」
ヴィンセントは何度目かになる愚痴をもらした。
今日はこれから、ブルーシア国王に会いに行く。ヴィンセントの最高位の上司であり、特区のスポンサーでもある。
ただし、ヴィンセントは国王に会うのが憂鬱なのではないと言う。
開かれる会議の内容が問題だった。
特区についての「報告・意見交換会」という名目の、実情は「陳情会」になる可能性が高い。
集まるのは、特区反対派の貴族ばかり。
そこであることないこと国王に報告する算段であることを知って、ヴィンセントは自分も参加できるよう、力技でねじ込んだらしい。
本来であれば、特区代表のレザード、発起人の一人であるぼくだって参加してしかるべきなのだけど、初めからその席はなかった。
「魔族など、城に入れられるか」
というのが貴族たちの言い分だけど、だったらこの報告会自体を特区に設定すればよかったんだ。
「あいつらって目先の金や権力、自分さえよければいいって打算で動くから、面倒だよな」
そう言いながら、ヴィンセントは上等な白いのダブレットを身につけていた。国王に会うので、正装しているんだ。
ダブレットには光沢のある銀糸でさりげない刺繍がされていて品がいい。紅茶色の柔らかい髪は、普段は遊ばせるように毛先を外側に跳ねさせているけれど、今日は頭になでつけて、長めの前髪もサイドに流している。
いつもの膝まであるジュストコールもワイルドで似合っているけれど、今のヴィンセントは王子さまみたいだ。
「どう、似合う?」
「うん。王子さまみたいだって思ってたところ」
ぼくがそのまま口にすると、ヴィンセントは頬を染めながらも口角をあげた。
「ほかの誰でもないアーシェンに言われると、悪い気はしないな」
ヴィンセントは伊達メガネを取り出して、ぼくにかけた。
「アーシェンも似合ってる」
ぼくも人間に化けて、黒いダブレットを着ていた。魔王であることを隠し、ヴィンセントの秘書として会議に出席するためだ。
ぼくが人として同席することは、国王からの申し入れだったそうだ。魔族も一人くらい参加させてやろう、という国王の配慮だろうか。なんにせよ、特区について直接話を聞けるのはありがたい。
「はじめに謝っておく。アーシェンには不快な思いをさせると思う」
なぜなら、昨日食べ物を粗末にしていたタルボット侯爵がいるから。絶対にぼくとは価値観が合わない。
「ぼくはだいじょうぶ。特区を守ることを優先しないとね」
「ああ」
初めは、自分の保身のためだった。だけど、今は違う。
あの特区を必要としている人たちが、たくさんいるんだ。
あの場所を守らなきゃ。
「アーシェン」
手を取られたので見上げると、ヴィンセントは軽く眉を寄せて、困ったような、切ないような、照れているような、期待するような……、いろんな感情がないまぜになったような表情をしていた。
「こうされるのは、いやじゃないんだろ?」
ヴィンセントはぼくの手の甲に口づけた。突然でびっくりする。
「いやじゃないけど、どうしたの?」
「これは? こういうのは?」
ヴィンセントに腰をひかれて、長い髪の先に、頭部に、額に口づけられる。
朝食を済ませると、ぼくたちはヴィンセントの部屋に移動した。
「気乗りしねえな」
ヴィンセントは何度目かになる愚痴をもらした。
今日はこれから、ブルーシア国王に会いに行く。ヴィンセントの最高位の上司であり、特区のスポンサーでもある。
ただし、ヴィンセントは国王に会うのが憂鬱なのではないと言う。
開かれる会議の内容が問題だった。
特区についての「報告・意見交換会」という名目の、実情は「陳情会」になる可能性が高い。
集まるのは、特区反対派の貴族ばかり。
そこであることないこと国王に報告する算段であることを知って、ヴィンセントは自分も参加できるよう、力技でねじ込んだらしい。
本来であれば、特区代表のレザード、発起人の一人であるぼくだって参加してしかるべきなのだけど、初めからその席はなかった。
「魔族など、城に入れられるか」
というのが貴族たちの言い分だけど、だったらこの報告会自体を特区に設定すればよかったんだ。
「あいつらって目先の金や権力、自分さえよければいいって打算で動くから、面倒だよな」
そう言いながら、ヴィンセントは上等な白いのダブレットを身につけていた。国王に会うので、正装しているんだ。
ダブレットには光沢のある銀糸でさりげない刺繍がされていて品がいい。紅茶色の柔らかい髪は、普段は遊ばせるように毛先を外側に跳ねさせているけれど、今日は頭になでつけて、長めの前髪もサイドに流している。
いつもの膝まであるジュストコールもワイルドで似合っているけれど、今のヴィンセントは王子さまみたいだ。
「どう、似合う?」
「うん。王子さまみたいだって思ってたところ」
ぼくがそのまま口にすると、ヴィンセントは頬を染めながらも口角をあげた。
「ほかの誰でもないアーシェンに言われると、悪い気はしないな」
ヴィンセントは伊達メガネを取り出して、ぼくにかけた。
「アーシェンも似合ってる」
ぼくも人間に化けて、黒いダブレットを着ていた。魔王であることを隠し、ヴィンセントの秘書として会議に出席するためだ。
ぼくが人として同席することは、国王からの申し入れだったそうだ。魔族も一人くらい参加させてやろう、という国王の配慮だろうか。なんにせよ、特区について直接話を聞けるのはありがたい。
「はじめに謝っておく。アーシェンには不快な思いをさせると思う」
なぜなら、昨日食べ物を粗末にしていたタルボット侯爵がいるから。絶対にぼくとは価値観が合わない。
「ぼくはだいじょうぶ。特区を守ることを優先しないとね」
「ああ」
初めは、自分の保身のためだった。だけど、今は違う。
あの特区を必要としている人たちが、たくさんいるんだ。
あの場所を守らなきゃ。
「アーシェン」
手を取られたので見上げると、ヴィンセントは軽く眉を寄せて、困ったような、切ないような、照れているような、期待するような……、いろんな感情がないまぜになったような表情をしていた。
「こうされるのは、いやじゃないんだろ?」
ヴィンセントはぼくの手の甲に口づけた。突然でびっくりする。
「いやじゃないけど、どうしたの?」
「これは? こういうのは?」
ヴィンセントに腰をひかれて、長い髪の先に、頭部に、額に口づけられる。
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