【完結】討伐される魔王に転生したので世界平和を目指したら、勇者に溺愛されました

じゅん

文字の大きさ
46 / 57
三章 愛しい人との別れ

愛しい人との別れ 17

しおりを挟む
「世界を乗っ取る? オレが?」
 あまりに驚いたからだろう、ヴィンセントが普段の口調に戻った。
 ぼくも驚いた。
「隠しているつもりだったのだろうが、我々は知っているのだぞ。魔王城に泊まり込んでいることも、魔王と懇意にしていることもな。貴様が世界で唯一、魔王に対抗しうる勇者の血筋であることは周知の事実だ。人の口に戸は立てられん。その勇者が魔王と手を組めば、世界を席巻するのも夢ではないだろう」
 ヴィンセントは慌てて立ち上がった。
「待て、なにを言っているんだ。特区は人と魔族の共存の場だ。オレが人の代表として、魔族の王と会うのは当たり前じゃないか」
「なぜ勇者が人の代表であらねばならん」
「オレのほかに、誰もやりたがらなかったじゃねえか」
「勇者と魔王が手を組んで世界征服を企んでいる。この城にいて、その噂を一度も聞かずにいる者はおるまいよ」
 ヴィンセントは愕然としている。
 噂を広めた犯人捜しをしても意味はない。タルボット侯爵の話が本当なら、ヴィンセントの立場は危ういものになる。
 勇者の皮をかぶった裏切者、人に仇をなす反逆者。
 ヴィンセントに力があるからこそ、寝返る危険があるのなら、その芽を早くに摘みたいはずだ。
「陛下……」
 ヴィンセントは玉座にいる国王を見上げた。
 国王は特区の百パーセントの出資者であり、理解者であるはずだ。
 しかし、国王は無表情で固く唇を閉ざしている。
 その鋭い視線はヴィンセントではなく……。

 ――ずっと、ぼくを見ていた。

 国王はなぜ、ぼくをこの場に呼んだのか。
 きっと、この話を聞かせたかったからだ。
 ブルーシア国王は公正な判断をする聡明な王だ。国民の幸福や国益を重視する。
 魔族との争いがなくなるのは国益になるとして、特区の推進に協力してくれた。
 だけど、こうして内紛が起こることも、生きる国宝ともいえるヴィンセントを失うことも、国王は是としないだろう。
 国王はぼくの言動を見ている。
 ぼくは試されている。
 信用たる人物かを。
「陛下、発言をお許しいただけますか」
「許す」
 許諾を得たぼくは、平伏したまま顔をあげた。王の炯眼がぼくを貫く。厳格に満ちたその相貌は、しわの一つ一つからも知性が感じられた。
 ぼくはすぐ傍に立つヴィンセントに視線を向けた。
「ヴィンセントさまはしばらく、魔族の王とお会いにならないほうがいいでしょう」
「なにを言っているんだ、アーシェン」
 ヴィンセントが強張った表情をぼくに向けた。
「こうして逆心の嫌疑をかけられているのだから当然です。あなたの失敗は、この国で地盤を築いていなかったことです。だから痛くもない腹を探られ、偽りの噂を流されてしまった」
 ぼくはあえて失敗という言葉を使ったけれど、地盤がないのはヴィンセントのせいではない。
 国はヴィンセントを勇者だと祭り上げたくせに、それに箝口令を敷いていた。それはヴィンセントを守るための措置であったかもしれないが、事情を知る者が少なすぎて、基礎など作りようがないだろう。
「あなたが今すべきことは、この国で信頼を積み、力をつけることです。特区については、代表のレザードに任せるといいでしょう。魔族の王への連絡事項も、レザード経由でこと足ります」
「なぜだ。直接話した方が早い」
「何度言わせるのですか」
 ぼくは立ち上がった。
「あなたと魔族の王が直接会うこと自体が、人に不信感を与えるのです。特区は平和の象徴であるべきで、争いの火種になっては本末転倒。ご自重ください」
「だが……」
 ぼくは首を振ってヴィンセントをとめた。それから国王に顔を向ける。
「陛下、ヴィンセントさまをお願いします」
「ヴィンセントはこの国になくてはならない存在だ」
 そう聞いて、ぼくは安心して頷いた。国王の表情も先ほどよりも緩んでいる。ぼくの対応は及第点だったらしい。
「ヴィンセントさまを魔族領に入れないよう、わたしから魔族たちに徹底させますので、ご安心ください。失礼します」
 ぼくは一礼すると、踵を返して出口に向かった。ぼくの役目は終わったはずだ。
「待て、アーシェン」
 ヴィンセントが追いかけてくる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜

天宮叶
BL
十歳の誕生日の日に森に捨てられたソルは、ある日、森の中で見つけた遺跡で言葉を話す剣を手に入れた。新しい友達ができたことを喜んでいると、突然、目の前に魔王が現れる。 魔王は幼いソルを気にかけ、魔王城へと連れていくと部屋を与え、優しく接してくれる。 初めは戸惑っていたソルだったが、魔王や魔王城に暮らす人々の優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。 いつの間にか魔王のことを好きになっていたソル。2人は少しずつ想いを交わしていくが、魔王城で暮らすようになって十年目のある日、ソルは自身が勇者であり、魔王の敵だと知ってしまい_____。 溺愛しすぎな無口隠れ執着魔王 × 純粋で努力家な勇者 【受け】 ソル(勇者) 10歳→20歳 金髪・青眼 ・10歳のとき両親に森へ捨てられ、魔王に拾われた。自身が勇者だとは気づいていない。努力家で純粋。闇魔法以外の全属性を使える。 ノクス(魔王) 黒髪・赤目 年齢不明 ・ソルを拾い育てる。段々とソルに惹かれていく。闇魔法の使い手であり、歴代最強と言われる魔王。無口だが、ソルを溺愛している。 今作は、受けの幼少期からスタートします。それに伴い、攻めとのガッツリイチャイチャは、成人編が始まってからとなりますのでご了承ください。 BL大賞参加作品です‼️ 本編完結済み

限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙
BL
限界ヲタクだった来栖翔太はトラックに撥ねられ、肌色の本を撒き散らして無惨に死んだ。だが、異世界で美少年のクリスティアン王子として転生する。ヲタクな自分を捨て、立派な王様になるべく努力した王子だったが。近衛騎士のアルベルトが勇者にクラスチェンジし、竜を退治した褒美として結婚するように脅され……。 

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

いつも役立たずで迷惑だと言われてきた僕、ちょっとヤンデレな魔法使いに執着された。嫉妬? 独占? そんなことより二人で気ままに過ごしたいです!

迷路を跳ぶ狐
BL
 貴族の落ちこぼれの魔法使いの僕は、精霊族の魔法使いとして領主様の城で働いてきた。  だけど、僕はもともと魔力なんてあんまりないし、魔法も苦手で失敗ばかり。そんな僕は、どうも人をイラつかせるらしい。わざとやってるのか! と、怒鳴られることも多かった。  ある日僕は使用人に命じられて働く最中、魔力が大好きらしい魔法使いに出会った。たまに驚くようなこともするけど、僕は彼と話すのは楽しかった。  そんな毎日を過ごしていたら、城に別の魔法使いが迎えられることになり、領主様は僕のことはもういらなくなったらしい。売ろうとしたようだが、無能と噂の僕に金を出す貴族はいなくて、処刑しようなんて考えていたようだ。なんだよそれ!! そんなの絶対に嫌だぞ!!  だけど、僕に拒否する権利なんてないし、命じられたら死ぬしかない……  怯える僕を助けてくれたのが、あの魔法使いだった。領主様の前で金を積み上げ、「魔法なら、俺がうまく使えるようにしてあげる。他にも条件があるなら飲むから、それ、ちょうだい」って言ったらしい。よく分からないが、精霊族の魔力が欲しかったのか??  そんなわけで、僕は、その魔法使いの屋敷に連れてこられた。「これからたくさん弄ぶね」って言われたけど、どういう意味なんだろう……それに僕、もしかしてこの人のこと、好き……なんじゃないかな……

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

処理中です...